インタビュー

メーカーインタビュー2013:オリンパス編

ついにシステムを“統合”。高付加価値路線に絞り込む

 オリンパスのカメラ事業にとって、今年が大きな節目となったことは、自他ともに認めるところではないだろうか。

 もっとも大きな決断は、一眼“レフ”カメラであるフォーサーズ規格のカメラ「E-SYSTEM」向け新規ボディの計画はないと表明したことだ。“フォーサーズの終焉”と見る向きもあるが、オリンパス自身がマイクロフォーサーズとの“統合”と表現しているように、技術的な進歩によってE-SYSTEMはその役割を引き継いだのと前向きに考えるべきだろう。

 また大々的に発表こそしていないものの、普及価格帯のコンパクトデジタルカメラ市場縮小に対応する形でラインナップを整理。高付加価値モデルを集めたSTYLUSシリーズに開発資源を集中させた。

 こうしたオリンパスの変化は、もちろん過去数年検討されてきた動きであり、今年はそれが製品という形で顕在化しただけに過ぎない。昨年9月、ドイツで開催されたフォトキナにおいて、オリンパスイメージング社長の小川治男氏のインタビューでも示唆されていた。振り返ってみれば、あのときに語られていた考え方を粛々と実行し続けてきたのである。

 では今年を振り返ってみて、そして来年に向かって、今という時間軸でカメラの今後をどのように俯瞰しているのか。デジタルカメラ開発のトップ、オリンパスイメージング開発本部長の杉田幸彦氏に話を聞いた。

オリンパスイメージング開発本部長の杉田幸彦氏

高付加価値製品に資源を集中

−−まずは今年1年の市場動向を振り返りつつ、オリンパスの製品戦略についての自己分析をお聞かせください。

 すでに新聞やビジネス誌でも話題ですが、CIPAの統計にも現れているとおり1月から9月の状況を昨年と比較すると、出荷数が大幅に下がっています。これまで好調を続けてきたレンズ交換式カメラもトータルでは15%ほど下がっています。

 しかし、市場での販売データを見てみますと、ミラーレスカメラは2割程度(全世界トータル)は伸びているのです。そうした意味では(オリンパスが力を入れている)ミラーレス方式のレンズ交換式デジタルカメラは、まだ伸び続けています。レンズ交換式カメラの出荷が下がったのは、まず市場在庫が重かったこと、そして一眼レフカメラの販売が減速したためと考えられます。

−−そうした状況でオリンパスは、新しい市場の“形”にどう合わせ込もうとしたのでしょう。

 コンパクトデジタルカメラ市場が大きく変化しようとしている兆候は、数年前からキャッチアップしていましたから、高付加価値モデルに特化する方針を打ち出しました。今年、我々が投入したコンパクトデジタルカメラは、ほとんどがSTYLUSシリーズです。こうした方針に関しては、今年のCP+でお話しした通りですね。高付加価値製品に開発資源を集中させるとともに、PEN、OM-D、STYLUS、各ブランドを象徴するフラッグシップ機を作ります、ということでした。

−−先ほどの市場における売上動向を考えると、オリンパスとしてはうまく変化に合わせることができたということですね。

 はい。開発は以前から進めてきたものですから、今年の状況に合わせてラインナップを作ったわけではありませんが、市場の変化に対してうまく寄り添うように伸びてきています。特にミラーレス方式のレンズ交換式カメラに関しては、レンズ、ボディともに売上は伸びています。

−−ミラーレス方式は一眼レフ方式に比べて、製品の位置付けが下にあるように見られることが多かった。これには普及を目指すにあたって、各社がさまざまな地域で安売りをした過去なども影響しているように思えます。しかし、オリンパスはミラーレス方式のレンズ交換式カメラで、高付加価値の製品を投入しています。市場はどのようにOM-Dシリーズのような製品を見ているのでしょう。

 確かに過去、欧州におけるミラーレス方式のレンズ交換式カメラのシェアが少し上がったと思って数字を見ると、安売りをしているメーカーがあっただけ……といった状況は見られました。しかし今年は違うと思います。高い付加価値の製品を投入すれば、ミラーレス方式でも高付加価値製品の市場ができてきます。

 たとえば、欧米でミラーレスが伸びていないと言われています。実際、PENの出荷は欧米では期待したように伸びていません。しかし、そうした中で欧州市場ではE-M5が高い評価を得、ミラーレス方式の中にプレミアムカメラのジャンルを作ることができました」

 評価は高く、ミラーレス方式の市場を拡大する要素になっていくと期待しています。

−−コンパクトデジタルカメラに関してですが、確かに高付加価値のプレミアムカメラが人気です。参入するメーカー、モデル数も増加して、市場は厳しくなっています。

 はい、今後は普及価格帯だけでなく、高付加価値モデルも含めて厳しくなっていくと思います。そうした中で、いかに各社の特色の現れた製品を出していくかが重要ですね。市場競争は激化しています。これまでプレミアムクラスのコンパクトデジタルカメラといっても、カメラとしてのスペックを上げれば、それだけでプレミアムになっていました。しかし、今はどんな製品にしたいのか。コンセプトを明快にした、キャラクターの立った製品でなければならないと感じています。

−−ではオリンパスにとっての“プレミアムコンパクト”とはどんな製品でしょう?

 カメラは手に馴染むべき道具ですから、聞いた情報よりも、実際に手に取って操作した時の印象の方が良くなっていて欲しい。見て、触って良く、もちろん使ってみるとさらによい。質感や操作感ももちろんですが、実物を手にした時の満足感はとても重要だと思っています。

高級コンパクトにして高倍率ズームレンズを搭載するSTYLUS 1。1/1.7型センサーと28-300mm相当F2.8のレンズを組み合わせた。

−−OM-Dシリーズの操作レバーやダイヤル、交換レンズのM.ZUIKO PROを使ってみると、動きや操作感に“節度”のようなものがあって、独特の触感・操作感を感じます。先日発表したSTYLUS 1も、ちょっとしたクリック感やリングのフリクションなどに、“アレ? これ少し違うな?”とよい意味での驚きがあります。デザイン面ではPENにしろOM-Dにしろ、新しさと旧さ、両方のイメージをうまく使いこなしている印象があります。

−−しかし、これは単純に”プレミアム製品を作ろう”と号令をかけたからといってできるものではありませんよね。部品や材料の調達から、ファームウェアのエンジニア、メカデザインなど多様な要素が絡んできます。

 “プレミアム”といっても、単純に伝統的なカメラらしい製品を作ればいいというものでもありません。以前ならば、カリスマと言われるようなカメラ開発者がいて、まわりはそのコンセプトを現実のものとするために、みんなが身を粉にすれば良かった。それによって製品は良くなりましたし、結果的にプレミアム製品としての風格が出ていました。

 しかし、今のデジタルカメラは単純な光学製品ではなく、さまざまな技術が融合してはじめて価値を出せるものです。想像以上に複雑に技術が入り組んでおり、多様な役割を持つ人間が総掛かりで取り組まないと問題の解決ができません。そこで、この1〜2年、カメラの開発・生産・流通などに少しでも関わる社員が“趣味としての写真”の世界に触れ、カメラというものを本質的に理解する機会を増やそうと、新しい取り組みを始めたのです。

 たとえば、すごくいい写りだけど、操作レバーのフィールが悪いと台無しですよね。機能的にはOKでも、フィールが悪いとなぜダメだと思うのか。それは言葉ではなく、体験として知るべきだと思います。そこで、まずは開発に関わる人間は全員、毎月1,000枚を撮影しようということにしました。そして、この活動を広げ、各部署でフォトコンテストや写真発表会を催し、写真文化への理解やモチベーションを高めていく活動をしています。

 写真は年配の方の趣味でもなければ、デジタル世代の若いひとたちだけのものでもありません。あらゆる世代の、あらゆる役割の社員が写真を楽しみ、そして作っている製品(カメラ)のどこに、自分自身の仕事の成果があるのかを実感することもできます。カメラ初心者に対しては、20人くらいのグループにカメラ撮影を教えるような活動もしています。それによって上からのお仕着せではなく、現場で実際に働いている人たちが、製品の質を上げるためのアイディアを出すようになり、仕事への意欲が高まりました。

 なので、まずは店頭で触ってみて欲しい。見て、触って、撮影して。そのトータルの体験を通して素直な驚きを感じてもらえることを目標に開発しています。

−−レンズ交換式のカメラに話を戻しますが、今の市場環境の中で、今後、どのような舵取りをしていくべきだと考えていらっしゃいますか?

 今、いちばんやりたいと考えているのはレンズですね。ハイエンドのE-SYSTEM、OM-D、PENと3ラインナップがありましたが、今年はOM-Dに最上位モデルのE-M1を追加することで2つのラインナップに統合しました。しかしボディがまだ出たばかりで、E-M1のためのレンズが足りません。M.ZUIKO PROシリーズとして「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO」を同時発売しましたが、このラインを完成させることが第一。最短撮影距離など、さまざまな面で従来よりも使いやすいスペックで、小型かつ操作しやすいレンズを出していきますので期待してください。

新たな高性能レンズシリーズM.ZUIKO PROの第1弾、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO

 そのうえで、単焦点レンズでまだまだ足りない製品がありますので、そこをしっかりとフォローしていきます。

“統合”の反響は?

−−E-M1を投入することで一眼レフとミラーレスのラインを統合し、オリンパスとしてレンズ交換式カメラ市場でどう独自性、競争力を発揮できるか。その体制が今年の新製品で整ったので、来年はレンズやアクセサリーを充実させることで足下を固めたいということでしょうか?

 そうですね。今後、変化していくだろう市場への対応という面では、ボディのラインナップは作ることができました。そのうえでシステムの充実度を高めていくのが今後の課題です。

−−今年はオリンパスが“統合”を発表しましたし、ソニーがα7を発表。ミラーレス方式のレンズ交換式カメラのプレミアム化が目立つ印象ですが、このジャンルの受け止められ方は変化しているとお考えでしょうか? 日本ではヒートアップしている市場ですが、欧米の反応は昨年から大きく変化していないようにも見えます。

 ざっくり言って、アジアの先進市場では一眼レフとミラーレスの販売台数は半々に近づいています。また中国ではミラーレス方式の比率が少なかったのですが、このところ急伸しています。たしかに、欧米のミラーレス比率は伸び悩んでいますが、下がっているというわけではなく、こちらもざっくりと20%くらいまでは高まってきました。

−−ミラーレス方式が苦戦していた欧米中で伸びはじめた理由は何だと分析していますか?

 まだE-M1の数字は出てきていませんが、昨年、E-M5を投入したことでミラーレス方式への理解が進んだと感じています。それまでは“ミラーレス=レンジファインダー型”のイメージが強かったのですが、欧米ではファインダーがついた一眼レフタイプのフォルム、操作感が好まれます。他社も含めて、ミラーレス方式のレンズ交換式カメラにもプレミアム市場が生まれていますので、今後、E-M1投入後の反応などを注意深く見守りながら、欧米中での認知を広げていきたいですね。

新フラッグシップとして登場したOM-D E-M1。従来のフォーサーズシステム規格とマイクロフォーサーズシステムを企画を統合して生まれた

−−秋に発表したE-SYSTEMをOM-Dに統合するという決定。その後、ユーザーの反響はいかがでしょうか?

 お客様の反響を知る活動としては、プロとコンシューマー、両タイプの顧客に対して声を聞く活動をずっとしてきています。また、タッチ&トライでの反応や、愛用者カードへの書き込みなども、これまで以上にみんなで読み込みました。

 統合に対しては、まさに賛否両論の声があって、真っ二つに分かれています。“これこそが進む道。10年待った甲斐があった”という声から、“OM-Dで位相差AFをやるよりも、新しいE-SYSTEMのボディを出して欲しい”という声、“ミラーレス方式には否定的だったが、E-M1を使ってみて頑張ったあとが見える”などのありがたい声もあります。

 ただ、実際にE-M1を使用していただいた方々には前向きな意見をいただいています。とにかく、触って、撮ってもらえば、オリンパスがなぜ“統合”を目指したのか理解していただけるとも思います。

−−“統合”に関して疑問を持つ消費者に対しては、E-M1のどの部分を見て欲しいと思いますか?

 一眼レフとミラーレスの、もっとも大きな違いはファインダーです。そしてもうひとつ、位相差AFセンサー用に作られたE-SYSTEMのレンズを“マイクロフォーサーズでも使える”から、“実用レベルで差のない使い勝手”にできるかというテーマもありました。言い換えれば、この二つをE-M1で改善できたからこそ、統合という判断を下せました。

 フォーサーズのフォーマットで、大きく見やすいOVFを実現しようと思うと、ファインダーの光学系がどんどん大きくなってしまいます。そうした中で、E-M1で採用している高精細かつ像の大きなEVFがコンパクトに実装できている。その違いと最新EVFの見え味や操作感を体感して欲しいと思います。

 EVFの改良は3〜5年をかけ、部品メーカーとも相談しながら作ってきた部分です。OVFと比べたときに100点かというと、そうは言えません。しかしEVFの良さをOVFに拘る方にも感じていただけるところまでは、とは感じています。

−−“EVFだからこそできる”こと、“OVFじゃないからできる”ことを伸ばすのがポイントですね。

 EVFとOVF。その長所、短所を比べた時、プラス・マイナスで同等くらいかな? と自己満足する程度ですと、“まだまだダメだ”と言われるものです。しかし、一方でEVFは猛烈な勢いで進化していますから、EVFならではの良さを引き出したいですね。

 例えば、OVFではファインダー像の一部を拡大したり、(フォーカスの山をヴィジュアライズする)ピーキングも使えません。アートフィルターを使う際にも、その結果を見ながら構図を決められません。こうした部分はEVFならではの進化です。フォトストーリーとかカラークリエイターも、もちろんパソコンで後処理もできるのですが、その場で確認しながら撮影できるところがいい。写真撮影の場に、写真を楽しむためのすべてのパッケージを提供しやすいのはEVFの方だと思います。これはライブビューも同じですが、EVFでなければできない機能や使いやすさを提供できると思います。

よりいっそうのミラーレス訴求へ

−−来年に向けて、今後、オリンパスのシステムをどのように充実させていこうとお考えですか?

 登場した当初から、フォーサーズはセンサーのサイズが小さい、小さいと言われ続けてきました。それに対して、我々は画像処理エンジン、撮像素子、レンズ。このすべてを最適化していかなければダメだと言い続けてきました。その結果、持ち運びしやすい小型のボディや交換レンズでありながら、35mmフルサイズと「競える」画質を実現できていると考えています。今後もしっかりレンズを含めて良い環境を整えて行きます。

 今年は前述したように3つの分野、それぞれにフラッグシップを作る年でしたので、来年はそれを下の方向に広げていくことになるでしょう。また、PROレンズの展開にも期待してください。すでに40-150mmレンズへの期待の声を多数いただいています。一方、コンパクトデジタルカメラは、防塵・防水・耐衝撃の製品をシリーズ化していきます。

 今年は昨年積み上がった在庫の処分などがあり、業界全体で落ちたのは事実です。しかし、営業体制を変更し、製品ラインナップも変更してミラーレス方式のカメラにフォーカスする形で、全世界でその魅力を訴求していく体制が整いました。

 あとはオリンパスらしいレンズやボディの開発に臨んでいくまでです。期待していてください。

(本田雅一)