切り貼りデジカメ実験室
高性能な“放射能レンズ”でマクロ撮影を試す
M42のベローズをマイクロフォーサーズに改造
Reported by 糸崎公朗(2015/5/25 14:57)
コンパクトなベローズをデジタル専用に改造
フィルムカメラの時代、ベローズは接写用アクセサリーの代表として、各カメラメーカーから発売されていた。ベローズは、カメラボディーとレンズの間に装着し、ジャバラの繰り出しによって撮影倍率を変化させる仕組みだ。
どのメーカーのベローズも多機能である反面、大きく重く三脚に固定して使うことを前提としていた。そのためか、ベローズはデジカメの時代になってから、すっかり廃れてしまった。
ところが一眼レフの黎明期は、機能がシンプルなかわりに小型軽量のベローズが発売されていた。今回紹介する、M42マウントの「アサヒペンタックス ベローズユニット」もその1つだ。
これをマウントアダプター経由で、オリンパスのマイクロフォーサーズカメラに装着すると、実に気軽に高倍率マクロ撮影が楽しめるのだ。
ところがジャバラの伸縮によって、思ったよりも倍率に変化がない。そこでベローズからM42マウントを取り外し、マイクロフォーサーズマウントに交換するというアイデアが閃いた。
アダプターを使わず、ベローズをボディに直付けすることで、ジャバラを縮めた状態でのフランジバック(撮像素子からレンズまでの距離)がより短くなる。そうすることでより低倍率から高倍率まで、変化に富んだマクロ撮影ができるハズである。
“放射能レンズ”はマクロ撮影でも高性能を発揮するか?
ベローズに装着するレンズは、同じくペンタックスから発売されていた、M42マウントのスーパータクマー50mm F1.4を選んでみた。
このレンズ、実は最近“放射能レンズ”としても知られている。低分散高屈折率が特徴のトリウムレンズが内部に使われているが、その成分である酸化トリウムが放射性物質なのである。
試しに測定機で測ってみると、確かにレンズから放射線が出ていることが確認できる。しかしこれはあくまで微量で、人体への影響は皆無と言われている。
ともかく現在では使用されることのない、特殊ガラスを含んだ高性能レンズである。これをベローズに装着しマクロ撮影すると、どんな描写になるのか試してみることにしたのだ。
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実写作品とカメラの使用感
完成したマクロ撮影システムを携えて、藤沢市の自宅付近の自然を撮影してみた。コンパクトなベローズだが、E-PL7ボディはさらに小さすぎてちょっと持ちづらい。
しかしE-PL7の液晶モニターは約104万ドットと高精細のため、マクロ撮影ではピントの山が掴みやすく、拡大モード無しでも撮影することができた。液晶が可動式なのも、ローアングルで狙うことが多いマクロ撮影には有利だ。
ところでスーパータクマー50mm F1.4だが、レンズから発する放射線のため、経年変化でガラスが黄色っぽくなる、という欠点を持っている。しかしE-PL7の「ワンタッチホワイトバランス」を使用すれば、これを解消することができる。
そのスーパータクマー50mm F1.4の描写だが、高倍率マクロ撮影においても実にシャープで驚いてしまった。やはり“放射能レンズ”の性能は、伊達ではなかったのである。
もっともこのレンズで至近距離から撮影すると、被写体に放射線を浴びせることになってしまう。しかし基本的には微量で短時間のため、影響を与えることは皆無だと考えられる。
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キツネノボタンの花の中心部を撮影。粒状の花粉や、雄しべや雌しべの細胞までもが確認できる。この花は花弁に妙なツヤがあってストロボ光の反射率が高く、撮影はなかなかに難しい。キンポウゲ科で、有毒植物だ。
イモカタバミの花の中心部だが、ブラシ状の雌しべが顔を覗かせている。南アメリカ原産で、日本には江戸末期に園芸用として輸入され、現在は雑草として至るところで見ることができる。
ヘビイチゴの果実。名前からして毒のイメージがあるが無毒である。しかし食用のイチゴに較べ種が目立ち、食べても特に美味しくはない。
タンポポの綿毛を最大倍率で撮影。拡大すると、綿毛の1本1本に細かいトゲが生えているのが分かる。効率よく風に乗るための構造なのだろう。
雰囲気を変えて、ベローズを最短に縮め、絞り開放F1.4で撮影してみた。ソフトな描写ながらピントの芯はシャープだ。被写体のナガミヒナゲシは、地中海沿岸が原産の帰化植物だ。1961年に東京の世田谷で生育が確認されて以来、爆発的に増えながら全国に広がっているそうだ。
ヤグルマギクの花。同じく絞り開放F1.4だが、E-PL7はシャッター速度1/4,000秒までなので露出オーバーになってしまった。しかしクセのあるボケと相俟って、なかなか味わいのある写真になった。
カモミールの花だが、これは絞りF2.8にて撮影。ヨーロッパ原産で、古来から薬用植物として利用され、現在でもハーブティがよく飲まれている。
ツツジ科のサラサドウダンの花。つりがね状に、下向きに咲くのが特徴だ。花片の筋模様も美しい。
さらに気分を変えて、虫も撮影してみた。真っ赤な色のこの虫は、脱皮したばかりのヨコヅナサシガメ成虫で、少し時間が経つと真っ黒に変色する。レンズの描写はこれまたシャープで、驚いてしまう。
ケブカキベリナガカスミカメと言う、長い名前の虫。体長7mm程度のカメムシの仲間だ。綺麗な模様だがすばしこい虫で、この写真の撮影後に飛んで行ってしまった。
一見、アリのようだが、実はアリそっくりに擬態したアリグモだ。拡大すると足が8本ありクモであることがわかる。巣を張らずに徘徊しながら獲物の虫を狩る習性を持つ。
コエビガラスズメと言うガの一種が、地面にうずくまっていた。チョウに較べてガは地味だが、拡大すると虫なのにイヌのような毛並みで、なかなか面白い。
同じコエビガラスズメの触角付近を、最大倍率で撮影してみた。触角からさらに微細な毛の束が生えているのが確認できる。この個体はオスで、触角でメスの発するフェロモンをキャッチすると考えられる。