トピック
高性能レンズも“軽さ”の時代。1kgを切った「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S II」開発ストーリー
“オールニコン”で達成、大口径望遠ズームの進化と継承
- 提供:
- 株式会社ニコンイメージングジャパン
2026年2月24日 13:00
ニコンから4月に発売される「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S II」は、ズーム全域で開放F2.8の明るさを持つ大口径望遠ズームレンズ。カメラシステムの顔とも言えるスペックでありながら、高画質や高速AFだけでなく、レンズ自体の軽量化にも積極的に取り組んだ。
その背景にある、高性能レンズを取り巻く事情とは? 担当者に詳しく聞いた。
従来モデルから、どこがどう進化した?
——従来モデルの評判はいかがでしたか? 何をきっかけにII型(新モデル)としてアップデートしたのでしょう。
臼井: 従来モデルもニコンZマウントの大口径とショートフランジバックを生かして、描写性能を第一に突き詰めた1本でした。こうした開放F2.8通しの望遠系ズームレンズは各社カメラシステムの看板レンズのひとつですが、その中でも 従来モデルの画質に対して高い評価を得ていました。
その一方で、サイズ感や実用面には進化の余地がありました。実用面というのは、AFの速度や精度、追随性、動作の静粛性です。また、三脚撮影との切り替えのしやすさや、手持ちで撮影しやすい軽さを求める声もありました。そこで、堅牢性や描写性能は従来モデルの水準を絶対に守りつつ、総合的に“底上げ”したものを目指しました。
——どのような被写体・撮影シーンを想定して開発していますか?
臼井: 多様な被写体・シーンを想定していますが、とりわけ動体に対する捕捉能力を向上させました。「一瞬を逃さない」「食らいついたら放さない」といったAF性能は、特に自信を持ってアピールできます。新技術のSSVCM(シルキースウィフトVCM)の採用により光学系の動作精度を高めてAFを高性能化し、ユーザーの皆様のお声に応えました。
また、報道やスポーツ撮影はもちろん、ポートレートや花の撮影にも多く使われているスペックのレンズです。高い描写性と解像力を維持しつつ、ボケ味や逆光耐性の底上げを目指しました。悪天候下での撮影のために堅牢性も維持しています。動画撮影の比重も世界的に増えているため、写真と映像のハイブリッドで使えることも意識しました。
——描写傾向は従来モデルと異なりますか?
近藤: 従来モデルの描写性については多くのお客様から好評を頂いておりますので、四隅まで破綻のない写り、レンズの存在を感じさせない透明感のある描写といった基本的な描写性能は踏襲しています。変化点は主に2つあります。1つは、後ボケをより柔らかくしたことです。これにより、ポートレートの背景ボケに木の枝のような線が入ってもエッジがより目立ちにくくなり、メインの被写体に自然と視線が誘導されるような描写になっています。
もう1つは近距離撮影時の描写です。2mより近いぐらいの距離では立体物を撮ることが多いと考え、ピント面は解像し、前後の部分がよりボケることで立体感が際立つようなバランスにしています。そのため、もし平面物を複写するような撮影であれば、あえて少し距離を取って撮影後にトリミングしていただくか、少し絞りを絞っていただくことをおすすめします。
良質なボケとは?「オールニコン」の最新技術を結集
——今回のレンズには特殊硝材が多く含まれています。
近藤: 軽量化と高画質化を両立するために、蛍石、SRガラス、スーパーEDガラス、EDガラス、非球面レンズ、ED非球面レンズと様々な技術を採用しています。これもあって、1kgを切りつつ、諸収差による色滲みも抑制できています
スーパーEDガラスはこれまで凸レンズ形状で使っていましたが、加工技術の実績の積み重ねにより、今回初めて凹レンズで使えるようになりました。新しい硝材が登場するだけでなく、より安定した製造が可能になるという製造技術の進化も、レンズの進化を支えています。
SRガラスとは、青より短い波長の光を大きく屈折させる特性(SR=Short-wavelength Refractive)を持つ特殊高分散ガラスで、これまでも望遠レンズの小型化に寄与してきました。グループ会社の「光ガラス株式会社」(秋田県湯沢市)と協業しているからこそのメリットです。
——良質なボケを得るための工夫には、何がありますか?
近藤: 以前は“ボケ味”や“良いボケ”の基準を、設計者自身の経験則や感覚に多く頼っていました。Zシリーズでは、発達したシミュレーション技術をボケ味の設計に活用することで、設計の段階からそのレンズで実写した場合にボケ味がどうなるかの性能を評価することができるようになりました。
私もポートレートを撮影するときに、より被写体を浮かび上がらせたいという思いがあります。こうしたシミュレーションによって、例えば「後ボケが硬いな」といった検討がしやすく、理想的な描写に近づけやすくなりました。これは製品開発のスケジュールやコスト的にも貢献します。多くのパターンを試せることで、より最適なバランスを探しやすいのです。
——Fマウントの「AF-S NIKKOR 58mm F1.4 G」(2013年発売)が登場した際に、レンズ計測装置「OPTIA」が話題になりました。あの当時よりもシミュレーションは進化していますか?
近藤: はい。シミュレーション技術をより確立・活用しているのがNIKKOR Zレンズです。現在はより実写に近いシミュレーションができるようになりました。ピント面の解像感だけでなく、デフォーカス状態でどうボケるか、エッジが硬い“二線ボケ”なのかもシミュレーションで確認できます。
「奥行きまで写実しているのが写真である」との考えから、レンズの描写はピント面の解像だけでなく、奥行き方向の再現性も含めて評価しています。これにもシミュレーション技術の進化が貢献しており、NIKKOR Zレンズでは価格によらず、S-lineから非S-lineレンズに至るまで、どのレンズでも評価・確認をしています。様々な側面から評価を行うことで、お客様の表現意図をより膨らませ、ピント面に限らずその場の空気感を味わっていただける映像を大切にしています。
——玉ボケの中に発生する輪線(いわゆる“たまねぎボケ”)はどのように減らしていますか?
近藤: 設計段階からボケの輪線の出方を確認し、加工精度の管理もしています。どんな工業製品も完璧に設計値にぴったりの製造はできませんから、公差の範囲でレンズ表面に凹凸差が生じても実写に影響しないかどうかを確認しています。
例えばこのレンズにはガラスモールド非球面レンズを使っています。より微細な凹凸を抑えた高精度な金型でレンズを成型することにより、輪線の目立たない滑らかなボケを得られるようになりました。
レンズ枚数を減らす難しさとは?
——このレンズに使われている3種類のコートについて、それぞれ特徴を教えてください。
近藤: 先に発売した大口径標準ズームレンズ「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II」も同じく3種類のコートを使っています。ひとつは、汚れが付着しづらく拭き取りやすいフッ素コートを最前面に施しています。
アルネオコートとメソアモルファスコートは、レンズに施すことでフレアやゴーストを抑える役割です。夕焼けの太陽や夜景の街灯などが写り込んでもゴーストが目立たなくなり、撮影の選択肢が広がりました。従来モデルも逆光耐性の高さには定評がありますが、同条件で撮り比べれば差が出ると思います。
コーティングの使い分けは、発生しているゴーストの性質によります。赤色っぽいゴーストが目立ってしまったり、色味は目立たないものの明るいゴーストが出てしまうなど、ゴーストの出方も様々です。その中で「ゴーストの色味を抑えるにはこのコート」、「明るさを抑えるには反射率が低いコート」といった使い分けがあります。ゴーストの色味や強度は設計段階でのシミュレーションで高精度に予想できますので、最適なコートを事前に選択し、さらに実機での撮影も行うことで逆光性能を追い込んでいます。
——ゴーストやフレアの発生には、コーティングのみで対策しているのですか?
近藤: 光学設計の観点でも対策しています。ゴーストの発生も設計時にシミュレーションできるからです。「このレンズの形状だと明るいゴーストが出やすい」ことや、「これだと彩度の高いゴーストが出てしまう」といったことが設計時にわかります。そこからレンズの曲率を変えたり、レンズ同士の間隔を離すなど、最適な形状や配置を検討することで、描写性能と両立するように確認しながら設計を進めます。
設計時の順番としては、まずはレンズの曲率を変えて、ゴーストとして写り込んでいる光線を画面外に逃がします。しかし、全てをこの方法で対策しようとすると、多くの枚数のレンズが必要になり、場合によっては曲率がきつくなりレンズの製造が難しくなるという問題が出てきます。
そして今回のレンズでは軽量化も命題ですから、レンズの構成枚数も減らしたい。ゴーストを抑えつつ、最小枚数で光学系を成立させるには、光学設計はもちろん、最新のコート技術も必要不可欠です。光学設計での工夫と、オールニコンの技術の一つであるコーティングを組み合わせることで、初めてクリアな描写と軽量化を両立することができるのです。
山田: 鏡筒の設計でもゴーストを減らしています。鏡筒内部の機構部品に光が反射することで「メカゴースト」が発生する場合があり、これには機構設計で対応します。シミュレーションも用いて、レンズ内を通る光線に近い内蔵物の形状を検討し、焦点距離と撮影距離を幅広い条件で評価を行いメカ部材起因で起こるゴーストが目立たないように試行錯誤を繰り返して徹底的に対策しています。内蔵物とは、鏡筒内のレンズを固定・保持するパーツなどが含まれます。
——仮に5年前や10年前のコーティング技術では、この画質は実現できないのでしょうか?
近藤: はい。現在のコーティング技術がなければ、本製品の特徴である軽量と高画質の両立は難しいです。レンズの構成枚数を減らしたことで、光学設計の工夫によるゴースト抑制の自由度が減っているからです。コーティングの技術発展があったからこそ、レンズ構成を最小枚数にしつつゴーストの発生も抑えられました。
——レンズ枚数を削減するために、カメラ側の画像処理も活用していますか?
近藤: カメラ側の画像処理を活用している度合いは従来モデルと変わりません。あくまでED非球面レンズなど最新の光学技術に支えられてレンズ枚数が削減できました。軽くなったからといって、「光学性能は全く妥協していませんよ!」という点は、強くお伝えしたいところです。
独自技術「シルキースウィフトVCM」が支えるAF進化
——AFの高速化もトピックです。SSVCMとはどんなものですか? また、どのように本レンズのAF進化を実現しましたか?
堺: SSVCM(シルキースウィフトVCM)は名前にVCMと付く通り、AF駆動のアクチュエーターにボイスコイルモーターを採用しています。他社のVCMと異なる特徴は、ニコンが独自に開発したガイド機構です。これにより駆動時の音や振動を大幅に低減しつつ、ステッピングモーターや超音波モーターではできなかった「高速」「高精度」「静音」駆動の3つを同時に実現しています。これにより、より高いAFパフォーマンスを実現することができるようになります。
臼井: 本レンズはAFを従来比で約3.5倍高速化し、ズーム操作中のAF追従性能も約40%向上しています。また、AF駆動音は聴感上で半減しているため、物音が気になるシーンでもお使いいただけます。
堺: SSVCMのキモはガイド機構にあり、AFレンズ群とガイドバーの隙間を限りなく「0」にし、滑らかな駆動を実現しています。隙間が完全にゼロだと動けませんので、限りなくゼロに近づけながら滑らかに駆動させるというのが難しい部分です。さらに制御においても動き出しと停止時の反動/振動が少なくなるようチューニングし、撮影時に手に不快な振動が伝わらないように施しています。
また、カメラの進化として、よりレスポンス良く被写体に追従し、動体撮影時でもピントを外さず、キビキビと動作するAFが求められていくと考えていました。特に 70-200/2.8 をお使いいただくユーザー層を考えると、II型もボディの進化に応える必要があると感じていました。こうした想いから、現時点での最高の技術を用いて、AFを大幅に進化させる必要があると判断しました。
——駆動の速さだけでなく、キビキビと動くことが大事なのですね。
堺: はい。制御アルゴリズムの進化と新たに採用した「光ABSエンコーダー」の位置検出精度の向上で、高速でキビキビ動いているフォーカスレンズをより正確に止められるようになりました。またメカ構造もその新制御に最適化されたものにすることで、AFの高速化とスキャンタイムの大幅な削減が実現できています。
——Fマウント時代のレンズとNIKKOR Zレンズでは、どれぐらいAFの速度・精度が違いますか?
堺: カメラボディに依存する部分もありますので、正確な回答はなかなか難しく、ざっくりしたイメージのお話になってしまいます。Fマウント時代に対しては、Zマウントの初代レンズ群であっても、AFモーターの変更などから高速化されています。それに加えて今回のII型へのアップデートでさらに速度・精度が向上していますから、飛躍的といえるレベルアップだと考えています。こうした進化により、ユーザーの撮りたい決定的な一瞬を確実にとらえることができます。
時代が求める、交換レンズの軽量化
——レンズの軽量化・小型化はどのような利用シーンで求められていますか?
堺: 70-200mm f/2.8のレンズはFマウント時代から高評価でしたが、使う方はハイアマチュアやプロが多いです。今回のII型も同様になると思われます。従来モデルをお使いいただいている多くのユーザー様から軽量化へのリクエストが多くありました。
プロの皆さんは多くのカメラ機材を持ち歩き、撮影も長時間にわたり疲れます。レンズが少しでも軽ければ、それをサポートできます。その様なシーンで重さによる身体的な負荷の軽減と取り回しにおける機動力の向上として軽量化・小型化が求められていると考えています。
——どのように軽量化と全長短縮を実現しましたか?
近藤: 従来モデルから約300g以上の軽量化を実現しました。これは機構部品の軽量化だけでも、ガラスだけの軽量化でも達成できません。光学設計担当としては、機構部分の構造との組み合わせで軽量化できるように、レンズの群構成を変更しました。
具体的には、ズーム時に動く群の数を従来より減らしています。すると、その部分を動かす機構部品を減らせるからです。全長が短くなれば機構部品も短くなるため、そこでも軽くなります。
さらに、ガラス単体の質量も削減するためにレンズの構成枚数を減らしました。最前部の構成はこれまで凹レンズが前でしたが、今回は凸レンズを前に配置しました。凸レンズは光を収束させるので、次にくるレンズの径を小さくできます。そして最新の加工技術により薄肉化も可能となったため、最前部の3枚だけで40〜50gの軽量化を実現しています。
山田: 光学設計者にお願いしたのが、「動かす群を少なくしてほしい」でした。一つでも部品点数が減れば軽くできます。それに加えて、機構の構成自体も一新して軽量化を追求しています。各部のメカ部品を0.1g単位で細かく点検・確認する、という作業を繰り返しました。
もちろん、S-Lineのレンズらしい堅牢性を保っているかのシミュレーションや、機構設計の変更が光学性能に影響しないかどうかのシミュレーションもしながら、地道な作業を愚直に繰り返しました。
堺: 最終的には「部品ひとつひとつを0.1g単位でまだ突き詰められないか」「レンズの厚みを0.1mm単位で薄くできないか」といった“ちりつも”の集大成で、1kgを切る重量を実現しました。
——軽量化を追求しても、使用上のタフさは従来と変わりありませんか?
山田: はい。自信を持って「変わらない」と言えます。ニコンのポリシーとして、軽量化したとて堅牢性や防塵防滴性能は妥協していません。シミュレーションと実機での検証を繰返して、ニコンの品質基準を満足するように作っています。ご安心ください。
臼井: 妥協できないというか、妥協させてくれないですよね(笑)。そういう社風です。
「写りさえ良ければ、レンズは大きく・重くてもいい」の時代は終わる
——「1kgを切る」という数値目標は、どのように設定されましたか?
堺: 軽量化は世界中から求められていました。しかし市場にある競合他社の同スペックレンズを見たときに、仮に10gや20gを減らして他社製品並みの軽さになったとして「ニコンのお客様のニーズに応えられるのか?」という疑問があり、チームで議論しました。
お客様の声や市場の動向を見ても軽量化のニーズは避けて通れず、「写りさえ良ければ、レンズは大きく・重くてもいい」という時代は変わっていくと考えています。
そこで、達成できるかどうかの不安はありながらも、高い目標を設定して進めていきました。競合製品の軽量化もモチベーションのひとつにしつつ、市場の動向や将来を見据えて「1kgを切ろう!」と設定したのです。
臼井: まさに、「いわゆる“大三元レンズ”だから重くてもいいよね」という状況ではなくなりました。私たちの調査でも、交換レンズに対する要望では“軽さ”のウェイトが大きくなってきています。
加えて、70-200mm F2.8というスペックも昔ほど特別な存在ではありません。だからこそ付加価値を高めたい。そのためには「70-200mm F2.8だから重くてもいい」「ニッコールレンズだから重くてもいい」という考えも、もう通用しないと思っています。
近藤: 時代の移り変わりで言いますと、この10年で動画を撮る人が増えたなと感じます。実際に撮影している方々を見ていると、ジンバルのような周辺機材と組み合わせたり、チームではなく1人だけで撮影する現場も増えています。
そういった方々はカメラ機材だけでなく編集用のノートパソコンやタブレット端末まで、とにかく多くの機材を持っています。この状況で「レンズだけは重くていい」という発想では許されません。レンズが軽くなれば、機材の全体重量を減らすことに繋がります。
世界規模で行われるスポーツイベントにも行きました。プロカメラマンの機材を見ていると、スポーツ撮影の標準レンズと言われる超望遠の400mm F2.8だけでなく、それにプラスして70-200mm F2.8を持ち、2本をそれぞれ場面に合わせて使っていました。レンズが軽くなったことで「2本のレンズをスムーズに使い分ける」という選択肢が提供できれば撮影の幅がより広がると考えたのも、今回の軽量化のモチベーションでした。
——単焦点レンズにはない、ズームレンズならではの設計の苦労はありますか?
近藤: あります。特定の焦点距離の光学的性能を高めても、他の焦点距離では必ずしも良くなりません。ゴーストの発生具合も変わります。全ての焦点距離と撮影距離で性能を確認しながらバランスさせていきます。このようにして、どの領域でもまんべんなくご満足していただける描写を目指しているのがズームレンズです。
私はこのレンズの前に「NIKKOR Z 600mm f/4 TC VR S」を担当していました。内蔵のテレコンバーターを含めて、単焦点レンズならではの究極の一品を目指すような感覚です。それに比べるとズームレンズは“もぐらたたき”のように全体を見る必要があります。全体の描写バランスを最適化するズームレンズならではの難しさもありますが、お客様が撮影する中で、ズームによって様々な選択肢が増え、撮影の楽しさがさらに広がると嬉しいです。
堺: 機構設計としては、単焦点とズームレンズでは全く世界が違います。次に担当する製品がズームレンズだとわかると、「ズームか……」と一度は思ってしまうのも本音です(笑)。
ズームレンズはズーミングによって動く群があるため、光学設計の高い要求を実現するために「どの焦点域でもレンズの姿勢変化を何度以内に抑える」といった精度面の要件が出てきます。鏡筒内のレンズの姿勢変化のことを私たちは“倒れ”と呼んでいて、「レンズが何度倒れると像が……」といった会話があります。組込後やズームで動くレンズの“倒れ”と“シフト”といった姿勢を、光学設計の要求精度に収めるようにするだけでも一苦労なのです。
加えてニッコールレンズの強みである堅牢性、防塵・防滴、ゴーストのシミュレーションも、幅広く確認する必要があります。焦点レンズとは機構設計にかかる時間が圧倒的に違います。最初にズームレンズか・・・と話したのですが、コンシューマー製品でこれだけメカメカしい設計ができることは中々ないので機構設計者としては楽しいです。
最新のZシステムとNIKKOR Zレンズでこそ得られるメリット
——現在もDシリーズの一眼レフカメラやFマウントレンズを長くお使いの方がいらっしゃいます。Zマウントシステムに乗り換えたら、どんなメリットがありますか?
臼井: Zマウントの大口径・短フランジバックにより、レンズの設計自由度が上がり、カメラ側の最新技術との相乗効果で、画質、操作性、将来性などの多くの面でメリットが享受でき、業務用途でもより役立つカメラシステムに成長しています。また、画質だけでなく手ブレ補正にもメリットがあります。Zマウントのボディ内手ブレ補正を持つ機種では、ボディとレンズの手ブレ補正機構が協調動作する「シンクロVR」が使えますので、カメラボディ側の最新技術も活用できます。ZシリーズのカメラにNIKKOR Zレンズを組み合わせることには、こうした総合的なメリットがあります。
近藤: 光学設計の観点でも、FマウントからZマウントになってお客様が実現したい様々な表現のバリエーションに対応できるよう、さらに高い光学性能を実現しています。例えば、撮影した写真は必ずしも“撮って出し”で使われるとは限りません。人物の質感や動物の毛並みを鮮明に伝えるためトリミングでより大きく見せたり、自分なりの世界を再現するためにレタッチでカラートーンを編集することもあると思います。そうした場合にも、細部まで繊細に描写する解像感をはじめ、ボケ味も含めた奥行きの心地良さ、写真全体の色味の統一感にも配慮したZレンズの画作りはより活用できると考えます。
また、画質だけでなく手ブレ補正にもメリットがあります。Zマウントのボディ内手ブレ補正を持つ機種では、ボディとレンズの手ブレ補正機構が協調動作する「シンクロVR」が使えますので、カメラボディ側の最新技術も活用できます。ZシリーズのカメラにNIKKOR Zレンズを組み合わせることには、こうした総合的なメリットがあります。
操作性・使い勝手もブラッシュアップ
——最短撮影距離が短縮されました。どのように実現しましたか?
臼井: 花を近接撮影するようなシーンが多かったり、スポーツ報道でも表現として手前を写し込みたいときなど、望遠レンズであっても寄れることのメリットは大きいです。今回の新レンズを設計段階で、それが実現できそうだなという見込みが立ちました。
近藤: 実現できた一因には、先のSSVCMの採用があります。最短撮影距離を短縮すると、フォーカスレンズの位置合わせにより高い精度が求められます。少しでもフォーカスレンズが動くと、よりピントが大きくズレてしまうからです。
SSVCMで微細な位置合わせができるようになったからこそ、自信を持って最短撮影距離を短くでき、より多くの撮影ニーズに応えられました。光学設計だけではなく、SSVCMといった機構面での進化も合わさったことで、ニコンの考える製品化レベルに到達できました。
——アルカスイス対応について詳しく教えてください。
臼井: アルカスイス対応アクセサリーへの互換要望は増加傾向にあり、特に動画撮影のワークフローを考慮すると素早い脱着が肝要と認識いたしました。大三元のリニューアルというタイミングとリニューアルコンセプトとお客様からのご要望が重なりアルカスイス採用に至りました。注意点に関しては、取り扱い説明書をご確認いただければと思います。
——三脚座の脱着方法をこのようにした理由は何ですか?
堺: NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 Sをリニューアルするにあたり、70-200/2.8ユーザーの調査を行っています。その中で、1kg前後の製品であればユーザーの声の一つに三脚座そのものを取りはずして鏡筒本体が少しでも軽く小さくなるほうがよいといった声がありました。一方で、このスペックで三脚を使うユーザーからは従来通りに縦横変換をスムーズにできることも大事だといった声もありました。三脚外したいユーザー、三脚座を使うユーザーに幅広く対応するために、従来の構成を抜本的に見直し三脚座リングそのものを取り外せるようにしつつ、縦横変換がスムーズにできる機構を両立させてリニューアルしました。
——コントロールリングなどもアップデートされています。
堺: II型では、先行で発売しているNIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S IIと同じコンセプトで操作性や使い勝手も重要な要素でした。 従来のコントロールリングにはクリック感がなく、不意に設定が変わってしまったり、滑りやすいといったお声がありました。そこでクリックのオンオフ機構を搭載することで撮影スタイルやシーンに合わせて、好みの操作感に変更できるようにしました。絞りなどの段階的な変更を行う際にはクリック感触があるほうが操作がしやすくなりますし、逆にMFなどのシームレスな動作が必要な場合はクリック感触のないスムーズな方が操作がしやすくなります。動画など音を配慮する場合にも音の出ないクリックOFFの方が好まれます。操作時に滑りにくくするために、ローレットの形状も見直しました。
また、レンズフードにはフィルター回転枠の操作窓を設けました。C-PLフィルターをお使いの方からの要望にお応えしたものです。
——ズームリングの操作感はどのように決定していますか? 市場にはトルク調整機構を持つズームレンズもあります。
堺: 70-200mm f/2.8のレンズには、ズームリングの操作感にこだわりを持つ方が多いです。特にスポーツ撮影においては、Fマウント時代から操作感を軽くしてほしいという声がありました。そのお声からズームリングに回転時の重さは求められていないと判断し、調整機構は用意しませんでした。本機種での操作感は、従来モデルはもちろん、Fマウント時代からの70-200/2.8の操作感触を確認しながら追い込んでいきました。
——動画用途に向けて特に重視した設計はありますか?
近藤: フォーカスブリージングについては、動画撮影時にピント位置を変更した場合、映像の自然な印象を保つことができるよう、像倍率の変化幅を一定の範囲に抑える設計をしました。また動画制作では複数のレンズで撮影した映像を組み合わせることが多いため、シーンによって写りの雰囲気が変わって不自然さを生まないよう、NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S IIのボケ感や色味のトーンも参考にしながら設計しています。
まとめ:王道の70-200mm f/2.8。その最新ニーズを捉えた「進化と継承」
——現代のF2.8望遠ズームに求められるものとは何でしょう?
臼井: 商品企画の立場としては、まさにその疑問から始まりました。実用的であること、堅牢であること、軽量であること、細かな使い勝手が良いこと……などが思い当たります。
しかし、画質の良さだけは絶対です。ボケ味や逆光耐性も含め、ここは譲れません。それでいて、トータルでは今まで以上に進化した製品である必要があります。瞬間を逃さないための速さ、そして静けさも求められます。まさに「底上げ」が必要なのです。
堺: 機構設計としても同じ考えです。根幹には高い描写性能があり、AF性能や手ブレ補正にも常に進化が求められます。高性能レンズなら大きくて重くてもいいだろう、という時代が変わって、機動性が求められていると感じます。軽いほうがいいし、小さいほうがいい。これから先、大きさや重さのバランスでズームレンズの焦点域もスタンダードが変わってくるかもしれません。
近藤: レンズ設計時に目標としているのは、「撮影者が目に捉えた印象的な被写体を、その場にいない鑑賞者が見ても、自然とその時の情景が浮かび上がるような映像を残したい」です。こういったニーズが以前にも増してさらに求められるようになったと感じており、私も普段からそういった写真を撮りたいと思っています。
そこでNIKKOR Z 70-200mm f/2.8 S IIで大事にした描写は、いかにして主要被写体に自然と視線を誘導できるかです。単純にピント面の解像性能だけでなく、奥行きやボケの繋がり、不自然なゴーストがないか。そして色味の再現など、複合的な要素が積み重なってこそ効果的に表現できます。
つまり総合的に最適なバランスを見つけることが大事で、MTFが高ければ良いという時代も終わりました。より満足いただける写真にするために設計者が目を配るべき部分も増えました。一方で、現在はレンズ技術やシミュレーション技術の向上があるので、設計時にそれだけ目を配れる部分が増えているというメリットもあります。
——このレンズが完成した今、どんな達成感がありますか?
近藤: 従来モデルからの進化と継承がポイントとなっている製品です。好評だった描写を継承するだけでなく、さらに軽量化や俊敏性といった進化をもたらし、高い操作性の1本に仕上がったと思います。一瞬しかないシャッターチャンスのために、より長く快適に撮影していただける。従来モデルをお使いの方にも、この進化は実感していただきやすいと思います。
山田: 従来モデルで評判の良い高い描写性能を継承しつつ製品として小さく軽くを実現するために、ズームレンズ群構成・部品形状や寸法の検討を徹底的に行いました。ズームレンズ群については、構成部品を多く要すると質量に起因するため、ズーム稼働群を一つでも減らすべく光学設計と何度も議論しました。部品形状や寸法についても、製造技術と金属や樹脂素材の厚さを0.1mm単位で検討を積み重ね形にすることができました。白熱した議論が多々ありましたが、一切妥協しなかったので、最高の仕上りになったと思っています。多くのユーザーのみなさんに本製品の良さを実感してもらいたいです。
堺: 従来モデルで好評だった高い描写性能に加え、目標としていた重量1kgを切ることが達成できました。これは設計・開発部部門だけでなく製造・生産・企画部門まで巻き込んだ”オールニコン”だからこそ実現できた製品だと感じています。企画から発売に至るまで高い目標を実現するための挑戦を、さまざまな場面で後押ししていただけました。その結果、現時点で持ちうる最高の技術を余すところなく盛り込むことができ、お客様に十二分にご満足いただける製品になったと自負しています。
臼井: 商品企画担当としては、この次の世代のレンズを果たしてどうすべきか、現時点では全く思いつかないほどの完成度になっています。実際に手にされたお客様からの反響を楽しみにしています。














