インタビュー:富士フイルムの“撮像素子内蔵型位相差AF”について
左から富士フイルムR&D統括本部 電子映像商品開発センサーの遠藤宏氏(位相差AF対応撮像素子の開発で全体のとりまとめを担当)、同青木貴嗣氏(位相差AF対応撮像素子の開発を担当)、富士フイルム電子映像事業部 商品部の大石誠氏(商品企画を担当) |
富士フイルムが、撮像素子に位相差検出式のAFセンサーを配置するという世界初のシステムを製品化した。デジタル一眼レフカメラに比べて遅いとされていたコンパクトデジタルカメラのAF速度を一気に引上げたデジタルカメラとして注目されている。
今回は、このAFセンサーの成り立ちや仕組みなどを富士フイルムに聞いた。(聞き手:小倉雄一、本文中敬称略)
■一眼レフカメラと同等のAFシステムで高速化
――今回の画期的な撮像素子による位相差検出AFの詳しい仕組みを教えてください。
遠藤:まず、従来の一眼レフカメラの位相差検出AFを簡単に説明します。撮影レンズ(交換レンズ)のうしろにメインミラーがあり、サブミラーによってAF測距用の光束はカメラ下部に導かれます。そこで集光レンズによって被写体像を結像し、セパレーターレンズで2つに分離、専用AFセンサー部分に集まった像の間隔でピントのズレ量と方向を把握しています。
高速かつ精度の高いAFを実現するためにこのような構造をとっているのですが、AF測距部がどうしても大型化してしまうというデメリットがありました。
今回富士フイルムが開発したCCD方式の位相差検出AFは、簡単にいうと撮像面で被写体の像を分離することを考えています。従来はここで集光してその後ろ側にAFセンサー部があったのですが、今回はCCD面上でAF測距に必要な2つの像を得てしまおうと考えています。
どのように像を得るかというと、撮像素子の一部にブラックマスクを配置しています。こうすることで特定の方向の光線だけを入射させることができるようになります。
この位相差画素がある程度の数配置されているのですが、このA画素の像とB画素の像のズレを見ています。ピントが合った状態ではA画素とB画素の像は一致するのですが、前ピンまたは後ピンの状態ではA画素とB画素で像のズレが発生する、そういった原理になっています。
一般的なコンパクトデジタルカメラが採用しているコントラスト検出式AFでは、前ピンか後ピンかの判別ができないため合焦までに比較的時間を要する(富士フイルム提供) |
コンパクトデジタルカメラに採用されているコントラストAFでは、ピントが合っていない状態だと、前ピンでも後ピンでも像がにじんでいきます。このにじんだ像を見ただけでは、ピントが前にズレているか後ろにズレているかはわかりません。それに対して今回の位相差AFのA画素とB画素のデータをそれぞれ抽出して像を得るのですが、ピントがずれたときに、A画素とB画素が抽出する像の位置、位相のズレが生じます。
前ピンと後ピンでズレる方向が逆になりますし、像のズレによってピントのズレ量も検出できますので、前ピンなのか後ピンなのか、ピントのズレはどの程度なのかを瞬時に把握でき、AFを高速化しています。
――ピントのズレは隣り合ったA画素とB画素の像の差で見てるのですか?
遠藤:A画素、B画素をそれぞれ複数並べており、A画素の画像とBの画像のズレを見て判断しています。
大石:隣同士のものを比較するだけでわかるかどうかというと、実際は隣同士のものだけではわかりません。それがたくさん集まった2種類の画像があって初めて位相のズレを検出することができるのです。
CCDセンサーに位相差検出用の画素を埋め込んでいる(発表会資料から) | 今回の位相差AF対応撮像素子は、レンズの左右を分けてA面とB面から構成してある(富士フイルム提供) |
位相差検出AFを利用できるため、一眼レフカメラと同様にピントのズレ量と方向がわかり高速化できる(富士フイルム提供) |
――こうしたセンサーを開発した経緯を教えてください。
青木:やはりAFスピードを速くしたいというニーズが非常に大きいと考えていました。富士フイルムはデジタルカメラの主要部品をすべて内製しているので、われわれの強みである独自センサーや撮影レンズなどを組み合わせてできる、まったく新しいAFシステムを、ということでCCD方式の位相差AFを考案し、AF高速化を実現しようと考えたのです。
大石:とくにいまデジタルカメラ市場を見ていただくと、2009年くらいから倍々ゲームくらいに、高倍率コンパクトデジタルカメラの数が増えています。当社は今回初めて15倍という日本ではなかなか例のないレンズを搭載したコンパクトデジカメを出したのですが、ズームが長い分、従来のコントラストAFだと時間がかかりやすくなってしまう。そのため、AFの仕組みを一変させるくらいでないと、本当に速いAFは実現できないということも背景にあります。
――最初に撮像素子で位相差AFを考えたのはいつごろでしょうか?
遠藤:もともと構想としてはずっと昔からあって、けっこう前から案としては出ていたんですね。実際に開発が始まったのは……。
青木:2、3年前ですね。
――昔から、というのは撮像素子開発メーカーの間では、いつか実現したいというのが漠然とあったということでしょうか?
遠藤:業界的に、構想自体はありました。大昔、一眼レフカメラがMFからAFに移った時期、いろいろなAFの原理が考えられているのですが、その時期にこのような方式も案のひとつとしてあったんですね。撮像面で像を分離させて位相を得るといった考え方ですが。
――今回はデジタルカメラで、実際に絵を作る撮像素子をAFセンサーとして兼用するという難しさもあったのではないですか。
大石:画素の一部をAF測距用に使用するわけで、絵を作るときに位相差画素が悪影響を及ぼさないようにしないといけない。そういった課題はありましたね。
■AFセンサーと撮像センサーが同一面にあるという利点も
青木氏。「今回はAF速度と精度の両立を実現しました」 |
――一眼レフカメラの位相差AFに比べてのメリット、デメリットは?
青木:メリットはやはり、撮像素子と同じ面上で測距ができるというのがいちばん大きいと思います。AFセンサーが別だと距離を完璧に合わせないといけないという工程が入りますが、この方式では撮像素子とAFセンサーが同じ位置なので、一眼レフカメラの方式に比べれば、調整は必要ないと考えています。AFの精度も出しやすいし、大きなメリットだと思っています。
――コストやサイズの面でも有利ですよね?
青木:そうですね。カメラの大きさを小さくできるのと、コスト面でもかなりメリットとしては大きいですね。
大石:とくに大きさの部分で、位相差AFセンサーを別に内蔵すると、同じような速度のAFは可能になるのですが、どうしても軽量小型のデジタルカメラを作ろうとした場合、なかなか難しい部分があります。実際、過去に当社では位相差AFセンサーを載せたコンパクトデジタルカメラを出したこともあるのですが、外付けセンサーという位置づけで、一眼レフカメラのようにAFを合焦させるというより、あるていどのピントの絞り込みしかできませんでした。
――ちょっと違いますが、2眼レフカメラのような……。
大石:そうですね、位相差AFセンサーは撮影光学系とは別のところにあるので、視差(パララックス)があって、その情報を直接AFに使うというよりは、ある程度のピントの絞り込みをやって、最後はコントラストで追い込むという方式でした。
――デュアルなんですね。今回の位相差AFのデメリットというのはありますか?
大石:デメリットはやはり、撮影画素と同じ画素をAFに使用する点ではないでしょうか。これはメリットでもありますが、画素としてAF測距に使用しなければいけない部分は、デメリットとして認めざるを得ないのではないでしょうか。
遠藤:AFに使用する位相差画素が、普通の撮像面上に配置されますので、それでも問題ないように絵を作らなければいけない。そこで絵作りの困難さというのがアップするというところですね。
青木:そうですね。絵作りに関し、考えなければいけないことは増えましたね。
大石:もうひとつコントラストAFというのは画面全体を使うことができ、被写体が画面の端にあってもAFを合わせることができるのですが、今回の位相差AFでは位相差画素が中央に位置しているので、そこはコントラストAFが若干有利な部分なのかなと。たとえば顔認識と連動させるとか、そういう部分で考えると、もっとよくしていかないといけないという課題ですね。
大石氏。「合焦速度は一眼レフカメラと同等といえます」 |
――それではスピード面ではどうでしょうか。最速で0.158秒と書かれていますが。体感的に一眼レフカメラの位相差AFと比べていかがでしょう?
大石:速度的にはそんなに遜色ないと思いますよ。
青木:負けてないと思いますね。
――動体予測AFは?
大石:まだついてないですね。
青木:動体予測AFはこれからの検討課題です。
――撮像素子を使う上で、撮像素子の読み出し速度を超えるAF性能は出せないのかな、と思うのですが、それはAF測距に使用するためには必要十分な速さなのでしょうか。
遠藤:コントラストAFの場合はフォーカスをズラしながら画像をたくさん取り込んでいかないといけないので、撮像素子の読み出し速度が大きく効いてくるのですが、われわれの位相差AFの場合は一枚の画像をもとにピントの方向と量を判断できますので、読み出し速度はコントラストAFに比べて影響は少ないです。
大石:いまあったように、位相差AFはAF測距に1枚の絵があればいいので、コントラストAFと比較して、動いている被写体に対しても有利だと言えます。
■位相差画素の配置などは試行錯誤の繰り返し
――AF高速化を目指し、位相差AFを導入するにあたって、センサー以外で改良した部分もあるのでしょうか。AF制御システム、レンズなど……。
大石:撮影レンズについては、今回、位相差AFのために速度を速くした点は特にはないのですが、逆に言うとレンズ自体のAFの動きが十分に耐えられる速さを持っていたからです。今回はコントラストAFを併用していることもあり、位相差AFとコントラストAFの両方に対応できるレンズを搭載しています。
――AFのアルゴリズム(制御システム)はイチから作り上げたわけですよね。
青木:いろいろ試行錯誤しましたね……。
――CCDから届いたデータを適切に処理して。最初はなかなかピントが合わなかったりということもあったのですか?
遠藤:そうですね。最初、試作機のときはやはり被写体によってピントが合いにくいこともあったのですが、アルゴリズムの改良を加えることで精度をアップさせていきました。
――位相差画素の配置なども、少しずつ詰めていったということですか?
青木:開発の当初は、何パターンか候補がありましたね。実際の製品化にあたり、位相差画素の配置にしろ、数にしろ、最適な結果を求めるべく、ずいぶん試行錯誤しました。
――精度面でも自信アリということですね。
大石:はい、もちろん速いということだけではなくて、速くて正確というのがAFにとってもっとも大事なところなので、正確性を重視したうえで、この速さを実現しているのが今回の位相差AFの特徴です。コントラストAFでたしかに速いものもありますが……。
従来からの独自センサー「スーパーCCDハニカムEXR」を土台にして、今回の位相差対応撮像素子を開発した |
――位相差AFを実現するにあたり、ハニカムならではの優位性も合ったのでしょうか?
大石:そもそもスーパーCCDハニカムEXRという撮像素子自体が常に2枚の絵を撮り、それを合体させたり、ハイレゾリューションにするために一面で使ったりと、ツーペアの活用を行なっているものなので、そういう意味では位相差を検出するA画素、B画素という方法はスーパーCCDハニカムEXRだからやりやすいところはあったと思います。
遠藤:A画素の情報とB画素の情報、これがスーパーCCDハニカムEXRのA面、B面に相当するような、そういう読み出し方法になっています。
――位相差画素の配置や数を教えてください。
遠藤:中央部に数万個という配置になっています。
――中央部というのは、どのあたりでしょうか? 35mmフルサイズに対するAPS-Cサイズくらいの感覚でしょうか。
青木:もう少し範囲は小さいですね。AFエリアをカバーするサイズになっているのですが、基本的に通常AFのときは中央に重点をおくAFになっていますので、そこをカバーするような配置になっています。
――画面中央部に位相差画素が散りばめられているという理解でよいのですか?
大石:ある一定間隔で置いてあるということです。
――2個ずつですか?
大石:A画素とB画素、必ず2つがペアになっています。
――センサー全体の画素に占める割合としては、少ない?
青木:少ないですね。
遠藤:トータルの画素数1,200万画素のなかの数万ですから。
大石:ゼロコンマ数%ですね。
――なるほど、それが小石のように、ポツポツと。きっと緑の画素の代わりに置いているんですね。
大石:そのとおりです。
青木:赤や青の画素に比べて緑の画素はずっと数が多いですから。
――中央部に位相差画素を集めた理由はなぜですか?
遠藤:まずは第一弾の位相差AFということで、主に被写体が画面に配置されやすい中央部に配置して早期製品化を目指しましょうということで、中央部のみとしています。
――AFの精度が出しやすい、というのもあるのでしょうか。
青木:はい、そういう理由もありますね。
――コンパクトデジタルカメラ用のレンズだと暗かったり、なかなか光を取り込むのが大変だったり、ということもあるのでしょうか。
遠藤:やはり周辺部の画素よりは中央部の画素のほうが光を多く取り込みやすいというのもあって、まずは中央のみにしました。
――ではこれから広げていける、当然広げていく可能性は十分あるということですね。
遠藤:もちろん可能性はあります。
大石:ぜひ広げていきたいとわれわれは考えています。
位相差AF対応撮像素子を搭載した「FinePix F300EXR」(左、15倍ズーム)と「FinePix Z800EXR」(右、5倍ズーム) |
――最終的には画面全部ということもできるのですか。
遠藤:そうですね。開発を続けていきます。
――周辺だとレンズの収差などの影響も受けてしまいAFに使いづらいという可能性もあるのでしょうか。
遠藤:そういう部分もありますね。
――AFの測距点というのは、ユーザーが選べる測距点としては何点といった具合にあるのですか。
大石:今回はAF測距点を具体的にユーザーが選べるわけではなく、自動選択にしてあります。
――撮像素子のサイズは1/2型ですが、標準的なサイズでしょうか?
大石:他社さんだと1/2.33型というのが概ねこのクラスなのですが、弊社はやや大きい1/2型を使っています。
――位相差AFは撮像素子の大きさにかかわらず可能ですか?
大石:もちろんできます。
――全画素に占める位相差画素の割合はコンマ数%。画質への影響はほとんど考えなくてもいいのでしょうか。
大石:まったく無いといってもいいと思います。撮影シーンに応じて、位相差画素を実際の絵作りに使ったり使わなかったりする部分もあるのですが、たとえ使わなかったとしても、もともと単板のCCDである以上、なんらかの画素補間は常にされていて、補間の技術というのはずっと開発し続けてきたところもありますので、とくに画像に影響があるような問題はないと考えています。
――では位相差画素の存在が絵作りに及ぼす影響への対策は、さほど大変ではなかったということですか?
青木:大変でした。いや、本当に大変でしたよ。
――コンマ数%しかないので、素人考えでは、何とかなるのでは、と思うのですが。実際にその影響をゼロにしていく作業というのはどういったものなのでしょうか。
青木:どんなシーンでも影響を出さない、絶対に画質には影響してはいけないと思っていたので、ありとあらゆる撮影シーンで実証しなければならず、開発は簡単ではありませんでした。いろいろな評価を延々やり続けて、という意味では大変でしたね。
――もし間違って、ごく限られた、数千万分の1の可能性でも、位相差画素の影響が絵に出てしまったら大変です。
大石:位相差画素は一定間隔にあるので、たとえ1個ダメだったとしても、それが一定間隔に出てしまうと非常に目立ってしまいますからね。
■コントラストAFに切り替わる明るさは?
――暗いときはコントラストAFに切り替えるそうですが、どれくらいの明るさで切り替わるのでしょうか?
遠藤:数値では出していないのですが、普通に量販店の店頭などで使っていただくぶんには、位相差AFを体感できる、そういう明るさではまず問題ありません。より暗い、たとえば夜景などのシーンではコントラストAFという使い分けになっています。その中間あたりで切り替えています。
――夕方あたりの明るさでで切り替えてるのですか?
大石:暗いムーディな部屋の中などでは、さすがにコントラストAFになりますね。一般的な明るさの部屋でしたら大丈夫です。
――ところで、位相差画素はCCDのなかでどのように振る舞うのでしょうか。位相差画素の電荷というのは、ほかの画像を作る画素の電荷と同じように流れていくのでしょうか。
遠藤:はい、ほかの画素とまったく同じです。
――それで、印が付いているというか、何番目に来た信号が測距用の位相差画素だから、君はちょっとこっちへ来なさい、という感じでASICのところで別個に画像処理するわけですね。
大石:逆にそこを特別にしなかったところがポイントというか、従来のCCDと同じ方法でも実現できているAF方式なので、その点が特徴なのかもしれないですね。
――位相差画素は画像生成に使われることもあるそうですが、常に画像生成に使われているのですか?
大石:常にではないです。シーンに応じて使い分けています。
遠藤:“シーンに応じて”というしかないですね。
――そのシーンというのは“色による”、ということですか? 緑一面のときは使わないとか。あるいは明るさでしょうか。
大石:使わなくてもいいシーンというのは、あると思います。
――逆に、使うシーンはどのようなときなのでしょうか。
遠藤:位相差画素が問題にならないように、シーンに応じて最適な処理をしています。
――どうしても使わなければならない場合もある?
遠藤:うーん、どちらもあるんですね。使ったほうがいいシーンというのももちろんあるのですが、使わないほうがいいシーンというのもある。
――AFを行なう際、すべての位相差画素を使うわけではないのですか。
遠藤:つねに全部ではないですね。
――画面内、合わせたい被写体があるあたりの位相差画素を駆使するのですか?
遠藤:そこもシーンに応じて使い分けています。
――ではシーンや被写体に応じて大きくしたり、ピンポイントにしたりすることもあるのでしょうか。
遠藤:そうですね。現状でも自動で少し切り替えたりはしています。中央部のなかでも、どのくらいのエリアを使うかという。
――そういったところも、今後はシーンに応じてユーザーが手動で切り替えられたりするようになるんでしょうか。スポットAFとワイドAFのように。
遠藤:将来的には可能だと思います。
――このセンサーの位相差AFは、多点AFとは呼べないのでしょうか。
遠藤:正確には多点という表現ではないですね。被写体に応じてエリアを切り替えているというイメージですね。
――位相差画素の光量は、マスクをされているぶん、単純に一般画素の半分なのでしょうか。
遠藤:おおよそ、それくらいですね。
――ちょうど半分でないと意味がないのですか? それとも1/3あるいは2/3でもいいのでしょうか。
青木:そうですね、あるていど遮っていれば、できると思います。
――ちなみに、ベイヤー配列の撮像素子でも同様のことはできますよね。
青木:できると思います。
大石:ただベイヤーの画素配置だと画素補間が難しいかもしれませんね。
■全く新しい技術。各部門との連携に苦労
――センサー外販の予定は?
大石:現時点ではありません。独自技術として当社のラインナップに搭載していきます。
――今回のCCDは従来の製造設備で生産しているのでしょうか。
青木:はい、そうですね。
――開発で苦労した点を教えてください?
青木:新しいことだったので、製造現場に迷惑を掛けるところが多かったですね。CCDというのはデジタルカメラのシステムすべてに影響します。CCDを使った位相差AFも撮影レンズや画像処理システムなど全部の協力がないとできない話だったので、いろいろな開発チームとかかわらないといけないというのがもっとも苦労したところだと思います。
――バッテリー消費については、いかがですか。
青木:とくにバッテリーを多く食うわけではないですね。
遠藤:コントラストAFと比べても変わらないはずです。一部のWebサイトで「AFスピードアップ」モードに入れないと位相差AFが働かず、AFが速くならないんじゃないかという書き込みがあったのですが、そういうことはなく、ふつうの節電モードでも位相差AFは働きますので。
大石:「AFスピードアップ」という設定があるのですが、これはもともとコントラストAFであった設定で、位相差AFには関係ないのですが、一部で勘違いされて「AFスピードアップ」イコール位相差AFのことなんじゃないかと誤解があった記述があったのです。
遠藤:お客さまからすると、いつ位相差AFが使われているのかわからないので……。
――液晶モニターの表示も位相差AF時とコントラストAF時でまったく変わらないのですね。
青木:はい、まったく変わりません。
――ではユーザーは、いま働いているのがコントラストAFか位相差AFかまったくわからない?
大石:よほど使い込めばわかるかもしれませんが……。最近、僕はわかるようになってきました(笑)。
遠藤氏。「大きな撮像素子にも応用は可能でしょう」 |
――2種類のAF切替が自動のみで、手動で切り替えられないようにした、というのは、ユーザーにとってメリットが大きいだろうという判断ですよね。マニアックなユーザーは、切替があるとうれしいかもしれませんね。
大石:将来的に、たとえばカメラの種類によってはそうすべきだということもあるかもしれないですね。
――位相差AFだからといって、測距点という概念を意識しなくてもいい、ということですね。
大石:そうですね。
青木:中央部がすべて測距点という理解でいいということですね。
――それは特に、測距点の少ないエントリークラスの一眼レフカメラに比べるとメリットが大きいといえませんか?
遠藤:一眼レフも、複数の測距点が自動で選択されたりもするので、一概にこちらが優れているとはいえないかもしれないですね。
――顔認識のときはコントラストAFになりますが、なぜでしょうか?
大石:ピントを合わせたい顔は画面のどこにあるかわからないですよね。今回、位相差AFでピント合わせできるのが中央部だけなので、顔認識する場合は画面の隅に顔があってもそちらにAFを合わせるようにしました。
――仮に中央に顔があれば位相差AFでも技術的には顔認識は可能なんですか。
大石:技術的には可能です。ただ今回は顔が中央にある場合もコントラストAFで、位相差AFは使っていません。
――今回の位相差AF、APS-Cや35mm判フルサイズ撮像素子へも応用は可能でしょうか。
大石:技術的には十分に可能だと思います。
インタビューを行なったのは、富士フイルムが入る東京ミッドタウン |
――富士フイルムはフォーサーズに賛同していますが、この位相差AFを搭載したフォーサーズ機やミラーレス機の投入などはあるのでしょうか?
大石:そこはなかなか答えるのが難しいですね。現時点ではありませんが、市場の状況をみて検討します。
――位相差AFに使用する撮像素子のサイズが大きくなると、AF速度の高速化や精度の向上もありうるのですか。
遠藤:考えられるのは、感度が有利になるので暗いところなどで有利になるという点があります。
――他社も同様の位相差AFの開発を進めていると思われますが、御社が先駆けできた理由はどのあたりにあるのでしょう?
大石:われわれ富士フイルムは、昔からこういった特徴あるセンサーを作り続けていて、独自のセンサーを内製する、ハングリー精神、フロンティア精神が、世界初のCCD方式位相差AFを実現する原動力になったと思います。
2010/9/14 00:00