メーカー直撃インタビュー:伊達淳一の技術のフカボリ!
PENTAX K-1
全方位に進化を遂げた注目機 独自技術のギモンに迫る
Reported by 伊達淳一(2016/3/22 13:44)
ローパスフィルターレス仕様の約3,640万画素CMOSセンサー搭載のフルサイズデジタル一眼レフで、防滴・耐寒性能にもこだわっているのが特徴。世界初の5軸・5段の補正効果を謳うボディ内手ブレ補正機構「SR II」を内蔵し、ローパスセレクターやリアル・レゾリューション・システム、アストロトレーサー、自動水平補正など、SR機構を活用した独自機能も備えている。
PENTAX伝統のハイパー操作系を踏襲しつつ、フレキシブルチルト式液晶モニターやスマートファンクション、操作部アシストライトなど、撮影者の視点に立った新たな操作性や工夫も満載されている。光学ファインダーの見えの良さにも徹底的にこだわり、一眼レフならではの魅力を追求した製品といえる。
インタビューの注目トピック
◇ ◇
645シリーズとの両立は可能。KマウントユーザーのためのK-1
――PENTAX K-1は、PENTAXブランドとしては初となるフルサイズフォーマットのデジタル一眼レフですが、なぜ、今のタイミングでフルサイズ一眼レフを投入したのでしょうか?
画質重視のラージフォーマットとしてはPENTAX 645Zという選択肢がありますし、APS-Cフォーマットならではの機動力、レスポンスを最大限に引き出してきたメーカーという印象を持っています。
小型のレンズ交換式カメラシステムとしてPENTAX Qシリーズもありますよね? さらにフルサイズにも参入するとなると、フルサイズ対応の交換レンズも速やかに拡充していく必要があります。
そこまでして、フルサイズのデジタル一眼レフを出すという決断に至った経緯をまずお伺いしたいと思います。
若代:これまで、Kシリーズに関してはAPS-Cに注力するという方針で、小型・軽量なレンズラインアップを拡充しつつ、ボディもAPS-Cの良さを生かすユニークな機能やギミックを積極的に採り入れてきました。ところが、そういったことをがんばればがんばるほど、お客さまからは「このフルサイズ版を出してほしい」というリクエストがどんどん増えてきました。
我々としても、一眼レフのパイオニアとしてフルサイズのデジタル一眼レフを作りたい、お客さまがそこまで望んでくれるのであれば、フルサイズのデジタル一眼レフを開発しよう、という思いがどんどん強くなってきました。確かに、645シリーズとカニバリ(共食い)するのではないかという危惧もありましたが、やはり645シリーズとKシリーズではマウントが違いますので、Kシリーズユーザーとしては、同じKマウントのレンズが使えるフルサイズ機を望む声が多くありました。
これまで蓄積してきた技術をふんだんに盛り込んだフルサイズ機を作ってPENTAXユーザーの期待に応えたいという思いから、フルサイズのデジタル一眼レフを出そうということになりました。
――従来のAPS-Cフォーマットとのすみ分けはどう考えているのでしょうか?
若代:フルサイズに関しては、基本的にPENTAX Kシリーズユーザー、とりわけK-3 IIクラスのハイアマチュアをターゲットとして考えています。
また、フィルム時代にはPENTAXを愛用していたものの、デジタルになってPENTAXにはフルサイズ機がないという理由で、他社のフルサイズ一眼レフを買い足されたお客さまにも、このK-1発売を機にPENTAXに戻ってきてほしい、という思いもあります。
一方、APS-CはAPS-Cで、これまでどおり、高性能だけど小型・軽量という特徴をさらに引き出せるモデルを開発し、既存のPENTAXユーザーだけでなく、コンパクトカメラやスマートフォンからのステップアップ組など、新規のユーザーを獲得していきたいと考えています。
――一眼レフメーカーとして最後発でフルサイズ市場に参入するわけですが、PENTAXの哲学というか、PENTAXが作るフルサイズ機はここが違う、というアピールポイントはどんな点でしょうか?
若代:これまで、PENTAXのカメラは、アウトドアでの作品撮り、とりわけ自然風景撮影を重視したモノ作りをしてきました。そのこだわりは、フルサイズになっても同じです。
フィールドで求められる機動力の高さ、そして、過酷な環境下に耐える防塵・防滴・耐寒といった堅牢性や信頼性を兼ね備えているのが、PENTAXの強みであり魅力だと考えています。
――実売価格もポイント還元なしで実売25万円ちょっとと、36メガクラスのフルサイズ一眼レフとしては心揺さぶられる価格帯ですね。フルサイズはK-1だけでカバーしようという戦略ですか?
若代:先々の展開についてはいろいろなファクターがあって断言できませんが、頻繁にマイナーチェンジモデルを作ったり、機能を省いた廉価版を作るといったことは現時点では考えておりません。
フルサイズのデジタル一眼レフを長年待っていただいたお客さまのためにも、最初からリーズナブルな価格で提供し、極力、その販売価格をキープしていきたいと思っています。
――先ほど、フルサイズを望むPENTAXユーザーからの声が多かった、という話がありましたが、PENTAXのフルサイズ機に対し、具体的にどんな要望が多かったのでしょうか?
若代:非常に多種多様な要望が寄せられましたが、一番多かったのは「ボディ内手ブレ補正」ですね。フルサイズ機を出すなら、ボディ内手ブレ補正を必ず入れてほしいという意見を非常に多くいただきました。
また、APS-Cでさまざまな独創的な機能を積極的に盛り込んできたこともあり、“PENTAXといえば全部入り”という印象を持たれる方も多く、当然、フルサイズに対しても、これまでAPS-Cで採用してきた機能は全部入れてほしいという声も多かったですね。
そのほかには、デザインに関するリクエストもいろいろ寄せられて、例えば、PENTAX LXみたいな外観にしてほしい、という意見もありました。
――デザインといえば、2015年2月にフルサイズ一眼レフの開発発表を行い、CP+でモックアップを参考展示しましたが、あの時点で、現在のK-1のデザインはほぼ固まっていたのでしょうか?
大久保:そうですね、あの時点でほぼ最終的なデザインは決定していましたね。ただ、左(グリップ側上面)の部分の操作部は、権利関係などが完全にクリアになっていませんでしたので、モックアップでは上面部に何も配置されていないフラットな状態になっていました。
――ここ数年、PENTAXは“フルサイズ一眼レフの開発を検討中”という話は何度も出ていましたが、具体的にフルサイズ一眼レフの開発にゴーサインが出たのはいつ頃ですか?
若代:細々と開発主導で検討はしていましたが、社内で検討会が始まったのが、2012年の春ぐらいです。
実は、その段階では企画的に製品のコンセプトをこうしよう、とか固まっていたわけではなく、実際にフルサイズのデジタル一眼レフを作るとしたらいろいろな課題が出てくるだろうから、個別に検討するよりもチームで取り組んだ方が良いだろうということで、開発主導で「フルサイズ委員会」が発足しました。
そこから月に1~2回の頻度で検討会を開き、2013年の夏ごろには、製品コンセプトも固まり、社内的にもフルサイズのデジタル一眼レフを出す承認が降りました。K-1の具体的な開発が始まったのはそこからですね。
――K-01のように、Kマウントのままでミラーレス化して、フルサイズを実現するという案は出なかったのでしょうか?
若代:フルサイズを検討していた時期は、ミラーレスカメラが急速に台頭、拡大していていましたので、選択肢としてミラーレスもあるかな、と思ったことはありますが、一眼レフのパイオニアとしての自負もありますし、PENTAX Kシリーズのユーザーが望まれているのも、光学ファインダーならではの見えの良さだと思いますので、PENTAXのフルサイズは、やはり一眼レフだろう、という結論に至りました。
――フィルム時代の実績があるとはいえ、デジタルになってからは初めてのフルサイズ一眼レフです。開発でいちばんたいへんだったポイント、時間がかかった部分はどこだったのでしょうか?
川面:フルサイズ化にあたって、基本的にはすべてのユニットを新規で設計し直しています。特に、ボディ内手ブレ補正は必須要件だったので、大きなフルサイズセンサーをAPS-C同様に動かすためのパワーアップを図りつつ、SRユニットのサイズをできるだけ小さくすることがポイントでした。これがK-1とK-3 IIのSRユニットです(写真)。
――センサーサイズがこんなに違うのに、SRユニットとしては、APS-Cもフルサイズもそれほど大きさに差がないように見えますね。てっきり、大きなフルサイズセンサーを動かすために、SRユニットも巨大になって、それがボディ重量に響いているんだと思っていました。
なぜ、センサーは大きくなっているのに、SRユニットは相対的に小型化することができたのでしょうか?
川面:強度的に問題のない範囲でベースプレートを削ぎ落としています。例えば、K-3 IIのSRユニットは四方がベースプレートで囲われていますが、K-1のSRユニットは上部のベースプレートを省くことで、ユニットの高さを抑え、軽量化を図っています。
また、大きなフルサイズセンサーを動かすために、駆動力を高めなければいけないので、電流をアップするようなコイルに変更したり、磁石の形状を変更しているのですが、磁石の必要な範囲を限界まで縮めるために、横幅は狭くして、高さは伸ばすといった形状の最適化も図っています。
川面:一眼レフならではのファインダーの見えの良さにもこだわる、ということで、フィルム時代よりもさらに大きなペンタプリズムを採用しています。また、視野率100%を実現するためにミラーやミラーボックスも大きくしていますが、単純に1軸でミラーアップすると、レンズの後玉にミラーが当たってしまいます。そこで、リンク機構を使って、ミラーを動かす工夫をしています。
――いわゆるスイングバック方式ですね? フィルム時代にも採用していませんでしたっけ?
川面:似ていますが、それとはちょっと違う方式です。シャッターユニットもフルサイズ用に大きくしていますが、ボディ内手ブレ補正でセンサーがシフトする分、シャッターユニットの開口に余裕が必要ですので、通常のフルサイズ機よりも開口部が広いシャッターユニットを採用しています。
――ああ、ボディ内手ブレ補正を採用すると、シャッターユニットもひと回り開口部を大きくする必要があるわけですね。
川面:シャッターユニットの配置もPENTAXのAPS-C機とは異なり、180度回転して配置しています。こうすることで、スペース効率が良くなり、ボディの横幅を縮めることができます。
――K-1のボディサイズは、最初からこのサイズに決まっていたのですか?
若代:企画からリクエストする前から、開発側で小型化の検討が進められていましたので、特にこちら(企画)から目標値を提示したわけではありません。
川面:検討を始めたときに発売されていた機種で一番小さなサイズを目標にして、構成を考えていきました。
――有効約3,640万画素のセンサーを採用した理由は?
若代:もっと高画素のセンサーもありますが、あまり高感度を狙えなくなってきます。といって、24メガクラスのセンサーにしても、36メガクラスのセンサーと比べ、高感度特性が劇的に良くなるわけでもありません。
企画としては、アウトドアでの風景撮影を考えると、高解像度も高感度もどちらも重要だと考えていたので、その2つのバランスを最大限高められる約3,640万画素のセンサーを採用しました。
手ブレ補正で5段分を実現できた理由
――僕も現時点では一番バランスの良いフルサイズセンサーだと思います。静物撮影であれば、ボディ内手ブレ補正を利用した「リアル・レゾリューション・システム」で、さらに高い解像感も追求できますし……。
そういえば、ボディ内手ブレ補正もSR IIになって、補正段数も4.5段から5段に向上しているんですよね?
沼子:補正段数が向上しているだけでなく、従来の角度ブレに加え、回転ブレやシフトブレにも対応した5軸の手ブレ補正が可能になっています。回転ブレの補正は、従来の角度ブレの技術を展開し、ジャイロセンサーを追加することで割と簡単に実現することができました。
ただ、シフトブレの補正はかなり難しく、正直大変苦労しました(笑)。技術的には、回転ブレはジャイロセンサーの信号を1回積分すれば移動量(ブレの方向と大きさ)が分かりますが、シフトブレは加速度センサーの信号を2回積分しないと変位量を求められないんですよ。
2回積分すると誤差がどんどん大きくなってくるので、その誤差の影響をいかに除去するかが最大の問題でした。他社の方式とは異なる独自の方式でシフトブレの補正を可能にしましたが、結果的には良い性能を出すことができました。
――補正段数が4.5段から5段に向上させることができたのは?
沼子:専門的な話になってしまいますが、ジャイロセンサーの信号には「オフセット」というものが含まれています。手ブレ量だけ測りたくても、オフセットが乗っている信号を積分するとどんどん誤差が増えて正確な手ブレ量が得られなくなってしまいます。
実は、これが手ブレ補正技術の最大の問題だと思っています。適切なフィルター設計でこのオフセットを取り除く必要がありますが、今回はフィルターの収束を速くして1枚1枚の撮影にスピーディに対応できるようにしたことが補正段数を上げられた一番大きな要因です。
――これまでに比べ、どんな手ブレに強くなっていますか?
沼子:広角系、望遠系を問わず、どんなレンズを使用したときでも補正効果は向上しています。もちろん、5軸手ブレ補正によってマクロ撮影の手ブレにも強くなっています。
大久保:先ほど沼子が回転ブレには余裕で対応できたといっていましたが(笑)、実際、試してみると、他社と比較してもかなり高性能です。その理由がよく分かっていないんですけど……。
沼子:おそらくPENTAXのSRユニットは、センサーを完全に宙に浮かせたフリーな状態で駆動しているので、これが有利に働いているのではないでしょうか。それ以外にはちょっと理由が思い浮かびませんね。
――流し撮りも自動的に判別してくれるということですが、水平方向のみとか流す方向に制約はありますか?
沼子:縦、横をそれぞれ独立で判別・制御していますから、理論的には、縦でも横でも斜めでも対応できるアルゴリズムになっています。単純にいえば、流し撮りによるカメラの動きを検出し、その分を手ブレ補正量から差し引いて制御を行っています。
ただ、流し撮りかどうかを判別するしきい値の設定が難しいですね。撮影対象により流し撮りの速度は違いますので、場合によってはうまく流し撮りと判別できない可能性もあります。
――三脚撮影時はやはり手ブレ補正はオフにした方が良いんですか?
沼子:三脚撮影時は手ブレ補正をオフにするよう推奨しています。三脚撮影時でも、手ブレ補正が弊害を及ぼさないようにソフト設計を行っていますが、弊害が起こる可能性はゼロではありません。特に、長秒時の撮影は手ブレ補正をオフにした方が安心です。
――ローパスレセクターやリアル・レゾリューション・システム、アストロトレーサーといったボディ内手ブレ補正を活用し、センサーをピクセル単位で微小駆動させることで実現しているPENTAX独自の機能がありますが、APS-Cからフルサイズになって、制御面で何か大変だったことはありますか?
沼子:ボディ内手ブレ補正を初めて搭載したK100Dのときから、SRユニットの精度は非常に高く、特にローパスセレクターやリアル・レゾリューション・システムを実現するために、SR機構に改良を加えたということはありません。
天体写真を撮影する場合に、SRユニットの精度の影響で星がずれてしまわないか心配したのですが、あまりにうまくいきすぎてちょっと拍子抜けしたことを覚えています。
リアル・レゾリューションで3回ではなく4回露光が必要な理由
――リアル・レゾリューション・システムは、センサーを1画素ずつずらしながら4回露光を行うことで、1つの画素でRGBすべての色を取り込んでいますが、センサーをもう少し高速に動かすことで、4回露光を短い時間で済ませられませんか? そもそもRGBを取得するなら4回ではなく3回露光で構わないのではないでしょうか?
沼子:リアル・レゾリューション・システムで画像取得に時間がかかるのは、SRユニットではなく、センサー読み出しの問題ですね。
上原:リアル・レゾリューション・システムで3回ではなく4回露光しているのは、Gを2回露光することで輝度ノイズ低減を図ろうという狙いがあります。3回露光だと、例えばGrからスタートする画素は、Gr,B,GbとなりRの情報が取れなくなるため、4回撮影して1周する必要があります。Gの2面でのノイズ処理は副次的な効果となります。
――K-1のリアル・レゾリューション・システムには、動体補正という機能が加わりましたが、この処理について教えてください。
上原:K-1では、動体補正のオン/オフができるようになっていますが、実は、K-3 IIのリアル・レゾリューション・システムにも動体補正が組み込まれていて、常に動体補正はオンになっています。
――K-3 IIも自動車など動きの速い被写体は多重にならずに処理されることは気づいていましたが、K-1の動体補正はもっと強力になったのかと思っていました。
ということは、K-1のリアル・レゾリューション・システムを動体補正オンで撮影しても、K-3 IIよりも動きのあるシーンに強くなっているわけではない?
上原:画素数が増えたぶんだけ、K-1の方が被写体の細かい動きがより判別できるケースが増えた印象がありますが、基本的にはK-3 IIもK-1も同じ動体補正アルゴリズムを採用しています。
――雲が流れているシーンなど、ゆっくりとした動きの被写体はやはり苦手ということですか?
上原:雲の流れとか樹木のざわめきなどは、うまく動きを検出しにくい被写体で、リアル・レゾリューション・システムの弱いところだと認識しています。
――それでは、K-1の動体補正オフは、どのような状況を考慮して用意されたのでしょう?
上原:動体補正というのは4ショットの画像を比較して、どの部分が動いている、動いていないか、判別しているのですが、非常に細かな絵柄があると本当は静止しているのに動いていると間違って判断してしまうこともあるんですよね。
動いていると判別されたエリアは、1枚目に撮影された画像に置き換えられ、超解像処理が行われないので、通常撮影と同じ描写になってしまいます。そのため、スタジオでの静物撮影など、絶対に動かない被写体を撮影するようなケースを考え、動体補正オフにして撮影できるようにしたのです。
ちなみに、リアル・レゾリューション・システムを使って撮影すると、通常撮影よりもかなりノイズの出方が少なくなるので、そのぶん、感度を上げて速いシャッター速度で撮影した方が、より被写体ブレの少ない鮮明な画像が得られると思います。
――リアル・レゾリューション・システムで撮影すると、線が非常に細くなり、階調性も良くなりますよね?
上原:通常のベイヤー配列のセンサーでは、1つの画素でRGBどれか1色の情報しか得られないので、足りない色や輝度情報を画素補間で推定して作り出していますが、リアル・レゾリューション・システムで撮影すれば、1つの画素でRGBすべての色と輝度情報が得られるので、補間処理する必要はなく、細かいところの色再現を正確にしていくことで最終的な解像感につながります。
――通常撮影とリアル・レゾリューション・システムでは、シャープネスのかけ方も当然違っているんですよね?
上原:違います。リアル・レゾリューション・システムの場合には、スパッと2点が分離するので、アンダーシュート、オーバーシュートを付けるようなシャープネス処理を行うと、緻密な細部描写を損なってしまいますので、大きなエッジ部分には極力、縁取りを付けないようにして、逆に面の部分のテクスチャーを際立たせるような強調処理を行っています。
――倍率色収差があるレンズを使って、リアル・レゾリューション・システムで撮影するとどうなりますか?
上原:レンズ補正に対応しているレンズであれば、倍率色収差を補正して出力されますが、非対応のレンズだとより倍率色収差がクッキリと目立ちますね(笑)。
――ローパスセレクターについては何かありますか?
沼子:センサーがフルサイズになっても、APS-CのK-3/K-3 IIとまったく同じ効果が得られます。
光線を2回曲げて小型化したAFモジュール
――PENTAXのフルサイズ一眼レフで、個人的に一番不安だったのがAFエリアの広さだったんです。でも、期待していたよりも優れたAFシステムだったので一安心しました。
中田:広いAFエリアを確保するというのが、開発の大前提としてありました。ただ、できるだけボディをコンパクトにまとめるためには、AFモジュールの大型化を避ける必要があります。
そこで、K-1のAFモジュールは、モジュール内部で光線を2回曲げることで十分な光路長を確保し、小さなAFモジュールでも広いAFエリアを確保することができました。
――K-1の33点の測距点のレイアウトというのは、どのように決まったんですか?
中田:K-3やK-3 IIの27点よりも測距点が6点増えていますが、実はAFセンサーは共通のものを使っています。K-3やK-3 IIのSAFOX 11では、AFモジュールの光学系の制約で使えなかった測距点が6点あるのですが、光学系を改良することで、33点すべてを使えるようにしたのがSAFOX 12です。
――ということは、このAFセンサーの開発しているときには、すでにフルサイズ一眼レフの開発を念頭に置いていた、ということですか?
中田:具体的にK-1用として開発していたわけではありませんが、ラインセンサーのレイアウトとしては、拡張できるように考えていました。
――動体の追従性能はK-3 IIからさらに向上していますか?
中田:他社と比べるとまだ優位に立てない部分もありますが、PENTAXのAFも世代を重ねるごとに少しずつですが動体の追従性能は向上しています。K-3 IIでいろいろ指摘された部分やその後の開発で解析してきた部分をブラッシュアップして、K-1のAFに反映させています。
また、明るいときにはそれほど差は感じないとは思いますが、撮影シーンが暗いときには、AFの応答性というか、シャッターボタンを押してからAFが開始するまでの処理時間を短縮しているので、K-1では暗所での応答性が従来よりも良くなっています。
――APS-Cクロップ時に約6.5コマ/秒で高速連写できますが、フルサイズでは約4.4コマ/秒と、遅いとはいえないまでも最新の36メガ機としては少しもの足りなさを感じます。
できれば5コマ/秒、6コマ/秒だったら驚いたところですが、この4.4コマ/秒というフルサイズ時のコマ速は、センサー読み出し、画像処理エンジンのどちらが影響しているのでしょうか?
中田:センサーからの読み出し速度ですね。本当はもう少し上を目指そうとしていたのですけど……。
――APS-Cクロップ時の6.5コマ/秒というのは、何か制約があったのですか?
中田:メカ制御です。ただし、純粋なメカ機構としてはもう少し速く動作させることが可能ですが、安定した制御を行うためにこの速度となっています。センサー読み出しや画像処理エンジン的にはもう少しだけ余裕があります。
――APS-Cクロップ時には、ファインダー内に撮像範囲を示す黒枠が表示されますが、線がかなり太めですよね?
細川:PENTAXの一眼レフとしては、初めてファインダーに透過液晶デバイスを採用していて、本当は撮影範囲外を黒くマスクした方が良いと考えたのですが、液晶メーカーさんからムラが目立つと指摘され、その次の案として、ハッキリと認識できて見落とす心配のない太い枠で撮影範囲を表示することにしました。
――フォーカシングスクリーンが交換不可になりましたが、透過液晶デバイスとスクリーン交換式というのは両立が難しいのでしょうか?
細川:フォーカシングスクリーンを交換するのは、方眼マットや全面マットを使いたいからだと思いますが、透過液晶デバイス採用により、フォーカスポイントや水準器、格子線など、必要なとき必要な情報を表示できるので、そもそもフォーカシングスクリーンを交換する必要がないだろうと考え、スクリーンは非交換にしました。
――最近は、モーターとカムを組み合わせてミラーの動きを制御するのがトレンドとなっていますが、K-1のミラー機構はどのような構造を採用しているのでしょうか?
川面:モーターとカムの組み合わせでミラーの動きを制御しています。これに加えて、ミラーアップ時は衝撃吸収機構でバウンドを抑制しています。
K-3 IIは、ミラーダウン時もバウンド抑制機構を使用していますが、K-1はそこまで高速なコマ速でないこともあり、ミラーダウン時はモーターとカムによる制御のみでミラーの動きをコントロールしています。
細川:PENTAXの一眼レフは、フィルム時代からモーターとカムの組み合わせでミラー制御してきました。バネの力を使ってミラー駆動したのは、Z1-P系が最後ですね。
モーターとカムによるミラー駆動は、どちらかといえば、高速なコマ速を要求されない廉価機種に導入されてきた技術で、高速でミラーを動かすには強力なバネとモーターを組み合わせるのが一般的でした。
ただ、最近は、デジタル一眼レフの高画素化でミラーショックの影響が無視できなくなってきたため、高級なコアレスモーターを採用するケースが多いのですが、K-1は一般的なコアモーターを使っていて、そのぶん、相当がんばってブレーキをかけてミラーを止めています。
K-1のディープラーニングは高度な画像認識アルゴリズム
――「PENTAXリアルタイムシーン解析システム」の解説で、“新たに人工知能分野の最新のトレンドであるディープラーニングを応用した画像認識アルゴリズムを搭載し、シーン判別に新たな知見を獲得しました”とあります。
このディープラーニングとはどんな機能で、具体的にはどのような効果が得られるのでしょうか? ディープラーニングというと学習型というイメージがありますが……。
上原:撮影者のクセをカメラが学習していくというのではなく、あらかじめ学習したものをカメラに組み込んでいます。ディープラーニングとは何かというと、人間の脳神経周りをシミュレーションした「ニューラルネットワーク」という手法が昔からあるんですけど、その最近のトレンドの1つが“ディープラーニング”です。
何が便利で流行っているかというと、例えば、花を認識させたい場合、これまでは花の特徴を1つ1つ人間が決めなければならなかったんですが、ディープラーニングを活用すれば、花の特徴もコンピューターが自身で学習してくれるんです。
こうして学習した画像認識アルゴリズムをカメラに組み込み、「シーンアナライズオート」やカスタムイメージ「オートセレクト」時のシーン判別、被写体判別に活用しています。
――従来のK-3 IIも8.6万画素のRGB測光センサーで、被写体の色や形、動きを検知することで、露出精度の向上や多点AF時のエリア選択に活用していますが、こうした従来のシーン解析システムと、ディープラーニングを応用したものとでは、何が違うのでしょうか?
上原:基本的にやっていることは近いのですが、被写体やシーン判別の性能がかなり向上しています。また、これは我々設計側の事情ですが、1回ツールを作り上げれば、あとはさまざまな画像を集めてきてコンピューターに認識させることで、シーン認識アルゴリズムのアップデートを図りやすいという利点もあります。
――この撮影者はこういうシーンではマイナスの露出補正をすることが多いから、次からはこういうシーンでは少し控えめの露出で撮影しようとカメラがどんどん撮影者のクセを学習してくれるならすごいな、と思ったのですが、カメラ内にディープラーニングの仕組みそのものが組み込まれているわけではなく、その学習結果が認識アルゴリズムとして搭載されているんですね。
上原:実は、測光センサー周りの光学系も今回改善していて、同じ8.6万画素RGBセンサーでも、K-3 IIよりも被写体の色や形がよく見えるようになっています。その効果もあって、シーンや被写体判別の精度も向上し、露出レベルや多点測距時の被写体追尾の性能もアップしています。
――画像処理エンジンがPRIME IVに進化していますが、従来のPRIME IIIとの違いとは?
上原:PRIME IIIと比べると、より細い線を再現できるようになり、ノイズの処理能力も高まっています。ただ、ノイズをつぶせるからといってつぶしすぎると、解像感も損なってしまいます。せっかく、解像感と高感度のバランスを考えて36メガセンサーを採用したのに、画像処理でそれを反故にできません。
ノイズに関して詰めてきたK-3 IIまでの知見を捨て、1から見直して、開発者以外にもいろいろな人の意見を聞きながら、最終的な画質にチューニングしています。
また、画像処理エンジンがPRIME IVになったことで、動画とライブビューもかなり改善しています。特に、ノイズ処理部分の向上で、より暗いシーンでも明るさが追従するようになり、ライブビューの視認性が向上しています。例えば、星空とか、ちゃんと星の輝点を残したまま視認性を保てるよう、かなり注意して設計しています。
――「肌色補正」という機能が追加されましたが、それほどわざとらしくない自然な仕上がりが得られますね。
上原:いわゆる美肌モードって、あまりに肌の質感が不自然につぶれるので、作品撮りをする人はまず使わない機能ですよね。
そこで、どういう肌色が良いのか? どういう仕上がりが望ましいのか? さまざまな人にアンケートを取って、その期待値に近い肌の再現になるような処理を行っています。
――肌色補正にはTYPE1とTYPE2がありますが、TYPE1は肌の色や明るさの補正、TYPE2は肌色の補正に加え、肌色部分に強めのノイズリダクション的処理をかけて解像を少し落とす、といった処理ですか?
上原:肌色補正は、K-S2から搭載された「明瞭コントロール」の機能を応用したものです。明瞭度をマイナス側に補正すると、陰影が弱まり、シャドウが明るめに、ハイライトが少しにじんだフワッとした仕上がりが得られます。
また、目標とする肌色に近づけるように、色相や彩度も微調整を加えています。TYPE2は、肌色と同じ色相の部分に対し、明瞭度をさらにマイナス調整することで、肌の陰影を弱め、肌荒れやシミなどを目立たせなくしています。
ノイズリダクションで細部をつぶすということは行っておりません。そうした処理だと、肌のつながりが悪くなったり、男性だとヒゲの部分だけポツポツと残ってしまって、不自然な仕上がりになりやすいんです。
――なるほど、それで必要以上に肌のディテールが損なわれないので、あまりわざとらしくない仕上がりが得られるわけですね。
上原:一眼レフで求められているのは、肌のディテールを必要以上につぶしてしまう美肌モードではなく、肌色補正のような仕上がりだと思います。
――PENTAXといえば、輪郭強調の線が細いファインシャープネスや、ディテールを際立たせるエクストラシャープネスといった独自のシャープネス機能が有名ですが、画素数が増えたことで、こうしたシャープネスのチューニングは変えているのでしょうか?
上原:モニターでピクセル等倍鑑賞するケースでは、ファインシャープネス、エクストラシャープネスの効果はありますが、プリントのように縮小した状態で鑑賞するケースでは、画素数が増えてくると、1ピクセル、2ピクセルの線の細いシャープネスはほとんどその効果が分からなくなってきます。
そこで、採り入れたのが先ほど肌色補正で触れた「明瞭コントロール」という機能です。「明瞭コントロール」を使えば、縮小した状態でも見える周波数を強調できます。ファインシャープネスやエクストラシャープネスのチューニングは基本的に変えていませんが、高画素時代の解像感を強調する手法として「明瞭コントロール」もお試しいただければと思います。
縦横のチルトと剛性を考慮した形状のフレキシブルチルト式液晶モニター
――最後になりましたが、操作系についてお伺いしたいと思います。K-1で最も特徴的なのは、やはり「フレキシブルチルト式液晶モニター」だと思いますが、このモニター機構は最初から採用が決まっていたのでしょうか?
若代:三脚を使って風景撮影をされる方が多いので、液晶モニターを可動式にしたいとは思っていましたが、チルトにするか、バリアングルにするかで悩みました。
バリアングルだと自由に動かせるものの、デザイン的に高級感とか剛性感が欠けてしまいがちです。また、頻度の高い横位置撮影で、レンズの光軸と液晶モニター画面の中心が一致しないという問題も出てきて、三脚撮影時の画角合わせがやりづらくなってしまいます。
その点、チルト液晶の方がデザイン的な問題も少なく、光軸も合わせやすいのですが、縦位置撮影時に不便です。そこで設計サイドには、縦にも横にも動くチルト液晶モニターを開発してくれ、と無茶ぶりをしました(笑)。
――その無茶ぶりを受けて開発側としては?
川面:最初の頃に3タイプほどアイディアを考えました。Aタイプは、いったん液晶モニターを引き出してからモニターを回転させるという構造、Bタイプは、縦横のヒンジを2つ組み合わさった構造、そして、Cタイプが折り畳み机の脚のような構造でした。
Aタイプは、使い勝手が悪く、Bタイプは、薄くしようとすると剛性が保てないので、最終的にはCタイプで開発を進めることになりました。最初は、4本の脚だけでモニターを可動させていたので、液晶モニターを傾けられる角度に制約がありました。
そこで、液晶モニターのベース部分にチルト機構を追加して、それを4本の脚で可動させることで、横位置撮影では液晶モニターを跳ね上げ、ウエストレベルで構えた状態でも画面が見えるようにしました。
――こんな細い脚と小さなコネクタで強度面での不安はないんですか?
若代:(引き出した液晶モニター部分を手に持ってK-1をブラブラさせながら)これでも大丈夫です。
開発者一同:(苦笑)
――液晶モニターの脚の先端がボール状になっていて、そのボールがボディ背面のガイドレール内をスライドして動くという構造になっているんですね。素材はステンレスですか?
川面:ステンレスです。
――ミラーレスカメラだとライブビュー撮影なので、縦位置撮影を考えるとバリアングル液晶モニターが望ましいと思いますが、ファインダー撮影が基本の一眼レフで、ここまでの機構を追加してまでバリアングル化にこだわる必要があったのか、という気もしますが……。
大久保:ファインダー撮影であっても、三脚を使ったハイポジションやローポジション撮影では、メニューやコントロールパネル表示が見づらくなるので、一眼レフであっても可動式液晶モニターを望むお客さまは決して少なくありません。
ただ、可動式液晶モニターに対し、強度面に不安を持つお客さまもいらっしゃりますので、その点は十分に考慮した強度を確保しています。
――タッチパネルまで採用しなかったのは?
若代:そこまでのリクエストはありませんでした。
――PENTAXのライブビューAFは、一眼レフとしては結構速い部類なので、ここまで可動式液晶モニターにこだわるなら、ライブビュー撮影を考えてタッチ操作にも対応してほしかったところですね。LVボタンも左肩に付いていて、カメラを保持する右手だけでサッとライブビュー撮影に切り替えられないのも惜しいですね。
ところで、初めてK-1を手にしたとき、レリーズの感触が非常に上質なのが気に入りました。半押しから全押しまでのストロークが深すぎず浅すぎず、全押しに至る瞬間のトルクも重すぎず軽すぎずで、スッとレリーズできる感触が気に入りました。
細川:これまでのAPS-Cモデルでは、シャッターボタンの部材にクリック感がしっかりある既製のタクタイルスイッチを使っていますが、K-1では、645シリーズと同様、リーフスイッチを使っています。荷重に対して設計の自由度が高く、ベテランユーザーが好まれる感触を追求しました。
――アシストライトもPENTAXらしいユニークなギミックだと思います。これも企画側からの要望ですか?
若代:これもコンセプト的にアウトドアでの撮影に徹底的にこだわった結果です。K-S1でボタンが光るというギミックを採り入れましたが、あれはデザイン面でのアプローチでしたが、天体撮影など暗い場所での撮影が多いユーザーからボタンが光るという点を評価していただきました。
過去には、他社製のカメラでも、ボタンが光るカメラがあり、やはり天体撮影をされるお客さまが評価されているということを思い出し、暗い場所での操作性を考慮し、ボタンを光らせることを提案しました。
実際に天体撮影をされているお客さまにもう少しヒアリングをしていくと、操作ボタンだけでなく、レンズ交換するときにマウントの指標の位置やSDカードを交換するときにスロットの位置、ケーブルレリーズの場所が分からないなど、暗闇の中での撮影ならではの不満点がありました。
あくまで、ボタンを光らせるというのは手段であって、ボタンを光らせること自体が目的ではありません。暗闇で操作できることが目的なので、当初は背面の親指を置く指がかりの部分に、背面操作部を照らすライトを組み込めないかという案も出しましたが、実際に試作してみると、相当指がかりが出っ張っていないと背面操作部を照らせないことが分かりました。
そこで、開発側で考えてくれたのが、フレキシブル液晶モニターの裏側に照明を仕込み、液晶モニターを引き出して背面操作部を照らすという案でした。
――マウント部を照らしてくれるのはすごく便利ですね。ただ、夜間の撮影では、三脚にカメラを設置するのも結構手間取るんですよ。ここまでこだわるなら、ぜひ、三脚のネジ穴付近を照らす照明もお願いします(笑)。
若代:それは見落としました。今後の検討課題ですね。
――液晶モニターの明るさを変えられる「アウトドアモニター」も、さすが開発者自身が撮影が大好きなPENTAXらしい便利な機能ですね。
大久保:明るい場所で単純に液晶モニターの輝度をアップしただけでは、決して液晶モニターは見やすくなりません。そこで、アウトドアモニターでは、明るい場所、暗い場所に応じて、液晶モニターの輝度と画面のコントラストを最適化しています。
――K-1の正式発表前に海外の展示会での外観写真がインターネットで話題になっていましたが、変態的な構造のフレキシブルチルト液晶モニターに加え、シャッターボタン寄りの軍艦部に、謎の機能選択ダイヤルが設置されていて、機能を選択するのにわざわざダイヤルを回さないといけないのかな、と冗長な操作性になるのを危惧していましたのですが、実際に使ってみると、自分の使用頻度の高い機能を1つ選んで、設定ダイヤルに割り当てられるので結構便利ですね。
若代:当初はデザイン性を高め、持つ喜び、操作する楽しさを感じてもらえるよう、露出補正やISO感度設定など、ダイヤルを主体とした操作にしたいと考えました。そういったダイヤルを上面に持ってくれないか、という話を開発側としていたのですが、それに対しては、これまでのKシリーズの操作性を否定するようなものだ、と非難囂々でした。
とはいえ、ダイヤルによる操作が欲しいと諦めきれずにいると、よく写真を撮影する開発者からこんなダイヤルがあったら便利ではないか、という提案がありました。それが、まさしく「機能ダイヤル+設定ダイヤル」による「スマートファンクション操作」でした。
――本当は、設定ダイヤルを露出補正ダイヤルにしたかったんですね(笑)。
大久保:万人が満足する仕様にはなかなかできません。ある人は露出補正をダイヤルにしてほしい、また別に人はISO感度設定をダイヤルにしてほしい、さらに別の人はドライブモード切り替えをダイヤルにしてほしい。
そういったさまざまなニーズをすべて満たすのは不可能です。そこで、優先順位の高い機能を、状況に応じて設定ダイヤルに割り当てられるようにしたのが、スマートファンクションです。
――僕はCROPを割り当ててみたんですけど、DAレンズでもフルサイズのイメージサークルをカバーしているレンズもあるので、そういったレンズを強制的にフルサイズで使うときには便利ですね。
ところで、こうした隠れフルサイズのDAレンズを、手動でフルサイズに切り替えて使ったとき、レンズ補正は効くんですか?
大久保:DA★200mm F2.8ED SDM、DA★300mm F4 ED SMD、DA 560mm F5.6ED AWの3本のDAレンズは、フルサイズで撮影してもレンズ補正が効きます。
――それはありがたいですね。FA Limitedの3本もようやくフルサイズ本来の画角で、しかもレンズ補正が効いた状態で描写を味わえるのが楽しみです。
◇ ◇
【実写ミニレビュー】独自の高精細化機能によって36メガピクセルクラス最高画質に
K-1の実使用時の重量は約1,010gだ。ニコンD810は約980g、キヤノンEOS 5Dsは約930gだ。実際、K-1を手にしてみると、ボディの横幅が小さいこともあって、見ためよりもずっしり重く感じる。小型・軽量で機動力の高さを追求するPENTAXだけに、この重さは正直意外だった。
とはいえ、K-1はボディ内手ブレ補正を搭載しているので、そもそも機構的に他社のフルサイズ機よりも不利だ。スマートファンクションやフレキシブルチルト液晶モニター、操作部アシストライトなど、他社機にはないギミックも装備している。
そう考えると、決して重すぎることはなく、高画素のフルサイズデジタル一眼レフとして機能的にも極めて充実していて、価格的にもかなりがんばっている。
特に、PENTAX独自のリアル・レゾリューション・システム(RRS)は魅力だ。1画素ずつセンサーをずらして4回露光を行うことで、1つの画素でRGBすべての情報が得られるので、色情報も輝度情報も補間処理する必要がなく、ピクセル等倍で見ても驚くほど緻密で繊細な超高精細描写を得ることができる。36メガピクセルクラスでは間違いなくトップの画質だ。
また、FA Limitedレンズシリーズなど、フィルム時代に設計された銘玉の描写を、フルサイズ本来の画角で味わえるのも魅力だ。
ソニーα7シリーズにマウントアダプターを装着すれば、FA Limitedシリーズの描写をフルサイズで堪能できることはできるが、一眼レフの光学ファインダー越しに見えるフルサイズの像はやはり格別だし、AFが効くのも便利で、ジージーという耳障りなAF作動音が妙にうれしかったりもする。ほんとバカだね(笑)。
それに、PENTAXならではの色と階調で、周辺光量や倍率色収差といったレンズ光学補正も効くので、α7シリーズで得られる描写とは微妙に違うのだ。FA Limited 3本の描写を味わうためだけに、K-1を買うというのも“あり”だと思う。
デジタルカメラマガジン 2016年4月号 | イラストでよくわかる カメラとレンズの疑問 108 | ソニー α7R II & α7S II パーフェクトガイド |
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