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ベクノスCEOが語る、全天球カメラの普及に必要なものとは

編集・共有アプリ「IQUISPIN」を先行リリース カメラの発売時期は?

リコー発のスタートアップ企業であるベクノスが、全天球カメラで撮影した写真をもとに、ショートビデオを簡単に作成し、SNSで共有できるアプリ「IQUISPIN(イクイスピン)」の提供を開始した。

ベクノスでは全天球カメラの開発を進めていることを明らかにしているが、本体を発売する前に、アプリから市場に製品を投入した格好だ。その狙いはなにか。また、IQUISPINのこだわりはどこにあるのか。そして、ベクノスの全天球カメラの投入はいつになるのか。ベクノスの生方秀直CEOに話を聞いた。

ベクノスの生方秀直CEO

IQUISPINは、全天球カメラで撮影された360度の写真を読み込み、カメラモーションや、エフェクトを付加させることで、簡単にショートビデオが作成できるアプリだ。編集した動画は、正方形のショートビデオとして保存し、SNSやメールなどで手軽に共有することが可能になっている。

これまで全天球カメラで撮影した写真は、仕様の問題からSNSやメールを利用した共有が難しく、全天球カメラならではの特徴的な写真が撮影できても、多くの人と一緒に楽しむという点ではハードルがあった。

IQUISPINでは、Equirectangular Projection Formatに対応した画像であれば、リコーのTHETAをはじめ、あらゆるメーカーの全天球カメラで撮影した写真を、編集したり、共有したりできる点が特徴だ。

ベクノスの生方秀直CEOは、「これまでは、全天球カメラで写真を撮影しても、写真を保存したままという状態の人が多かった。だが、IQUISPINを使用することで、360度の写真が、クルクルまわり、エフェクトによる楽しいショートビデオを、数回の操作で作成できる。技術に詳しくない人でも、360度映像の楽しさを体験でき、インパクトがある360度映像を多くの人とわかちあえるようになる。新たに撮影した写真はもちろん、これまで撮りためた360度写真を再び生かしてもらえる」とする。

IQUISPINによって、360度の写真が3D化され、10種類以上のカメラモーションによって、360度回転する動画となる。そして、そこで使用されるエフェクトも、3Dによって描かれており、これまでにはない立体的なショートビデオを作成し、共有できる。

IQUISPIN Example movie 1
IQUISPIN Example movie 2
IQUISPIN Example movie 3

「見た目の楽しさや、見ていて気持ちがいいものに仕上げられる点にこだわった。そのために、才能を持った人材を採用し、自分たちにできないところは外部の力も活用した。3D空間に再配置し、3Dによるエフェクトが利用でき、それを将来に向けて拡張できるソフトウェアアーキテクチャーの確立に苦労したが、これが完成したことで、今後も、カメラモーションやエフェクトの種類を増やしたり、機能を拡張していくことができる」とする。

全天球カメラの楽しさを知ってもらう土壌づくり

IQUISPINという名称は、全天球空間を象徴する「Equirectangular」という言葉の「イクイ」の部分を使いながら、それをひとひねりし、「IQUI」という文字に置き換えた。Qという文字には、全天球の「球」という意味も掛け合わせたという。そして、360度回転させるという意味で「SPIN」を組み合わせた。「多くの候補を考えたが、単純に360 SPINというような名称は陳腐化したものに感じられると思い、IQUISPINというネーミングに辿り着いた」という。

今回の取材でも生方CEOは、なんども「クルクルまわす」という表現を用いていた。IQUISPINの特徴は、360度の画像を、3D環境でクルクルまわすという点である。まさに、それを体現したネーミングだといえる。

ベクノスは、2019年8月に、世界初の⺠生用全天球カメラである「THETA」を開発したコアメンバーが中心となって設立した、リコー発のスタートアップ企業だ。生方CEOは、THETAのプロジェクトリーダーを務めていた人物でもある。

ベクノスではすでに、新たな全天球カメラの開発を行っていることを明らかにしているが、今回のIQUISPINアプリが、最初に市場投入されるものとなった。

ベクノスが開発中の全天球カメラ

なぜ、ベクノスは、全天球カメラ本体よりも前に、IQUISPINを投入したのか。

生方CEOは、「2013年にTHETAを開発し、世界中の多くの人たちに全天球カメラを利用してもらったが、楽しい写真が撮影できても、これを広げるところにハードルがあり、私自身、悶々としていた。利用者も、全天球カメラをもっと使いたいという気持ちが盛り上がらない状況にあったのも確かだ。これを解決することが、全天球カメラをより多くの人に活用してもらうためには重要だと感じていた」とする。そして、「IQUISPINを使ってもらうことで、『全天球カメラの楽しさはこれだね』ということを理解してもらいたいと思っている」と語る。

今後、ベクノスが全天球カメラを発売する上で、その楽しさを理解してもらう土壌づくりのためにもIQUISPINのようなアプリの存在が必要であり、利用者にとっても、360度画像の活用方法のひとつとして具体的なイメージが生まれ、全天球カメラの普及を促すきっかけにもなると想定している。Instagramなどに、IQUISPINを活用した動画が掲載されると、これまでとは違ったインパクトのある映像に驚く人が多いかもしれない。

「IQUISPINは、新たなビジュアル体験を提案できるものであり、全天球カメラの市場全体を広げるための起爆剤にしたい。そこにベクノスの役割があり、IQUISPINの役割がある。すべての全天球カメラユーザーの定番的なツールを目指したい」(生方CEO)と自信をみせる。

"ペン型全天球カメラ"の発売はいつ?

ところで、注目を集めているベクノスの全天球カメラの発売はどうなるのだろうか。

生方CEOは、「まもなく発表できる段階にある」とする。

ベクノスの全天球カメラは、中国で生産を行う予定だが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって、直接、中国の現地に出向いて、エンジニア同士が細かい部分のすり合わせを行えないという状況にある。そこでベクノスでは、フルリモートの体制を敷き、生方CEOを含めたエンジニア同士が調整を進め、中国から日本に何度も試作品や部品を送り、完成度を高めるという作業を繰り返したという。

「オンライン会議やメール、Slackなどを活用したフルリモートの体制でここまで詰めていったのは初めてのこと。生産の立ち上げという点では、画期的な出来事になる」と振り返る。

当初から明確にしていたペン型のスリムなデザインや、側面に3つ、天面に1つで構成される合計4つのレンズなどには変更がないという。

実は、今回のIQUISPINの公開にあわせて、ベクノスでは、ショートムービーコンテストを実施する。入賞者には、ベクノスの全天球カメラをプレゼントする予定であり、50台を用意するという。この応募締め切りが9月30日となっている。実際の製品をプレゼントするという企画だけに、この前後が発表のタイミングになるかもしれない。生方CEOもそのあたりは強く否定しない。

いよいよベクノスの全天球カメラの正式発表されるタイミングに入ってきたといえるだろう。IQUISPINの公開とともに、まもなく迎える全天球カメラの発表によって、ベクノスの動きが本格化することになる。

大河原克行