トピック

インタビュー:「撮る」から「残す」までを一貫して支えるOWC

CFexpress戦略と「Atlas」シリーズの真価

CFexpressカードに興味があるのなら、勢いのあるブランドを知っておくべき。なぜなら、SDメモリーカードとは異なる視点で製品選びをしなければならないためだ。

そのひとつが、Macユーザーにおなじみの「OWC」。メモリーモジュールやSSD、Thunderboltドックで知られる同社は、近年CFexpressやSDメモリーカードなど、撮影現場を支えるメモリーカード市場にも本格参入している。

今回お話を伺ったのは、OWCのマーケティングVP、Chris Kooistra氏。写真・映像以外の趣味には1952年製フェンダー・テレキャスターの復刻モデルをはじめ、多くのギターを所有する愛好家でもあり、音楽を日常的に楽しむ人物でもある。

そんなChris氏に、OWCが考えるCFexpressの意義について、じっくりと語っていただいた。

ブランド名に込められた“あらたな別の世界”への想い

OWCのマーケティングVPを務めるChris Kooistra氏

まず気になるのが「OWC」というブランド名の由来。

Chris氏によれば、OWCは「Other World Computing」の略であり、創業者でありCEOのLarry氏がSFや宇宙に強い関心を抱いていたことが背景にあるという。

Chris Kooistra氏(以下:Chris)“アザーワールド”という言葉には、これまでにない発想や、まったく新しい次元の製品を生み出したいという想いが込められています。単なるテクノロジー企業ではなく、未来を切り拓く存在でありたい——そんな願いをこの名前に託しました。

なお、こうした思想は製品名にも反映されている。たとえば、内蔵SSDの「Mercury」シリーズや、後述するメモリーカード「Atlas」シリーズなどは、その象徴的な例といえるだろう。

Chris氏:当社はもともと、メモリーモジュールなどMac向けのアップグレード製品を提供していました。しかし現在では、ポータブルSSD、ドッキングステーション、外付けストレージ、NAS、各種アクセサリーなど、幅広い製品群を展開しています。これらの多くはWindowsやLinux環境でも利用可能です。

かつてはMacユーザーにとって信頼性の高いブランドとして知られていたOWCだが、今では“Mac専用”という枠を超え、より多くのクリエイターに向けた製品展開を進めている。その一例が、メモリーカード事業への参入だ。

登場以来、OWCのメモリーカードは急速に人気を獲得しており、その背景にはCFexpressへのいち早い対応があると考えられる。

そこで今回は、まさにこのCFexpressについて詳しくお聞きしたいと思う。

メモリーカード関連の製品ラインアップ

メモリーカード市場への参入は“エコシステム”完成のため

OWCがメモリーカード市場に参入したのは、意外にも最近のこと。

2022年初頭から、「Atlas」ブランドとしてCFexpressやSDメモリーカードの展開を本格化させた。

Chris氏:当社は長年にわたり、ストレージやドック、RAID、アーカイブ製品などを提供してきましたが、コンテンツ制作の“入り口”であるキャプチャー(撮影)の部分が欠けていました。そこで、撮影から保存、アーカイブまでを一貫して支える“エコシステム”を完成させるため、「Atlas」シリーズとしてメモリーカード市場への参入を決めたのです。

OWCが提唱する「エコシステム」とは、「Capture to Completion(撮影から完了まで)」というコンセプトのもと、メモリーカード、カードリーダー、作業用および保存用のSSDなどを組み合わせた「ワークフロー全体」の信頼性と効率を最大化する仕組みだ。

これらの機器は専用アプリ「Innergize」(後述)と連携し、撮影現場における信頼性と効率性を高める仕組みとして、プロフェッショナルユーザーから高い評価を得ている。

Chris氏:当社には、SSDの開発を通じて培ったフラッシュストレージに関する豊富な知識と経験があります。また、クリエイティブなコミュニティとの強い結びつきもあり、メモリーカード分野に本格参入する以前から、この市場について深く理解していました。CFexpressはSSDと中身がほぼ同じで、コネクタ形状やサイズがカメラ向けに最適化されたものですから、技術を応用するのも比較的スムーズでした。

OWCがメモリーカード市場で急速に存在感を高めた背景には、プロフェッショナル向けカメラがCFexpressへと移行するタイミングを的確に捉えた戦略がある。

特に、CFexpress 4.0といった最新規格への早い対応、しかも価格は据え置きという戦略が、プロユーザーの支持を集めた。

こうした取り組みにより、OWCは高性能かつ高信頼性を求めるハイエンド市場において、撮影現場で選ばれるブランドへと急成長を遂げている。

Chris氏:OWCのメモリーカードは「Atlas」ブランドで統一されており、カードリーダーも含まれています。メモリーカードは「Atlas Ultra」(上位モデル)と「Atlas Pro」(スタンダードモデル)の2種類を展開。Ultraは8K RAWや高フレームレート、連写撮影といった高負荷な用途に、Proはウエディングフォトやポートレートなど、比較的ライトな撮影に適しています。

CFexpress Type BのAtlas Ultra(CFexpress 4.0対応版)
Atlas Pro 256GB CFexpress4.0 Type B

プロの写真家であっても、多くの撮影シーンでは「Atlas Pro」で十分だろうとChris氏は語る。

ただし、高解像度の動画撮影や高度な撮影スタイルが求められる場面では、アマチュアであっても「Ultra」を選ぶことで、安定性や編集効率の面で大きな利点が得られるという含みも感じ取れた。

CFexpress 4.0への早期対応とその意義

OWCはSSDやメモリーカードの開発において、長年にわたりフラッシュメモリ技術を蓄積してきた。そのノウハウは、CFexpressカード「Atlas」シリーズにも活かされており、同社製品の信頼性を支える重要な要素となっている。

そうした技術的な背景を踏まえたうえで、近年注目されているTLCやpSLC、さらにはQLCといったNAND型フラッシュメモリの進化について、OWCはどのような見解をもっているのかを尋ねてみた。

Chris氏:以前はSLCやpSLCを採用した製品もありましたが、現在はTLCベースの構成になっています。TLCの技術が進化したことで、パフォーマンス面でも十分に満足できる水準に達しており、現時点ではSLCやpSLCを採用する必要性は感じていません。将来的な展開としてQLCの採用についても検討を進めていますが、技術的な可能性を見極めている段階です。

補足しておくと、SLCやpSLCは信頼性が高く高速な点が特長。一方で、TLCは大容量かつコストパフォーマンスに優れる反面、耐久性では劣るとされてきた。

ところが現在は、技術の進化によってTLCの信頼性が高まり、主流となっているようだ。CFexpress 4.0規格の高速でプロ向けの製品「Atlas」シリーズがTLCを採用しているのも、その考えがあってのことなのだろう。

Chris氏は、CFexpress 4.0規格についても同社の考えを語ってくれた。

Chris氏:私たちは、CFexpress 4.0カードを業界でも比較的早いタイミングで発表・出荷しました。現時点で完全対応のカメラはまだありませんが、4.0カードには多くの利点があるためです。

たとえば、撮影後のデータ転送が従来よりも格段に高速になるし、現行カメラでも安定性やパフォーマンスの向上が期待できます。さらに、将来的に4.0対応カメラが登場すれば、既存のカードをそのまま活用できるのも大きなメリットです。

こうした将来性を見越して、私たちは4.0カードを2.0と同価格で提供しました。これは、“今のうちに手に入れておくべき”という、私たちからの提案でもあります。

SDメモリーカードの行方は?

CFexpress対応カメラが増えたとはいえ、依然として一部のハイエンドユーザー向けという印象が根強い。CFexpressスロットを搭載したカメラを所有していても、「SDメモリーカードで十分」と考えるユーザーも少なくないだろう。

しかし一方で、より高速かつ大容量なメディアへの関心が高まっているのも事実。

CFexpressがすでに広く普及し、確かな勢いをもっているのだとすれば、選択肢として真剣に検討したい――そんなジレンマを抱えるユーザーも多いのではないだろうか。

左からAtras Ultra V90 512GB、Atlas Pro V60 1TB

Chris氏:当社でもっとも多く販売しているのはCFexpress Type Bカードです。ただ、ここ1年ほどで成長しているのはType Aカードですね。これはソニー製カメラの需要によるもので、当社のType Aカードはソニー純正品と比べて高速かつ価格面でも優位性があることが、販売増加の要因になっていると考えています。ただし、これは売上金額ベースの話です。販売数量ベースでは、依然としてSDメモリーカードが主流といえるでしょう。

グローバル市場では販売の大半を4.0が占めており、すでに4.0への移行が進んでいるのは確かなようだと、Chris氏は語ってくれた。

ちなみに、SDメモリーカードには次世代規格として「SD Express」が登場している。高速化・大容量化が進む中で、この新しい規格が今後どのような立ち位置を築くのかについても、OWCの見解をお聞きしてみた。

Chris氏:SDメモリーカードは今後もしばらく使われ続けると考えています。最新のカメラでもSDメモリーカードのスロットを搭載しているモデルは多く、プロフェッショナルフォトグラファーの中にも、現在のSDメモリーカードの速度で十分という声は多いです。

Chris氏の言葉からは、メモリーカードの主流はCFexpressに傾いていくという方向性が感じられた。

またChris氏は個人的に、SDメモリーカードの進化した先が、CFexpress Type Aになるという見解も示してくれた。CFexpressカードはカメラの進化にあわせてこれからも対応が可能だが、SDメモリーカードにはその伸びしろがない。また、端子がむき出しではなくパッケージに金属が使われているなど、実用面でもCFexpressの方が有利に働くからだ。

Chris氏:一方で、SD Expressは技術的に非常に興味深い存在です。ただし、従来のSDメモリーカードほどの後方互換性がないという課題があります。カードの形状が小さいため高速動作時に発熱しやすく、スロットリング(性能低下)やフレームドロップのリスクも無視できません。コンシューマー向けゲーム機で採用例はありますが、プロフェッショナルな写真・映像分野では、まだ普及していないのが現状です。今後の動向には注目していますが、現時点でSD Express製品を展開する明確な計画はありません。

SD Expressについても一定の可能性には触れていたが、互換性の制限や発熱といった技術的課題、さらに採用事例の少なさを踏まえると、少なくともプロフェッショナル用途においては、CFexpressがより現実的な選択肢として位置づけられているようだ。

差別化の鍵はどこに? 製品開発の舞台裏

CFexpressは規格が統一されているため、製品ごとの差別化が難しいように思える。

そんな中、OWCはどのように独自性を打ち出しているのだろうか?

Chris氏:確かにCFexpressは仕様が共通していますが、OWCの「Atlas」シリーズには独自の強みがあります。たとえば、専用カードリーダーと組み合わせることでスペックどおりのパフォーマンスが期待できますし、「Innergize」というアプリを使えば、カードの寿命や状態の確認、ファームウェアの更新も可能です。

メモリーカード単体ではなく、周辺機器やソフトウェアを含めた“OWCエコシステム”として提供することで、より効率的で信頼性の高いワークフローを実現しています。

こうした連携によって他社との差別化を図る一方で、製品開発では具体的にどのような点に力を注いでいるのかも尋ねてみた。

Chris氏:これはOWCの歴史そのものに関わる話です。私たちは創業当初から、高性能で信頼性の高い製品を届けることに情熱を注いできました。開発やテスト、互換性の検証、書き込み耐久性のチェックなどに多くの時間と労力をかけています。

市場でもっとも安価というわけではありませんが、そのぶん長く安心して使える製品を提供しているという自負があります。

そうした品質へのこだわりは、具体的な開発方針にも表れています。なかでも重視しているのが「持続書き込み速度」です。これは撮影中のバッファ詰まりやフレームドロップを防ぎ、安定した記録を可能にする重要な要素です。ピーク速度や最低保証速度も軽視しているわけではありませんが、実際の使用環境で安定して性能を発揮できるかどうかを重視しています。

高速なメモリーカードとなると、ユーザーとして気になるのは熱によるパフォーマンスの低下だ。

この点について、OWCがどのような対策を講じているのかも尋ねてみた。

Chris氏:発熱対策は非常に難しい課題です。私たちは実機を使った長時間テストや熱ストレス検証を徹底し、熱が性能に与える影響を細かくモニタリングしています。必要に応じて設計や素材を見直し、カメラメーカーとも連携しながら最適化を図っています。明確な正解があるわけではありませんが、製品の完成度を高めるには、試験と改善を繰り返すことが不可欠だと考えています。

現場での安心感を支える、OWCのユーザーサポートと設計思想

これまでのやり取りの中でたびたび登場した、ユーザー向けアプリ「Innergize」。その役割とユーザーにもたらす価値について、あらためてChris氏に見解を求めてみた。

ファームウェアのアップデートが可能なPCソフト「Innergize」

Chris氏:「Innergize」はユーザーに“安心”を提供するためのツールです。主な機能は3つあります。

1つ目は、カードの寿命や健康状態のチェック。撮影前に状態を把握することで、予期せぬトラブルを未然に防げます。

2つ目は、ファームウェアのアップデート機能。カードリーダーと連携し、ユーザー自身で簡単に更新が可能です。

3つ目は、不要なデータを完全に消去するサニタイズ機能。いわゆる“リフレッシュ機能”で、カードのパフォーマンスと信頼性を維持するために有効です。

「あとどれくらいで故障したり使えるか分かると安心でしょう?」といわんばかりに、Chris氏は「Innergize」の特徴と必要性を語る。このアプリにより「90%良好な状態」という感じでメモリーカードの状態が把握できるのだそう。

こうした高度な管理性や長期的な信頼性の確保は、従来では得がたい特徴だ。

そしてOWCのCFexpressカードが単なるスペック競争をしているだけでなく、現場での安心感と持続的なパフォーマンスの両立を目指す思いが伝わってくる。

なお、製品サポートについては、OWCが展開するAmazon公式ページで購入した場合、一次対応はAmazonのカスタマーサポートが担う。また、日本語公式サイトには問い合わせフォームが用意されており、そちらからの連絡にも応じている。国内では、この2つが主なサポート窓口となる。

加えて、製品の修理や交換には対応しているものの、データ復旧サービスは国内・海外ともに提供されていない。この点を含め、グローバルでの保証対応についても話をお聞きした。

Chris氏:CFexpressカードに関しては、データを完全に復旧するのは非常に難しいというのが現実です。だからこそ私たちは、製品の品質に徹底的にこだわり、出荷前の段階で何度もテストを重ねています。そもそもトラブルが起きないようにすることが、もっとも重要なサポートだと考えているからです。もちろん、できる限りの診断やサポートは行いますし、製品保証の範囲内であれば交換などの対応もいたします。

最後に、プロフェッショナル向けのメモリーカードを手がけるOWCとして、製品に込めた思いや、読者へのメッセージを語っていただいた。

Chris氏:OWCのメモリーカードは、信頼性と高性能を兼ね備えた“現場で使えるツール”です。実使用を想定した徹底的なテストを重ね、カメラ内での高速処理やワークフローの効率化といった課題に応えるソリューションとして設計しています。

私たちは、単なる“道具”としてのメモリーカードではなく、創作活動を支える“システムの一部”として製品を届けたいと考えています。安心して使える信頼のパートナーとして、OWCを選んでいただけたら嬉しいですね。

桐生彩希