トピック

長距離も坂道も問題なし!「e-bike」で奥多摩の紅葉風景を撮影してきた

撮影スポットを次々と移動 “自転車だから”撮れるシーンがある

秋も深まりこれから絶好の紅葉撮影シーズンを迎える。新しい撮影機材を用意したり旅行の計画をしたりと、撮影に向けて準備をしている読者も多いことと思う。

遠出をしての撮影といえば電車などの公共交通機関+徒歩やクルマという人が多いと思う。ただ、徒歩は移動できる距離に制限があるし、クルマは快適なようで渋滞や駐車場探しなど意外と面倒もつきまとう。

そうした中でいま注目を集めているのが「e-bike」だ。これは電動アシスト付き自転車のことだが、通勤や買い物などを想定した一般的な電動アシスト付き自転車とは異なり、よりスポーティな走りが特徴の自転車だ。

そこで今回、e-bikeの快適さを体験すべく弊社インプレスが運営する写真SNS「GANREF」のメンバー3名がe-bikeを使ってサイクリングをしながらの撮影を敢行した。果たしてアップダウンの激しい山道で、数十kmの移動を乗り切れるのか!? その顛末をレポートする。

撮影の移動に最適な「e-bike」

今回の企画はJR奥多摩駅を起点に、奥多摩湖周辺をe-bikeで移動しながら撮影を行うというものだ。写真家の河田一規さんを講師に迎え、アドバイスをもらいながら秋の風景をカメラに収めていった。河田さんは高校時代にサイクリング部で活躍したほどの自転車好き。普段の撮影にも自転車を多用しているとのこと。

写真家の河田一規さん

河田さんには先行してe-bikeを試してもらっているが、「やっぱり楽ですね。結構荷物を積んでも走るのが嫌にならない。三脚も含めて好きな機材を持って行けるのは大きなメリットです」とさっそく気に入ったようだった。

そんなe-bikeについて説明しておきたい。先に一般的なシティサイクルの電動アシスト付き自転車とは異なると書いたが、その大きな理由は「スポーツバイク専用のドライブユニット(モーター)」を搭載していることだ。バッテリー容量も大きく、ハイパワーなので荷物を積んだり坂道でも楽に走ることができる。車体もスポーツタイプのものが多く、多段のギアやディスクブレーキを搭載するなど長距離移動を前提としたハイスペックなパッケージになっているのが特徴だ。

e-bikeは自転車としてのスペックも高い

最近ではe-bikeのレンタルスポットも増えており、現地で気軽に乗って撮影に活用できるほか、クルマに積んで目的地まで運べば、クルマや徒歩では難しいアプローチも可能になる。クルマで走っていて撮りたい景色を見つけても、クルマを止める場所が無いとシャッターチャンスを逃してしまう。その点、自転車ならサッと止めて撮影できる機動性があるということだ。

シマノ製ドライブユニットを搭載するメリダ「ePASSPORT」に乗る

e-bikeは様々なメーカーから出ているが、今回メンバーが試したのはメリダの「ePASSPORT CC 400 EQ」(以下、ePASSPORT)というモデル。”スポーツバイク”というと乗り方や扱いにハードルの高さを感じるかもしれないが、そこは心配ご無用。トップチューブがないステップインタイプなので、シティサイクル同様に乗りやすい。

今回使ったのはメリダの「ePASSPORT」。フレームに大容量のバッテリーが内蔵されている

そしてe-bikeの心臓部に当たるドライブユニットとバッテリーはシマノ製。言うまでも無いが、シマノは世界的に信頼を集めている日本の自転車パーツメーカーなので大きな安心ポイントとなる。筆者も実際に乗ってみたが、走り出しの滑らかさや坂道でもぐんぐんアシストしてくれるパワーなど、さすがスポーツバイクを知り尽くしたシマノといった印象だ。

信頼性の高いシマノ製のドライブユニットを採用している

ほかにもePASSPORTは、9段という幅広いギアや強力なディスクブレーキ、ダンパー(フロントのみ)など本格的な装備も充実している。後部にはキャリアが付いているのでパニアバッグを装着してたくさんの荷物も運べる。小さめのカメラバッグもすっぽり入るので撮影にはなおさら向いている。ePASSPORTは、スポーツバイク初心者の写真愛好家にはうってつけの1台といえそうだ。

ギアは9段。リアギアだけなので操作がシンプル
スポーツバイクのギアを装備する
前後ともディスクブレーキとなっている

e-bikeといっても操作で難しいところはなく、電源を入れてアシストレベル(0+3段階)を設定するだけ。あとはギアのシフトをしながら走れば良い。アシストレベルは走りながらでも調節できるので、坂道ではレベルを上げ平地ではレベルを下げるといった調整をするとバッテリーを長持ちさせられる。電動アシスト付き自転車に初めて乗った筆者もすぐに乗りこなせたことを付け加えておこう。

アシストのコントローラー。上下のボタンでアシストレベルを調節する

紅葉の名所「いろは楓」を目指す

今回の最終目的地は麦山浮橋。奥多摩駅からは片道約15kmの道のりだ。参加者は9時に奥多摩駅に集合。自己紹介を経て、e-bikeについてのレクチャーや走行時の注意点などの説明を受けた。

出発地点の奥多摩駅
e-bikeについてのレクチャーを受けた
ここで、体型に合わせたサドル調整も行った

その後、最初の目的地である「いろは楓」に向かって河田さんを先頭に出発した。いろは楓までは一定の勾配で上り坂が続くエリア。リアキャリアにはパニアバッグを乗せ、中には2本の保冷ボトルや交換レンズ、自転車のメンテナンス工具類など結構な量を入れていたが、e-bikeは誰かが後から押してくれているようなイメージでスイスイ進むので、登坂も全く苦にならない。アシスト無しの自転車なら立ちこぎが必要な場面だろう。

キャリーに装着したパニアバッグ。着脱も簡単だ
パニアバッグの中身。結構な容量がある

いろは楓は自生する山モミジの一種で、キレイな紅葉を見せることから撮影スポットとしても知られている。紅葉のタイミングとしてはやや早めだったという印象はあるが、晴天に恵まれて日の光を受けたモミジは風にそよいで輝くようだった。

全面的な紅葉には少々早かったが赤い葉と緑の葉の組み合わせも美しかった
河田さんもさっそく撮影
撮影:河田一規

撮影場所に着くなり、メンバーは思い思いの景色にカメラを向けた。河田さんやメンバー同士で写真やカメラについての情報交換をするなど楽しいひとときが過ごせたようだ。

思い思いに撮影を楽しんだ

ハイライトの「小河内ダム」へ

いろは楓を後にして次に向かうのは小河内ダムだ。そこまでは「奥多摩むかし道」と「むかし道休憩所」を通る。ここは渓谷沿いの細い道で、アップダウンの繰り返しがあるのと、急カーブも多いエリアとなっている。ePASSPORTはマウンテンバイクに近いところもあり、太めのオフロード対応タイヤを履いている。そのため急カーブや多少ダートな路面でも安定して走行することができた。

奥多摩むかし道は結構な登りだが、苦労せずスイスイ進んで行った
途中で良い風景を発見。すぐにe-bikeを止めて撮影に移った
むかし道休憩所に到着。ここでも紅葉が撮影できた
撮影:河田一規
メンバー同士の交流も
むかし道休憩所を出発。こうした急カーブでも安定して走行できた

小河内ダムではまず、「奥多摩 水と緑のふれあい館」に立ち寄って昼食休憩となった。当日は日曜日とあって行楽に訪れた人々で賑わっていた。水と緑のふれあい館には駐車場が併設してあるが、警備員が持っていたのは「満車」の札。こういうときにクルマだとこの場所はスキップせざるを得ない。自転車行のありがたみをひしひしと感じたところだ。

奥多摩 水と緑のふれあい館
小河内ダムのほとりで昼食を摂った

昼食後は小河内ダムの堤体側に移動しての撮影となった。小河内ダムは水道専用としては日本最大のダムだそうで、東京の水瓶となっている。ダム湖と森林が織りなす雄大な風景が広がっており、今回のハイライトと言って良い場所だ。堤体の高さは149mあり、まさに絶景をカメラに収めることができる。

小河内ダムの堤体に向かう一行
雄大な景色を堪能した
撮影:河田一規

ダム湖側はもとより、水が流れ落ちる多摩川サイドにも紅葉している樹木や橋があり絵になるところだ。展望塔や展望広場もあり撮影場所には事欠かない。山々に点在する集落の風景も収められる。

堤体の上にある展望塔にも上った
展望塔からも撮影ができる
撮影:河田一規
小河内ダムの撮影を終えて出発

いよいよ最終目的地の「麦山浮橋」へ

続いては最終目的地の麦山浮橋に向かう。道中は上り坂もあるが比較的緩やかなコースだ。相当走ってきたが、やはりe-bikeだと疲れ知らずと言ったところ。それなりのスピードを出しつつ、メンバーでは遅れる人もおらず快調に進んで行った。

これだけ走ってもメンバーに疲れた様子は感じられない

麦山浮橋手前の峰谷橋駐車場にe-bikeを止めて、そこから徒歩で峰谷橋を渡り麦山浮橋に向かった。峰谷橋は真っ赤にペイントされていて写真映えする橋となっている。また橋からダム湖も望むことができた。

赤くペイントされた峰谷橋も撮影ポイント
撮影:河田一規

麦山浮橋は「ドラム缶橋」としても知られている有名な浮橋だ。残念ながらこの日は強風で通行止めになっていたため渡ることはできなかったが、浮橋とダム湖、山を組み合わせた撮影ができた。

眼下にドラム缶橋が見える。奥多摩湖の名物だ
浮橋は渡れなかったが、上から熱心に撮影するメンバー
撮影:河田一規
空いた時間での談笑も楽しい

ここで引き返し、帰りは撮影は行わずに講評会の場所である奥多摩駅近くの「奥多摩町福祉会館」に向かった。復路もロングライドだったがスムーズに戻って来られて、メンバーからも「もっと走りたいくらい」という声もあった。

帰りの15kmもあっという間で、e-bikeだと長距離を走った感覚がないほどだ

講評会で作品を発表

講評会ではメンバー各自が3点の作品を発表。それを受けて河田さんが講評を述べた。どれもアイデアやテクニックを凝らした力作で、当地の魅力が伝わってくる写真になっていた。

講評会を行った奥多摩町福祉会館
すぐにセレクト作業に入った
講評会の様子
ANTONさんの作品
ANTONさんのカメラ「パナソニックLUMIX S5」

作品について: あまり考えずに直感的に撮った1枚です。ポイントはミラーですね。オールドレンズのニッコール50mmで撮影しています。

e-bikeについて: 実際に乗ってみたらこんなに楽なんだなと驚きました。仕事の移動でシティサイクルの電動アシスト付き自転車に乗ることもあるのですが、こんなに楽じゃないですね。普段はクルマとその先で徒歩で撮影していますが、このくらい楽に乗れるe-bikeで、折りたたみができるタイプがあれば気軽に車に積めるので良さそうです。もし手に入れたら田舎の田園地帯などを走りながら撮影して見たいですね。

河田さんから: 写真はあまりかしこまらずに、自分の好きなように撮るのが良いと思います。その点でこの写真は自身の個性が出ているように思います。ミラーのような人工物と組み合わせる試みが面白いですね。紅葉がベストな状態ではなかったので、そうした工夫は素晴らしいと思います。


ふらふらだんさーさんのカメラ「キヤノンEOS R6」

作品について: ダムの展望台から見えた山の影にちょうど光が斜めに入っていて、面白いと思ってそこをズームアップして切り取りました。真ん中に赤くなっている木があったのでそれも生かした画面にしました。

e-bikeについて: 奥多摩が好きでよく来ています。今回は案内してもらえるということで、新しい場所を見つけられると思って参加しました。e-bikeはレンタルで乗ったことは数回ありますが、今回のような山でも坂の上りがすごく楽ですね。しかも駐輪も簡単で、撮りたいときにすぐ撮れるのが良いと思いました。1日かけてe-bikeで回って撮影などがしてみたいですね。

河田さんから: 構図の収まりが素晴らしく、よく考えているなと感じました。目の付け所が面白いと思います。斜めの光など自分が反応したことが見る方にも伝わってきて完成度が高いですね。


C級サラリーマンさんのカメラ「ライカSL2-S」

作品について: 「紅葉のときに来たんだよ」というのがわかるようなイメージで写真に収めました。e-bikeにはインスタントカメラが合っているように感じて、ライカ ゾフォート2を持ってきました。みんなで走りながらインスタントカメラで撮っても楽しいのではないかと思います。

e-bikeについて: ePASSPORTは高級なe-bikeなので、乗っていて怖くないんです。なかには踏むと急に進むものがあるので、その点は安心しました。タイヤを外せるそうなので、クルマのうしろに積めば相当楽しめそうですね。手に入れたら絶対にそういう使い方をします。

河田さんから: 面白いですね。アイデアとしては前からあるものですが、やる人はなかなかいません(笑)。ただやればいいというものではないのですが、赤い葉を探して撮っていてちゃんと内容があるのが良いところです。


最後に、講師の河田さんも作品を2点披露した。意外にも被写体は紅葉ではなかったが、「花鳥風月よりも、どちらかというと人工物やそれが朽ちていくようなものを撮るのが好きです。意図しない美しさがある被写体です」とのこと。

作品を発表する河田さん
河田さんの作品①

河田さん: ダムの展望塔のところですね。こういう光が結構好きですね。建物の質感もよくわかります。紅葉ももちろん撮りましたが、普通かなと思ったので紅葉以外を選びました。

河田さんの作品②

河田さん: 渡れなかった麦山浮橋ですが、逆に人がいない静かさが際立つ絵が撮れました。1段アンダーにして露出を切り詰めています。何枚か撮りましたが、対角線状に配置したのが一番カーブの見え方が面白いかなとこれを選びました。

e-bikeについて: 以前小河内ダムまで自転車で来たのですが結構つらかった想い出があります。ところが今日は、「もう着いた!」という感じで楽しかったです。やはり、e-bikeは撮影に余力を残せるのが良いところですね。走り出しも楽なのでストップ・アンド・ゴーも厭わずにできます。自転車で撮りながらといういつもの撮影が楽にできるのがe-bikeの大きなメリットです。

新しい”撮影機材”としてのe-bike

点在する撮影地へのアプローチというのは、なかなか悩ましい問題ではある。ストップ・アンド・ゴーの撮影というのはクルマでは駐車スペースの制限から難しく、徒歩で移動できる距離は知れたものだ。クルマや徒歩で行くのが難しい場所は確かにある。

その点で今回紹介したe-bikeを活用すれば、いわば「撮影領域の拡大」ができるということだ。すなわち、今まで撮れなかったものが撮れることになり、ある意味でe-bikeは写真愛好家にとって新しい撮影機材のような位置づけのアイテムとも言える。

筆者が乗ったe-bikeのバッテリー残量は帰ってきた時点で1目盛減っただけ。燃費も良いようだ

河田さんの「撮影に余力を残せる」という言葉は印象的だった。移動で疲れてしまっては撮影どころでは無くなる。アシスト無しの自転車は平地ならまだ良いが、荷物も積んでの上り坂はかなりきついもの。そこは無理をせずにテクノロジーのお世話になるのは悪くない話だ。

写真愛好家だとどうしてもカメラやレンズに投資してしまうが、モビリティにお金を掛けるのも写真ライフを一層充実させる要素として大きいと思う。少しでも興味が湧いたら、まずはe-bikeに試乗されることをオススメしたい。きっと撮影スタイルが変わりますよ!

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。