インタビュー:ソニーNEXの「Eマウント戦略」

〜PI & S事業本部 統括部長 手代木英彦氏に訊く

 今年2月、北米の展示会「PMA 2010」で突如披露されたモックアップ。APS-Cサイズのセンサーと極端に短いフランジバックを持つカメラを見て、多くの人が今年年末に向けた新製品のコンセプトモデルなのだろうと考えていたに違いない。

 ところが、そのモックアップに近いフォルムを持つカメラ……しかも、単なるコンセプトモックではないか? と思われた小型のモックアップほぼそのままの姿で登場したことに驚いた人も少なくないだろう。発売後の今になってみれば、カメラ売場の日常的な風景の一部になっているものの、初対面の時にはちょっとした驚きを感じたものだった。

ソニー・パーソナルイメージング&サウンド事業本部 統括部長の手代木英彦氏左からNEX-5、NEX-3

 スペックだけを見れば、明らかにマイクロフォーサーズ機のAPS-Cサイズセンサー版なのだが、実際に見ると、そして使ってみると少しばかりテイストが異なる。スチルカメラの発表会において、同じレンズマウントを共有するムービーカメラの開発意向表明を行ったのも異例だった。

 すでに多くのファンによる評価も定まってきた昨今だが、そんなちょっとした疑問を胸の内に抱えながら、ソニー・パーソナルイメージング&サウンド事業本部 統括部長の手代木英彦氏へのインタビューに向かった(聞き手:本田雅一)。


単に小さな一眼レフカメラにはしたくなかった

――"レフレックスミラーを持たない大型センサー搭載のレンズ交換式カメラ"を最初に取材した時、パナソニックは「ミラーレス一眼」と呼んで欲しいと言いました。その後、ミラーレス機、ミラーレス一眼といった言い方が定着しつつありますが、一方でソニーはモックアップを展示したPMA 2010の頃から、ミラーレス機と呼ばれることに違和感があると話していましたね。確かに使ってみると、ほぼ同様の構成にもかかわらず、どこか似て非なるところも感じます。あえて認知が広がりつつある呼び方を避ける意図はどこにあるのでしょう。

 ミラーレスという言い方が、同種の製品カテゴリを表現しているわけではない気がしているので、ミラーレスと呼ばれないようにしたいとは思っています。確かにどう言えばいいか? というと難しいのですが、あえて自分たちで呼称を決めるなら"Eマウント・カメラ"と呼びたいですね。NEXという名称はNew E-mount eXperienceという意味が込められています。

――発表会でもアナウンスされた通り、先日、海外ではNEX-VG10というEマウントレンズを装着できるカムコーダが発表されましたね。この短期間にスチルカメラとカムコーダを発表できるのですから、新しいマウント規格を中心にした事業計画が、レンズ開発やアクセサリ、アプリケーションを含めた"プラットフォーム全体のビジネスモデルを示す設計図"のようなものを、あらかじめ描いていたのでしょうか。

 いや、それが実のところ、そうした大きな設計図はなかったんです。まずはどんなものができるのか。そこを考えながら模索することから始めたんです。当初は目標があっただけで、Eマウントを中心にしてどんなシステムを描くかなど考えられませんでした。

――いつ頃プロジェクトが動き始めたのでしょうか?

 2008年12月初旬に、事業本部長(当時の石塚氏)に呼ばれ、αのもっとサイズの小さなものはできないか? と言われたのです。驚いたことに、すでにデザインセンターに発注をかけ、一眼レフライクなデザインの小型α的なカメラのコンセプトデザインと、そのモックアップまでできていました。旅行や街中に手軽に持っていけるαのミニ版というコンセプトです。

――まずは形ありきだったわけですね。しかし2008年12月というと、すでにマイクロフォーサーズ機が発売された後です。その頃、まだ本格的な開発が始まっていなかったというのは驚きです。レフレックスミラーのないレンズ交換式カメラの話題は、その半年以上前からかなり活発に議論されていたことを考えると、かなり意外ですね。私を含め、多くの人が“ソニーはミラーボックスをなくした新マウントのシステムを作るに違いない”と思っていましたよ。

 その頃は、まだそうした動きは全くありませんでした。とにかく小型にできないかと言われ、自分でも考えたところ、なかなか面白いものができるんじゃないかと。少し検討してみたところ、レンズマウントを変えるという前提なら、どう考えても作れる。でも、どうせ作るなら、他社の後追いはやらないと考えていました。

PMA 2010で業務執行役員SVPパーソナルイメージング&サウンド事業本部長の今村昌志氏がコンパクトなレンズ交換式デジタルカメラを紹介。これがNEXのお披露目となったCP+2010では、大きさと重さを示すモックアップを展示した。NEX-3を思わせるスタイリングで、この時点ではNEX-5の存在は秘匿されていた

――パナソニックとオリンパスを意識していたのでしょうか?

 もちろん、他社のカメラのことも知っていますが、それよりも自分たちの製品を改善することに集中していました。実際に指示されたような小型カメラの検討を始めてみると、単に小さくしただけでは、まったく面白い製品にはならないと感じました。もちろん、小型・軽量はそれだけでも利便性を生み出します。しかし、商品としての決定的な魅力を引き出すには、別の何かが必要だとも感じました。一眼レフカメラの小型版ができたところで、そこに新たな面白さはないですよね。結局、小型化だけでは他社の二番煎じになってしまう。

 言われた通りの小型なレンズ交換式カメラを作っただけでは、きっと面白さを引き出せない。そこで商品企画を前に進めるにあたって、実際の設計作業を行なう前に時間をもらい、αでもサイバーショットでもない、新しいカメラを作るためのアイディアをまとめました。個々の製品を思い描くのではなく、全体の大きなシステムを思い描き始めたのは、この頃のことです。

 とはいえ、やるからには徹底的に小型化力を注ぎ、どこまでなら小型化が可能なのか、その限界を探ろうとは思っていました。しかしその際に、どんなに小型化したとしてもAPS-Cサイズのセンサーは小さくしないとも決めていました。

――バックフォーカス(レンズ後端と撮像面の距離)が短ければ広角レンズはコンパクトにできますが、標準域や望遠域のレンズは小さくできませんよね。本体をどんなに小さくしても、レンズシステムが大きければ可搬性は高くならない。APS-Cサイズの方がよいと判断した理由は?

 やはり画質です。センサーの改良もあって、より小さなサイズでもS/Nは良好に収められるようになってきましたが、解像度が今後も上がっていくとするなら、レンズのMTFがネックになる可能性もあります。一眼レフカメラのデファクトスタンダードがAPS-Cサイズになっているのに、わざわざ別のサイズを使うというのは、そこで商品としての説明が難しくなってしまう。一眼レフカメラと同じセンサーだから高画質なんだと、ストレートに説明したいという気持ちもありました。

 また一眼レフカメラがAPS-Cサイズで落ち着いているというのは、そこに何か理由、必然性があるのでは? という印象も持っていました。小さくすることの利点はありますが、その分、弱点もあります。結局、センサーサイズをわざわざ小さくしても、さらに小さいサイズのセンサーよりはシステムが大きくなるのですから、APS-Cサイズのままでシステムを作っていこうと考えました。ここで中途半端になると、“大きなサイバーショット”かつ“安物の一眼レフ”といったものになってしまいます。

――では高倍率ズームレンズのサイズが大きくなるとわかっても迷いはなかった?

 カメラで何が一番偉いかといえば、それはレンズだと思います。どんなカメラでも、レンズがなくなることはないのですから、もっと威張っていてもいい。小さくして何かをコンプロマイズするのではなく、そこは踏みとどまって、他の部分で魅力を引き出せばいい。カメラとして重要なレンズを活かすためにセンサーのサイズは一眼レフ同等をキープすることに迷いはありませんでした。コンパクトがよいのであれば、サイバーショットを改良したほうが近道でしょう。やはり高画質なボディと、高画質なレンズが使えてこそ、レンズ交換式カメラは生きてくるのだと思います。そのうえでボディはひたすら小さくした。

製品化されたNEX-5とE 16mm F2.8こちらはNEX-3。カラーはソニースタイル限定のシルバー

――最初は大きな設計図はなかったとのことですが、その後、開発が進む中でカムコーダタイプなどの構想も出てきたわけですよね。全体のシステムを設計していく上で、コンセプトを固めはじめた当初とは違ったものになってきたということでしょうか。

 第1弾としては、とにかく小さな、レンズを繰り出していないサイバーショット程度のカメラができるということで、そこにフォーカスしました。しかし、中期的な目標としてはもっと幅広い製品をEマウントで提供しようと考えていました。α(Aマウント機)があって、サイバーショットがあって、ハンディカムがある。それらの間に位置する製品をEマウントレンズを中心に作っていきます。NEX-5/3はαとサイバーショットの間に位置する製品ですが、ハンディカムの要素もかなり入っています。NEX-VG10はハンディカムだけど超高画質で一眼レフと同等画質の静止画も撮影できる。

 間にスポンと抜けていた世界観を作ることで、単に小さいとか、単に画質が高いだけとかではなく、Eマウントレンズを取り囲むように、レンズを生かしたさまざまな製品を作っていけると考えています。

――ということは、Eマウントは本格的な動画撮影用カメラを実現できる、たとえばパワーズームや動画的なA/F制御なども考慮したマウントの通信仕様になっていると考えていいのですね。

 最初から動画前提でレンズシステムをつくっています。レンズと本体の通信速度はもちろん、通信のプロトコルや将来の機能拡張といった部分を含め、動画撮影のカメラとしても発展できるものにしてあるので安心してください。

――Eマウントの仕様や通信プロトコルを他社にライセンスする考えはありますか?

 現時点ではラインセンスしていませんが、これは特に秘匿しているというわけではありません。まずは、自分たちのレンズを揃えていかなければならない段階ですから、ある程度揃ってくるまでは、他社向けのライセンスはサポートの面も含め社内を優先しなければなりません。マウントアダプターなども含め、こちらから使うなといったことは言いませんし、隠す必要もないので必要なら情報は出します。ただ、こちらから積極的にEマウント向けにレンズを作りませんか?と声をかける予定はありません。

海外で発表されたハンディカム「NEX-VG10」。NEX-5/3と同じEマウントを採用する

イメージを固めるため架空のカタログを制作

――2008年末に交換レンズ型の小型機を検討せよとの話があり、その後、時間をもらってコンセプトを煮詰めたと。実際にターゲットとする商品の仕様がまとまったのはいつごろだったのでしょう?

 2009年3〜4月くらいまではコンセプト作りで、その後、設計に入って行きましたが、なにしろ時間がないので、デザインと設計の担当者を近くに配して、意見交換を行ないながら同時進行で作業を進めました。NEXシリーズを担当するGP商品部という部署ができたのが3月ですから、実質的に設計作業が進み始めたのは4月だったと思います。なにしろ発売日は先に決まっていました。2010年6月10日に発売せよとの本部長からの指令です。ですから、そのスケジュールで商品を出さなければならない。ワールドカップの開催直前でボーナス支給日というのはすぐにわかりましたが、それ以上に根拠が何かと言われると私にもわかりません。

――年末から春までというとコンセプトの練りこみの期間としてはかなり長い時間をかけたんですね。

 こういった全く新しい製品を自由に開発させるとき、開発者がノリ始めると簡単にはできないようなアイディアを多数言い始めて事態が混乱し、結果的に完成までの時間が長くなってしまうものです。そこで時間をかけて開発目標を詳細に決め、開発メンバーを集めた時には「これを作ってくれ!」と言ったんです。あとはもう、がむしゃらに目標を達成するための開発作業だけです。

――2010年6月発売だと春に差し掛かる頃には動くものがなければなりませんよね。

 2010年連休前には量産開始しなければ6月の発売には間に合いませんから、それまでには量産試作を終えていました。前述したようにデザインチームと設計チームを隣同士に配置していましたが、他にも開発に関わる人間をひとつの場所に集めさせてもらい、全員が同じ時間を共有しながら、全員で問題解決をしつつモノづくりを行ったのがよかったのだと思います。

――あらかじめ詳細に仕様を決めていたとのことですが、どの程度、細かく決めていたんでしょう?

 実は開発チームに“こういうものを作るぞ”と説明する際には、商品のデザインスケッチや目標スペックはもちろんですが、商品コンセプトを紹介するミニカタログ、商品発表時のニュースリリース(もちろん実際に配布するわけではない仮のもの)など、商品を具体的にイメージさせるものを揃えていました。

最初に描かれたレンズ交換式小型カメラのデザイン案デザイン案のひとつ。レンズ径がボディからはみ出すNEX-5の現在のスタイリングに近い
開発開始時に作ったという架空のカタログとプレスリリース

――ほとんど発売されたNEX-5と区別がつかないですね。NEX-5は無駄な部分がほとんどない、必然的なデザインとも言えますが、開発が一切行なわれていない段階で、ここまで最終製品に近かったというのは正直、驚きます。

 NEX-5/3のデザインは、レンズマウントと液晶パネルがありきで、そこで意匠の大部分が決まっています。必要なマウントの大きさと液晶パネルのサイズを決めたら、その2つをどう握らせるのが使いやすいのか。またレンズをどうデザインの中で主張させるか。そこを突き詰めると、自然にこのような形になりました。

――今でこそ見慣れましたが、最初はまさか(PMA 2010で披露された)コンセプトモックアップよりも先鋭的なデザインで出すとはとびっくりしましたよ。通常、こうした製品の場合、モックアップよりもデザインはおとなしくなるものですから。それに動きそうにない液晶モニターが可動する。モックアップは液晶モニターが動く雰囲気がありませんでしたから。

 最初に(ソニー社内の)偉い人達に見せた時は、もうみんなドン引きでした。本当にこんなに何もかも削ぎ落したようなデザインで、本当にやるのか? やれるのか? と。そこを、いいからやらせろと押し切りました。しかしプロジェクトの始動が決まってくると、上司たちもだんだん乗ってきて、「液晶モニターは動くんだよね?」と言われ始めました。するとメカ設計の人間が、平気な顔で「えぇ、動きますよ」と言い始めた。

――手代木さん自身の描いたコンセプトでは動いていなかったんですよね?

 そうですね。最初のデザインでは動いていませんでした。とにかくギリギリのサイズに収めることが目標でしたから。しかしメカ設計の人間は厚みや大きさを犠牲にせずに動かせるというんです。開発が間に合わないのでは?と本当に心配だったんですがやってくれました。

――生まれた商品を見ると撮影機能以外の、モノとしての仕上げの部分に気遣いが見られます。レリーズボタンをはじめとするボタン類に金属を用いたり、電源スイッチの意匠はかつてのソニー製高級オーディオブランドのESPRITを思わせる。付属の外部ストロボも凝った作りで内蔵ストロボと同様に働き、デザイン的にも一体化するような、使い手の側に立ったデザインに、ある種の懐かしさも感じました。金属鏡筒のレンズもそうです。こうした作り込みの深さは、最近あまり感じたことがなかった。これから先、NEXシリーズを続けていく中で、同様の深さで作り込まれたモノを続けていけるのでしょうか?

 ものすごくコストをかけてNEX-5が造られているかというと、そうではありません。もちろんNEX-3よりもコストはかけています。作り込みの深さに関しても、これだけ設計期間が短いのですから限界もあります。結局、その商品がどこまで魅力的になるかは、“やっている人の心持ち”次第だと思います。どんな商品を作りたいか、どんな商品を届けたいか。設計者がどこま気持ちをひとつにして、目標に対してがむしゃらになれるかだと思います。

 そういうこともあって、最初にカタログを作ったんです。最初に集まった50人の開発チームに、プレゼンテーション資料で説明するだけではなく、カタログやニュースリリースなどから、具体的な利用シーンを想像させるようにしました。カタログの中には、最終的に商品に入っている背景ボケコントロール機能やフルHD動画、オート・パノラマ、それにカジュアルな普及型モデルのバリエーション、ストロボ外付けだけど付属にカッコいいストロボをデタッチャブルでといったことが、カタログの中にビジュアルとともに描かれていた。

――まるで昔、私がテクノロジー業界の取材をし始めた頃のソニーが、こうしたモノづくりをしていたように思います。

 確かに昔のソニーっぽいモノづくりのアプローチですが、今とはさまざまな環境が異なります。では現代において、古きよきモノづくりと同じようなこだわり、チャレンジをどのように行なうか。製品の作り方として新しい挑戦を行なうための実験室的なやり方でもありました。とはいえ、この世代でこだわりが終わりというわけではありません。

 細かな部分では、レリーズボタンの周囲に隙間があるのは気に入らなかったので、ギリギリまで作りこんで全く隙間のないボタンにするなど、細かなディテールにこだわっています。しかし、こだわるばかりでは値段が高くなりすぎますから、どこかで手を抜かなければならない。今回、最終的にきちんと利益を出して次の製品を作っていけるコスト構造を作れたので、今後も継続してNEX-5レベルの製品を作り続けていくことはできます。


サイバーショットとは異なる機能とインターフェイス

――モノとしてのディテールやデザイン性、コンパクトさに徹底的に拘ったわけですが、一方でレフレックスミラーのないカメラには、一眼レフカメラにはない機能も入れやすい。利点と弱点が混在するわけですが、機能的な特徴はどのように仕上げようと考えましたか? サイバーショットが持つ機能は、やろうと思えば全部入れることはできる。しかしレンズ交換式カメラの位置付けを考えると、もう少し違うテイストも必要でしょう。

 システムとしてサイバーショットで開発したものを引き継ぐのは簡単ですが、Eマウントレンズを使った高画質カメラというカテゴリで必要とされる機能を考えなければなりませんでした。背景ボケコントロールはその一つです。ユーザーインターフェイスに関しても、そのままサイバーショットからキャリーオーバーするのではなく、独自のものを構築していかなければならない。開発期間が決まっているので、力をかける優先順位を付けていかなければなりません。まずは最低限必要な機能、すでに技術としては確立しているサイバーショット的機能は必須として、その他、社内で開発している機能について開発と製品への実装を並行して行ないました。3D撮影機能もそうで、企画段階では入れられるかどうか、タイミング的にはギリギリでした。

――常時、撮影対象をデジタルデータとしてキャプチャーし続けていることを一眼レフカメラに対する利点として考えると、サイバーショットとは異なる方向での機能開発にも期待したい。

 今回の製品でやったことは、まずイメージセンサーの大きさから来る背景ボケ。これを誰もがコントロールできるようにしようということ。それ以外の多くの機能はサイバーショットにも入っていたものです。また、撮影方法や機能の使い方に関しては取扱説明書が不要なくらい、オンスクリーンでの解説を丁寧に表示させるようにしています。こうした操作ガイドは、今後も時間をかけて熟成させていきたいと思います。それ以上のことに関しては、アイディアはありますが、ここでは申し上げられません。

――操作ガイドを今後も充実させていくとのことですが、多くの操作をプログラマブルボタンに割り当てたユーザーインターフェイスは、場合によってはやや煩雑に感じることもあります。おまかせオートから別モードに遷移する際には、かならずメインメニューからモード選択に入らなければならなかったり(おまかせオート時は背景ボケコントロールのボタンが割り当てられているため)、丁寧な表示と誘導の反面、ダイレクトな機能へのアクセスがやや物足りない。これらはファームウェアアップデートなどで、もう少し洗練できませんか?

 単純にソフトウェアの問題だけではない場合もあるので、約束はできません。しかし最初の製品ですし、すべてとは言わなくとも、なんとか重要なアップデートは提供していきたいと思っています。すでに3D撮影機能に関してはアップデート提供を行ないましたから。どこまでできるのか、いやここまでできるんだというギリギリのところを検討して取り組みたいと思います。

――例えばプログラマブルボタン中心のユーザーインターフェイスを活かして、エキスパート向けと初心者向けでメニューや細かな操作設定を変えるなどはできませんか
?

 なんとかやれないか? とは考えているのですが、今回の製品に関しては、まずはレンズ交換式カメラを経験したことがない人に思い切り振ったユーザーインターフェイスでつくっています。しかし、なんとか対策は施したいと考えているので期待してください。

――今後、スチルカメラのNEXを進化させていく方向として、サイバーショットのように自動化を突き詰めていくのでしょうか。それともユーザーがカメラ撮影のテクニックを駆使することをアシストするような機能や情報の表示といったクリエイティビティを上げる方向で進めたいと考えていますか?

 サイバーショットに近い考え方で考えています。可能な限りフルオートで、しかし、そこにユーザーの意志を表現できる。一眼レフカメラに対しては、難しそう、大きい、重いといったイメージがあり、そこが購入時の壁になっているので、コンパクトデジタルカメラの延長線で使えることは大切だと考えています。


Eマウントレンズを用いた新しい分野の商品を表現したい

――今後のレンズラインナップの考え方は?

 まず、標準レンズは18mmから55mmのズームが一番いいと決め、それに組み合わせるパンケーキレンズは、ズームの広角端よりもワイドの方が使い勝手がいいだろうという順番で考え、16mmという焦点距離にしました。

 今後のラインナップの考え方としては、一眼レフカメラのレンズラインナップのように、あらゆる撮影領域のチャートをレンズで埋めていくのではなく、NEX-5/3を使ってくれるお客さんたちの使い方に合った特徴的なレンズを準備するのがいいのかなと思っています。

 正直なところ、どんなタイプの方々に、どのような受け入れられ方をするのか予想できていない面もあったのですが、製品を発売したことでユーザー層も見えてきました。Aマウントレンズの世界をもう一つ作るのではなく、Eマウント独自の世界を作っていきます。

――NEX-VG10が海外で発表された今にして思えば、なるほどあの手ブレ補正機能付18-200mmレンズはカムコーダーに合わせて開発していたのかと納得しました。NEX-5にはちょっとバランスが悪いですものね。ボディの用途に合わせて展開するということですね。

 はい、カムコーダ向けには、カムコーダに向いた焦点域のレンズを提供し、レンズマウントの互換性を確保したまま、また別の新しい世界を作っていきます。

今秋発売予定というE 18-200mm F3.5-6.3 OSSNEX-5に装着するとこんな見た目になる

――NEX-VG10とNEX-5/3と同時に開発を開始していたのでしょうか?

 いえ、この2つは別々に開発されていたものです。NEX-5/3は“超小型のレンズ交換式一眼カメラを作りたい”、NEX-VG10は“大判イメージセンサーでレンズ交換可能なカムコーダーをより幅広いユーザーの方に提供したい”という。異なる狙いから開発がスタートしたものです。

――Eマウントの世界を拡げていくには、Aマウントレンズの活用が必要になってくると思うのですが、 Eマウントと電子接点と通信プロトコルを共通化するなど、Aマウントの仕様拡張は検討していませんか?

 Aマウントの拡張に限らず、さまざまな可能性を検討しています。しかし、ここでは具体的なコメントはできません。

――Eマウントの仕様として、レンズの収差補正情報の通信などは仕様に入っているのでしょうか?

 ごく一部の収差補正は行っています。しかし、あまり大胆なものは入れていません。どこまで入れていいものか?という気持ちもありますから。ただし、今後もリアルタイム収差補正に消極的というわけではなく、今後はさまざまな選択肢があると思っています。収差補正に必要な情報はレンズとの通信プロトコルに盛りこんであります。

――スチルカメラ、カムコーダとNEXシリーズが発表されましたが、次にやりたいことは?

 まだ具体的な話はできませんが、Eマウントレンズを使っていろいろなことができそうだという可能性を感じているので、レンズを用いた新しい分野の商品を表現したいと考えています。コンパクトデジタルカメラ、一眼レフカメラ、カムコーダという各分野の商品を開発してきた経験を生かし、従来の形にとらわれない商品づくりに挑戦していきます。

(本田雅一)

2010/7/23 13:41