レンズマウント物語

第11話 マウントアダプターの情報伝達とミラーレスカメラ

マウントアダプターにより異種のレンズマウントを組み合わせて使うことは、ミラーレスカメラの登場で加速された。この写真はDXマイクロニッコール40mm F2.8をソニーNEX-5Nに装着した例。

マウントアダプターの情報伝達

 この連載の冒頭にも書いたように、レンズマウントの機能にはレンズとボディとを固定して位置決めする機能と、情報やエネルギーをボディとレンズの間でやりとりするインターフェース機能とがある。マウントアダプターを介して異種のレンズマウントのレンズとボディとを組み合わせて使う場合、この固定と位置決めの機能に関してはあまり問題がない。

 もちろんボディ側のフランジバックがレンズ側のフランジバックよりも短いとか、そのフランジバックの差と口径差の関係などの条件をクリアする必要があり、また厚み方向の寸法精度が悪いとピントに影響するといったような細かい問題点はあるが、特に後者の厚み精度に関しては、一眼レフやミラーレスカメラではレンズが作る被写体像をそのまま見てピント合わせができるので、少々精度が悪くても誤差を吸収することができる。無限遠が出ないと困るので、若干マイナス気味の厚さで製造しておけば十分なのだ。

 ところが、情報やエネルギーの伝達に関しては、はっきり言ってお手上げであることが多い。特に一眼レフでは自動絞りと露出計用の絞り値伝達が問題となった。

互換性の壁になった自動絞り

 「自動絞り」という言葉は、そろそろ死語になりつつあるが、1950年代の一眼レフの黎明期には非常に重要な技術であった。一眼レフファインダーは撮影レンズによる被写体像をファインダースクリーン上に結像し、これをルーペで見る形式なので、撮影レンズの絞りを絞るとファインダーの像が暗くなってフレーミングやフォーカシングがやりづらくなる。感覚としては、現在のデジタルカメラのライブビュー画面が、周囲が明るい場面では視認が困難になるのと同じだ。

 それを避けるために当初は予め絞りを開放にしてフレーミングやフォーカシングを行ない、撮影の直前に手動で設定絞りにセットしたのだが、これでは煩雑な上にうっかり絞り忘れということもある。そこで露出のタイミングでボディから信号を出して、撮影の瞬間だけ設定絞りに絞り込み、普段は常にフルオープンとする機構が開発され、これが自動絞りと呼ばれているのだ。

 この自動絞り、最近でこそレンズ側の絞り駆動モーターに電気接点を介して信号とエネルギーを送る形式が主流になっているが、当初はレンズマウントを介してレバーやピンで信号を伝えていた。そして、そのレバーやピンの動きはマウントの規格によってまちまちで、互換性は全くない。

キヤノンFDマウントの自動絞りレバー。矢印方向に動くとレンズの絞りが絞り込まれる。
ニコンFマウントの自動絞りレバー。矢印で示すように、レバーの位置、動く方向、ストロークともにキヤノンFDマウントと全く異なる。フランジバックの差は4.5mmあるが、マウントアダプター内でこの動き方向やストロークを変換するのは困難である。

 マウントアダプターの内部で、このレバーやピンの動きをボディ側の規格からレンズ側の規格に変換して伝えられればよいのだが、マウントアダプターの厚みはすなわちフランジバックの差であって、一眼レフ同士だと大きくても3〜4mm程度である。このスペースでレバー/ピンの動き量や方向、位置を変換するのは至難の技となる。

絞り値の伝達と絞り駆動

 もう一つ、一眼レフカメラにTTL露出計が内蔵され、更に自動露出の時代になると、絞り値の伝達や絞り駆動の問題が生じた。いわゆるTTL開放測光で内蔵露出計を使うには、撮影レンズ側で設定した絞り値をボディに伝える必要がある。これもマウントが違えば連動レバーの形状やストローク、回転方向が違ったりして互換性がない。

 シャッター優先AEやプログラムAEの自動露出の場合は逆にボディ側から絞り値をコントロールする必要がある。こちらの方は更に深刻な問題を生じる。特に1980年代以降に新たにできたレンズマウントでは、マニュアルや絞り優先AEのモードでもボディ側から絞り値を設定する形式となって、撮影レンズ側には絞り設定のリングが設けられていないものが多い。ペンタックスKマウントやニコンFマウントのように古いレンズマウント用のレンズでも、DAレンズ、Gレンズというような形で絞りリングのないレンズも登場してきている。

 この機能についても異種のレンズマウント間で情報を正しく伝えるのは難しい。特に機械的な方式では前述の自動絞りと同様に、レバーやピンの動き量や方向を合わせるのは非常に難しいのだ。

マウントアダプターではなく、接写リングの例(ニコンPK-12)だが、このように自動絞りレバーの動き方向やストロークがボディ側とレンズ側で一致していれば、矢印のようなリングを設けてその両サイドに突起を設けることにより、連動が可能になる。

不便な思いをしても……

 以上のようなところから、マウントアダプターを用いて異種のレンズマウントのレンズとボディを組み合わせるときには、多くの場合自動絞りや絞り値の連動、制御についてはあきらめざるを得ない。そのため、一眼レフでこれを行なう場合は、

1.自動絞りが働かないので手動でレンズを開放にし、撮影直前に手動で所望の絞り値に設定する。

2.TTL露出計が使えないため、単独露出計などを使い露出を手動で設定するか、設定絞り値に絞り込んでTTL絞り込み測光の機能を用いる。

という使い方になり、暗いファインダーや煩雑な操作のためにかなり不便なこととなる。

 逆に言えば、そこまで不便な思いをしても使いたくなるような組み合わせについてマウントアダプターが使われていたと言えるだろう。こんな形で「レンズグルメ」と呼ばれる一部マニアの間でマウントアダプターによる異種マウントレンズの使用が静かなブームとなっていた。目的はさまざまな珍しいレンズ、あるいは撮影してみようにもボディが入手できないようなオールドレンズを試すことなので、比較的フランジバックの短いマウントを持つカメラボディが好んで使われた。38mmとフランジバックの短いスイスの一眼レフ、アルパなどは一般にはあまり知られていないものの、この種のマニアの間ではかなりの人気機種であったのである。

 そして、この状況を大きく変えたのが、いわゆるミラーレスカメラの登場だ。

ミラーレスカメラの恩恵

 2008年に初めて登場したミラーレスカメラは、それまで一眼レフの独壇場であったレンズ交換の魅力を、よりコンパクトで手軽に使えるカメラで可能にしたが、マウントアダプターでさまざまなレンズを装着して楽しむ、レンズグルメの世界にも大きな恩恵をもたらした。

 その1つは短いフランジバックである。ペンタックスK-01やソニーのAマウント機のような例外はあるが、通常ミラーレスカメラは一眼レフとは異なった新しいレンズマウント規格を使用している。そして、そのフランジバックは一眼レフのマウントに比べてはるかに短いのだ。このことはマウントアダプターを介して装着するレンズ側のマウントの選択肢が大きく広がるだけでなく、20〜30mmと大きくなったフランジバックの差を利用してある程度のメカを入れることができる。

ミラーレスカメラのソニーEマウント(左)と一眼レフのニコンFマウント(右)のフランジバック比較。この例では約28.5mmの差がある。

 その一例が絞り設定機構だ。前述したように最近では絞りの設定をボディ側からの信号で行ない、レンズ側には絞りリングのないものが多くなってきた。このようなシステムでは多くの場合、ボディ側からなにも信号が来ないと最小絞りになる。このようなレンズをマウントアダプターを介して他のマウントのボディに装着した場合、最小絞りでの撮影を強いられ実用性が大きく低下する。

 そこでこのようなレンズを使用するために、レンズ側の絞り制御レバーを動かすリングをマウントアダプターに設け、これで絞り値を任意のものに設定できるようなものが現れてきた。制御される絞りのFナンバーがわからないなど、完全なものではないが、最小絞りになってしまってほとんど実用できなかった絞りリングなしのレンズも、ある程度使えるようになったわけだ。

ニコンのGレンズはボディ側からの絞り制御専用のレンズで、絞り設定のリングが設けられていない。そのままではこの写真のように常に最小絞りになってしまい、せっかくのレンズの味を十分に引き出せない。
マウントアダプターの絞り設定リングを使えば、このようにある程度自由に絞り値を設定できる。ただし、リングに絞り目盛がないので設定される絞り値(Fナンバー)は不明だ。
ニコンFマウントのレンズをソニーEマウントのボディに装着するマウントアダプター。絞りリングのないGレンズ用に絞り設定リング(A)がアダプターに設けられており、これを回転すると突起部(B)が動き、レンズ側のレバーを動かして絞り値をコントロールする。
左の画像の突起部(B)のクローズアップ。

 もう1つのミラーレスカメラの恩恵は、ライブビューあるいはEVFである。モニターのバックライトのお陰で撮影レンズの絞りを絞っても画面が暗くならなくなった。つまり、自動絞りの必要がなくなったのだ。露出制御に関しても多くの場合TTL絞り込み測光による絞り優先AEが問題なく使える。

 これまで不便を覚悟の上で異種マウントのレンズを使っていたものが、その不便をずっと軽減し、レンズグルメによる「輪っか遊び」をぐっと身近で一般的なものにした点で、ミラーレスカメラの登場は大きな意味をもっている。

豊田堅二

(とよだけんじ)元カメラメーカー勤務。現在は日本大学写真学科、武蔵野美術大学で教鞭をとる傍ら、カメラ雑誌などにカメラのメカニズムに関する記事を書いている。著書に「デジタル一眼レフがわかる」(技術評論社)、「カメラの雑学図鑑」(日本実業出版社)など。