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【フォトキナ】他社にはマネのできないことをやる。それがペンタックス

〜HOYA・PENTAXイメージング・システム事業部マーケティング統括部長の江口一道氏に訊く

 これまでペンタックス製一眼レフカメラの鬼門と言われた連写速度を改善したK-5、マジメな一眼レフ作りを踏襲しながらも、遊び心をふんだんに盛り込み、吹っ切れたかのような愉しい製品となったK-rなどを発表してフォトキナに臨んだペンタックス。

 ドイツ・ケルンの会場には、HOYA・PENTAXイメージング・システム事業部マーケティング統括部長の江口一道氏に話を伺った。江口氏は商品企画部門とマーケティング部門を統括する役職にある。以前は自身もペンタックス製カメラの商品企画に関わっていた。

 ただし、現在はペンタックスのカメラ事業全体を統括する立場から、主にマーケティングやペンタックスのブランド戦略について話したいとの申し出があったため、製品ではなくペンタックス自身の現在と未来が、インタビューのテーマとなった。(インタビュアー:本田雅一)

HOYA・PENTAXイメージング・システム事業部マーケティング統括部長の江口一道氏

ペンタックスのアイデンティティとは

−−HOYAとの合併から2度目のフォトキナとなります。前回はまだ合併間もない状況から、とにかく頑張って次々によい製品を出していかなければならない。そんな時期でもありましたが、体制も落ち着いて商品開発のサイクル、ペンタックス製カメラのアイデンティティも定まってきたように感じます。江口さん自身、今回、フォトキナで世界中から集まったパートナーやグループ社員と話をする中で、ペンタックス自身の置かれている位置をどのように感じているでしょう。

 ちょうどK-5を発表したばかりということで、現地法人はもちろん、販売店も顧客も盛り上がっているところです。さまざまな意見を耳にする中で、ペンタックスはどのようなブランドになっていくのかを考えています。事業の規模やさまざまなリソースを考えれば、技術的なイノベーター、クリエイターとして業界をリードできるわけではありません。

 もちろん、我々はカメラを作るための光学技術やメカ設計技術を持っていますが、デジタル的な要素に関しては、市場に対して出てきた新しいテクノロジーをいち早く採用し、使いこなして製品化することしかできません。言い換えれば、世の中のさまざまなところで生まれている技術に対してアンテナを高く持ち、どこよりも早く市場に投入する。そこに価値を見いだすべきだと考えています。世の中にある数多くの新技術を、自分たちがオファーできる価値(カメラとしての価値)に置き換えることで、巨大企業との技術開発競争にも遅れずについていく。それこそが我々のやっていくべきことだと考えています。

ペンタックスがフォトキナ2010の開幕と同時に発表したK-5 その約2週間前には、エントリークラスのK-rを発表
フェイスプレートを取り替え可能にしたOptio RS1000

−−2年前に比べるとペンタックスの商品ラインナップは大きく変わりましたね。従来からのペンタックスらしい645DやK-5もあれば、K-xやK-rといった製品もある。色だけでなく商品そのものの特色が、とてもカラフルになりました。実直で不器用なイメージがあったペンタックスが、どこか吹っ切れたのかなと思うこともあります。

 今回のフォトキナでパートナーや各国法人の社員に尋ねられることがあります。ペンタックスには645Dがあり、K-5があり、K-x、K-rがある。フェイスチェンジできるカメレオンカメラと表現するOptio RSシリーズもある。ここまで幅が広く、統一感がなく、アイデンティティを感じさせないラインナップで、顧客に対してペンタックスとはどんな企業と説明するのか? というものです。

 でも、それに対して私は“それこそがペンタックス、それこそがアイデンティティです”と答えています。今、自分たちができる、他社にはマネのできないことをやる。それがペンタックスです。巨大カメラメーカーは、僕らが対抗しようとスペックで頑張ってみても、単純に後出しで軽く追いついてきます。大メーカーが提案した新しい技術。後出しならば、もちろん追いつくことができるでしょう。ユーザーのためであれば、もちろん製品に盛り込むけれど、大メーカーと同じことをやっていても、我々は勝てません。

 ならば、ちょっとした問題、ちょっとした愉しみ。ちょっとした親切。ユーザーが抱えている悩みやアイディアを解決して上げることができれば、ユーザー全員ではなくともいいじゃないかと考えるようになりました。10人に1人しか理解されなくとも、そのひとりがペンタックスを選んでくれればシェアは10%です。そうした努力を積み重ねていくことで、将来性のある技術分野を見つけることができるかもしれません。

−−他社とは違う、自分たちらしい、それがペンタックス。ということですか?

 そのメッセージでは、ペンタックスの位置付けが曖昧になってしまいます。120色展開やカラー、フェイスチェンジといったことをやったかと思えば、中判デジタルカメラを出してしまう。何かやりたい人たちに、その解決策をオファーする。何をやっている会社なのか分からないけれど、ペンタックスにしかできない仕事は確実にある。そんなイメージでしょうか。

−−フォトキナではプレス、来場者ともに645Dに強い興味を持っているようでしたが、こちらではあまり強く訴求していないのでしょうか?

 645Dはワールドワイドでローンチしましたが、インストールベースである645Dのプラットフォームは、主に日本と周辺のアジア諸国の間で使われてきました。特にアドバンストアマチュアのユーザーは、ほとんど日本に集中しています。一方、日本以外では業務用ですから、販売数やマーケティング戦略にギャップがあります。645Dを発売する前に、中判フィルム用機器は日本に集中させていたので、他の地域では販売方法や流通経路も含めて、これからやっていく必要があります。


古き良き要素と新しい要素を馴染ませる

−−レンズ交換式カメラの市場は、今度どうなっていくと見ていますか?

 たとえばミラーレスのレンズ交換式カメラ。我々の持っているデータでは、レンズ交換式カメラ市場の伸びのほとんどは、ミラーレス機の増加によるものです。日本ではミラーレス機のシェアが30%を超えており、香港も20%を記録して周辺地域にも拡大する傾向です。米国はほとんどゼロですが、欧州は一部メーカーが価格を落としたこともあり、安くてコンパクトなシステムとして数字が伸び始めました。ミラーレス機の良さを訴求するため、まずは買ってもらおうと値段がアグレッシブになってきています。今後、欧米ではソニー、パナソニック、サムスンが、ミラーレス機普及のために、相当安い価格帯で勝負してくるのではないでしょうか。近い将来、欧米でも7%くらいのシェアをミラーレス機が取るようになるでしょう。

−−どんな人たちがミラーレス機を買っていると分析していますか?

 今まで一眼レフカメラを選んでこなかった方々です。一眼レフカメラのエントリー機は主にファミリー層で、小さな子どもがいて、その子どもの記録のために購入する人が多くいらっしゃいました。しかし、ミラーレス機は若年層や女性の比率が高く、コンパクトカメラのユーザーがそのままスライドしているイメージです。ミラーレス機バイヤーのイメージするキーワードは“一眼画質”です。一眼レフカメラの持つ高画質でよい写真が撮れるというイメージを、自分がより身近に感じられるタイプのボディで撮影できる。加えて、価格的にも買いやすくなってきています。

 もちろん、理由は複雑です。ひとつはサイズ、ひとつは値段、ひとつは操作性だったりといろいろです。しかし、そういう人たちが、自分にも使える一眼画質のカメラが出てきたぞ! ということで、ユーザー層が拡がっているのでしょう。欧州に来て、こちらのマーケティング担当者や流通と情報交換をしていますが、こちらでも女性比率が増えてきているようです。我々の製品でいうと、K-xが全世界で伸びてきており、カラーバリエーションという要素が、それまでレンズ交換式カメラに興味を持たなかった女性層が目を向けるようになるトリガーになっていると思います。一方で、普通の一眼レフカメラは減ってはいないものの、伸びてもいません。

−−今のようにカメラを基本に、さまざまな方向に楽しみ方、遊び方の幅を拡げる商品展開も面白いと思いますが、元々得意だった光学機器メーカーとしての遊びもそろそろ……とは思いませんか。銀塩時代のLimitedレンズなどは、性能より画のフィーリング優先で、31mm、43mm、77mmがそれぞれ個性的で撮影の楽しさを再発見させてくれました。

 そうしたレンズ遊び的要素は、ペンタックスの中に常に内在しています。商品企画の中では、いつもそうした部分を掘り起こすアイディアは出ているんです。ただ、目先の商品での取捨選択を考えると、まだ優先順位の上の方には届いていないというのが現状です。でも、いつかは……という感覚は全員が持っていますし、将来の展開も考えられると思っていますよ。実現するには開発のリソースと設備投資が必要なので、現時点ではビジネス上の最適解をこなしつつ、将来のビジョンを描いているところです。

−−もちろん懐古主義的なだけではダメですものね。K-7発表前、昔のペンタックスを思い出してもらえる商品を……と話していただいたとき、周囲ではきっとクラシカルでマニアックな外観と操作性のデジタル一眼が出てくるのだろうか? と想像していました。ところが出てきたものは、決して懐古主義的ではなく新しい方向を向いていた。

 ペンタックスという会社は、エポックメイキングなカメラへの郷愁的な感覚をみんなが持っています。それを最新の技術と組み合わせて商品化することで、斬新だと思う人と中高年の方々が欲しいと思ってくれる商品をひとつにまとめ、古き良き要素と新しい要素を馴染ませる。実際に絵にしてみると、なかなかうまくいかない。

 現在はいろいろ試行錯誤している状況です。たとえばコンパクトカメラですが、Optio I-10などは実験的要素をたぶんに含んでいますし、アイデンティティの無さを嘆かれたりしますが、それにめげずに"柔軟な考え方"というのを意識的に続けていきたいと思います。

「ペンタックスのデジカメが変わった」という印象を世間に与えたOptio I-10

新たな展開・製品にも乞うご期待

−−ミラーレス機の勃興に関してのコメントがありましたが、この分野に関してペンタックスはどう捉えていますか?

 たくさんのレンズ交換式カメラが売れ、客層にも変化が現れてきています。バラエティ豊かな顧客層に対応するためのひとつの解というのが、我々の考え方です。内部で研究開発を“やっていない”とは言いません。それがベストだと思うならば、製品として実現していく機動性は保っています。

−−ミラーレス機をやるならば、既存の一眼レフとは別のシステムを構築しなければなりませんよね?

 その通りですが、“別のシステムを作る”と宣言してしまうと、“前のシステムをやめる”と顧客に判断されやすい。実際にはやめるつもりはないのに、将来性がないと判断されて、システムとしての寿命を縮めてしまう可能性があります。どういった方法がよいのか、最適解を見つけ、やるべきだと判断した時にはやるでしょう。ただし、それが何時になるか? という事までは、現時点では考えていません。ペンタックスとしては、他カメラメーカーがどんな戦線を張っているのかを見極め、戦場全体の地図を見ながら、一番住みやすい場所を探してビジネスをしていきます。

−−ミラーアリの世界とミラーレスの世界では、戦い方や武器となるツールが全く異なりますよね。ペンタックスはミラーレスの世界でも戦えるでしょうか。

 まずは慌てないようにしたいと思っています。見極めができるポイントがどこかにあるはずです。何が一番よいのかを社内で慎重にシミュレーションしています。マーケティングの人間だけでなく、製品開発やカメラ製造の人間も集まり、競争力の高い製品を生み出すための情報を交換しながらやってますよ。

 例えばビデオレコーダの業界も、一眼レフカメラでの高画質動画撮影とか、Flip(Webサービス連携を意識したライトユースのビデオカムコーダ)が出てきています。ユーザーが変化すれば、それに伴ってハードウェアも変化する典型例でしょう。従来的な枠で捉えるのではなく、発想の多様性、柔軟性を重視していく必要があるのです。

−−サムスンがNX100を発売しましたが、現在でも彼らとの提携関係は継続しているのでしょうか?

 提携、OEM供給、共同開発といった要素での交流はありません。しかし、いまも情報交換的に交流は続けています。NXの中にペンタックスの技術は入っていませんし、NXを我々が使うという可能性もありません。ペンタックスとしては、サムスンとの交流の中で、サムスンが得意とするカスタムLSIやイメージセンサー、メモリなどの部品調達で優位に立ちたいという筋書きはありましたが、結果的に言えばそうしたメリットはありませんでした。

−−以前は毎年、主力機種をリフレッシュしていくと話していましたが、江口さんの話を伺っていると、今後は違った展開になりそうですね。ペンタックス製カメラの今後は、どういった展開になるでしょう?

 開発リソースは限られていますが、もちろん既存製品の進化は続けていきます。K-x、K-rでは新しい顧客層を取り込めているので、今後、継続して大事に育てていく必要があると思います。

−−K-x、K-rで取り込めたという新しい顧客層の方々には、交換レンズを買っていただけていますか?

 中級機の方が、確かに買っていただけるレンズ本数は多いかもしれません。しかし、エントリークラスを買って頂く方には、ダブルズームキットなど、さまざまなバラエティセットを買っていただけます。またボディの台数が増えれば母数も増えますから、1台あたりの装着率はあまり気にしていません。また、エントリー後の定着率という点でも、従来の製品とあまり変わらないと感じています。

 頭の中には次のユニークな製品の仕込みでいっぱいです。きっと面白い製品になります。期待してください。

【2010年9月29日】「K-5を発売したばかり」という記述を「K-5を発表したばかり」に改めました。



(本田雅一)

2010/9/28 00:00