写真展

英伸三写真展「文革の残影-中国 江南の古鎮を訪ね歩く-」

(ニコンサロン)

1965年の夏、中国側の呼びかけで行なわれた日中青年大交流に日本ジャーナリスト会議代表団の一員として作者ははじめて中国を訪れた。日中国交が正常化される7年前のことで、北京、上海などの都市や農村を約一カ月間まわり、工場、人民公社などの生産現場で社会主義国家の建設に励む人々の姿を撮影した。

その翌年の5月、毛沢東共産党主席によってプロレタリア文化大革命(文革)が発動された。劉少奇国家主席ほかの党要人、学術権威者たちをブルジョア反動思想路線を歩むものとして徹底批判して逮捕、拘禁する過激な階級闘争が中国全土で展開された。

その後68年には文革の尖兵、紅衛兵や都市の知識青年など2,000万人の若者が動員され、大規模な農村への下放が強行された。しかし毛沢東の威信を背景にのしあがった、いわゆる四人組が76年9月の毛沢東の死後逮捕されるにおよび、66年から10年間、当時の人口7億の人々を混乱におとしいれた文革は終焉を告げた。やがて中国は鄧小平主導による経済発展を第一とする時代へと大転換を遂げた。

作者は92年から上海や浙江省の江南一帯の明、清時代の面影を残す古鎮を訪ねて、路線の変更がもたらした街のたたずまいや人々の暮らしの撮影を続けている。その中で、民家のしっくいや煉瓦の壁、工場の建物などに赤ペンキで肉太に書かれた政治スローガンや毛沢東語録の一節が残っているのに気付いた。文革発動以来40数年、雨に打たれ、風にさらされ、文字は赤い汚れとしか見えないものも多いが、「毛沢東思想万歳」とはっきり読めるものもある。毛沢東の肖像の壁画が残されている農家もあった。今、文革は完全否定され、当時の革命思想も過去の歴史のなかに埋没したかのようにみえる。しかし、全土で激しく展開された政治運動は残影として刻まれ、混乱と苦悩の日々のあったことを静かに物語っている。

今回の展示では、文革の残影をとらえた作品に、古鎮での日常の暮らしの場面を撮った作品を加えて構成した。カラー約58点。

(展示情報より)

会場・スケジュールなど

  • ・会場:銀座ニコンサロン
  • ・住所:東京都中央区銀座7-10-1STRATA GINZA(ストラータ ギンザ)1・2階
  • ・会期:2015年9月23日水曜日~2015年10月6日火曜日
  • ・時間:10時30分~18時30分(最終日は15時まで)
  • ・休館:会期中無休
  • ・入場:無料

  • ・会場:大阪ニコンサロン(追記)
  • ・住所:大阪市北区梅田2-2-2ヒルトンプラザウエスト・オフィスタワー13階
  • ・会期:2015年11月26日木曜日~2015年12月2日水曜日
  • ・時間:10時30分~18時30分(最終日は15時まで)
  • ・休館:会期中無休
  • ・入場:無料

作者プロフィール

1936年千葉県千葉市生まれ。東京綜合写真専門学校卒。日本写真家協会会員。現代写真研究所所長。農村問題などを通じて日本社会の姿を追い続ける。92年から中国の上海と江南一帯の明、清 時代の面影を残す運河沿いの鎮を訪ね、「改革・開放」の近代化政策によって姿を変えていく街のたたずまいと人々の暮らしぶりを記録している。

写真集に、71年『農村からの証言』(朝日新聞社)、78年『1700人の交響詩』(高文研)、79年『子どもたちの四季』(三省堂)、 83年『偏(や)東風(ませ)に吹かれた村』(家の光協会)、84年『新富嶽百景』(岩波書店)、89年『英伸三が撮ったふるさときゃらばん』(晩聲社)、89年『日本の農村に何が起こったか』(大月書店)、90年『一所懸命の時代』(大月書店)、

95年『町工場・鋼彩百景』(日本能率協会マネジメントセンター)、 2001年『上海(しゃんはい)放生(ほうじょう)橋(ばし)故事(ものがたり)』(アートダイジェスト)、06年『上海(シャンハイの)天空下(そらのした)』(日本カメラ社)、07年『里と農の記憶』(農林統計協会)、12年『桜狩り 昭和篇』(日本写真企画)などがある。

受賞歴に、65年個展『盲人―その閉ざされた社会』と「アサヒカメラ」の《農村電子工業》で日本写真批評家協会新人賞、71年写真集『農村からの証言』で日本ジャーナリスト会議奨励賞、82年写真展『桑原史成 英 伸三ドキュメント二人展』で第7回伊奈信男賞、83年写真絵本『みず』でボローニャ国際図書展グラフィック賞などがある。

(本誌:河野知佳)