写真展レポート

「マルク・リブーの世界」「マルク・リブーが見た日本の女性」レポート

エッフェル塔のペンキ工 ©Marc Riboud 「マルク・リブーの世界」(ライカギャラリー東京)より

マルク・リブーはアンリ・カルティエ=ブレッソンに写真の手ほどきを受け、その後、マグナム・フォトに参画した。写真家になってからは、自分の好奇心に従い訪れたい国を選び、そこに住む人たちの姿を写真に収めてきた。

撮影に関わるアシスタントは付けたことがなく、旅は基本的に一人で行動した。日記の類も残していないので、旅の間の彼の行動は残された写真から類推するしかない。そう、多くの人が憧れる写真家像を刺激してくれる1人なのだ。

今回、彼の代表作と、1958年に日本で撮影された女性たちがライカギャラリー東京と京都で開催されている。

ライカギャラリー東京「マルク・リブーの世界」の様子。

市井の人々を見続けて

リブーの写真の魅力は、世界中の誰もが一瞥で分かるインパクトある瞬間を捉えていることだ。現在、マルク・リブー オフィスで作品の管理を行なうロレーヌ・デュレさんは10歳の時、小学校の国語の授業でリブーの写真を初めて目にしたという。

ベトナムの反戦デモに参加していた女性が、居並ぶ米兵に一輪の花を掲げて立つ姿を撮影した1枚だ。教師は写真の左半分、兵士の姿を隠して子どもたちに見せ、感想を書かせた。

「次の週、写真の全てを目にして、みんなが驚きました」

ロレーヌ・デュレさん。8年前からリブーのアシスタントとして作品の管理などを行なってきた。

リブーがずっと持ち続けていたのは市井の人々への関心とシンパシーだろう。街を自由に動き回る中で、被写体を見つけ、その場の空気を乱すことなく瞬間を切り取る。

それはリブーがもともと備えていた天性なのか、ブレッソンとの出会いで開花したものなのか。少し想像したくなる。

ちなみにブレッソンとは15歳差。そのつながりは、互いの兄弟姉妹が友人同士だったということだったらしい。

左側の1枚はリブーが珍しく演出して撮影した写真という。リブーはモデルである女性の手にブレッソンの写真集を持たせた。

裸の女性を鏡越しに狙っていたその瞬間、猫がやってきて、ごろりと横になった。女性と猫のポーズがどこか似通っているのが可笑しい。

マグナムに参加。そして日本へ

エッフェル塔の鉄塔で、踊るように作業をするペンキ工を捉えた1枚が写真家マルク・リブーを誕生させた。初めて誌面を飾り、マグナム・フォトに誘われるきっかけにもなった。

リブーが正会員になった1955年は、マグナムが発足して8年目。メンバーは10数名で、バート・グリン、デニス・ストック、エリオット・アーウィットら才能ある若い写真家たちが顔を合わせ、互いに影響を与えていた。

リブーは1957年、初めて一人で1年を超す旅に出た。行き先は「フランスから離れたところに行きたかった」ということだったらしい。

骨董店のウィンドー、中国、1965年 ©Marc Riboud

トルコ、インド、中国、そして日本へ初めて足を踏み入れたのは1958年だ。

「行った先で気に入ると何度も通う。旅先からネガをマグナムのオフィスに送る。基本はリブーの個人的な旅ですが、その場所にいるならとマグナムから撮影の依頼が送られることもあったようですし、リブー自身、配信されやすいテーマを選んで撮ることもあったようです」

リブーが撮影した日本の女性たちのスナップポートレートは、1959年当時、海外で写真集『Women of Japan』にまとめられているが、日本で発表されるのは初めてとなる。

レストラン、東京、1958年 ©Marc Riboud

リブーの写真を見つめていると、半世紀以上も前、アジア諸国などを旅した異邦人の驚き、発見の感動が伝わってくる。ただ日本人としてはそこに上手く消化できないもどかしさ、居心地の悪さも感じるかもしれない。

マルク・リブーの世界

会場

ライカギャラリー東京
東京都中央区銀座6-4-1

開催期間

2017年9月22日(金)〜2018年1月14日(日)

開催時間

11時〜19時

休館

月曜日

入場料

無料

マルク・リブーが見た日本の女性

会場

ライカギャラリー京都
京都市東山区祇園町南側570-120

開催期間

2017年9月23日(土)〜2018年1月18日(木)

開催時間

11時〜19時

休館

月曜日

入場料

無料

市井康延

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。ここ数年で、新しいギャラリーが随分と増えてきた。若手写真家の自主ギャラリー、アート志向の画廊系ギャラリーなど、そのカラーもさまざまだ。必見の写真展を見落とさないように、東京フォト散歩でギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。