トピック

ハービー・山口さんの美しいモノクロを作り出す「DxO FilmPack 8」

茨城の高校写真部に所属する彼女とは、私のワークショップを通じて知り合った。「レンズの表面を見るんじゃなくて、その奥にある君の明日の希望を探してください」。そう声をかけると、ふっと表情が和らぎ、とても良い顔を見せてくれた
Leica Camera ライカQ Typ 116/28mm/マニュアル露出(F1.7、1/1,000秒)/ISO 200/WB:オート

アナログの質感を再現するソフトとして知られる「FilmPack」。ハービー・山口さんのモノクロ作品もこのソフトで仕上げられています。今回はハービーさんの展示でプリントを担当する「山ノ手写真」の高橋さんを交えて、ハービーさんの深いこだわりがソフトを通じてどう具現化されたのか、その制作工程と表現の秘密に迫ります。

※本企画は『デジタルカメラマガジン2026年2月号』より転載・加筆したものです。

ある夏の日、町中華のカウンターでランニングシャツ姿の男性を見かけ、声をかけてみるとフランスから来たモデルだという。背後ではアルバイトの女性が食器を下げ、ほかのお客さんもいる。そんな飾らない日常の空気感が気に入っている
Leica Camera ライカM10モノクローム/ノクティルックスM f0.95/50 ASPH./50mm/マニュアル露出(F0.95、1/250秒)/ISO 400

デジタルでよみがえる銀塩の記憶

高橋 :ハービーさんといえば、やはり「モノクローム」のイメージが非常に強くあります。銀塩時代からの長いキャリアがある中で、今のデジタル全盛の時代にあえてフィルムやモノクロを使う魅力は、どのように感じていらっしゃるのですか?

ハービー :そうですね。音楽においても、クリアで完璧なデジタル音源より、レコードのアナログな音を求める人が増えているのと写真も同じだと思うのです。料理に例えるならば、洗練されたコース料理も良いけれど、みそ汁を飲んだときに「あ、おふくろの味だ」とホッとする感覚に近いでしょうか。あの人間味や懐かしさといったアナログへの回帰は、どのような分野でも求められている気がします。

高橋 :近頃は若い人の間でもエモいという感覚で、オールドレンズやフィルムカメラがはやっていますね。

ハービー :デジタルカメラは高感度でノイズレスに撮れるようになりましたが、逆にそのきれい過ぎる部分を、自分の好みに合わせてザラザラとした質感へ変化させていくのが面白いのかもしれませんね。そのような自由度も写真表現の魅力です。

高橋 :プリントも少しノイズがあった方がよく見えることがあります。

(左)高橋尚紀
1988年、東京都出身。日本写真芸術専門学校卒業後、山ノ手写真でインクジェットプリントの出力を担当。プリンティングディレクターとして、さまざまな作家の作品を手掛けている。

(右)ハービー・山口
1950年、東京都出身。大学卒業後の1973年にロンドンに渡り10年間を過ごす。帰国後も国内アーティストとのコラボレーションをしながら、市井の人々にカメラを向け続けている。
駅の階段にある銀色の丸い手すりにカメラを乗せて撮影した。天井の照明が金属に反射し、画面下部に独特の丸いボケが生まれる。明るいレンズを開放で使い、この不思議な描写を作り出している
Leica Camera ライカM10モノクローム/ノクティルックスM f0.95/50 ASPH./50mm/マニュアル露出(F0.95、1/60秒)/ISO 1600
原宿でTシャツの販売イベント中にふらりと入ってきた彼の体格に目を奪われた。「何かスポーツを?」とたずねると、なんと陸上の金メダリストだった。アスリートとしての迫力に引かれ、シャッターを切らせてもらった
Leica Camera ライカM10モノクローム/ノクティルックスM f0.95/50 ASPH./50mm/マニュアル露出(F0.95、1/15秒)/ISO 3200

ハービー :高橋さんが仕上げてくれたプリントは、黒の締まりが良いですし、目にピントを合わせている部分もシャープに見えます。これはどのような処理をしているのですか?

高橋 :これはDxOの「FilmPack」というソフトウェアを使用して仕上げています。ハービーさんのデジタルデータをそのまま素直にプリントすると、グラデーションは滑らかなのですが、階調が出過ぎてしまい、どうしてもデジタルののっぺりとした感じが残ってしまいます。そこで、FilmPackを使ってフィルム特有の「粒状感」を加えています。

ハービー :なるほど。粒状感が入ることで、逆にシャープに見えるのですね。

高橋 :粒子が加わることでピントの食いつきが良くなると言いますか、見た目の質感がグッと向上します。ハービーさんの場合、昔の銀塩プリントとデジタルのプリントを並べて展示することもありますから、そこで違和感が出ないように、デジタルの人工的な感じを消してアナログな雰囲気に近づけています。

2018年にBOOKMARCで行った、ハービー・山口さんの写真展「LAYERED」。こちらのプリントも高橋さんが手掛けた

ハービー :FilmPackは、単にノイズを乗せるだけのフィルターとは異なるのですか?

高橋 :全く異なります。実際のフィルムの粒状感や特性を細かく抽出してデータ化されています。例えば「コダック T-Max 400」や「TRI-X」など、銘柄ごとの特徴をシミュレーションでき、粒状性も細かく調整できます。最新のバージョン8では再現できるフィルムの数もかなり増えています。

ハービー :それは興味深いですね。昔のように「TRI-Xを感度3200に増感したときの荒れ具合」といったこともできるのですか?

高橋 :はい、粒状感の強弱はもちろん、フォーマットも35mm、中判、大判と選択できるため、増感現像したときの荒れたニュアンスも再現可能です。

ハービー :デジタルでもフィルムの豊かなニュアンスをいろいろ試せる素晴らしいツールですね。私も昔は森山大道さんたちに憧れて、現像液の温度を上げてザラザラにしたり、逆に微粒子現像に戻ったりと試行錯誤しましたからね。

高橋 :2026年以降もすでにいくつかの写真展をご予定されていると伺っています。

ハービー :ええ。1月19日から、「SUPER LABO STORE TOKYO」で写真展を開催します。それから大きなところでは、2026年に六本木の富士フイルムスクエア、暮れには台北ライカギャラリーでの企画展が決まっています。

高橋 :大伸ばししたときこそ、FilmPackで足した粒状感が効いてくると思います。

ハービー :デジタルでもフィルムでも、最終的に人の心に届く良い写真に仕上げることが一番大切ですから。高橋さんのプリント技術とこのソフトの力を借りて、これからも作品を作っていきたいと考えています。

DxO FilmPack 8
[推奨システム]
Windows
CPU:Intel Core 10000 シリーズまたはCore Ultra 7 165H、もしくはAMD Ryzen(8コア搭載)
メモリー:32GB
OS:Windows 11 バージョン 24H2(64ビット)
グラフィック:NVIDIA RTX 3070 VRAM 8GB、AMD Radeon RX 6700 VRAM 8GB

macOS
CPU:Apple M2 Pro
メモリー:32GB以上
OS:macOS 15(Sequoia)

[価格]
新規ライセンス:1万4,999円
アップグレード版:8,999円
銀塩フィルムの色調や粒状感を忠実に再現するソフト。最新バージョンの8では、写真史200年をさかのぼり時代の質感を適用する「タイムワープ」機能を搭載。Photoshopパネルへの完全統合や、CineStill 800Tなど15種の新フィルムも追加され、利便性と表現力が飛躍的に向上した

高橋流 ハービー・山口のモノクロ写真の仕上げ方

1.シミュレートするフィルムを選ぶ

ハービーさんの作品では「Kodak T-Max 400」を選ぶことが多い。かつてハービーさんが使用されていた銘柄の1つであることはもちろんだが、粒状感が比較的整っており、微粒子で上品な印象に仕上がる点が大きな理由だ。撮られた状況を加味してフィルムを選ぶことがある。例えば夜間撮影など増感した雰囲気を出すなら「Fujifilm Neopan 1600」も有力な選択肢となる。

2.粒状感を設定する

レンダリングを上げるとコントラストが強過ぎるので、ほどよいところが「25」だった。粒状感は、ハイライトから中間調にかけての効果を見つつ決めている。今回は「85」を選んだ。

私が校長を務める日本写真芸術専門学校の姉妹校「日本デザイナー学院 九州校」でのカット。手前と奥がガラス張りになった廊下に学生たちを配置した。ガラスへの映り込みと、向こう側にいる人物が重なる「レイヤー(層)」の効果を意図的に狙っている。左の彼女には少し前後に動いてもらうなど、構図のバランスにもこだわった
Leica Camera ライカM10モノクローム/ズミルックスM f1.4/50 ASPH./50mm/マニュアル露出(F1.4、1/60秒)/ISO 800
大阪・梅田の近くにある中崎町の路地を歩いているとき、小さな公園のベンチに5人の女の子が座っているのを見かけた。彼女たちは新潟から来た看護学生さんたちで「写真を撮らせてください」と声をかけると同時に、「僕のこともスマホで撮ってよ」なんて会話をしながら、お互いに撮り合うような形で撮影した
Leica Camera ライカM10モノクローム/ノクティルックスM f0.95/50 ASPH./50mm/マニュアル露出(F0.95、1/180秒)/ISO 160

INFORMATION

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販売サイト:https://shop.dxo.com/ja/

ハービー・山口

1950年、東京都出身。中学2年生で写真部に入る。大学卒業後の1973年にロンドンに渡り10年間を過ごす。一時期、劇団に所属し役者をする一方、折からのパンクロックやニューウエーブのムーブメントに遭遇し、デビュー前のボーイ・ジョージとルームシェアをするなど、ロンドンの最もエキサイティングだった時代を体験する。そうした中で撮影された、生きたロンドンの写真が高く評価された。帰国後も福山雅治など、国内アーティストとのコラボレーションをしながら、常に市井の人々にカメラを向け続けている。多くの作品をモノクロームの、スナップ・ポートレイトというスタイルで残している。その優しく清楚な作風を好むファンは多く、「人間の希望を撮りたい」「人が人を好きになる様な写真を撮りたい」というテーマは、中学時代から現在に至るまでぶれることなく現在も進行中である。大阪芸術大学、九州産業大学客員教授。