メーカー直撃インタビュー:伊達淳一の技術のフカボリ!
キヤノンが誇る広角ズーム最新技術
EF16-35mm F4L IS USM & EF-S10-18mm F4.5-5.6 IS STM
Reported by 伊達淳一(2014/7/22 12:15)
本インタビューは「デジタルカメラマガジン8月号」(7月19日発売、インプレス刊)に掲載されたものに、誌面の都合で掲載できなかった内容を加筆して収録したものです。
デジタルカメラマガジン2014年1月号のインタビューで、今年は交換レンズの充実に力を注ぐと語っていたキヤノン。その言葉どおり、2本の広角レンズを立て続けに発売してきた。既存レンズとは焦点距離や開放F値が異なる別モノとなった新型が備える技術の核心に迫った。(聞き手:伊達淳一、本文中敬称略)
EF16-35mm F4L IS USM、EF-S10-18mm F4.5-5.6 IS STMってなに?
EF(フルサイズ対応)、EF-S(APS-C専用)の超広角ズームで、EOS M用のEF-M11-22mm F4.5-5.6 IS STMに続き、手ブレ補正機構を搭載。従来は製造が難しかった大口径の両面非球面レンズやプラスチックモールド非球面レンズが実用化されたことで、周辺画質が大幅に向上しているのが特徴だ伊達淳一的EF16-35mm F4L IS USM&EF-S10-18mm F4.5-5.6 IS STMの気になるポイント
- EF&EF-Sレンズ初の手ブレ補正機構(IS)搭載超広角ズーム
- 両面非球面レンズを2枚採用し周辺画質を向上(EF16-35mm)
- プラスチックモールド非球面で低価格と高画質を両立(EF-S10-18mm)
- 大口径非球面レンズの生産技術確立が新世代の超広角ズームを実現
◇ ◇
2枚の両面非球面レンズによって課題の周辺画質の向上を実現
――まずは、EF16-35mm F4L IS USMが登場した経緯を教えてください。
島田:従来のEF17-40mm F4L USMを発売してから10年以上が経ちますが、その間にカメラの画素数も非常に増えてきて、レンズに対してもっと高い描写性能を求める声が高まってきました。
特に、画面周辺の像の流れを含めた画質に対し、お客さまからシビアな評価をいただいており、そうした声に応えるべく、今回のEF16-35mm F4L IS USMは、プロからハイアマチュアまでご満足いただける高い光学性能を目指し、とりわけ周辺画質にとことんこだわって開発しています。
また、EFレンズの超広角ズームとして初めてIS(Image Stabilizer:手ブレ補正機構)も搭載し、室内や朝夕の薄暗いシーンでも三脚を使わず手持ち撮影できるなど、表現領域の拡大も狙っています。
――EF16-35mm F4L IS USMの特徴紹介のページを見ると、“画面の四隅までキレのいい高画質”と強くアピールしていますが、これまでの超広角ズームと比べ、今回のEF16-35mm F4L IS USMは何が違っているのでしょうか? EF16-35mm F2.8L II USMのレンズ構成図と見比べてみても、ISの光学系が加わっているほかは、それほど大きな違いがないように見えるのですが……。
岩本:EF16-35mm F2.8L II USMもEF16-35mm F4L IS USMも第1群に2枚の非球面レンズを使用しているという点は同じですが、EF16-35mm F4L IS USMの非球面レンズは2枚とも両面非球面です。この2枚の両面非球面レンズの形状と材質を最適化し、周辺画質の向上を図っています。
――周辺画質を向上させるポイントとは?
岩本:広角レンズの設計では、歪曲収差の補正と像面の平坦性の確保の両立が長年の課題でした。なぜならば、これらは互いに相反する性質を持っているからです。
例えば、単純に歪曲収差を減らしていくと、像面の平坦性が失われていき、逆に像面湾曲を抑えて像の平坦性を追求すると歪曲収差が大きくなってしまう傾向があります。
そこで、今回のEF16-35mm F4L IS USMでは、2枚の両面非球面レンズの材質と形状を最適化し、歪曲収差の補正と像面の平坦性の確保の相反する要素を高い次元で両立させています。また、2枚のUDレンズと最新の光学設計により倍率色収差の改善を図っています。
――これまでに両面非球面レンズを使った製品はあるのですか?
岩本:EF16-35mm F4L IS USMは、第1群の径の大きなレンズに両面非球面レンズを採用しています。これほど径の大きなレンズで両面非球面を採用したのは本製品が初の試みになります。
大口径の両面非球面レンズを精度良く生産できる生産技術が確立できたことで、今回のEF16-35mm F4L IS USMの設計性能を大幅に向上させることができました。
島田:EF16-35mm F4L IS USMだけでなく、EF-S10-18mm F4.5-5.6 IS STMも生産技術の進化が寄与している部分が大きく、仮に数年前に同じ設計をしても、実際に同じ性能のレンズは作れなかったでしょう。
光学設計とそれを実際に製品として作り上げる生産技術の両方が進化したことで実現したのが、今回のEF16-35mm F4L IS USMであり、EF-S 10-18mm F4.5-5.6 IS STMです。
――ちなみに、EF16-35mm F2.8L USMとEF16-35mm F4L IS USMとではどちらが画質は上なのでしょうか? 開放絞りと絞ったときでは違うと思いますが……。
岩本:開放絞りではF2.8とF4という違いもあり単純に比較はできないと思いますが、例えば、F8まで絞って撮影した場合には、今回のEF16-35mm F4L IS USMの方が最新の光学技術を投入しているぶん、高画質だと考えています。
ただ、F2.8のレンズにはF2.8開放でなければ得られない被写界深度の浅さを生かした映像表現があり、そのあたりはシチュエーションに応じて選択していただければと思います。
――EF16-35mm F2.8L II USMも、APS-Hフォーマットの範囲までは非常に高い描写性能が得られますが、周辺になるとガクンと画質が落ちてしまいます。
Webサイトで公開されているMTFを見ても、EF16-35mm F2.8L USMは中央から周辺にかけてぐねぐねと複雑な曲線を描いていますが、今回のEF16-35mm F4L IS USMは周辺になるにつれ、緩やかに特性が低下していき、非常に素直な特性に見えます。この違いはどのような光学特性の違いに起因するのでしょうか?
岩本:一般的な話として、MTFの曲線が波打った形になるのは、画面中心から周辺にいくにつれ、ピントを結ぶ位置(像面)が曲がっているのが原因ということが多いです。EF16-35mm F4L IS USMは像面の平坦性を改善したことで、中心から周辺にかけて緩やかで素直な曲線になっています。
――MTFのサジタル(同心円方向)とメリジオナル(放射線方向)の線が周辺で離れていくのは、主にどのような収差が影響しているのでしょう?
岩本:一般的には非点収差の影響が大きいです。非点収差とは像を結ぶ位置がサジタルとメリジオナルで異なる収差で、それが大きいと2つの曲線が大きく乖離してしまいます。
EF16-35mm F4L IS USMは、像面湾曲だけでなく非点収差も大幅な低減を図っていますので、サジタルとメリジオナルの差が比較的少なくなっています。
――超広角レンズは周辺画質を保つのはただでさえ難しいと思いますが、IS(手ブレ補正機構)を搭載すると、より大きなイメージサークルを確保しないと補正がかかったときに周辺画質は低下してしまうと思うのですが……。
岩本:手ブレ補正時でも画質が低下しないようにレンズ構成を最適化し、十分な光学性能が発揮できるように設計しています。
専用設計の手ブレ補正機構でコンパクト性を徹底的に追求
――もし、ISなしで設計したとしたら、もっと小型・軽量になっていたのでしょうか?
岩本:もちろんISなしであれば、小型・軽量に設計できますが、レンズ配置を工夫してIS搭載による大型化が最小限になるようにしています。
佐々木:EF16-35mm F4L IS USMに搭載しているISユニットは、本レンズに最適設計したユニットで非常にコンパクトにまとまっています。確かにISをなくせば、レンズ全長を多少短くすることはできたかもしれませんが、劇的に小さく軽くなるわけではありません。
それよりも、IS搭載によるメリットのほうがはるかに大きいと考えています。また、フードの形状も工夫して、装着したときにもコンパクトに感じていただけるように意識して設計しています。
――初めてEF16-35mm F4L IS USMを手にしたときに、実は軽いと感じました。でも、EF17-40mm F4L USMより少し重くなっているんですね。全長が伸びて大きく見えるぶん、見ための印象よりも軽く感じるのかもしれませんね。ところで、フッ素コーティングとはなんですか? どんな効果がありますか?
岩本:水や油をよく弾いてくれるコーティングで、汚れが付着しにくく、付着したとしても軽く拭き取れるのが特徴です。最近のLレンズはフッ素コーティングが標準になっています。
――コーティングといえば、キヤノンにはSWC(Subwavelength Structure Coating)という、レンズ表面にナノサイズのくさび状の構造物を無数に並べたコーティングがありますよね? 特に、入射角が大きな光に対して優れた反射防止効果を発揮するのが特徴だと思いますが、太陽など強い光源が画面内に入り込むケースも多いEF16-35mm F4L IS USMにSWCを採用しなかったのはなぜですか?
島田:フレアやゴーストの発生をシミュレーションしながら設計することで、このレンズではSWCを採用せずに、目標の性能を達成できたからです。
岩本:ゴーストに関しては、コーティング以外にも光学設計的にできることもいろいろあります。設計の初期段階からゴーストやフレアに配慮した設計を行うことで、ゴーストやフレアの低減を図っています。
――カタログなどを見ると「ズーム操作時に前玉が移動するため、十分な防塵・防滴性能を発揮するには、別売のキヤノン PROTECTフィルター 77mmの装着が必要です」という注釈がありますが、保護フィルターを装着しない場合、日常的な使用でもレンズ内部にゴミやホコリが入るリスクが高くなるのでしょうか?
佐々木:日常的な使用においてはプロテクトフィルターがなくてもレンズ内に塵や水滴が入り込む心配はありません。しかし、構造上、前玉レンズがフィルターネジの奥でズームすることにより進退する際に、意図せず塵や水滴が吸い込まれることがあります。
そこで十分な防塵・防滴効果を得るために、プロテクトフィルターの装着を推奨させていただいております。
――カメラをほぼ水平に構えた状態で雨滴が鏡筒の内側にちょっと溜まった程度なら、ズームしても大丈夫ですか?
佐々木:もちろん、その程度なら問題ありません。
――そもそも前玉が動いても防塵・防滴性能を保てる構造、もしくは前玉が動かないような光学系にすることはできなかったのでしょうか?
岩本:光学設計的な話をしますと、一般的に広角ズームは「負先行型」(第1群が凹レンズの役割をもつタイプのレンズ)の光学系を選択することが多く、こういったタイプは第1群が可動するものがほとんどです。また、前玉の位置が固定されたインナーズームにすると、レンズ全長が長くレンズ径も大きくなってしまいます。
――鏡筒の内側でレンズが伸縮する構造でなく、一般のズームレンズのように鏡筒の先端がそのまま伸びる構造にすれば、水が溜まる心配はなかったのではないでしょうか?
佐々木:前玉が固定で鏡筒が伸縮しないレンズのほうが、使いやすいと感じるお客さまもいらっしゃいます。
また、このEF16-35mm F4L IS USMは、鏡筒がもっとも短くなるのはワイド端ではなくズーム中域ですが、収納時に鏡筒がもっとも短くなる焦点距離を探してズームする手間を考えると、ズームによって鏡筒の長さが変化せず、鏡筒の内側で前玉が動くような構造にしたほうが使いやすさや剛性感が得られるため、バランスを考慮してこのような仕様を採用しました。
――超広角ズームは前玉が大きく重さもあるので、鏡筒がそのまま伸びて前玉が繰り出されるよりも、全長が変化しない鏡筒の内側で前玉が動くほうが、外部からの衝撃にも強そうだし、経年変化に伴うガタツキも少なそうですね。
佐々木:おっしゃるとおりです。特に超広角ズームは第1群が担っている役割が大きく、ここの精度をしっかり保つことが、設計値どおりの画質を引き出すポイントでもあります。また、フォーカスレンズのごくわずかなぐらつきも非常に気を配っていて、光学系を保持する機構を改良して、安定した光学性能を引き出せるよう配慮した設計になっています。
そのほかにも、フォーカスレンズの位置検出の精度向上にも気を配っています。どれも非常に地味な話なのですが、そうした工夫や改良を積み重ねて少しずつ精度を上げることが、トータルの画質向上につながっています。
岩本:最終的な光学性能をここまで高めたものを、きちんとバラツキなく量産できるか、にもこだわっています。どんなに設計性能が高くても、製造誤差の影響で本来のパフォーマンスが発揮できないのでは意味がありません。
高い設計性能をいかに製品化するかという課題に対して、生産現場と一体となり取り組むことで、EF16-35mm F4L IS USMの性能を最大限に引き出せました。
――あくまで個人的な感想なんですが、EF100mm F2.8L IS USMマクロを発売したあたりから、EFレンズの解像性能がグンとレベルアップしてきたように感じるのですが、目標とする設計値、設計思想(プリント鑑賞を基準でピクセル等倍鑑賞までは考慮していなかったとか)など、以前に比べて違いはあるのでしょうか?
岩本:具体的にはお答えできないのですが、デジタルカメラの画素数がどんどん増えてきていますので、それに応じてレンズ性能の目標値も少しずつ上がってきているのは確かです。
――最近のLレンズは、どのくらいの画素数(画素ピッチ)まで十分な解像性能を発揮できるよう設計されているのでしょうか?
島田:レンズというのは、発売してから非常に息の長い商品ですので、我々もそのあたりを意識し、将来のカメラでも十分なパフォーマンスを発揮できるような目標値を設定して開発に取り組んでいます。
――最近のLレンズをマウントアダプター経由でソニーα7Rに付けて撮影すると、実に高精細な描写が得られます。現在、キヤノンでもっとも高画素なのは22メガピクセルのEOS 5D MarkIIIですが、もったいないことに、EOS 5D MarkIIIではLレンズのすごさを引き出し切れていません。
僕はいたずらに高画素化するのは反対ですが、画素数(画素ピッチ)に見合った高性能なレンズがあるなら、その真の描写力を見てみたいという気持ちもあります。周辺まで画質が良い超広角ズームが登場したことで、EOSの高画素モデルの登場に期待しています。
ところで、レンズの解像性能を高めることで、何か失うものはあるのでしょうか? 解像を上げると階調が出にくくなる、なんて話も聞きますが……。
岩本:私たちの目指す高画質なレンズは、解像度とコントラストのどちらも高いものを目指しています。ただ、あまりにも高画質のみを追求すると、レンズが大きく重く、値段も高くなりますので、そのあたりのバランスも考え、時代に応じた適切な解像性能を目標に設定して設計することになります。
――続いて、EF-S10-18mm F4.5-5.6 IS STMについてお伺いしますが、非常に値段が安いですね。どんな狙いでこのレンズを発売したのでしょうか?
島田:標準ズームキットやダブルズームキットをお求めいただいた後、キットレンズの次に買う1本としておすすめできる超広角ズームとして企画しました。
というのも、キットレンズを買ったお客さまの4~5割は、キットレンズだけしか使っていないという調査結果があります。せっかく一眼レフデビューしていただいたのに、レンズ交換できるという一眼レフの楽しみをまだ知らないのはもったいない、レンズ交換で広がる新しい表現の世界をぜひ知ってほしいと思っています。
では、なぜキットレンズだけで止まってしまっているのかを調べたところ、キットレンズとどのように写りが違うのか分かりにくい、あるいは、交換レンズは価格が高いとよく言われました。
そこで、これまでの交換レンズに比べ、お求めやすい価格を実現すると同時に、エントリーモデルと組み合わせてもバランスが取れる小型軽量なレンズ、しかも、キットレンズとは明らかに違う新しい表現が楽しめるということで、35mm判換算16mm相当の超広角ズームを企画しました。
――従来のEF-S10-22mm F3.5-4.5 USMとは競合しないのでしょうか?
島田:EF-S10-22mm F3.5-4.5 USMは、テレ端の焦点距離が22mmまであり、標準ズームの焦点距離とオーバーラップする領域が広く、距離目盛りも備わっていて、外装も高級感があります。ISは搭載されていませんが、開放F値もF3.5-4.5と2/3段から1/3段ほど明るめです。ベテランユーザーほどこうした点にこだわりがあると思います。
――画質はどちらが上ですか?
中原:開放F値が抑えられているということもありますが、MTFの特性を見ていただくとわかるように、EF-S10-18mm F4.5-5.6 IS STMのほうが、安くても高性能なレンズに仕上がっています。
光学系の前と後ろの部分に非球面レンズを1枚ずつ使うことで像面湾曲、歪曲収差、および球面収差を低減し、さらにUDレンズも効果的に使うことで色収差も低減した設計になっています。
――16mm相当の画角というのは、カメラ初心者には超広角すぎるような気がします。ズーム比を抑えて小型・軽量化を図るのであれば、EF-M11-22mm F4-5.6 IS STMのような焦点距離域にした方が、標準ズームとのオーバーラップもあり、使いやすかったような気もしますが?
島田:先ほど申し上げたように、キットレンズとの明らかな違いを感じていただきたいということで、EF-S10-22mm F3.5-4.5 USMと同様、10mmスタートというのは譲れませんでした。
――気になるのはマウントがプラスチックという点です。耐久性は大丈夫なのでしょうか?
水島:結構よく聞かれる質問なのですが(笑)、耐衝撃性や耐摩耗性などの耐久力にも優れた素材(高機能エンジニアリングプラスチック)を使用しており、弊社の社内テストをクリアし、問題ないことを確認しています。
――それでは、なぜほかのレンズは金属マウントを採用しているのでしょう?
水島:レンズの大きさや重量によって、そのレンズを支えるマウントに要求される強度が異なってきます。超望遠レンズや大口径レンズのような重いレンズを支えるとなると、やはり金属マウントの方が強度的には有利です。ただ、このレンズは非常に軽く強度の面でも十分と判断し、プラスチックマウントを採用しました。
プラスチックモールド非球面レンズの生産技術がEF-S10-18mmを可能にした
――EF-S10-18mm F4.5-5.6 IS STMの光学設計における技術的ポイントは?
中原:このレンズで特徴的なのは、前から2番目に、プラスチックの大口径非球面レンズを採用していて、このことがレンズの軽量化や低価格化、画質向上に大きく寄与しています。
口径が小さなプラスチックモールド非球面レンズは以前にも採用実績がありますが、EF-S10-18mm F4.5-5.6 IS STMに使われているプラスチックモールド非球面は非常に径と曲率が大きく、これまでは厳しい品質基準を達成することが困難でした。
この大口径のプラスチックモールド非球面レンズの生産技術が確立できたことで、EF-S10-18mm F4.5-5.6 IS STMを製品化できたといっても過言ではありません。
また、動画での使用も留意して、静かでスムーズなAFを実現するSTMを採用し、さらに、フォーカシングに伴う像倍率変動ができるだけ少なくなるような設計にしているのです。
――EF16-35mm F4L IS USM、EF-S10-18mm F4.5-5.6 IS STMともに、非球面レンズなどのレンズ生産技術の進化が商品化の大きなポイントになっているんですね。
◇ ◇
―取材を終えて― 両面非球面レンズがこれからの広角レンズの光学技術を支える
どちらかと言えば、僕はフルサイズよりもAPS-Cを支持しているのだが、本気のAPS-C機がなかなか出ないので、高感度に強くAF性能と連写性能が向上したキヤノンEOS 5D MarkIIIの使用頻度が多くなってきた。ただ、選択に迷うのが超広角ズームだ。残念ながら、既存のEFレンズには僕が満足できる周辺画質の超広角ズームが存在しないので、もっぱらAPS-Cのミラーレスカメラで超広角撮影をするようになっていた。というのも、最近のミラーレスカメラ用超広角ズームは、周辺画質が極めて良く、手ブレ補正機構も搭載していて価格も手ごろだ。デジタル補正が前提とはいえ、歪曲収差もよく補正されている。
そういった状況だけに、EF16-35mm F4L IS USMに対する評価も厳しくならざるを得ないのだが、実写してみると、カタログなどで語られているとおり、周辺画質が非常に安定していて、開放絞りから安心して撮影できる。しかし、レンズ構成図を見ても、従来のEF16-35mm F2.8L II USMと、ISユニットが付いたほかはそれほど大きな違いはない。
そこで、今回の取材では、周辺画質を向上できた理由を探ってみたのだが、像面湾曲と歪曲収差は相反する関係にあり、その両方を高次元でバランスさせるのに、両面非球面レンズの採用が大きな役割を果たしているという。
ミラーレスカメラの超広角ズームの周辺画質が良好なのも、ショートバックフォーカスで広角系に有利というだけでなく、歪曲収差の補正をデジタルに任せ、そのぶん、像面湾曲の補正に力を注いでいるのだろう。
しかし、一眼レフ用レンズは、ファインダーにデジタル補正が反映されないため、歪曲補正も光学的に補正する必要がある。両面非球面レンズの採用とその生産技術の向上がこの光学性能を実現できたポイントだ。(伊達淳一)