ソニー、新型撮像素子「積層型CMOSイメージセンサー」を開発
ソニーは23日、新型撮像素子「積層型CMOSイメージセンサー」を開発したと発表した。同社では「次世代の裏面照射型CMOSセンサー」と位置づける。まずは携帯電話向けとして、3月から順次サンプル出荷を開始する。
積層型CMOSイメージセンサーの構成 |
裏面照射型CMOSセンサーは、上部の画素部分(配線層を含む)と下部の支持基板からなる2階建て構造になっている。今回、画素と同じ層にあった信号処理回路を支持基板の代わりに下層に移動。処理回路の上にセンサーが乗る「積層型」を実現した。従来の支持基板は、回路の無い単なるシリコンの板だった。ソニーでは下層にできる処理回路のスペースを「イメージセンサーの新宝島」と表現するほどの自信を見せている。
従来よりも信号処理回路に大きな面積を割けるため、大規模な信号処理回路を搭載できるようになる。加えて、画素部分と信号処理回路部分を別々のプロセスで製造できるため、高画質化に特化した製造プロセスを採用できる。また、センサーチップの小型化もできる。
従来のCMOSセンサーでは、同一チップ上に画素部分とアナログ信号処理回路があったため、大規模な処理回路を搭載することが難しかった。今回製品化するのは1/3.06型と1/4型だが、将来的にはコンパクトデジタルカメラ用の1/2.3型や1/1.7型にも応用できるとする。
ただ積層化が最適なのは1/4~1/2.3型で、1/1.7型については画像処理回路部分にどれくらい機能を積む必要性があるかによるとしている。画像処理回路規模の例として、45nmプロセスを採用した場合、1/2.3型センサーにハイエンドクラスとされる1,600万ゲートのDSPを搭載できるという。
これまでのCMOSセンサーにおいて、画素部分(Sensor)と画像処理回路(Logic)を同一チップで設計・製造することは相性が悪かった | エンドユーザー、セットメーカー、ソニーそれぞれのメリット |
積層型CMOSセンサーに搭載できる回路規模の可能性 | 小型化の比較 |
信号処理回路を積むスペースに余裕ができたため、新たに「RGBWコーディング」機能と「HDR(ハイダイナミックレンジ)ムービー」機能を撮像素子に内蔵した。
RGBWコーディング機能は、画素のフィルター配列で「RGB」に「W」(白)画素を加えたもの。白画素で輝度情報を得るため、高感度化できる。これまで、白画素を追加すると色再現性が劣る問題があったが、信号処理の改善で従来と同等の色再現性が可能になったとしている。RGBWコーディングでは全画素の半分ほどが白画素となっており、従来の約1.6倍明るくなったという。なお、センサー内部でリモザイクする際に一般的なフィルター配列であるベイヤー方式の信号にして出力するため、携帯電話やカメラメーカー(セットメーカー)はこれまでのDSPに直接接続できる。
ベイヤー方式の信号で出力可能 | 従来方式との比較 |
HDRムービー機能は、動画撮影時にダイナミックレンジを拡大できる機能。撮影時に画素の2ラインごとに露出を変えて撮影した上で、最適な信号処理を行なうことで、ダイナミックレンジを拡大するもの。デジタルカメラなどによっては、静止画撮影時に複数枚を連写して合成することでダイナミックレンジを拡大する機種もあるが、HDムービー機能のような方法によって、動画撮影でダイナミックレンジを拡大できる機能は初めてだとしている。RGBWコーディング機能と同様にセンサー側で階調変換処理を行なうため、セットメーカーは従来のDSPで対応できる。
HDRムービーではラインごとに露出時間を変えて撮影する | 従来と同じ信号で出力できる |
HDRムービー機能の比較。左が従来方式、右がHDRムービー機能で撮影 |
こうした付加機能は、ソニーの知財を活用して様々な種類を投入できるとする。3D撮影機能も将来の可能性の1つだとする。また、他社の画像処理技術をブラックボックスとして受け取り、センサー内に実装することも可能だとしている。
コスト面にもメリットがあるとする。CMOSセンサーは、一般的なロジックLSIに比べて設計には2倍程度の工数が掛かり投資額がかさむ問題があった。今回は画素部分と画像処理回路を別々に設計できるため投資額も抑えられる。また、新型センサーはチップサイズが小型になるため、製造コストも下がる。製造設備のキャパシティは従来の半分程度になるという。さらには、画像処理回路部分を外注することでの投資額抑制も可能だとする。
製品の出荷スケジュール |
製品展開としては、RGBWコーディング機能とHDRムービー機能を省いた1/4型有効約800万画素タイプを3月からサンプル出荷する。その後、RGBWコーディングとHDRムービー機能を搭載した1/3.06型有効約1,300万画素タイプを6月から、1/4型有効約800万画素タイプを8月からサンプル出荷する。ソニーでは、新型センサーを搭載した最初の製品が、2012年の年末商戦から店頭に並ぶとみている。
同日都内で開催した発表会で、ソニー業務執行役員EVP 半導体事業本部 本部長 斎藤瑞氏は、「ソニーはイメージセンサーで他社を2歩も3歩もリードしていると言っているが、そのエビデンスになる。どのメーカーもやっていない技術であり、意義は大きい。小型化は大きなフィーチャーだが、それ以外にも大きな可能性を秘めている。こうした技術でソニーの復活に邁進していきたい」と挨拶した。
ソニー業務執行役員EVP 半導体事業本部 本部長 斎藤瑞氏 |
また、センサーの説明を行なったソニー業務執行役員SVP 半導体事業本部 イメージセンサ事業部 事業部長の上田康弘氏は、「Exmor Rの進化形であり、センサーの性能を飛躍的に上げられる技術」と紹介した。
ソニー業務執行役員SVP 半導体事業本部 イメージセンサ事業部 事業部長の上田康弘氏。手にしているのは従来のCMOSセンサーをイメージした紙。黄色がセンサー、水色が画像処理回路、茶色が支持基板に当たる | 新型センサーの今後の展開 |
実用化が今になった理由としては、「画素層の裏に、凹凸のある信号処理回路を配置することは従来とはフェーズの異なる技術。画像処理回路が出す熱やノイズがセンサーに及ぼす影響を考慮しなければならなず、技術的なブレイクスルーが多数あった」とした。発熱に関しては、スポット的にならないように回路を工夫することなどで解決した。なお積層化にはノウハウはあるものの、プロセスとしてはさほど複雑なものではないという。
スマートフォン用については、すべてで積層型が採用されるよう努力していくという。また、デジタルカメラやデジタルビデオカメラのほか、監視用や産業用カメラにも採用を広げていきたいとした。
2012/1/23 18:30