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¥3,000で写真売りましょ! 買いましょ! 展 The 2nd

――写真展リアルタイムレポート

「毎回が実験なんだ」と横木さん、「写真の価値とは何かといった基本的な部分から問い直したい気持ちもあるんだよ」と五味さんは言う。写真は左から水谷充氏、横木安良夫氏、五味彬氏、岡嶋和幸氏、hana氏

 昨年に引き続き、今年も「¥3,000で写真売りましょ! 買いましょ! 展 The 2nd」が開催中だ。ここはその名の通り、プロ、アマ問わず、出展者がプリントを1点3,000円で販売している。

 前回は141名が参加し、一口10点ずつのプリントを出し、約400点が売れた。今年はさらに多い161名が名乗りを上げている。

「写真プリントを誰もが気軽に買って楽しむ文化を創りたい。これはその第一歩なんだ」と主催者の一人である写真家の横木安良夫さんは言う。出品された作品は、昨年に比べて「全体的に商品としてのクオリティが上がった」と運営を手がける写真家たちは口をそろえた。それが主催者側の贔屓目かどうか、自ら足を運んで確かめてみよう。そんな一人一人の好奇心が、日本のフォトアート・シーンを少しずつ変えていくのだ。

 会期は2009年10月6日〜18日。開場時間は11時〜19時。会場のギャラリーコスモスは東京都目黒区下目黒3-1-22 谷本ビル3F。問合せは03-3495-4218。

写真をアート商品として流通させたい

 今回、展示開始数日目に、まとまった数のプリントを購入していった人がいたそうだ。そのどれもがきれいなイメージの写真を選んでいった。

「多分、インテリアショップか何かの経営者で、店内の装飾に使うんじゃないかと思うんだ」と、もう一人の主催者である五味さんは来場者観察と、その推論を披瀝する。

 それを受け、運営をサポートする写真家の一人である水谷充さんは、「今回、友人の建築家が来て、個人住宅の引渡しの時、施主にプレゼントするってプリントを買っていった」と話す。

「写真がそうしたアート商品として流通していなければ、そんな使われ方も生まれない。このプロジェクトは、その土台づくりを始めたところ。それが、どのような形になるかは市場が決めることだと思います」

写真展とは根本的に異なる

 今回、ギャラリーの壁面には、ほぼ隙間なくプリントが並べられた。1点ずつをビニールに収め、タテ位置でフックにかけている。1人の割り当ては4カ所だから、何枚かプリントが重なった状態で展示は始められている。

 昨年はブック形式での設置だったため、「見やすくなった」と感じる人が多いようだ。すべてプリントをタテ位置で並べることは、当初、主催者側も検討を重ねた。

「実際に途中まで展示してから、ヨコ位置写真は右を下に向け設置しなおした。ShINC.のロゴが入ったシールをビニール表面に貼ることで、作品の展示ではなく、商品の陳列というイメージになっていると思う」と五味彬さんは説明する。

 実際、来場者は気になるプリントをただ眺めるだけでなく、手にとって見る。根本的に通常の写真展と違うのだ。

 展示スペースも目の高さから、床上までフルに使っている。下段のプリントは、しゃがまないと見にくいが、「今回の場合は、それがマイナスになっていない」と五味さんは言い切る。

「視覚心理学で人は視線を左から右に送り、次に上から下に流れ、下で止まる。だから電光掲示板は左に向けて文字が流れるし、ポスターなどへ細かい情報は下段に配置するのです。だから今回は、展示の流れを反時計回りにして、来場者の足を止めさせるようにしました」

 ギャラリーに滞在していた約2時間だけでも、通常の写真展に比べ、1人の滞留時間が長く、しゃがみこんでプリントに手を伸ばす姿も見られ、その狙いはうまく通じているようだ。

額装用の額や印画紙なども販売する 今年は使用ペーパーのバリエーションも豊富だ。「モチーフとの相性とか、プロとしても参考になった」(横木さん)そうだ。

日本ならではのアート市場の形は?

 欧米は写真のアートマーケットが確立していると思われているが、その形は国によって違いがあるようだ。「写真がオークションなどで売買されるのはニューヨーク、ベルリン、オランダ、スイスぐらいじゃないかな」と五味さんは言う。

 今回も出展している写真家の大和田良さんは、スイス・ローザンヌのエリゼ美術館が主催する若手写真家展で見出され、ベルリンにあるルマスギャラリーと契約を結んだ。

「そこはたくさんの写真家の作品を扱い、ラムダプリントを1点約8万円で販売しているんだ。これはインテリアの一部として楽しむ人たちに向けた商品だよね。だからちょっとしたギフトにも、写真プリントが使われたりするんだ」

 五味さんの友人だったフランス人のアートディレクターは、自宅の壁に何十万もするプリントを無造作に掛けていたという。

「ヘルムート・ニュートンとかの作品に、西日が当たっている。彼は『楽しむために買ったんだから、構わない』って笑っていたよ」

 例えば日本では、部屋や庭を花で彩る人たちがいる。だから街の身近な場所に、生花店や園芸ショップが店舗を構えているのだ。

「ネット販売が登場し、商品カタログなど印刷物が激減したことで、広告カメラマンの需要は一気になくなった。これから写真家はアート分野に活路を見出すしかないんだよ」とも五味さんは指摘する。

 ちなみに本展の出品者のプロフィールなど、詳細な分析はしていないが、東京で活動するカメラマンや、地方の営業写真館、ブライダル関係で仕事をする人が多いという。

「去年はまったく売れなくて、さすがにじわじわとへこんでいった」と水谷さん。今年は売れそうなものと、そうでないイメージを混ぜて出品したそうだ 去年はお店プリントで出品した人もいたとか。今年は参加者の中に、プリントを売る基準が明確になり、プリントのクオリティが格段に上がったという。モチーフや色などで、展示構成は分けた

来場者投票で「ShINC. Prize」を決める

 今回、新たな試みとして『ShINC. Prize』を新設した。参加者161名の中から20名を選び、その出品作品を改めてこのギャラリーに展示する。期間中、来場者に投票をしてもらい、上位3名を表彰するのだ。

 その会期は11月17日〜29日。入賞者の発表は最終日に行なう。

「かつて世界的なデザイナーである倉俣史朗さんに作ってもらったトロフィがあり、それに入賞者の名前を刻む。トロフィはギャラリーコスモスに置き、来年以降、そこに名前を増やしていければいいね」と五味さん。

 写真プリントをアート商品として売り買いする場であると同時に、新たな才能を見出せる場にもしたい。第2回にして、主催者側にそんな願望が生まれてきたのだ。

この先、どう発展していくのか?

 この試みについて、一部反対意見も根強い。「去年は批判的に言う人が多かった」と横木さんが口にすると、五味さんは「今年の方がもっと強い。写真の価格破壊をしているって、ギャラリー関係者からずいぶんと言われたよ」と話す。

 横木さんが1985年にニューヨークへ渡った時、著名写真家のプリントが5万円程度で多く売られていたという。アメリカではそれ以前から写真のアートマーケットは始まっており、長い黎明期があったと指摘する。

「僕たちが対象としている人たちは、ギャラリーのお客さんとはまた別だと思う。価値があるから買うんじゃなくて、この写真が好きだから買うという人を作って行きたい。その中には先々、アートマーケットで作品を買う人も出てくるだろうと思うよ。日本ならではの歴史を作りたいね」と横木さん。

 昨年、この展示のオープニングに集まった人の大半は、一度もプリントを買ったことのない人だった。去年、今年で、買ったことのある人が数百人ずつ、確実に増えているのだ。その先にあるものは……。進んでいかなければわからないのだ。





市井康延
(いちいやすのぶ)1963年東京生まれ。4月某日、4回目になるギャラリーツアーを開催。老若男女の写真ファンと写真展を巡り、作品を鑑賞しつつ作家さんやキュレーターさんのお話を聞く会です。始めた頃、見慣れぬアート系の作品に戸惑っていた参加者も、今は自分の鑑賞眼をもって空間を楽しむようになりました。その進歩の程は驚嘆すべきものがあります。写真展めぐりの前には東京フォト散歩をご覧ください。開催情報もお気軽にどうぞ。

2009/10/13 20:07


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