Canon EF LENS 写真家7人のSEVEN SENSES

「動物撮影の新たなスタンダードスタイル」
動物写真家・福田幸広さんの場合

キヤノン EOS 7D Mark II + EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMの魅力を探る

初めて自分の手足で木を登り始めた子リスを心配深げに母リスが見守る。足場の悪い場所でレンズを真上に向けても手ブレ補正のお陰で正確なフレーミングができた。
キヤノン EOS 7D Mark II / EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM / 400mm(640mm相当) / マニュアル露出(F5.6、1/400秒) / ISO 800 撮影・福田幸広

「動きモノ」を撮るうえで至高の組み合わせといわれるのが、「EOS 7D Mark II」と「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」の2製品だ。画質、AF、連写、操作性、サイズ感など、期待を裏切らない実力が評判を呼んでいる。

この2製品を手にした「動きモノ」のプロたちは、どういう感想を持ち、どう使いこなしているのか。今回は、動物写真家の福田幸広さんに話を聞いてみた。

聞き手:笠井里香

カラマツの木に昇ってクルミを食べ始めた。遠くの山を背景にしたが少し寂しいので、前ボケに新緑の葉を入れて華やかさを演出した。素直なボケ味が楽しめるのもこのレンズの特徴だ。
キヤノン EOS 7D Mark II / EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM / 360mm(576mm相当) / マニュアル露出(F5.6、1/250秒) / ISO 1600 撮影・福田幸広

リスたちにも春は待ちに待った季節。食べ放題のようにみえる新緑の葉だが、リスたちは慎重に美味しそうな葉を選んでは食べてゆく。動きが素早く、高いAF性能のカメラでないと撮影するのは困難だ。
キヤノン EOS 7D Mark II / EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM / 400mm(640mm相当) / マニュアル露出(F5.6、1/1,000秒) / ISO 640 撮影・福田幸広

桜を背景にするために慎重に撮影ポジションを探る。わずかな位置の違いで印象が大きく変わる。こんなときには、手持ち撮影でないとアングルの微調整を素早く行うことができない。このレンズはバランスがよく、手持ち撮影には最高の1本だ。
キヤノン EOS 7D Mark II / EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM / 400mm(640mm相当) / マニュアル露出(F5.6、1/500秒) / ISO 800 撮影・福田幸広

森の中を良く観察すると、リスたちの通り道が見えてくる。お気に入りの道を見つけたら、あとはじっと待つだけ。数少ないチャンスをものにするには慎重な観察と分析が必須だ。キヤノン EOS 7D Mark II / EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM / 300mm(480mm相当) / マニュアル露出(F5.6、1/1,000秒) / ISO 1600 撮影・福田幸広

ウサギ好きの聖地と呼ばれる大久野島には約800羽のウサギが暮らしている。1日中島を歩き回っての撮影のため、機動性の良いEOS 7D Mark IIとEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMの組み合わせが最高だ。これだけでほぼすべての撮影をカバーできる。
キヤノン EOS 7D Mark II / EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM / 100mm(160mm相当) / マニュアル露出(F5.6、1/250秒) / ISO 800 撮影・福田幸広

今、私が最も撮影に力を入れているのがアナグマだ。しかし、撮影は非常に苦戦している。アナグマ撮影の方法は日中、夜間、自動撮影などに合わせ様々。細かなファンクション設定があるEOS 7D Mark IIが適していると考えている。
キヤノン EOS 7D Mark II / EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM / 263mm(421mm相当) / マニュアル露出(F5.6、1/640秒) / ISO 1600 撮影・福田幸広

アナグマの子育て期は巣から出入りする時間を見定めて、待ち伏せすることができる。枯れ葉と体色とが似ているのがわかると思うがカメラのAFが迷いやすいシーンだ。フォーカスポイントにアナグマが入るよう神経を集中する。
キヤノン EOS 7D Mark II / EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM / 340mm(544mm相当) / マニュアル露出(F5.6、1/400秒) / ISO 1600 撮影・福田幸広

小さな川を渡って水を飲み、食事場へと移動してゆく。足場の悪い崖の上で隠れるようにして待ち伏せして撮影したが、手ブレ補正が強力に効くので安心して撮影することが出来た。
キヤノン EOS 7D Mark II / EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM / 340mm(544mm相当) / マニュアル露出(F5.6、1/160秒) / ISO 800 撮影・福田幸広

EOS 7D Mark II。発売は2014年10月30日。価格はオープン。実勢価格は20万円弱。
EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM。2014年12月19日発売。メーカー希望小売価格は税込32万4,000円。

手持ち撮影で広がる撮影領域 珍しい“ウサギの流し撮り”にも成功

−−そもそも写真を撮り始めたきっかけを教えていただけますか?

高校生の頃に西田敏行さん主演の「池中源太80キロ」というテレビ番組で、主人公が鶴を撮りに行くというシーンを見ました。それに影響を受け、同じく鶴を撮るため北海道に行きました。僕らの世代にとって、影響力のある番組でしたね。その後、北海道の他の動物の撮影にも広がり、いまは動物全般の写真家です。

福田幸広さん。1965年生まれ。日本大学農獣医学部卒。1981年高校1年生の春休みに夜行列車を乗り継ぎ北海道釧路でタンチョウを見る。その素晴らしさに魅せられ、以来毎年北海道を訪れるようになった。大学卒業後1年間のサラリーマン経験を経て、フリーの写真家となる。その間「Life」「動物日誌」(ともにSEISEISYA刊)の2冊の写真集を発表。その後、憧れだった海への撮影もはじめ現在は動物、水中、風景の3本柱で取材をおこなっている。モットーは「山もいいけど、海もいい!」自然があればどこでも楽しい。好きな場所や動物がいる場所でじっくりと時間をかける撮影スタイル。

−−では、EOS 7D Mark IIとEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMの話に移ります。手ブレ補正が4段分と、前モデルに比べ大幅に向上しています。撮影時にメリットは感じられましたか?

撮影時にファインダーを覗けばすぐにわかるほどで、ブレる感じを受けません。これまで、EF200-400mm F4L IS USM エクステンダー 1.4×に三脚というスタイルが海外も含めて動物写真の中心でしたが、(手持ちで撮影しやすい)EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMの登場で、世界がガラっと変わったといえるのではないでしょうか。手ブレ補正機能の向上によって、手持ち撮影が安心して行なえるフットワークの良さがいいですね。

−−手ブレ補正には、3種類のモードがありますが、動物撮影時にはどれが向いていると感じましたか?

流し撮り対応の手ブレ補正モード2を主に設定しています。上下左右の全方向に補正効果のある通常の手ブレ補正モードよりも、上下の補正をしてくれる流し撮り対応のモード2の方が、三脚にすえた際にも有効だと感じました。超望遠系のレンズを使用する際にもこのモードを設定します。

シャッター速度を1/60秒にセット。撮影距離が近いほど流 れが大きくなるので慎重に被写体を追った。ウサギの特徴である耳と目がぶれずに止まっている。
キヤノン EOS 7D MarkII / EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM / 214mm(342mm相当) / マニュアル露出(F10、1/60秒) / ISO 400 撮影・福田幸広

実際に、ウサギの流し撮りの写真では、この手ブレ補正モード2を設定して撮影しています。ウサギは、体が小さいことに加え、ただ進行方向に走っていくだけでなく、走行時に上下に動きます。どの程度のスピードで走るのか、本気なのか、ちょっと移動するだけなのか、状況に応じてシャッタースピードを決めますが、カメラは横に振るのに対して、ウサギは進行方向への動きに加えて上下の動きがあります。すべての条件をクリアしたいわゆる“当たり”は、非常に少ないんです。とにかく数を撮らなければなりません。

そのためには、手ブレ補正機能はもちろん、連写性能も必要になってきますし、AFもしっかりと追従してくれないと撮れません。

EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMの手ブレ補正モードを流し撮り対応のモード2に設定して撮影。

連写は常に高速連続撮影10コマ/秒に設定しています。領域拡大AFも有効でした。動物の動きは予測が難しいことに加え、同じことをもう一度やってもらうこともできません。いろいろなシーンが想定されるときは、AIサーボAF特性「Case 6 被写体の速度変化と上下左右の動きが大きいとき(1点AF時無効)」を設定しています。

AIサーボAF特性を「Case 6 被写体の速度変化と上下左右の動きが大きいとき(1点AF時無効)」に設定

ウサギの流し撮りの場合では、体、顔、また目と耳も大事で、どこかひとつではなく、すべてにピントのあるカットを撮るのはなかなか難しいんですが、これらの機能が総合的に効果を発揮して、これまでよりも格段に“当たり”を増やすことができます。

コントラストの低い被写体にも高精度に合焦

−−連写は高速連続撮影10コマ/秒を設定しているとのことですが、EOS 7D Mark IIの連写性能についてはいかがでしたか?

連続撮影の性能は、速ければ速いほどいいと思っています。決定的瞬間を撮れるチャンスが増えるわけですからね。EOS 7D Mark IIの連続撮影は、10コマ/秒と速いことに加え、EOS-1D Xなどに比べ、シャッター音が小さいので、いま撮影しているアナグマなど、音に敏感な動物に対しても非常に有利です。静音モードに設定すれば、さらに音が小さくなり、ブレを軽減することもできますから、動物撮影にはとてもいいと思いますね。

−−AFの精度はどうでしたか?

不満はありません。リスやウサギなどの体の色は、茶色から白へのグラデーションなどが多く、コントラストがあまりないんです。非常にピントが合いにくい被写体なんですね。それでもEOS 7D Mark IIは、他モデルよりも精度が高いと思いますし、測距点などの細かな設定を行なうことで、AFを自分の撮影に合ったものにできます。

AFフレーム選択を「ゾーンAF」にしていることが多いそうだ(編集部)

ライブビューも併用して撮影します。拡大してピントのチェックなども行えますので、ピントの精度をより高めることができますね。

巣材集めの行動がきちんと分かるように木の幹とそこから伸びる枝を配した。前後ボケに新緑を圧縮効果を利用して取り込み、煩雑さを感じさせない画面構成にした
キヤノン EOS 7D Mark II/ EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM /400mm(640mm相当) / マニュアル露出(F5.6、1/320秒) / ISO 1600 撮影・福田幸広

−−最短撮影距離が0.98mと短くなっています。撮影時にメリットは感じられましたか?

野生の動物ですと、なかなか0.98mまで近づくことのできないことが多いんです。でも、“寄れてしまった”というときはあって、そんなときにピントが合うというのは非常に有利だと思いますね。

また、ウサギやサルなど、体がさほど大きくない動物などの場合、ピントが合わずに下がらなければならないこともあるのですが、そういったときにも最短撮影距離を意識せずに大胆に寄っていけるというのは、大きなアドバンテージだと思います。

−−今回、EOS 7D Mark IIに装着して撮影していますが、その際35mm判換算で、160-640mmとなります。画角的にはどうでしたか?

160-640mmだとワイド側はもう少し欲しいと思うこともありますし、望遠側ももっと長くてもいい場面もありますが、これ以上重くて暗いレンズになってしまうよりはいいと思いますね。

コントラストと階調性を両立する画質

−−被写体が動物ということで、毛や目などそれぞれ質感の違う部分がありますが、描写はいかがでしたか?

発色、コントラストもいいと思いますし、黒い部分にも階調があって、明暗がしっかりと出るので立体感のある描写になります。白っぽく飛び気味の部分にもディテールが残りますし、とてもいいと思いますね。

II型になったレンズに関しては、100-400mmも含めて描写はどれもいいですし、どんな光線状態でも安心して撮影できます。逆光にも強いので、積極的におひさまを入れて撮影するということも、レンズ性能に気を使うことなく行えます。背景のボケも柔らかく、自然でいいと思いますね。

PCの画面上で見ても、とてもヌケがいいです。EOS 7D Mark IIとのマッチングがいいということもあるかと思いますが、この組み合わせで高いポテンシャルが得られると感じています。

前ボケの量とその位置がほどよく配置されるよう注意した。画面全体を 緑にせず、空の空間を取り入れることでさわやかさが増し、立体感のある作品に仕上がった
キヤノン EOS 7D Mark II / EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM+EXTENDER EF1.4×III / 560mm(896mm相当)/マニュアル露出(F8、1/200秒) / ISO 1600 撮影・福田幸広

この組み合わせは「新たなスタンダード」

−−直進式から回転式にズーミングの方式が変更になっていますが、使用感はいかがですか?

EF70-300mm F4-5.6L IS USMも一緒に使っているのですが、こちらも回転式ズームです。操作の統一感もありますし、回転式になったのはとてもいいですね。

また、カメラを置いて寝そべって撮るような状況の際には、直進式だと微調整の際にカメラが動いてしまうこともあるんですが、回転式だとそういったこともありません。

撮影の際には、被写体となる動物はもちろんですが、背景を見てから近づいていくんです。実際に近づいてから背景が“ここじゃなかった……”というのは絶望的なことです。自分が動けば動物が気付いて逃げてしまうこともありますから。撮影する場所でカメラを被写体に向け、背景を整理するためにズーミングで調整することはとても多いので、微調整のしやすい回転式は有利ですね。

福田さんがベストポジションを探りつつ、近づきながら撮影したという作品。腹ばいでの撮影では、回転式ズームが便利とか(編集部)
キヤノン EOS 7D Mark II / EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM / 124mm(198mm相当)/マニュアル露出(F5.6、1/200秒) / ISO 800 撮影・福田幸広

また、撮影時は、シャッタースピードをいかに速くできるかということが重要で、立ち位置やズーミングから、何がどのくらいボケるのかということをファインダーを見て予測します。光があまり豊富でない場所で、ブラさず、動きを止めて撮影する必要があるので、撮影モードはマニュアル露出で動物に露出を合わせた状態で構図を変えていきます。ですから、開放域での撮影が多くなりますね。

手ブレ補正の向上によって、手持ち撮影ができるフットワークのよさ、高速連続撮影10コマ/秒という速写性、描写力の高さで、信頼して使っていける、動物撮影の新たなスタンダードスタイルになっていくんじゃないかと感じています。

福田幸広さんの主なEOS 7D Mark II設定例

設定項目設定内容
画質(圧縮率)RAW
ドライブモード高速連続撮影
AFモードAIサーボAF
測距エリア選択モードゾーンAF
AFカスタム設定ガイド機能Case 6
ピクチャースタイル忠実設定
高感度時のノイズ低減標準
高輝度側・階調優先する
オートライティングオプティマイザしない
周辺光量補正する
色収差補正する
歪曲補正しない


月刊誌「デジタルカメラマガジン」でも「Canon EF LENS 写真家7人のSEVEN SENSES 2nd SEASON」が2015年7月号より連載中です。福田幸広さんをはじめ、EFレンズを知り尽くした写真家によるレンズテクニックが収録されています。

協力:キヤノンマーケティングジャパン株式会社

笠井里香

出版社の編集者として、メカニカルカメラのムック編集、ライティング、『旅するカメラ(渡部さとる)』、『旅、ときどきライカ(稲垣徳文)』など、多数の書籍編集に携わる。2008年、出産と同時に独立。現在は、カメラ関連の雑誌、書籍、ウェブサイトを中心に編集、ライティング、撮影を務める。渡部さとる氏のworkshop2B/42期、平間至氏のフォトスタンダード/1期に参加。