【新製品レビュー】リコー「RICOH LENS P10 28-300mm F3.5-5.6 VC」
リコーGXRの長期リアルタイムレポートを地味に更新している筆者だが、新ユニット「RICOH LENS P10 28-300mm F3.5-5.6 VC」(以下P10ユニット)をめでたく購入。ここでは使用感や画質などをまとめてお伝えしたい。
ご存知の通り、ユニット交換式デジタルカメラのGXRで写真を撮るには、GXR発売時(2009年12月)に登場したカメラユニット「GR LENS A12 50mm F2.5 MACRO」(以下A12ユニット)、または「RICOH LENS S10 24-72mm F2.5-4.4 VC」(以下S10ユニット)が必要だった。そこに加わったのが今回のP10ユニット。従来のユニットのどちらとも違う特性を持っており、既存GXRユーザーからすると、半年で早くも選択肢が増えたことになる。
一方GXRシステムの未購入者に対し、リコーはP10ユニット発売に合わせて、GXRボディ+P10ユニットという構成の「カメラユニットキット」を用意した。大手量販店での実勢価格は5万円弱で、個別(GXR=3万5,000円前後、P10ユニット=3万円弱)に購入するより安価だ。これまでGXRは、A12ユニットとGXRで計11万円前後、S10ユニットとGXRで計7万5,000円といった具合に、比較的値が張る商品といえた。カメラユニットキットを新規に設けたことで、GXRシステムの普及を図ろうというリコーの意気込みを感じる。
撮像素子は1/2.3型の裏面照射型CMOSセンサーで、有効画素数は1,000万画素。型番の「P10」のうち、「P」はセンサーサイズが1/2.3型であることを示し、「10」は有効1,000万画素であることを表しているという。
レンズは焦点距離28〜300mm相当(35mm判換算)の画角をカバーする。レンズ前面に表記された実焦点距離は4.9〜52.5mm。開放F値はF3.5〜5.6。S10ユニットに引き続き、手ブレ補正機構を備えている。
お分かりの通り、撮像素子とレンズのスペックは、リコーのコンパクトデジタルカメラ「CX3」と同等。既存のGXRユーザーには、カメラユニットの選択肢として高倍率ズームユニットが増えたわけで話は早い。しかし新規に「カメラユニットキット」を購入する人にとっては、より低価格でコンパクトなCX3(実勢価格2万7,000円前後)との差が気になるところだろう。
■RAW撮影とマニュアル露出が可能
カメラユニットそのものの質感や重量感は、S10ユニットと良く似ている。分厚い金属外装をはじめ、GXRのカメラユニットに恥じない高級感を譲り受けており、物としての存在感は強い。ほかのユニットと同様、GXRボディとの着脱はスムーズ。S10ユニットよりレンズ部が大きいが、撮影時のバランスも悪くなかった。大きいとはいうものの、レンズを沈胴させればA12ユニットより収納性は良い。
GXRボディへの装着時の感触は、これまでのユニットと変わらない |
それでいて、いままでになく攻撃的かつ威圧的な外観が印象的だ。。特に、カメラユニットからはみ出さんばかりのレンズ部の存在感がすごい。どこかSF的な面もあり、A12ユニットやS10ユニットにない、押し出しの強いルックスだと思う。たまたまレンズが大きかっただけという見方もできるが……。さらにS10ユニットと共通のオプション、先割れ式の自動開閉式レンズキャップ「LC-2」を取付けると、電源オン時の見た目がトゲトゲしくてナイス。「高倍率ズーム」という響きには、どこかおとなしいイメージがつきまとうだけに、P10ユニットの自己主張ぶりがちょっと面白い。
操作系は、A12ユニットやS10ユニットとほぼ同じ。3型92万ドットの比較的大きな液晶モニターを備えるGXRだが、本体が大きいため各ボタンの間隔が広く、操作関連でせせこましい印象を受けない。一般的なコンパクトデジタルカメラに近いサイズのCX3と比べて、細かい操作はしやすく感じた。起動やAFのレスポンスは、S10ユニットとほぼ同等。若干起動が速く感じるが、GX200などに比べるとわずかに待たされる感覚は残っている。
なお、メニューデザインは従来のカメラユニットと共通なので、GXR発売時に掲載した北村智史氏の詳細なレポートを参照いただければと思う。
GXRのカスタマイズ性能は、GR DIGITALシリーズやGXシリーズ並に強力だ。当然P10ユニットも豊富なカスタマイズ項目を持っている。具体的には、ADJ.レバー、方向キーの上下、方向キー左(Fn1)、方向キー右(Fn2)に各種機能を割り当てられ、その内容を、3つのマイセッティングメニュー(MY1、MY2、MY3)に登録可能。マイセッティングの組み合わせをマイセッティングボックスに登録できたりと、とにかく充実している。下手すると、エントリークラスのデジタル一眼レフカメラより強力なカスタマイズが可能だ。ベースになったCX3も、コンパクトデジカメとして比較的カスタマイズに強い機種だが、さすがにP10ユニットには敵わないだろう。
CX1(右)との比較 |
CX1(右)との比較 |
オプションの自動開閉式レンズキャップ「LC-2」を装着。これがないとレンズキャップは手動で着脱することになる |
さらに、P10ユニットにあってCX3にない機能として、絞り優先モード、シャッター優先モード、マニュアル露光モードの搭載がある。CX3非搭載のアップダウンダイヤル(前ダイヤル)を使うことで、プログラムシフトも可能だ。
ただし設定できる絞りは、広角端でF3.5とF7、望遠端でF5.6、F7.7、F15.4のみと寂しい。さらにS10ユニットと同様、絞り優先モードとシャッター優先モードでは、1秒より長いスローシャッターが不可能になる。夜景撮影などでスローシャッターを使うなら、マニュアル露出で対応するしかない。というわけで、CX3より撮影の幅は広いといえるものの、基本的にはオート主体のカメラユニットといえなくもない。
それよりも、CX3で不可能なRAWでの撮影に注目したい。P10ユニットのRAWは、低感度でもある程度ノイズが残るものの、特に遠景のディテール再現能力がJPEG撮影よりも高い。低感度でのノイズ感が気にならず、さらに後処理をいとわないのなら、画質面ではCX3よりP10ユニットの方が有利だ。汎用性の高いDNG形式である点もうれしい。
とはいえ低感度でJPEGより細かいノイズが出る点と、場合によっては色収差や歪曲収差などを自分で補正する必要がでてくることはマイナスポイント。シャープネスも適宜かけた方が良い。これらを強力に補正した結果、撮って出しのJPEGは塗り絵調になっているのだろう。RAW、JPEGのどちらを選ぶかは利用者次第だが、とりあえずRAWという選択肢があるのはP10ユニットの有利な点だ。
Aperture 3で同時記録したISO100のRAW(左)とJPEG(右)を等倍で表示したところ。RAWは細かいノイズが見られるものの、ディテールが失われていない |
同じくAperture 3で同時記録したISO100のRAW(左)とJPEG(右)を等倍表示。画質は現像ソフトの性能や現像設定によっても異なるので、参考程度に見てほしい |
逆にCX3にあってP10ユニットにないものには、シーンモードの「ミニチュアライズ」、「ハイコントラスト白黒」などが挙げられる。ネコの顔を検出してピントを合わせる「ペット」モードも、CX3にしかない。硬派なGXRにこの手の付加機能は必要ないとの判断なのだろう。そもそもP10ユニットは、ネコどころか人間の顔認識も対応していない。
ただし、CX1、CX2、CX3でおなじみの「ダイナミックダブルレンジショット」や、「マルチターゲットAF」は利用できる。連写性能もCX3と同等で、フル画素で約5コマ/秒の連続撮影が可能だ。もちろん1:1を含むアスペクト比設定など、リコーらしい機能も受け継いでいる。
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■CX3とは違う魅力
P10ユニットが採用する裏面照射型CMOSセンサーは、高感度画質に有利とされている。確かに1/2.3型のイメージセンサーと考えると、高感度ノイズはそれなりに悪くない。もちろんAPS-Cサイズ相当の撮像素子を搭載するA12ユニットとのギャップは激しく、階調、高感度ノイズ、輪郭の品位など、あらゆる点で見劣りするのは確かだ。それでも、表面照射型のCMOSセンサーを搭載していたCX1ユーザーの印象からすると、予想以上に健闘していると思う。
P10ユニットのイメージセンサーが1/2.3型と小さいことは、デジタル一眼レフカメラの世界では考えられないことだろう。しかしそのおかげで、あるときは28-300mm相当の高倍率ズームレンズ、あるときはAPS-Cセンサー付きの単焦点レンズという具合に、異なる性格のカメラユニットを同じようなボディサイズのままチェンジできる。GXRならではの醍醐味を示してくれるのが、P10ユニットの面白いところだ。
なお、採用する画像処理エンジンは、CX3と同じ名称の「Smooth Imaging Engine IV」。リコーによると、画質はGXRに合わせて、CX3と若干異なる味付けになっているという。
一方GXRとP10ユニットの組み合わせは、CX3に比べて、不必要にボディが大きく感じるところがマイナスポイントだ。高級感をたたえたボディ、豊富なカスタマイズ性能、今後の発展性など、GXR+P10ユニットにはCX3にはない魅力が多い。ただし、それらを踏まえたとしても、単に携行性の良い高倍率コンパクトデジカメが欲しい人に、手放しでおすすめできるサイズと重量ではない。
個人的にはオリンパスC-2020ZOOMのような、デジカメ黎明期の名機のサイズ感を思い出した。もちろん当時に比べると高画質かつ高機能だし、GXRらしい操作感の良さと、しっかりしたボディの剛性感は、並のコンパクトデジカメでは得られないものだ。
既存のGXRユーザーに対しては、旅先などで便利な高倍率ズームレンズとしての買い増しが考えられる。望遠マクロにも強いし、スナップ撮影でもA12ユニットを補完するような使い方も面白い。待望の単焦点広角レンズユニット「GR LENS A12 28mm F2.5」(仮称)の発売予定もあるので、GXRの今後の展開にも期待したい。
■実写サンプル
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像を別ウィンドウで表示します。
・画角
絞り開放だと広角端で四隅がかるくボケたような描写になるが、F7に絞ると収まる。
GXR P10 / 約3.6MB / 3,648×2,736 / 1/380秒 / F7 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 4.9mm | GXR P10 / 約3.3MB / 3,648×2,736 / 1/570秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 52.5mm |
・歪曲収差
ほかのカメラユニット同様、撮影メニュー内に「ディストーション補正」が存在する。広角端での効果は高く、常用したいと感じた。ただし、RAW+JPEG撮影時のRAW、JPEGともに適用不可能。JPEGオンリーで撮影したときのみ補正が作動する。
余談だが、A12ユニットでディストーション補正をオンにしても、撮影画像はオフのときと変化が全くない。不思議に思っていたら、GXRボディの説明書に「カメラユニットによっては補正を行ないません」との文言があるを最近発見した。
広角端(ディストーション補正オフ) GXR P10 / 約3.6MB / 3,648×2,736 / 1/133秒 / F7 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 4.9mm | 広角端(ディストーション補正オン) GXR P10 / 約3.3MB / 3,648×2,736 / 1/133秒 / F7 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 4.9mm |
望遠端(ディストーション補正オフ) GXR P10 / 約3.6MB / 3,648×2,736 / 1/133秒 / F7.7 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 52.5mm | 望遠端(ディストーション補正オフ) GXR P10 / 約3.7MB / 3,648×2,736 / 1/133秒 / F7.7 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 52.5mm |
・感度
・共通設定:GXR P10 / 約3.3MB〜約3.9MB / 2,736×3,648 / F6.2 / -0.7EV / WB:白熱灯 / 38.9mm※カッコ内はノイズリダクションの設定。
※サムネイルは等倍で同一箇所を切り出した。クリックすると全体を表示する。
ISO100(オフ) | ISO200(オフ) | ISO400(オフ) |
ISO800(オフ) | ISO1600(オフ) | ISO3200(オフ) |
ISO100(弱) | ISO200(弱) | ISO400(弱) |
ISO800(弱) | ISO1600(弱) | ISO3200(弱) |
ISO100(強) | ISO200(強) | ISO400(強) |
ISO800(強) | ISO1600(強) | ISO3200(強) |
ISO100(MAX) | ISO200(MAX) | ISO400(MAX) |
ISO800(MAX) | ISO1600(MAX) | ISO3200(MAX) |
・望遠マクロ
マクロモード時の最短撮影距離は、広角端で約1cm、望遠端で約27cm。もともとリコーCX系は、コンパクトデジタルカメラでは珍しく、一眼レフカメラっぽい望遠マクロ撮影が行える。本カメラユニットもその伝統を引き継いでおり、A12ユニット(50mm相当)よりも撮影倍率を稼ぎたいときに使える。ただしボケはそれなり。
絞り優先モードで絞りを変えてもほんとどボケに変化はないが、F7.7では若干ボケが薄くなる。最小絞りのF15.4にしてもF7.7からボケに変化がないので、絞り機構はNDフィルター併用式と思われる。
・共通設定:GXR P10 / 約3.5MB〜約3.6MB / 2,736×3,648 / 0EV / WB:オート / 52.5mmF5.6 | F7.7 | F15.4 |
・ダイナミックレンジダブルショット
CX系でもおなじみの機能だが、GXRでは補正効果として「AUTO」のほかに、「微弱」、「弱」、「中」、「強」の4段階を設定可能。さらに優先範囲を「OFF」、「ハイライト」、「シャドー」から指定できる。またCX系と同じく、適用前のノーマル画像を同時記録することも可能だ。
なおダイナミックレンジダブルショットは、シーンモードのひとつとして選ぶ必要がある。露出補正は可能。
・共通設定:GXR P10 / 約3.0MB / 3,648×2,736 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 4.9mm※カッコ内は優先範囲
通常撮影 | AUTO |
微弱(OFF) | 弱(OFF) | 中(OFF) | 強(OFF) |
微弱(ハイライト) | 弱(ハイライト) | 中(ハイライト) | 強(ハイライト) |
微弱(シャドー) | 弱(シャドー) | 中(シャドー) | 強(シャドー) |
・画像設定
これもリコーデジタルカメラ製品で共通の機能。スタンダード以外はコントラスト、シャープネスなどを調整して記憶させておける。
加えてCX3にない「設定1」と「設定2」も搭載。各9段階の彩度、コントラスト、シャープネスに加え、色相(オレンジ、グリーン、スカイブルー、レッド、マゼンタ)5種類と、彩度(オレンジ、グリーン、スカイブルー、レッド、マゼンタ)5種類を調整できる「個別色設定」を組み合わせて、独自の設定が可能だ。これはGR DIGITAL IIIと同様の機能になる。
・共通設定:GXR P10 / 約3.6MB / 3,648×2,736 / 1/24秒〜1/26秒 / F5.4 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 29.1mm※VM-1を使用して、MPファイルから全ショットのJPEGを抽出
ビビッド | スタンダード | ナチュラル |
白黒 | 白黒(TE) |
・マルチターゲットAF
CX1からリコーが採用するAFモードのひとつ。シャッターボタン半押しでカメラが複数のピント位置を決定、シャッターボタン全押しで、ピント位置の異なる5コマを連続撮影するものだ。CMOSセンサーの連写性能を活かした機能といえる。
記録方式は、複数の画像をひとまとめにしたMP(マルチピクチャーフォーマット)ファイル形式。Windows 2000/XP/Vistaユーザーは、GXR付属ソフトでMPファイルを展開して、任意の画像をJPEGに変換できる。Mac OS Xの場合は、リコーが提供する無償ソフト「VM-1」が必要だ。
良く似た動作の機能に、ブラケット撮影のひとつとして選べるフォーカスブラケットがある。こちらはMPファイルではなく、通常のJPEG記録になる。また、マルチターゲットAFと異なり、手ブレ補正も効く。マルチターゲットAFのピント位置がカメラ任せなのに対し、フォーカスブラケットのフォーカス距離は一定間隔になり、事前に「広い」と「狭い」を選べる。
・共通設定:GXR P10 / 約3.4MB〜約3.5MB / 3,648×2,736 / 1/410秒 / F3.7 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 5.4mm・HD動画
主な仕様は、最大1,280×720ピクセル、30fps、Motion JPEG圧縮、コンテナはAVI。データレートは掲載動画の場合、平均36Mbps前後だった。音声はモノラル。
シーンモードのひとつとして用意され、残念ながらシャッター速度や絞りの設定は不可能。露出補正も行なえない。記録中のAF動作は不可能。ズーム操作も非対応だ。
- サムネイルをクリックすると、撮影した動画のダウンロードが始まります。
- 再生についてのお問い合わせは受けかねます。ご了承ください。
1,280×720 / 30fps / 57.2MB |
2010/6/30 00:00