“もっと撮りたくなる 写真の便利帳”より

「質感」をモチーフに撮る

ピントとメリハリで感覚を伝える

身のまわりのものの質感を、撮影前に触ったり言葉にしながら、観察してみましょう。(編集部)

アートリーフシリーズの一枚。温室内で見つけた葉っぱを、手持ちで撮影した。
・着眼点:葉脈の規則性と緻密さ
・撮り頃:光が斜めになった午後
・イメージ:自然界の神秘
・撮影テクニック:脇を締めて手ブレを防ぐ
・ひと工夫:影とラインによるリズム
150mm相当 / プログラムオート / F8 / 1/90秒 / ISO200 / WB:太陽光

写真から伝わる 触れたような感覚

質感、すなわちテクスチャーの描写は、写真を撮るときの大きなテーマになります。被写体が持つ質感に気づいて、「この手触り好き」とか「こんな質感が好き」というものを発見したら、どんどん撮影してみましょう。

以前、葉っぱの質感が美しいと思い、「アートリーフ」というシリーズで、ずっと葉っぱを撮影していたことがあります。その頃から、触れたくなるような写真をどう撮ったらいいのか、ということを考えています。

葉っぱとひとくくりにしてしまいがちですが、植物によって、ザラザラ感や光沢感が違ったり、厚さが違ったり、穴が空いていたりと、いろいろです。

例えば、葉っぱに限らず、「ザラザラ」や「フワフワ」というテーマを自分で決めて撮ってみるのもいいでしょう。

目を閉じて まずは触れてみる

質感に注目して撮るときには、触れていい被写体であれば、撮影前に触ってみよう。実物に触れることで、表現したいことが、より明確になる。

そして、触れるときには、目を閉じてみるといい。視覚情報に左右されない、本当の触感が得られるはずだ。

目のつけどころ:自分好みの質感を探してみる

身のまわりの、ものの質感に注目することで、これまで見えなかったことが見えてきます。写真はそれを気づかせてくれる手段ですし、それらが見えることで日々が豊かになるでしょう。

探してみれば、植物や建造物などの他に、水の質感や洋服の質感などもあります。

金属の光沢感
団地の給水塔の、マット加工したような光沢感に注目。無機的な実用施設だが、質感を意識することで、被写体にもなる。
波打ち際のサワサワ感
水面がかすかに揺れるサワサワした感じと、砂浜のサラサラ感に注目。波打ち際で、この両者が合わさる感じも良かった。
綿毛のフワフワ感
子どもの頃に遊んだタンポポの綿毛。フワフワで、非常にもろいもの。フワフワ感の描写には、やわらかい光が向いている。
ガラスのツルツル感
古民家のガラスのツルツルした様子。昔のガラスは歪んでいて、映り込みも歪む。おぼろげな感じの風合いがいい。
コンクリートのザラザラ感
港で、錆びてザラザラになった係船柱と、コンクリートのザラザラを一緒に撮影。時が過ぎる悲しさや寂しさを表現してみた。

オノマトペで言語化してみる

日本語には、質感を表す言葉が豊富にある。オノマトペ(擬音語や擬態語)の中にも、質感を表すものが多い。「フワフワ」「ザラザラ」「ツルツル」はすべて、オノマトペであり、質感がはっきりと伝わってくる。

質感以外にも、「キラキラ」「ギラギラ」「テカテカ」といった輝き系のオノマトペもある。

自分が何かを見て感じた質感を、オノマトペに置き換えてみるといいだろう。それによって、自分の中でぼんやりとしていたテーマが整理できることがある。

反対に、「今日はツルツルした写真を撮ってみよう」とオノマトペをきっかけにして撮ってみるのもおもしろい。

テクニック:質感描写に重要なピントとメリハリ

自分が感じた質感を写真で再現するために、いちばん気をつけたいのは、ピントとコントラストです。

まずは、ピント。ピントがしっかり合っていなければ、微妙な質感が感じられなくなり、写真の印象が非常に薄くなってしまいます。

デジタルカメラで撮影した写真は、たいてい、パソコンのモニターで確認します。このとき、簡単に何倍にも拡大できるため、ピントが少し甘いと、「失敗写真」に見えてしまいます。フィルム時代よりも、さらに厳密なピント合わせが要求されるのです。

では、ピントをシビアに合わせるために、どうすればいいのでしょうか?

それは、AF(オートフォーカス)は確実ではないことを理解して、AFでだいたいのピント合わせをした後に、MF(マニュアルフォーカス)で最終調整を行うことです。下の「質感表現の厳密なピントはライブビューで」のヒント欄を参考にしてみてください。

ピントOK
金属製の柵。中央の先端にしっかりとピントが合っていて、金属の錆びた質感がよく出ている。
ピントNG
ピントのズレはわずかだが、質感描写を重視するときには、これが致命傷になる。

次にコントラスト。コントラストは、簡単に言うと明暗差によるメリハリのことです。コントラストは、質感をどのように描写するかによって、変えていく必要があります。

コントラストを強くすると、写真にメリハリがつきます。ある程度のメリハリをつけないと、質感のある作品として成り立ちませんが、ただコントラストを強くすればいいわけではありません。なぜなら、コントラストを強くすると、写真データは圧縮され、情報が貧弱になるからです。

コントラストを強めた写真は、擬似的な方法でしかメリハリを弱められないので、注意しましょう。

コントラストOK
コントラストを強くすることで、陰影の部分がより黒く、日向の部分はより白くなり、砂の質感がよく出てきた。
コントラストNG
コントラストが弱く、ハイライト部とシャドウ部のつながりはあるが、砂の質感が再現できていない。

シャープネスは「少しだけ」がコツ

デジタルカメラには、「仕上がり設定」という機能がある。文字どおり、写真の仕上がりを調整できる機能だ。

では、仕上がりとは何を指すのだろうか。具体的には、写真のメリハリを指す「コントラスト」、鮮やかさを指す「彩度」、輪郭線のくっきり具合を指す「シャープネス」などのことを言う。これらの強弱を変えて組み合わせることで、好みの仕上がりに近づくわけだ。便利なことに、特定のシーンに合った組み合わせが、「風景」「ポートレート」といった名前で、いくつか用意されている。これが仕上がり設定と呼ばれる機能だ。

仕上がり設定は、カメラメーカーで名称が異なる。代表的なメーカーを挙げると、キヤノンでは「ピクチャースタイル」、ニコンでは「ピクチャーコントロール」と呼ばれている。

もちろん、コントラストや彩度といった、仕上がりを決める要素を、個別に調整することもできる。中でもシャープネスは、質感表現にも役立つので、調整してみるといい。

仕上がり設定からシャープネスの強さを調整できる。

シャープネスは、デジタル処理で輪郭線を入れることで、画像がシャープに見える機能だ。微細な質感を際立たせるのに使える機能だが、使い方には注意が必要だ。あまり強くしすぎると不自然なラインを作ることになる。「質感のスパイス」として、少しだけ効かせるのがコツだ。

また、人工物には多少強めにかけてもいいが、花や植物などに強くかけると、輪郭が不自然になり、興ざめする。

ヒント:質感表現の厳密なピントはライブビューで

質感描写のように、ピントをシビアに合わせる必要があるときは、MFで行うことをおすすめしました。

しかし、慣れない人には、ファインダーをのぞいてピントが厳密に合っているかを確認する作業は、大変かもしれません。

このときに利用してほしいのが、ライブビュー撮影です。

ライブビュー撮影で、一部を拡大表示すれば厳密なピント合わせが可能になる。

ライブビュー撮影とは、ファインダーではなく、背面の液晶モニターに画像を表示して撮影する方法のこと。少し前の一眼カメラには、この機能が搭載されていないものもありましたが、現在は、ほぼすべての機種で利用できます。

ライブビュー撮影では、画像の一部を拡大表示することも可能です。この方法でチェックすれば、MFでのピント合わせには苦労しません。ただしカメラを固定しないとこの操作は難しいので、三脚使用時に活用するといいでしょう。

この連載は、MdN刊「もっと撮りたくなる 写真の便利帳」(谷口泉 著/ナイスク 編)から抜粋・再構成しています。

カメラの使い方は理解しても、写真そのものが上手くなったと実感できなかったり、よい写真とは何かわからなくなった方々に向け、写真を楽しむためのテーマとして「モチーフ」を集めた1冊です。撮影のヒントやアイデア、具体的な機材情報も盛り込まれています。

「もっと撮りたくなる 写真の便利帳」(MdN刊、税別2,000円)

谷口泉