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Insta360創業者が描く、アクションカメラの未来と技術革新

過去から現在、そしてこれからをJK Liu氏に聞いた

Insta360の創業者JK Liu氏に、創業から今後の展望までを聞いた

世界中に数多くあるアクションカメラブランドの中で 、ビッグ3の一角といえるのがInsta360だ。アクションカメラ界でいま勢いがあり、エッジの効いた製品を生み出すメーカーといってよいだろう。

創業わずか10年でアクションカメラ界の頂点に上り詰めたInsta360。その原動力はどこにあるのか、来日していた創業者のJK Liu氏に話を聞いた。

「理論派」だからこそ作れるアクションカメラ

アクションカメラメーカーの創業者というと、たとえば「マウンテンバイクでダウンヒルのシーンが撮りたくてね。でも、要求を満たすカメラがなかったんだ。だから自分で作ったよ」的なエピソードを揚々と語るイメージかもしれない。

しかし、Insta360の創業者(Founder)であるJK氏は少し違う。アクションカメラが似合う体育会系のアウトドア派ではなく、南京大学でソフトウェアサイエンスを学んだ理系の人。テクノロジーを大切にし、ユーザーが求める機能やスペックを分析して開発するスタイルでさまざまな製品を投入している。

だからこそInsta360のカメラは、アクションカメラの要素をもちながらも、他社とは一線を画す個性があるのだろう。

「私自身は積極的なアウトドア派というほどでもないのですが、4歳の娘がいて、彼女の無邪気でかわいらしいシーンを全部残したいと考えています。なので、そのようなプロダクトのイノベーションにも力を入れています。もちろん、開発チームには会社の経費で、さまざまなアクションに挑戦してもらってますよ。ユーザー目線で製品開発するために必要なことですから」

そんなJK氏が率いるInsta360が、上海証券所に上場を果たした。創業が2015年というのだから、たった10年で世界的なカメラメーカーへと急成長を遂げている。

ちなみに、「Insta360」はブランド名で、日本法人は「Insta360ジャパン株式会社」。上場したのは親会社の「深圳嵐ビジョン株式会社」(シンセン・アラシ・ビジョン)となる。

創業当時はわずか数名だった社員も、今では3,000人を超えるという。開発資金を調達するだけでなく、社員のモチベーション維持や、創業当時の投資家に報いる面でも、上場した意義は大きいとJK氏は語った。

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動画に強い“コンデジ”として…「Ace Pro」シリーズ

Insta360はこの10年で、360°カメラの「X」シリーズ、アクションカメラの「Ace」シリーズ、ウェアラブルカメラの「GO」シリーズと立て続けに展開。

デジカメ Watch読者には、ライカレンズを搭載した「Ace Pro2」が印象深いだろう。

「Ace Proシリーズにはアクションカメラの要素に加えて、Vlogシーンでも撮りやすいようにフリップ形式のモニターを採用しました。ライカ製のレンズなので画質や解像感が高く、高品位な映像を記録したいユーザーに最適です。もちろん、アクションカメラなので頑丈です」

「Ace Pro」シリーズの最新機である「Ace Pro2」は、大きめの撮像素子で低照度シーンに強く、写真機としても優れた1台だ。

その特性を生かし星空を撮影するユーザーも多く、静止画、動画を問わずたくさんの作品がネットに公開されている。

JK氏曰く、「画質はライカクオリティ。フリップモニターでアングルの自由度が高く、写真撮影にもおすすめ」とのこと。

「アクションカメラはサイズとか堅牢さとかいろいろフォーカスしているのですが、「Ace Pro」を開発している当時は光学系がそれほど強くなかった。だから2020年にライカとコラボをすることにしました」

「ライカを選んだ理由はやはり、光学性能の高さです。発色とか解像感とか、そういったところがすごくいい。カメラをアップデートするたびに、ライカからフィードバックを受けて進化させています」

アクションカメラというと、強力な映像ブレ補正でどんなシーンも安定して撮れることが目的のひとつだが、「Ace Pro」シリーズはさらに「映像美」という要素を強く盛り込んだ。しかも、光学系から作り込むというこだわりようだ。

このあたりの“生真面目さ”が受け入れられ、「Ace Pro」シリーズはアクションとは無縁のユーザーにも支持されている。JK氏がアピールするVlogシーンのほか、旅や家族の日常を撮影する小型のカメラとして。

「Ace Pro」シリーズは「動画に強いライカのコンデジ」的に考えると、カメラ好き、写真好きの琴線に触れるのではないだろうか。

ハード+ソフトの両面で進化する映像の世界

よりコンパクトなカメラシステムが欲しいなら選択肢はほかにもある、とJK氏は指で示す。

その先には、親指サイズのアクションカメラ「GO 3S」が置かれていた。

「GO 3S」は合体式のアクションカメラ。本体からレンズ部が外れて、レンズだけで撮影できるような感覚だ。

「カメラの小ささを重視するなら、GOシリーズをおすすめします。使い方はいろいろあり、帽子や服に装着してPOV撮影したり、マグネット式なので金属部に固定して定点撮影したり。ペットに付けても面白いと思います」

とにかく小さいのでPOVカメラとして最適だし、フリップモニター付きの本体と合体すればアクションカメラやVlogカメラとして使いやすくなる。

そして、Insta360製品の中で真骨頂ともいえるのが、360°の映像が撮れる「X」シリーズ。

2018年に初代の「X」が登場して以来、2020年に「X2」、2022年に「X3」、2024年に「X4」と進化を遂げ、現在はデュアル1/1.28インチセンサーで8K30fpsの360°撮影が行える「X5」が登場。

カメラに詳しい方なら、センサーサイズを見て「Insta360 X5」の“本気度”が分かるはず。

「360°カメラは、とりあえず撮影して後からアングルが決められるので、いろいろなシーンに向いています。アングルを気にせずスキーやスノーボードのシーンを撮影したり、パーティーや結婚式などのイベント、家族旅行など、撮影に手間がかけられないシーンにも最適です。その場で起きていることがすべて記録できますから」

JK氏は淡々と語るが、Xシリーズは単なる360°カメラの域を超え、カメラを投げたり振り回したりして魔法のような映像が生み出せる独創的なカメラでもあった。

何より編集アプリの出来がよく、「撮ってからが面倒」という360°カメラの常識を覆した1台でもある。

「アプリの開発は優先事項です。もっとたくさんの人に受け入れられること、初心者にフレンドリーであること。それが重要です。今はパソコンをもたず、スマホで作業するユーザーも多いので、その点も意識して開発しています」

アプリのアップデートの頻度も高く、精力的に開発している様子が伺える。

そしてアプリの出来はカメラの使い勝手に大きく関わるため、その姿勢が広くユーザーに受け入れられる一端を担っているのだろう。

あくまでも技術とイノベーションで勝負していきたい

JK氏はカメラを作る会社を興したかったわけではなく、プログラミング関連の仕事をするため大学でコンピュータサイエンスを学んだという。

もっとも、プログラミングに熱を上げ過ぎて、大学ではあまり講義に出ず家でプログラムを作っていたようだが。

「小学校3年生のころ家のゲーム機で遊んでいて、ゲームのプログラミングに興味がわきました。将来的にそういうことをやりたいと思い、コンピュータサイエンスでは中国で最高峰だった南京大学を志望したんです。なので、小学校から大学まで、ずっとプログラミングをやっていた感じです」

アクションカメラやアウトドアとは縁遠い環境にいたJK氏が、カメラを作り始めるまでのストーリーが面白い。積極的にカメラが作りたかったというより、既存の技術のふがいなさがきっかけとなったようだ。

「最初に起業したのは大学時代。学生同士で大学生の音楽フェスを記録したりライブ配信する会社を始めました。関連するアプリとか、ソフトウェアとか、そういうものを開発する仕事です」

「そのとき360°撮影に触れることがあったのですが、5台のアクションカメラを組み合わせて撮影し、撮影後にそれらの映像をつなげるという、とても面倒なシステムでした。それを見て、もっと簡単にできる、もっと新しいものが作れる、そう思ったんです」

そして登場したのが、Insta360初のカメラとなる「Insta360 Nano」。iPhoneと連携し、360°コンテンツを身近な存在にしたカメラだ。

JK氏は当時を振り返り、「私たちのカメラは、リアルタイムにスマホと接続して素早く映像がチェックできた。それが他社製品との大きな違いでした」と語っている。

「うちの会社は技術で勝負していきたい。効率とかコストとか、そういった面ではないんです。コストや効率よりも技術とイノベーションを重視して開発を続けます」

JK氏の考えはユーザー本位の開発で、ユーザーがより良い映像を撮ったり、または記録するためのカメラや解決案を提供することにあるという。

その思いはカメラの性能だけでなく、本体のギミックや操作性、さらには撮影のワークフローや編集アプリという表面化しにくい分野にまで至っている。

現に、JK氏はユーザーが撮影した映像やその撮り方を滞りなく解説したり、カメラをカスタムしているユーザーの映像を見ながらパーツ構成を教えてくれたりと、ユーザーの動向にかなり着目している様子が伺えた。

JK氏が描く未来戦略と新製品

取材した限り、Insta360の製品はJK氏の思想が色濃く反映された製品と感じた。その“個性”が競合他社の製品との差別化になり、Insta360の強みにもなっている。

しかしながら、上場したことにより外部の声が入ってくることになり、その個性が薄まりはしないのだろうか?

「上場により資金が調達できて、それらを開発に投入できるし、ユーザーによいサービスが提供できるようになります。これは大きなメリットです」

「私たちのような技術系の会社は、発展するためには未来への投資が必要です。でもそれはリスクが高く、投資家に共感してもらうことが難しいかもしれません。そのため、外部からいろいろなノイズが入るかもしれませんが、それらに耳を傾けつつ、未来に対しての投資をきちんとフォーカスしていく」

「たとえば、プロダクトラインを増やしたり、チップやセンサー関連にも投資して、将来的には社内でデザインできるようになるかもしれません」

技術を大切にするJK氏が、資金を得て新たな技術に投資する。つまり、より面白いカメラが登場する可能性が高くなったと考えてよいのだろう。

ほかにも、国ごとの施策にも投資をすると話していた。具体的な話はなかったが、Insta360はアニメや自動車メーカーなど異業種とコラボするユニークな企業なだけに、意外な仕掛けを考えているのかもしれない。

「今後の展開として、アクションカメラというカテゴリーの製品から、もっとメインストリーム、大衆的な製品を増やしていきます。これからたくさんの商品を出すので期待してください」

日本のユーザーの皆さん、ありがとう!

最後に、JK氏から読者の皆さんにメッセージをいただいた。

「日本の皆さんに伝えたいことは3つあります。まずは、デジカメ Watch読者の皆さんへ。写真好きの方が多いと思いますが、ライカレンズを搭載したAce Pro2は光学的に優れた画質で撮影できるおススメのカメラです。フリップモニターで自由なアングルで撮影できるので、利便性を求めるのであればご検討ください。

「2つ目は、ユーザーの皆さんへ。私たちはすごく感謝しています。Insta360は、ベンチャー企業としてスタートからわずか10年の企業です。それにもかかわらず、私たちの製品を理解し、たくさんの方がユーザーになってくれました。とてもありがたく感じています」

「最後に、私たちは日本のカメラメーカーを尊敬しています。日本はカメラ大国で、OM SYSTEM、キヤノン、ソニー、ニコン、パナソニック、富士フイルム、リコーといった先輩たちがいて、私たちは彼らから学び、そしてユーザーさんからのフィードバックを得て、製品を改善していきたいと考えています」

「最近はリコーさんとダイビングシーンに使うアクセサリーの開発をしているので、今後も日本のブランドとこのような取り組みが展開できればと思います」

JK氏はAIやソフトウェアの面でも日本のメーカーとコラボを実現したいと語り、話を終えた。

左からInsta360 Ace Pro2、Insta360 X5

もし、ミラーレスカメラにInsta360のカメラと同等の映像ブレ補正が搭載されたとしたら……。夢物語かもしれないが、JK氏の言葉に期待せずにはいられなかった。

取材をして感じたことだが、JK氏は不思議な方だ。

熱烈なカメラ好きというわけではなさそうだし、自らがアクションカメラを必要としているわけでもない。それにもかかわらず、世界で有数のアクションカメラを作り出すのだから、その発想力と技術力は抜きん出ているのだろう。

60分という短い取材時間だったため、聞きそびれた件はいくつかあるけれど、Insta360創業者であるJK氏の人となり、そして創業からのストーリーは紹介できたと思う。

もし今後、アクションカメラで迷うことがあったら、「Insta360はJK氏のカメラ」と念じてみよう。作り手の顔が分かると、製品の信頼度も増すはずだ。

桐生彩希