カシオから、広角端24mmの10倍ズームレンズを採用した「EXILIM Hi-ZOOM EX-H10」が発売された。従来のEXILIM Hi-ZOOMシリーズと異なり、光学系が屈曲光学系ではなく、沈胴式に変更されている。これにより奥行きは増したが、光学10倍ズーム機としては世界最小サイズとコンパクトにまとまっている。
EXILIMのラインアップでの位置付けは、「EXILIM ZOOM EX-Z400」の上位機種ということで、静止画に動画を合成できる「ダイナミックフォト」機能も搭載。しかもその内容は、EX-Z400より大幅な進化を見せている。また、新機能として「風景メイクアップ機能」を搭載。大容量の新バッテリーの採用で、1,000コマの撮影が可能(CIPA規格準拠)になった点も見逃せないだろう。
撮像素子は有効1,210万画素の1/2.3型CCD。最大解像度は4,000×3,000ピクセル、感度はISO64〜3200。手ブレ補正はCCDシフト式を採用している。レンズは焦点距離24〜240mm(35mm判換算)、開放F3.2〜5.7の10倍ズーム。マクロモード時の撮影距離は、広角端から1段階ズームさせた状態で約7〜50cm。液晶モニターは3型約23万ドットを搭載している。
本体サイズは102.5×24.3×62mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約164g(本体のみ)で、同じく高倍率ズーム機のパナソニック「LUMIX DMC-TZ7」と比べると奥行きが8.5mm薄く、手に持った印象もかなりコンパクトに感じられる。カラーバリエーションはシルバーとピンク、対応メディアはSDHC/SDメモリーカード。カメラ本体に35.7MBのメモリーを内蔵している。
機能面では、従来の人物の肌を対象としたメイクアップ機能に加え、風景メイクアップ機能が追加されている。青空などの特定エリアだけ鮮やかにする「鮮やか風景」と、霞がかったようなシーンをクリアにする「もや除去」が選択可能で、それぞれ2段階の強弱設定が可能だ。この機能の追加により、従来のメイクアップ機能は「人物メイクアップ機能」に名称が変更された。
ダイナミックフォトは動くキャラクターの大きさを変えたり、背景画像をパソコンから転送することが可能になった。また、カメラ内部での動画変換も可能となるなど大幅に進化している。
動画記録はEX-Z400と同じく、1,280×720ピクセル/24fpsのMotion JPEGで、動画中の光学ズームは非対応。全体を見ると、EX-Z400を10倍ズームにして、機能強化した印象だ。
なお、ダイナミックフォトの基本や、従来のダイナミックフォトについては、EX-Z400の新製品レビューや、別項で特集を組んでいるのでご参照いただきたい。
正面(電源ON) | 正面(電源OFF) |
背面。3型約23万ドットの液晶モニターを搭載 | 上面。左側の2つのボタンが「風景メイクアップ」と「人物メイクアップ」 |
側面(広角端) | 側面(望遠端) |
バッテリー室とメディアスロット | バッテリーと充電器 |
AFポイントはやや中央よりに9点 |
SETボタン(十字ボタン中央)を押すと「操作パネル」が現れ設定変更ができる | 操作パネルの表示項目をカスタマイズできる |
■大幅に使いやすくなったダイナミックフォト
さて、進化したダイナミックフォトを試してみよう。今回の変更点は次の点にまとめられる。
- 貼り付けるキャラクターの大きさが変えられる
- パソコンからUSB経由でEX-H10に転送した静止画が、ダイナミックフォトの背景として利用可能になった
- カメラ内部でMotion JPEGに変換可能になった
以前、このコーナーでEX-Z400によるダイナミックフォトを作成した筆者としては、キャラクターの大きさが変えられることと、背景に手持ちの画像が使えることは、極めて大きな進化だと直感した。
では、実際に操作してみよう。キャラクターは「静止キャラクター」か「動くキャラクター」を作成時に選べる。また、カシオが公開している「動くキャラクター」素材は、EX-H10の内蔵メモリにあらかじめ保存されている。静止キャラクターより動くキャラクターの方がだんぜん面白いので、動くキャラクターの撮影から始めよう。
内蔵メモリーに保存されている「動くキャラクター」素材 |
動くキャラクターの撮影にはコツがある。
- 背景と被写体の色が異なること
- 三脚を使用すること
- 背景が動かないこと
基本はこの3点だと思うが、盲点は「影」の存在だろう。この条件で考えると、室内の撮影の方が楽で、屋外の撮影はかなり難易度が高い。EX-Z400では動物園で撮影を試みたが、象は背景の厩舎の壁が同系色で透けてしまった。電車も赤い車両は撮りやすいが、シルバー系の車両は背景にとけ込んでしまって撮影が難しかった。室内の撮影でも、グレーのバックペーパーに赤いフェラーリなら大丈夫かと思ったら、ウイング部分の白が透けてしまった。
今回は前回の反省を活かして、バックをブルーに変えてみた。被写体を緑のジャガーにしたのは特に意味はない。効果はてきめんで、マシンが透けることはなくなった。マシン周辺の影の影響で、若干ブルーが見られるが、そこそこの結果であろう。
動くキャラクターの撮影風景。被写体と色が異なることが重要 | ダイナミックフォトはBS(ベストショット)から選ぶ |
素材が揃ったら再生モードでダイナミックフォトを選択 | 背景の元画像は一眼レフで撮った3:2の画像。右側をトリミングした |
まずは背景を選択 | 次にキャラクターを選択 |
最初は中央に表示される | 位置を変更する。この作業中、キャラクターは動き続けてくれる |
ズームレバーでキャラクターを拡大 | ムービーへ変換でカメラ本体がAVIファイルを作成してくれる |
保存された動画ファイル |
背景も撮影済みの画像が使用できるので、応用範囲が大幅に広がっている。今回はリニューアルされた鈴鹿サーキットのメインストレートの画像を用意した。この画像は一眼レフカメラで撮影しているので、アスペクト比が3:2だ。レタッチソフトで右側をトリミングして4:3にしてから、製品添付のソフト「Photo Transport」でUSBケーブルにつないだEX-H10に転送した。試しに同じ画像を直接SDメモリーカードに書き込んでみたが、「この画像は使用できません」と拒否されてしまった。同じカシオのEX-Z400の画像はSDメモリーカードに書き込むだけで使用できた。
背景に転送した画像を選択し、撮影したキャラクターを貼り付ける。従来は位置しか変更することができなかったが、新機能としてサイズが変えられるようになったのは大きい。サイズの変更はズームレバーで行ない、大きくすることも、小さくすることもできる。大小それぞれ8ステップの変更が可能で、実際に使用すると、貼り付ける際の自由度が大幅に向上した。
従来は 合成された20枚の画像が保存され、デジカメ本体では動画として見られたが、動画ファイルに変換するには、カシオの動画変換サービス「ダイナミックスタジオ」を利用するしかなかった。EX-H10ではカメラ本体に動画変換機能を搭載しているので、そのまま「ムービーへ変換」を選択すれば、640×480ピクセルのAVIファイルに変換して保存される。保存された動画は、合成した動きを3回リピートした映像となっている。これで、2000年のエディ・アーバインが乗るジャガーR1が新生鈴鹿サーキットを走る映像が完成した。
カメラ内で生成した640×480ピクセルのAVIファイルをFLV/20fpsに変換 |
縦位置で撮った画像をトリミングして使用。小さく貼り付けるとラジコンぽく見える。FLV/20fpsに変換 |
わずかな期間で大幅に進化し使いやすくなったダイナミックフォトだが、こうなるとさらなる進化も期待したい。まずは、貼り付けたキャラクター画像の回転。背景と合成する際に、もう少し角度を変えたいと思うことは多い。
次に撮影時のコマ撮り機能。現在は撮影時間(フレームレート)を1,2,4秒から選択するが、撮影開始のポイントは最初に決めるので難しくないが、終了ポイントは、例えば4秒後に画面の右端ピッタリに被写体を動かすことが実際には難しい。20枚の撮影なので、被写体を動かして20枚コマ撮りする方が簡単だと思われる。20回シャッターを押すか、インターバル撮影ができるとキャラクターの撮影は相当容易になると思われる。ちなみにジャガーは20回以上撮影した。コマ撮りができると動きに変化も付けられる。例えば5コマは右端で、次の5コマはワープして左端など、面白い作品が作りやすくなりそうだ。
最後はレタッチ機能。どうしても影などの影響で余分なものが写ってしまうケースは多い。それをレタッチソフトでグレーに塗りつぶして「Photo Transport」で書き戻してやれば、綺麗な動くキャラクターを作ることができるだろう。ダイナミックフォトは面白い機能だと思うので、さらなる進化を期待したい。
なお、EX-H10はカメラ内で動画変換できるが、解像度を小さくしたり、ファイル形式を変えたり、動きの速度を変えたい場合は「ダイナミックスタジオ」を使用する。ダイナミックスタジオに関しては、EX-Z400の際に紹介しているので、そちらを参照いただきたい。
■効果が高い「風景メイクアップ機能」
新機能「風景メイクアップ機能」を試してみよう。以前からある「人物メイクアップ」は女性には大ウケの機能で、その名の通り肌をメイクアップするユニークな機能だった。名称を見ると、発展系の機能の様に思えるが、実際に使用してみると、驚くような絵を見せてくれるわけではない。
風景メイクアップ機能は青空などの特定エリアを鮮やかにする「鮮やか風景」と、霞んだシーンをクリアにする「もや除去」からなり、どちらも2段階の強弱設定が可能だ。今回、時期的に梅雨ということもあり、鮮やかな青空を撮影することはできなかったため、鮮やか風景の効果は確認しづらかったが、天候によってはその効果がハッキリでるのかもしれない。逆にもや除去に関しては、レタッチソフトでコントラストを上げた様な感じで、それなりに効果が確認できた。
EX-H10の画質設定にはシャープネス、彩度、コントラストの設定も用意されていて、±2段の変更が可能だ。細かな設定をしたい人は、好みの画質を探してみることもできる。
■まとまりの良いコンパクト高倍率ズーム機
BS(ベストショット)にも新しい機能が追加された。「水の流れを滑らかに写します」というもので、コンパクトデジカメでは難しい、スローシャッターでの撮影が可能になる。例えば、シャッター速度が1/200秒のときに1/40秒、1/500秒のとき1/80秒になる。噴水や滝などの撮影で雰囲気を出すこともできるし、ちょっとした流し撮りなども可能かもしれない。
設定の項目の中にある「モードメモリ」も目立たない機能だが便利だ。電源を再投入した際に、前回の設定を記憶してくれる機能で、BSやフォーカス方式、ISO感度、連写、セルフタイマーなど14項目の設定が可能だ。その中でズーム位置の記憶ができるのは、10倍ズーム機としては高く評価したい。
新しいBS「水の流れを滑らかに写します」 | 周囲の明るさに関わらず、シャッター速度が遅くなる |
モードメモリは目立たないが便利な機能 | ズーム位置の記憶は高倍率ズームでは重宝する |
バッテリーの持ちは謳い文句通り優秀だった。今回は動画(ダイナミックフォト)の撮影が多かったので、1,000枚には若干届かなかったが、コンパクトデジカメとしては、極めてバッテリーの持ちはいい。静止画だけの撮影なら、おそらく1,200枚以上撮れるだろう。これなら海外旅行でも、予備バッテリーなしで撮影でききそうだ。
画質に関しては高感度ノイズの傾向はEX-Z400と同じで、ISO200までは低ノイズだが、ISO400ではノイズを抑えるために、やや塗り絵的な絵になり、解像度も低下する。ISO800ではかなりその傾向が強い。レンズの違いでZ400より全体的に解像度が低い感じもするが、その差はほんのわずかだ。歪曲収差は、広角24mmからの10倍ズームということで心配したが、広角端でほんのわずか樽型になるものの、レンズスペックからするとかなり優秀だ。
ホワイトバランスもオートのままで特に不満に感じることはなかった。電球下での撮影では、ホワイトバランスを電球に設定した場合と比べ、オートではほんの少し赤みを残した色で悪くない印象だ。
動画は720p(1,280×720ピクセル)/24fpsの撮影が可能。パナソニック「LUMIX DMC-TZ7」と比べると、ズームができないなど機能面では劣るが、よくある640×480ピクセルの動画とは一線を画す。
全体を通して見ると、コンパクトなボディに特徴的な機能と手堅い画質をうまくまとめた秀逸なデジカメという印象だ。あえて不満を言えば、オートフォーカスの認識がやや甘く、半押しをやり直すことが何度かあった。また、今回借りた貸出機には、センター左上にホットピクセルが存在した。それ以外は特に気になる点もなく、満足度は高い。個人的にもおおいに購入意欲をかき立てられた一台だ。
■作例
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像を別ウィンドウで表示します。
・風景メイクアップ
※共通データ:EX-H10 / 約4.2MB / 4,000×3,000 / 1/250秒 / F10.1 / 0EV / ISO64 / WB:オート / 11.6mm
風景メイクアップ:もや除去+1。EX-H10 / 約4.4MB / 4,000×3,000 / 1/320秒 / F10.1 / 0EV / ISO64 / WB:オート / 11.6mm | 風景メイクアップ:もや除去+2。EX-H10 / 約4.7MB / 4,000×3,000 / 1/320秒 / F10.1 / 0EV / ISO64 / WB:オート / 11.6mm |
風景メイクアップ:もや除去+1。EX-H10 / 約4.7MB / 4,000×3,000 / 1/200秒 / F9.3 / 0EV / ISO64 / WB:オート / 8.4mm | 風景メイクアップ:もや除去+2。EX-H10 / 約5.2MB / 4,000×3,000 / 1/250秒 / F9.3 / 0EV / ISO64 / WB:オート / 8.4mm |
・BS「水の流れを滑らかに写す」「水のしぶきを止める」
・感度
EX-H10 / 約6.7MB / 4,000×3,000 / 1/50秒 / F3.5 / -0.3EV / ISO3200 / WB:オート / 5.2mm |
・歪曲収差
EX-H10 / 約5.9MB / 4,000×3,000 / 1/160秒 / F3.2 / 0EV / ISO64 / WB:オート / 4.3mm(広角端) | EX-H10 / 約5.4MB / 4,000×3,000 / 1/60秒 / F5.8 / 0EV / ISO64 / WB:オート / 43mm(望遠端) |
・自由作例
EX-H10 / 約5.8MB / 3,000×4,000 / 1/320秒 / F4.8 / -0.3EV / ISO200 / WB:オート / 30.1mm | EX-H10 / 約5.7MB / 3,000×4,000 / 1/80秒 / F4.6 / 0EV / ISO64 / WB:オート / 13.6mm |
EX-H10 / 約4.5MB / 3,000×4,000 / 1/320秒 / F5.2 / 0EV / ISO64 / WB:オート / 22mm | EX-H10 / 約6.8MB / 4000x2240 / 1/400秒 / F4.6 / 0EV / ISO64 / WB:オート / 13.6mm |
EX-H10 / 約3.1MB / 3,000×4,000 / 1/320秒 / F7.5 / 0EV / ISO64 / WB:オート / 4.3mm | EX-H10 / 約5.2MB / 4,000×3,000 / 1/800秒 / F3.2 / 0EV / ISO64 / WB:オート / 4.3mm |
EX-H10 / 約5.3MB / 3,000×4,000 / 1/125秒 / F5.8 / 0EV / ISO64 / WB:オート / 43mm | EX-H10 / 約3.8MB / 3,000×4,000 / 1/100秒 / F4.4 / 0EV / ISO64 / WB:オート / 11.6mm |
EX-H10 / 約4.0MB / 4,000×3,000 / 1/6秒 / F5.2 / -0.3EV / ISO64 / WB:オート / 35.7mm | EX-H10 / 約8.4MB / 4,000×3,000 / 1/60秒 / F4 / 0EV / ISO64 / WB:オート / 8.4mm |
EX-H10 / 約6.3MB / 4,000×3,000 / 1/500秒 / F11.9 / 0EV / ISO64 / WB:オート / 22mm | EX-H10 / 約5.2MB / 3,000×4,000 / 1/500秒 / F4.6 / 0EV / ISO64 / WB:オート / 25.9mm |
EX-H10 / 約3.9MB / 3,000×4,000 / 1/320秒 / F7.5 / -0.3EV / ISO64 / WB:オート / 4.3mm | EX-H10 / 約4.8MB / 3,000×4,000 / 1/200秒 / F9.3 / 0EV / ISO64 / WB:オート / 8.4mm |
・HD動画
802.AVI / Motion JPEG / 1,280×720 / 24fps (クリックすると動画のダウンロードを開始します) |
2009/7/7 12:58