切り貼りデジカメ実験室

高性能な“放射能レンズ”でマクロ撮影を試す

M42のベローズをマイクロフォーサーズに改造

ベローズは時代遅れの接写アクセサリーだが、デジタル専用に改造し、現代に蘇らせた。1960年代のペンタックス製ベローズからM42マウントを外し、マイクロフォーサーズマウントを取り付けたのだ。マウントアダプターを使わず、ボディに直付けすることで、より幅広い倍率でのマクロ撮影が可能になる

コンパクトなベローズをデジタル専用に改造

フィルムカメラの時代、ベローズは接写用アクセサリーの代表として、各カメラメーカーから発売されていた。ベローズは、カメラボディーとレンズの間に装着し、ジャバラの繰り出しによって撮影倍率を変化させる仕組みだ。

どのメーカーのベローズも多機能である反面、大きく重く三脚に固定して使うことを前提としていた。そのためか、ベローズはデジカメの時代になってから、すっかり廃れてしまった。

ところが一眼レフの黎明期は、機能がシンプルなかわりに小型軽量のベローズが発売されていた。今回紹介する、M42マウントの「アサヒペンタックス ベローズユニット」もその1つだ。

これをマウントアダプター経由で、オリンパスのマイクロフォーサーズカメラに装着すると、実に気軽に高倍率マクロ撮影が楽しめるのだ。

ところがジャバラの伸縮によって、思ったよりも倍率に変化がない。そこでベローズからM42マウントを取り外し、マイクロフォーサーズマウントに交換するというアイデアが閃いた。

アダプターを使わず、ベローズをボディに直付けすることで、ジャバラを縮めた状態でのフランジバック(撮像素子からレンズまでの距離)がより短くなる。そうすることでより低倍率から高倍率まで、変化に富んだマクロ撮影ができるハズである。

“放射能レンズ”はマクロ撮影でも高性能を発揮するか?

ベローズに装着するレンズは、同じくペンタックスから発売されていた、M42マウントのスーパータクマー50mm F1.4を選んでみた。

このレンズ、実は最近“放射能レンズ”としても知られている。低分散高屈折率が特徴のトリウムレンズが内部に使われているが、その成分である酸化トリウムが放射性物質なのである。

試しに測定機で測ってみると、確かにレンズから放射線が出ていることが確認できる。しかしこれはあくまで微量で、人体への影響は皆無と言われている。

ともかく現在では使用されることのない、特殊ガラスを含んだ高性能レンズである。これをベローズに装着しマクロ撮影すると、どんな描写になるのか試してみることにしたのだ。

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まず紹介するのは、国産一眼レフ初期の接写システム。1964年発売のペンタックスSPとスーパータクマー50mm F1.4との間に「アサヒペンタックス ローズユニット」を装着している。このベローズは一眼レフ用としては初期の製品で、ボディやレンズとの連動機構が無いシンプルな構造だ。その代わり、後に発売された多機能なベローズにくらべ、かなり小型軽量だ
スーパータクマー50mm F1.4は、実は“放射能レンズ”としても知られている。色収差を抑えるための「トリウムレンズ」が内部に1枚使われているが、これが放射性物質なのである。試しに測定機で測ってみると1.34μSvの値が出た。同じ測定機で普通の場所を測定すると0.06μSvくらいなので、20倍以上も高い。しかし測定機のセンサーをレンズに近づけない限り、ここまでの数値を示すことはなく、人体への影響は皆無と言われている
一般にマクロレンズではない標準レンズを、ベローズに装着して撮影すると、性能は落ちてしまう。それは高性能と言われる“放射能レンズ”にも当てはまるのか? と言う疑問からその実証実験を、デジカメを使って行うことにした。そこでM42→マイクロフォーサーズ変換リング(右)を用意した
オリンパスの最新デジカメOLYMPUS OM-D E-M5 Mark IIに装着したところ。ベローズユニット自体がコンパクトなため、違和感なくなかなかカッコイイ
とりあえず撮影倍率を確認するため、手持ちで簡単なテスト撮影を行った。まずはジャバラを縮めた状態だが、それでも10円玉がはみ出るくらいのマクロ撮影ができる
ジャバラを最大に伸ばすと、同じ10円玉に刻まれた平等院の入り口までが拡大される。しかし、ジャバラの伸縮で思ったほど撮影倍率に変化が無く、ちょっと不満だ
そこで閃いたのが、ベローズ後端のM42マウントを、マイクロフォーサーズマウントに交換するアイデアだ。つまり、変換リングを使わずに、カメラボディーにベローズユニットを直づけできるよう改造するわけだ。これによって、変換リングの厚み分だけレンズが後退し、より低倍率からの撮影が可能になるはずだ。マイクロフォーサーズのレンズマウントは、ジャンク品から摘出した
ベローズ上部のつまみと、側面のネジを緩めると、M42マウントをすっぽり取り外すことができる
次にベローズのマウント面にねじ穴を開けるため、さらにバラバラに分解する
マイクロフォーサーズマウントの取り付けネジの位置に合わせ、赤矢印の箇所にボール盤(垂直ドリル)で穴を開け、「タップ」という専用工具でネジ山を切る。矢印で示していない穴は、元からベローズに空いていた、内側からジャバラを取り付けるためのねじ穴だ
ベローズにマイクロフォーサーズマウントをネジ止めし、バラバラに分解したパーツを組み直す。これでベローズ本体の改造は終了だ
さっそく、完成した改造ベローズをE-M5 Mark llに装着……しようとしたが、付かない! 実は、E-M5 Mark llはボディ前面に出っ張りがあり、ここがベローズの角に干渉し装着できないのだ。我ながら実にマヌケだが、設計図を書かずに現物合わせで工作を進めているので、たまにはこんなミスもある(笑)。
気を取り直して、ボディをシンプルなOLYMPUS PEN Lite E-PL7に変更すると、めでたく改造ベローズが装着できた。ベローズが斜めに傾いているのは、本体に元から空いていたネジ穴との干渉を避けながら、マイクロフォーサーズマウント用のネジを取り付けたためだ
次に、マクロ撮影には欠かせないストロボシステムを制作した。ストロボは付属のFL-LM1が光量不足だったため、サンパックPF20XDを使うことにした。光を拡散するためのディフューザーは、100円ショップで買った透明下敷きをご覧の形にカットし、トレーシングペーパーをスプレーのりで貼り付けた。これを49→52mm径ステップアップリングにはめて、レンズ先端に取り付ける
レンズ先端にディフューザーを取り付けると、マクロシステムが完成する。これはジャバラを縮めた状態だが、ベローズのレールがディフューザーに開けた穴から突き出ているのがミソ。いかにも特殊機材と言った感じで、なかなかカッコイイ(笑)
ベローズを最大に伸ばした状態。ディフューザーの効果によって、レンズ直前にまで接近した被写体を、照明することができる
再び撮影倍率を確認するためのテストを行った。ジャバラを縮めた状態では無限遠の撮影は不可能だが、10円玉を置いたカッターマットを目安に見ると、約15×11cmの範囲が写っている
ジャバラを最大に伸ばすと、10円玉がこのように写る。無改造のベローズに較べると、一回り広い範囲が写っているが、充分に高倍率であることに代わりは無い。ジャバラの伸縮による倍率の変化は充分に広がり、改造としては成功だ
実際の撮影には適宜、補助光としてオリンパスの「エレクトロフラッシュFL-600R」を使用した。FL-600Rをスレーブモードにすると、カメラ本体のストロボに同調発光させることができる。これを三脚に固定し逆光気味に照らすと、対象物の立体感や透明感がよりリアルに表現できるのだ。ストロボの光量は、PF20XDも、FL-600Rも、撮影しながらマニュアルで微調整した

実写作品とカメラの使用感

完成したマクロ撮影システムを携えて、藤沢市の自宅付近の自然を撮影してみた。コンパクトなベローズだが、E-PL7ボディはさらに小さすぎてちょっと持ちづらい。

しかしE-PL7の液晶モニターは約104万ドットと高精細のため、マクロ撮影ではピントの山が掴みやすく、拡大モード無しでも撮影することができた。液晶が可動式なのも、ローアングルで狙うことが多いマクロ撮影には有利だ。

ところでスーパータクマー50mm F1.4だが、レンズから発する放射線のため、経年変化でガラスが黄色っぽくなる、という欠点を持っている。しかしE-PL7の「ワンタッチホワイトバランス」を使用すれば、これを解消することができる。

そのスーパータクマー50mm F1.4の描写だが、高倍率マクロ撮影においても実にシャープで驚いてしまった。やはり“放射能レンズ”の性能は、伊達ではなかったのである。

もっともこのレンズで至近距離から撮影すると、被写体に放射線を浴びせることになってしまう。しかし基本的には微量で短時間のため、影響を与えることは皆無だと考えられる。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。

キツネノボタンの花の中心部を撮影。粒状の花粉や、雄しべや雌しべの細胞までもが確認できる。この花は花弁に妙なツヤがあってストロボ光の反射率が高く、撮影はなかなかに難しい。キンポウゲ科で、有毒植物だ。

1/160秒 / F8 / ISO200 / マニュアル

イモカタバミの花の中心部だが、ブラシ状の雌しべが顔を覗かせている。南アメリカ原産で、日本には江戸末期に園芸用として輸入され、現在は雑草として至るところで見ることができる。

1/200秒 / F8 / ISO200 / マニュアル

ヘビイチゴの果実。名前からして毒のイメージがあるが無毒である。しかし食用のイチゴに較べ種が目立ち、食べても特に美味しくはない。

1/100秒 / F8 / ISO200 / マニュアル

タンポポの綿毛を最大倍率で撮影。拡大すると、綿毛の1本1本に細かいトゲが生えているのが分かる。効率よく風に乗るための構造なのだろう。

1/160秒 / F8 / ISO200 / マニュアル

雰囲気を変えて、ベローズを最短に縮め、絞り開放F1.4で撮影してみた。ソフトな描写ながらピントの芯はシャープだ。被写体のナガミヒナゲシは、地中海沿岸が原産の帰化植物だ。1961年に東京の世田谷で生育が確認されて以来、爆発的に増えながら全国に広がっているそうだ。

1/4,000秒 / F1.4 / ISO100 / プログラム

ヤグルマギクの花。同じく絞り開放F1.4だが、E-PL7はシャッター速度1/4,000秒までなので露出オーバーになってしまった。しかしクセのあるボケと相俟って、なかなか味わいのある写真になった。

1/4,000秒 / F1.4 / ISO200 / 絞り優先AE

カモミールの花だが、これは絞りF2.8にて撮影。ヨーロッパ原産で、古来から薬用植物として利用され、現在でもハーブティがよく飲まれている。

1/4,000秒 / F2.8 / ISO200 / マニュアル

ツツジ科のサラサドウダンの花。つりがね状に、下向きに咲くのが特徴だ。花片の筋模様も美しい。

1/500秒 / F1.4 / ISO200 / プログラム

さらに気分を変えて、虫も撮影してみた。真っ赤な色のこの虫は、脱皮したばかりのヨコヅナサシガメ成虫で、少し時間が経つと真っ黒に変色する。レンズの描写はこれまたシャープで、驚いてしまう。

1/125秒 / F8 / ISO200 / マニュアル

ケブカキベリナガカスミカメと言う、長い名前の虫。体長7mm程度のカメムシの仲間だ。綺麗な模様だがすばしこい虫で、この写真の撮影後に飛んで行ってしまった。

1/250秒 / F8 / ISO200 / マニュアル

一見、アリのようだが、実はアリそっくりに擬態したアリグモだ。拡大すると足が8本ありクモであることがわかる。巣を張らずに徘徊しながら獲物の虫を狩る習性を持つ。

1/250秒 / F8 / ISO200 / マニュアル

コエビガラスズメと言うガの一種が、地面にうずくまっていた。チョウに較べてガは地味だが、拡大すると虫なのにイヌのような毛並みで、なかなか面白い。

1/200秒 / F8 / ISO200 / マニュアル

同じコエビガラスズメの触角付近を、最大倍率で撮影してみた。触角からさらに微細な毛の束が生えているのが確認できる。この個体はオスで、触角でメスの発するフェロモンをキャッチすると考えられる。

1/200秒 / F8 / ISO200 / マニュアル

糸崎公朗

1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ フォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。毎週土曜日、新宿三丁目の竹林閣にて「糸崎公朗主宰:非人称芸術博士課程」の講師を務める。メインブログはhttp://kimioitosaki.hatenablog.com/ Twitterは@itozaki