レンズマウント物語

第12話 ソニーの純正マウントアダプターLA-EA2

第12話 ソニーの純正マウントアダプターLA-EA2

ソニーマウントアダプターLA-EA2

サードパーティの限界

 マウントアダプターのメーカーはカメラメーカーでもレンズメーカーでもない、いわゆるサードパーティであることが多い。サードパーティの立場では各種レンズマウントの情報伝達の規格を手に入れることは、なかなか難しい。レバーのストロークやピンの動きで伝える機械的な方法ならば、まだ実測して推測することができるが、電子マウントの通信プロトコルになると、それを解析して(リバースエンジニアリングという)製品に組み込むことはとても難度の高いものになる。マウントアダプターであるからには、レンズ側とボディ側の2種類について解析しなくてはならないので、なおさらのことだ。

 それでも一部のマウントアダプターではこれに果敢に挑戦して製品化しているものがあるが、多くは情報伝達をあきらめて、固着機能とフランジバックの変換のみを行なうことになる。

 その点、メーカーが自社のカメラおよびレンズ用に出している純正マウントアダプターはその心配がない。ほぼすべての機能がそのまま使えるものが多い。ただ、自分の製品にライバルメーカーのレンズを装着できるようなアダプターを出すことはあまりないので、多くは自社の中で異種のマウント間の仲立ちをするものに限られてくる。そのような例をいくつかみてみよう。今回はソニーのAマウントのレンズをEマウントのボディに装着する、LA-EA2をとりあげてみた。

歴史の古いAマウント

 ソニーのAマウントは、元をたどれば1985年発売のミノルタα7000に端を発する。ご存じの通り、一眼レフのオートフォーカス技術を実用化の域にまで引き上げた最初のカメラである。その後ミノルタがコニカと合併してコニカミノルタになり、更にコニカミノルタのカメラ事業からの撤退に伴ってαシリーズがソニーに引き継がれた。

Aマウントはミノルタα7000から始まった。

 ソニーになってからは当初はそのまま一眼レフのマウントとして使われていたが、2010年のα55からはトランスルーセントミラー機の「α二桁」機用のレンズマウントとしても用いられ、現在に至っているのだ。こうしてみると、このレンズマウントもけっこう波乱万丈の歴史をもっていることがわかる。

現在のAマウントは主としてソニーの「α二桁」機、つまりトランスルーセントミラーを用いた機種に用いられている(写真はα99)。

・α二桁機はミラーレスカメラか?

 ところで余談だが、トランスルーセントミラー機のソニー「α二桁」モデルは、はたしてミラーレスカメラかどうかということが、仲間内で話題になったことがある。「トランスルーセントミラー」という「ミラー」があるのだから、ミラーレスではないのではというのだが、大方の意見はEVFや背面のモニターでファインダーの役目をさせており、一眼レフファインダーのメインミラーがないのだから、やはりミラーレスカメラの範疇であろうということに落ち着いている。なんらかの形でミラーを用いているものをミラーレスと呼ばないのならば、ファインダーフレームを接眼部に導くのにミラー(実際にはプリズムだが)を使っている富士フイルムのX-Pro1もミラーレスカメラではないということになる。

機械的連動が残っているAマウント

 閑話休題。Aマウントの話に戻そう。永い間αシリーズを支えてきたAマウントだが、歴史が古いだけにボディとレンズの間の機械的な連動が残っている。

 AFはボディ内モーター対応だ。現在でこそSSMレンズやSAMレンズのようにレンズ内にAF駆動モーターを備えたものが大半を占めるようになってきているが、α7000発売当時はまだレンズに内蔵するにはモーターが大型で、それをレンズ鏡胴にスマートに組み込むのはなかなか難しいことだった。それをレンズマウントにカップリングシャフトを設け、ボディ内のモーターでAF駆動するようにしたのは正に画期的なことで、そのことが一眼レフのオートフォーカスの実用化を一気に加速したのである。

 そして、絞りの駆動もAマウントではボディ側からレバーの動きをレンズに伝えることによって行なっている。この時期はマルチモードAEが普及し始めたころで、レンズの絞り値もレンズ側の絞りリングではなく、ボディ側で設定してそれをレンズに伝える形式が出始めていた。ミノルタではα7000発売に際してレンズマウントをMDマウントからこのAマウントに変更しているのだが、そのときに思い切ってレンズ側の絞りリングを廃し、ボディからの制御専用にしたのだ。しかし、まだレンズに絞り駆動のモーターを内蔵するまでには至らず、レンズマウントにある絞り駆動レバーでコントロールしている。

 さて、そこでやっとLA-EA2の話になる。このように機械的な連動が残っているAマウントに対してNEXシリーズ用のEマウントは機械的なやりとりが全くない、純粋な電子マウントだ。EマウントのボディにAマウントのレンズを装着できるようにするのがLA-EA2の役目であるので、そのときの機能をできるだけ生かすには、Eマウントの電気信号とAマウントの機械的連動の間に変換手段が必要になる。

3個のモーターを使ったLA-EA2

 このマウントアダプターの設計者によれば、アダプター内に3個のモーターを内蔵しているとのことである。1個のモーターでも置き場所に悩んだα7000の当時からは考えられないことだが、モーターの技術も大きく進化して、適材適所で各用途に適ったモーターをコンパクトに配置することができるようになった。そのためEマウントボディからの信号を機械的な位置や動きに変換するのに、比較的手軽にモーターを使えるようになったわけだ。

 モーターの1つは絞りの駆動に使われる。ボディ側からの信号と電源を得て絞り駆動のレバーを回転している。もう1つはオートフォーカス。後述するトランスルーセントミラー方式による位相差検出AFの出力に応じてAFのカップリングを回転する。Aマウントでレンズ内にモーターを備えていない交換レンズ用のものだ。

LA-EA2のAマウント側の部分。プラスチック製のコロでガイドされたリング状の絞り駆動レバー(左側の矢印)と、AFカップリングの軸(右側の矢印)があり、それぞれが内蔵のモーターで駆動されている。
LA-EA2のトランスルーセントミラー。撮影レンズからの光を斜め下前方に反射する。極薄のハーフミラーなので、手を触れないよう注意が必要である。

 ではもう1つのモーターは何に使われているのか? ちょっと見にはよくわからないが、これはDMF用だとのことである。DMFとはダイレクトマニュアルフォーカスのことで、AFで焦点を合わせた後にMFで微調整を行なうモードのことだ。このマニュアル微調整の際にAFカップリングで駆動する形式のレンズでは、フォーカシングリングを手動で回せるようにするために、カップリングによる回転の伝達を切らなくてはならない。そのためにもう1つのモーターを使っているということらしい。

 「DMFの機能はこのマウントアダプターでは使用できません」とすれば、この3番目のモーターは不要であり、更に「レンズ内にAF用のモーターを内蔵していないレンズを使用するときはMFで焦点を合わせてください」という仕様にすれば絞り駆動のモーター1個のみで済んだはずである。アダプター使用時にもフルスペックを可能にするために、あえて3個もモーターを内蔵したところに、ソニーのこだわりを感じる。

トランスルーセントミラー

 そして、このマウントアダプターの最大の特徴は、トランスルーセントミラーを備え、位相差検出法のAFセンサーが内蔵されていることだ。Eマウントのフランジバックが18mm、Aマウントが44.5mmなので、その差の26.5mmのスペースを使って大型のハーフミラーとセンサーモジュールを入れた。「α二桁」機と異なり、AFセンサーモジュールは底部に配置して撮影レンズからの光は下方に反射される。

LA-EA2の断面図。トランスルーセントミラーと位相差検出AFモジュールの位置関係がわかる。
EマウントのNEXシリーズカメラボディに、Aマウントレンズを装着して使用できるようにするのが、マウントアダプターLA-EA2である。

 考えようによっては、EマウントのNEXシリーズのボディに「α二桁」ボディの前半部分を装着して「α二桁」ボディに改造するようなものだ。実際にAマウントのレンズを使用してほぼフルスペックの機能を発揮できるのは見事である。ただ、使用できるレンズにはある程度に制限があるので要注意だ。手持ちのα7000に付属していた35-70mm F4では問題なく使えたが、α3xi付属の28-80mm F4-5.6では使えなかった。

LA-EA2を用いて、ミノルタα7000発売当時の35-70mm F4のレンズでも、NEX-5Nに装着してフル機能が使える。

・作例

上の組み合わせによる作例。焦点距離60mm、ISO 100、 絞り優先AE、F4 1/80秒。Exif情報も正しく記録される。
同じ組み合わせでの作例。スイングパノラマも問題なく使用できる。焦点距離35mm、ISO 100、 プログラムAE、F6.3 1/500秒。このレンズは絞りの動きに粘りがあり、そのため画面の左端が露出オーバーとなった。

豊田堅二