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インタビュー:ミラーレスの「今」と「これから」【ペンタックス編】

〜マーケティング統括部 商品企画グループマネージャー 川内拓氏に訊く

 2010年秋のフォトキナでは、HOYA(当時)のPENTAXイメージング・システム事業部マーケティング統括部長の江口一道氏へのインタビューコメントとして「他カメラメーカーがどんな戦線を張っているのかを見極め、戦場全体の地図を見ながら、一番住みやすい場所を探してビジネスをしていきます」と掲載していた。

ペンタックスリコーイメージング マーケティング統括部 商品企画グループマネージャーの川内拓氏

 実は口頭で江口氏は「大きなカメラメーカーがミラーレス機を模索するとき、彼らの足や尾で踏みならされない位置に立っていたい」と話していたのだが、江口氏了解の上で上記のような表現にしていた。

 そのときは面白い表現をするものだと思っていたが、その本当の意味を知ったのが2011年6月に発表されたPENTAX Qシステムだった。

 江口氏が強調していたのは、既存のKシステムと競合しない、他社との競合もしない、の2点である。確かにPENTAX Qシステムであれば、その両方をクリアした上で、ペンタックスが得意な小型化を実現できる。その上、レンズ単価を抑えることも可能となり、レンズで遊べるカメラという、ペンタックスのカメラらしい特徴を引き出すことも可能だ。

 残念ながら今回は江口氏とスケジュールが合わなかったが、PENTAX Qの商品企画にも関わったペンタックスリコーイメージング商品企画グループマネジャーの川内拓氏に話を聞いた。(聞き手:本田雅一)


645Dは海外でも予想以上の伸び

――業界全体が大きな不運に襲われましたが、ペンタックスの2011年を振り返ってどのような年でしたか?

「我々の生産拠点はレンズがベトナムのハノイ、カメラ本体はフィリピンのセブ島にあります。このため震災や洪水の影響を直接受けることはありませんでした。もちろん、一部の部品の調達には影響がありましたが、生産拠点が直接ダメージを受けなかったため、競合他社に比べると影響は軽微だったと思います」

「しかし、趣味としてカメラを使いこなしている方々が主要なユーザーでしたから、撮影旅行などレジャーの機会が大幅に減ったことで撮影ショット数が大幅に減っている印象があります。こうなってくると、そうした写真好きの方々の周囲への影響も出てきますし、カメラ業界全体が盛り上がってきません。2011年はPENTAX 645Dがカメラグランプリを受賞したことをはじめ、良い製品を作ることができたのに撮影意欲が削がれた年だったのは残念でした。とはいえ、逆に震災からの復興に向けて“写真の力”も再認識されたと思います」

「2012年も、撮影に足をもっと運んでもらえるような、撮影したくなるカメラを出していきたいですね」

――長年、発売を模索してきた645Dは日本で大きな話題になりましたが、海外での動きはどうでしょう?

「645Dは想定以上に評判が拡がってきており、国内も当初はハイアマチュア層に向けた製品として特化させていたのですが、コマーシャル写真の分野でも使われるようになってきてます。風景写真に特化するという割り切りで開発したのですが、それ以外の用途でも高い評価を頂いています。海外では一昨年のフォトキナで初披露しました。欧米の中判カメラは完全にプロ需要しかないというマーケット調査結果を受けていたため過度の期待はしていなかったのですが、日本と同じで意外に趣味で使いたいという方々が多い印象ですね。また、中国での販売も予想以上に伸びています」

645D 645Dの海外初披露となったフォトキナ2010のペンタックスブース

――さてPENTAX Qなのですが、ペンタックスはかなり以前からミラーレス機向けの新しいシステムを模索していると話してきました。実際のスタートはいつ頃だったのでしょう?

「開発に着手したのは2010年初夏ぐらいでしょうか。しかし、レフレックスミラーのないレンズ交換式カメラというテーマは、検討そのものは5〜7年といった期間で、ずっと継続的に議論してきたことなので、流行に沿って2010年に急に始めたというわけではありません」

――1/2.3型というセンサーサイズは、すごく思い切ったというのが正直な感想ですが、ミラーレス化というマウント規格を刷新するタイミングでこのセンサーサイズというのは、江口さんのおっしゃっていた「大手カメラメーカーが来ない、住みやすい場所」を意識したのでしょうか?

「ペンタックスが新フォーマットを実現する上で、“Auto110のデジタル化”を意識しました。オート110は“レフ”があるシステムですが、今の時代の流れの中でAuto 110の愉しさを顧客に提供しようとして、結果的にこのセンサーサイズを選びました。“ミラーレス化”は当初必須とは考えていなかったのですが、手ぶれ補正ユニットなどの組み込みなど機能を積み上げていき、結果的にミラーレスになりました。スタートはAuto 110 Digitalで、その実現方法としてミラーレスという形です」

秘めたる思いも盛り込んだPENTAX Q

――発表会では極力、Auto 110 Digitalという言葉を自らは訴求しないよう配慮していたように見えました。

「社内のコンセプトはAuto 110 Digitalですが、今のお客様は新しい方々が主ですから、昔話をしても仕方がありません。Auto 110の良さをできるかぎり盛り込むことで、わかる人にはわかってもらえる。そう考えて作りましたからね。大きな声で発表会では披露しませんでしたが、スマートエフェクトには“Auto 110モード”を入れました。昔を知らない方には、何のモードかわかりませんよね。しかし、そういう主張しないところにカメラの“出自”を示して秘めたる思いを盛り込めばいいかなと。あくまでも裏話ですから」

「110モードは周辺が減光し、色もやや浅く古い写真に見せる仕上がりのフィルタを入れています。今、あの頃の写真が残っていたら、こうなっているだろうという感じのモードですね。しかし、PENTAX Qの本領は別のところにあります」

――“Auto 110をデジタル化する”とき、ペンタックス自身が考えた一番のポイントはどこでしょう?

「やはり携帯性。“さぁ、これから写真を撮影するぞ”と気合いを入れる写真ならば、何も新たにマウントを設計してシステムを作り直す必要はありません。しかし、Kシリーズは鞄にポイと入れておいて、いつでも撮れる気軽さは出せません。PENTAX Qの良さは、常日頃からレンズ交換式カメラを用意しておき、いつでもスマートフォンや携帯電話では撮れないような写真が撮影できるぞと。そこが一番ですね」

「我々は、その出自から“カメラ屋”ですから、カメラをどう楽しむかというところから、すべての商品が始まっています。“ミラーレスありき”ではなく、ミラーレス含めシステムの特徴を楽しんでくれる人たちにとって面白い製品でありたい。ここまでコンパクトなカメラだと趣味性がかなり高くなります」

「それにPENTAX Qの場合、この1台だけでシステムカメラは他に必要ないという方は少ないのでは。むしろ、既存のシステムカメラと競合しないため、今までのPENTAXユーザーだけではなく、あらゆる高スペックな一眼レフシステムを持っている人たちに、もっと手軽な製品を提供しようと考えました。頑張って一眼レフカメラを使ってきたけど、今は持ち歩いていない人にも使って欲しいと思って企画しました」

“Auto 110 Digital”が社内コンセプトのPENTAX Q

――携帯性もさることながら、レンズが安価というのも特徴ですね。すべてのレンズを揃えてもたいした金額にはならない。レンズ交換式カメラは“レンズで遊ぶのが愉しいんだ”と言ったところで、これまでは楽しめるほどレンズを気軽に買えなかった。

「イメージセンサーはコンパクトデジタルカメラと同等ですが、画質面ではかなり頑張りましたし、レンズ交換できることで飽きずに長く使ってもらえると考えています。一度買えば数年は使ってもらえる。そのためにも、より良いレンズ、より楽しいレンズ。逆に特徴のある収差を残したレンズ。いろいろなレンズで楽しんでもらおうという意図が強くあります」

「ペンタックスの事業規模だとマイクロフォーサーズ陣営に入った方が良かったのでは? と尋ねられることもあるのですが、すでに一眼レフカメラをお持ちの方が、もうひとつ別の選択肢として選んでもらえる製品と考えると、マイクロフォーサーズではまだ大きいと思いました。レンズで遊ぶにはレンズをたくさん購入できる安さと、レンズをたくさん持ち歩けるコンパクトさの両方がなければなりませんから」

――本体の携帯性は、ある程度以上はセンサーのサイズを小さくしても劇的には変わらなくなりますが、あえて1/2.3インチというサイズを選んだのは、レンズを複数本持ち歩いて欲しいというメッセージでしょうか。

「明るく、写りも良く、さらに高倍率なズームとなると、どうしても大きなレンズになります。しかし、Qの大口径レンズなら、普通のタウンバッグに入れておき、加えて特徴のある交換レンズをたくさん持っていても苦になりません。レンズ交換式カメラという商品は、レンズを交換しながら、その特徴を楽しむという要素も強いんだよという原体験をここで得てもらう。その上で、ああ楽しかったなと思ってくれたなら、より本格的なKマウントのシステムに来てほしい」

5本のレンズをコンプリートするユーザーも多い

――ミラーレス機のレンズ付帯率が低いことが指摘されていますが、PENTAX Qの場合はかなりレンズを買ってくれそうですね。実際の販売状況はいかがでしょう?

「CIPAの統計を見ているとミラーレス機だけでなく、一眼レフカメラでも付帯数の平均が2本を大きく下回っています。レンズ交換式カメラを購入後、追加でレンズを買う人の割合は想像以上に少ない印象です。PENTAX Qのレンズ付帯率はまだ出ていませんが、平均を大きく越えていることは間違いありません。トイレンズのシリーズは3本合わせて実売価格が2万円を切ってますよね。5本すべてを揃えている方も多い」

「我々はそもそも事業の軸足をミラーレス機にシフトしようとは思っていませんでした。PENTAX Qという存在によってレンズ交換式カメラの世界、面白さを体感してもらう。そうすれば、いきなり高価でサイズも大きい一眼レフカメラを購入したものの、どうやって遊べばいいのか迷ってしまうということもありません」

「このようなコンセプトなので、エントリークラスといってもK-xやK-rほどの生産計画を立てているわけではありませんが、おかげさまで計画以上の販売をさせていただいています」

「Kマウントの世界には、また別の技術的な優位性や支持してくださっている顧客がいますので、そこは大事にしていきたい。一番心配だったのは、ペンタックスもミラーレスに行っちゃうんだな、という思い込みをされることでした」

――1/2.3インチで画質を引き出せるか心配はしてませんでしたか?

「その点は裏面照射のセンサーが良い性能を出していたため、自信がありました」

――このクラスのセンサーは、基本的にカスタムで組み込み。フォーマットサイズを定義していませんから、センサーサイズもその時々に応じて微妙に大きくなったり、小さくなったりですが、そのあたりは想定しているのでしょうか?

「当然、想定しています。どのぐらいの有効面積が使えるか、レンズとのマッチングがとれるかは、採用するイメージセンサーのサンプルが入ってこないことには確認できません。実際には試作機にイメージセンサーを装着し、撮影して確認してみなければわからないかもしれない。しかし、ボディ内手ぶれ補正が有効に働く必要がありますし、おそらく想像してらっしゃるよりもイメージサークルは大きく、余裕を持たせた設計にはなっていますよ」

「PENTAX Qは今後も継続して製品を展開していきますから、そのためには大前提としてマウントはもう変更できません。ですから、これから新たにできることが増やせるよう設計しています」

――たとえば1/1.8型クラスが使えると、かなり画質面では変わってきますよね?

「そこは何とも言えません。イメージサークルだけの問題ではなくなります。しかし、色々な可能性があって、1/2.3インチに特化した設計でないことは確かです。こうした素子は進化していくのが常ですから、PENTAX Qのボディに使うセンサーも、様々なサイズがあっていいかもしれないですね。一方でもっとシンプルで安い構造のQマウントカメラも考えられる。どれがいいというよりも、商品の企画に合致したセンサーを使えばいいと考えています」

「いずれにしろ、初代で終わりということはなく、大切にプラットフォームとして育てたいと考えています。販売数もQだけで追い求めていませんから、価格を下げて売り込むのではなく、製品企画、フォーマット、レンズとしての魅力を高めていきます」

――PENTAX Qのフォーマットをオープン化してほしいという声はありませんか?

「そうした依頼や問い合わせは来ています。ただし、まだ具体化はしていません。しかし、マウント規格をオープンにしてしまうと、このマウントでどこまでの機能を盛り込めるよう作っているかがバレてしまいますよね。オープン化をしたくない、というのではなく、まだどこまでオープンにすべきかも含め、方針を決めていないというのが正解です」

インタビューを行なったペンタックスリコーイメージング(東京都板橋区前野町)。元はHOYA株式会社PENTAXイメージング・システム部門だったが、2011年10月のペンタックスリコーイメージング株式会社発足により現在は表札も新しくなっている

Kマウントレンズも新しいタイプに挑戦

――今後のレンズの展開は?

「まずは望遠系のレンズを充実させます。センサーのサイズが小さいため、コンパクトな望遠レンズは作りやすいですからね。ポケットに入れておける望遠ズームが作れます。皆さんが想像しているレンズより、ずっと小さく、ずっとしっかりした作りの望遠レンズを作れると思っています。2012年はQのシステムを拡大していきたいですね」

――Kマウント用レンズの拡充も望まれていると思いますが、今後の予定は?

「もちろん、QだけでなくKのレンズも予定しています。しかし、システムとしてある程度、必要なレンズは揃っているので、その点がQマウントとは違うところですね。システムができているので、従来とは違う切り口のレンズを出していきたい。特徴のあるレンズをKマウント向けには出していきます。既存レンズのリファインに比べると絶対的な開発時間がかかるため、どんどん投入というわけにはいきませんが、新しいタイプのレンズに挑戦していますから、もう少しお待ちください」

――スマートフォンとの競合を意識する発言もありましたが、通信機能、ソーシャル対応、あるいはスマートフォン連携などで何か考えていることは?

「どういう方法がベストなのかを考えています。カメラ自身にSNSへのアクセス機能を入れるのがいいのか、それともカメラに徹してスマートフォンに画像を転送する仕組みだけを提供するのか。SNS対応だけでなく、コンパクトデジタルカメラでチャレンジしている画質・機能両面での様々なアイディアは、すべてPENTAX Qの中に織り込んでいけると考えていますから、注目しておいてください」




(本田雅一)

2012/1/13 00:00