トピック
最速CFexpressをリリースした「Nextorage」って、どんなブランド? 知っておきたい“10”のトピック
2023年3月27日 07:00
「世界最速」のCFexpressを発売したことで話題のNextorage(ネクストレージ)株式会社。2月に開催されたCP+2023に出展したこともあり、ますます多くの注目を集めています。
メモリーカードとしては新鮮な響きのブランド名に興味を覚えてインタビューをお願いしたところ、興味深い事実をいくつか知ることができました。
ということで、インタビューから再構成した「Nextorageについて知っておきたい10のトピック」をお伝えしましょう。
トピック① ソニーグループとして発足、いまは独立
——まずは会社発足の経緯をお聞かせください。
麻生伸吾氏(以下、麻生): 当社はソニーのグループ会社として、2019年の10月1日に発足し、2022年の1月に独立しました。メモリー・ストレージ・ソリューション事業のメーカーです。Nextorageブランドの自社製品の他にも、多くのメモリーカードのOEMビジネスを幅広く手掛けています。
——ということは、メモリーカード事業の実績は豊富ということですね。
麻生: はい、Nextorage自体は発足から4年目ですが、メモリーカード事業のメンバーは20年以上の経験と実績があります。例えばですけど、私も正田も他のメンバーも、皆ソニーのメモリースティックの開発に長く携わっていた時期があります。
——ソニーから独立したのはどのような理由ですか?
麻生: ソニーがメモリーカード事業を終了するということもありましたが、その時に現社長の本多(代表取締役社長・本多克行氏)が、本事業の将来性を見据えて新しく会社を発足することを宣言しました。発足当初にソニーからのサポートも受けられることになり、プロフェッショナル向けの高品質なメモリーカードやストレージを造るため、20数名の元ソニーメンバーが集い、独立することになりました。
——現在はOEM事業も手がけているということですか?
麻生: 2022年に完全独立したことで、グループ会社だった頃より、さらに自由で幅広い事業を展開できるようになった結果です。実はこれが当社の強味となっており、当社が日本でメモリーカードを設計・開発していることから、同じく日本の多くのカメラメーカーと協力関係を築くことができています。
正田雅裕氏(以下、正田): メモリーカードの性格上、ひとつのカメラメーカーに特化しているのではなく、さまざまなカメラメーカーのデジタルカメラで幅広く使ってもらいたいというのが、本質としてあります。ですので、汎用性が高い、ニュートラルなブランドとして成長したいという願いもありました。メモリーカードはメディアですので、機器とユーザーを隔たりなくつなぐのが役割だと考えています。
トピック② 身近なところでも活躍中
——プロフェッショナル以外で活用されているメモリーカードにはどのようなものがありますか?
正田: メモリーを専業としている会社ということに立ち返れば、我々はカメラ用のメモリーカード以外でも世の中の需要に応えられるはず、という想いで現在力を入れているのがゲーミング用の製品です。
——どのような製品でしょうか。
正田: 例えば、PS5拡張用の内蔵SSDです。これもそれまでに培った実績があったおかげで、先駆けていち早く製品を発売することができました。
また、PC用のメモリー事業も以前から力を入れていましたが、ソニーから独立したことによって、さらに幅広く事業展開できるようになっています。
トピック③ 販売はAmazon.co.jp
——EC、リアルのどちらの販売に力を入れていますか?
正田: まずはNextorageブランドのメモリーカードを知っていただきたいという想いから、現段階ではECサイト(具体的にはAmazon.co.jp)での販売に注力しているところです。ブランド力が成長してくれれば、次の段階、リアル店舗での販売も考えていこうと思っています。
——ECサイトを中心とした販売のメリットは何でしょう。
麻生: Amazon タイムセールなどに参加することが、Nextorage製品の魅力を知っていただく良い機会となっています。現段階では我々のようなチャレンジャーに最適な販売形態だと考えています。
トピック④ 日本で設計・開発
——昨年末、世界最速のCFexpress Type Bとなる「NX-B1PRO」を発売されました。販売の推移や手応えはいかがでしょうか。
麻生: おかげさまで順調です。特に、CP+2023に出展したことで、かなり多くのセールスを伸ばすことができたと考えています。Amazonでタイムセールをしたことも大きかったと思いますが、CP+2023でも実際にブースを訪れてくださった方々が興味をもっていただき、それが購入への意識に繋がっていたと考えられます。うれしいことです。
——どのような質問が多かったのでしょうか。
麻生: 一部ではありますが、台湾製であることを心配される声を聞きました。Nextorageのメモリーカードは我々がきちんと日本で設計・開発していますし、台湾の工場の製造品質も入念に管理していますので、安心して使っていただきたいと思います。
——CFexpressを日本で設計・開発している企業はNextorageだけですか?
麻生: 数少ない日本のメーカーであることは確かですし、我々もそこには自負があります。Designed by Nextorage in JapanのCFexpressです。
トピック⑤ 世界最高速を誇る「NX-B1PRO」
——昨年末にCFexpressの2つの製品、「NX-B1PRO」と「NX-B1SE」を発売されました。両者の違いを教えてください。
麻生: まず「NX-B1PRO」ですが、CFexpress Type Bカードとして、世界最高速の書き込み/読み出し速度になります。高画素のデジタルカメラで連写する方や、8K動画を撮られる方などをユーザーとして想定、開発しています。「NX-B1SE」とはNANDフラッシュのタイプが異なっていますので、それが速度や耐久性、価格に大きく影響しています。
——スチル撮影で想定される「NX-B1PRO」の撮影ジャンルは?
麻生: 動物やモータースポーツ、鉄道などでしょうか。いわゆる無限連写などの要求にも、しっかり対応できるようにしています。
——8K動画とおっしゃいましたが、8K RAWでの記録を想定されていますか?
麻生: はい、「NX-B1PRO」は最低書込み速度も速く、8K動画をRAWで記録するといったハードな使用も想定しています。例えばつい先日、660GBと1,330GBがRED Digital Cinema社カメラの「V-RAPTOR XL」「V-RAPTOR」の認証も取得しました。
——消費電力の面ではどうでしょう。
麻生: CFexpressのインターフェースはPCI-Expressと同じですので、消費電力は基本的に大きいです。ですが、「NX-B1PRO」は当社独自のアルゴリズムを採用するコントローラーを搭載しており、カメラの状態に合わせて最適な電力モードに自動的に切り替えることができます。そのため、CFexpressとしては優れた低消費電力性を達成しています。
——低消費電力であることのメリットは何でしょう。
麻生: 発熱を抑えられるため、動画撮影中に熱で撮影が止まるような事態を防げます。またPCへのデータ転送でも、サーマルスロットリングが作動して途中から転送速度が遅くなる現象を低減できます。
トピック⑥ 高コストパフォーマンスの「NX-B1SE」
——同時に発売された「NX-B1SE」のコンセプトや特徴は?
麻生: 現在SDメモリーカードで満足されている方に、CFexpressのメリットを知っていただくために開発したのが「NX-B1SE」といえます。撮影時はSDメモリーカードで問題がないとしても、PCへのデータ転送速度になると、CFexpressとSDメモリーカードで大きな差があります。数百枚、数千枚規模の静止画を撮影する方なら、SDメモリーカードでなくCFexpressを使うメリットは大きいはずです。
——「NX-B1SE」に価格的な目標はありましたか?
麻生: 128GBに関しては、1万円を切る価格を目標にしました。この価格でしたら、最速のSDメモリーカードよりも、低価格かつ高速です。最初のCFexpressとして手にしていただき、次のステップのデジタルカメラとともに「NX-B1PRO」を選択してもらえたら嬉しいですね。
——「NX-B1SE」は動画撮影でも使用できますか?
麻生: FHDや4K 30pまでなら大丈夫ですが、それ以上になると「NX-B1PRO」の方が適しているでしょう。低消費電力と最低書込速度の差によるものです。「NX-B1SE」は最高速度こそ高速ですが、動画を長時間記録するのに重要な最低書込速度はあまり速くありません。そのため、大きな容量の動画記録は少し苦手です。最低書込速度と使用上の注意については、Web上で表記するようにしています。プロ向け製品をリリースするメーカーとしての責任だと考えています。
トピック⑦ 自社・カメラメーカー両方で動作確認
——CFexpressを採用したデジタルカメラの動作確認はされていますか?
麻生: ニコン、キヤノン、富士フイルム、パナソニックのデジタルカメラの動作確認が完了しており、当社のWebサイトでもその情報を公表しています。また、各カメラメーカーにも動作確認を依頼し、検証を進めて頂いております。
——ということはNextorageとカメラメーカーで相互に情報を共有しているということですね。
麻生: 当社の製品はCFexpress採用カメラを発売する全てのメーカーに提供させてもらっていますし、それぞれ評価をしていただいています。先にお話ししました、日本のメーカー同士の意思疎通のしやすさからくる安心感、信頼性があるのではないかと考えています。
トピック⑧ カードリーダーも自前で用意。USB3.2 Gen2×2に対応
——CFexpressを導入するにあたってカードリーダーも購入しなければなりません。購入時に注意することはありますか?
麻生: 少なくともCF(コンパクトフラッシュ)アソシエーションに参加しているメーカーのカードリーダーを使ってもらいたいと思います。現在、多くのCFexpress対応カードリーダーが発売されていますが、なかには公称値通りの速度がでなかったり、認識すら怪しい製品が見受けられます。その点、CFアソシエーション参加メーカーのカードリーダーなら自社のメモリーカードで検証しているため、信頼性は高いはずです。
——CP+2023でNextorageもカードリーダーを参考出品されていましたね。
麻生: はい、USB3.2 Gen2×2規格に準拠したCFexpress Type B用のカードリーダーを参考出品しました。「NX-B1PRO」の最高性能を引き出すことができます。発売まで今しばらくお時間をいただいてしまいますが、同じメーカーの製品ということで弊社のCFexpressと親和性も高く、自信をもっておすすめできます。
——価格はどのくらいになりそうでsでょうか。
麻生: 未定です。ただ、CFexpressを多くの方に使ってもらいたいので、あまり高価にはしたくないと考えています。
トピック⑨ ついにSDXC UHS-IIを投入、上位シリーズはpSLCを採用
——2月21日に待望のSDXC UHS-IIタイプの「NX-F2PRO」「NX-F2SE」を発表されましたね。しかも「NX-F2PRO」はpSLCを採用しています。
正田: 今回発表したのはともにUHS-II規格のSDXCメモリーカードです。NextorageブランドのSDXCメモリーカードは、これまでUHS-I規格のものしかありませんでしたが、これでより高速なSDXCメモリーカードを提供できるようになりました。
——CFexpressと同じようにPROとSEの2タイプがあるのですね。
正田: そうです。Nextorageの製品のポジショニングが一目で分かるよう、PRO(プロ)とSE(スタンダードエディション)という具合にセグメントを分けています。パッケージデザインもCFexpressにあわせています。
——pSLCを採用する「NX-F2PRO」の特徴は?
UHS-I規格の最高転送速度は約100MB/秒ですが、UHS-II規格を採用する新シリーズはそれ以上のスピードがでます。特にpSLCメモリーを採用する「NX-F2PRO」の場合、SDXCメモリーカード最高値の読み出し300MB/秒、書き込み299MB/秒を実現しました。TLCを採用する「NX-F2SE」でも読み出し280MB/秒、書き込み170MB/秒(128Gは書き込み100MB/秒)と、UHS-I規格のSDメモリーカードに比べて高速になっています。
——どのようなユーザーを想定されているのでしょうか。
正田: CFexpress対応のデジタルカメラでも、もうひとつのスロットでSDXC UHS-IIを同時に使える機種があります。そうした製品での使用を想定しています。RAWはCFexpressに、JPEGはSDメモリーカードに、といった具合ですね。
またCFexpress用のスロットを持たず、SDXC UHS-II用のスロットを装備するハイエンドカメラも、まだ多くありますし、高品質の画像や映像をSDメモリーカードに撮影するワークフローをされているプロフェッショナルユーザーもいらっしゃいます。その場合、SDXCメモリーカードもなるべく高速に記録したいため、UHS-II規格に対応したSDXCメモリーカードの存在が重要になると考えています。
——動画撮影の場合、どのような使い分けが適切でしょうか。
正田: SDアソシエーションが規定するところのビデオスピードクラスで見ると、「NX-F2PRO」はV90、「NX-F2SE」はV60です。ですので、8K動画は「NX-F2PRO」で、4K動画までなら「NX-F2SE」というのがひとつの基準になると思います。
トピック⑩ 今後の製品展開にも期待
——SDXC UHS-IIを投入されるわけですが、対応したカードリーダーの発売予定は?
正田: 実はあります。SDメモリーカードの需要はまだ高く、今後も続くと思いますので、CFexpressと同じくSDXC UHS-II対応のカードリーダーも開発中です。SDメモリーカードは1回の撮影で複数枚を使用することが多いため、マルチスロットのカードリーダーで同時に読み込めるようにして、作業の効率化を図った製品にしたいと考えています。
——NextorageのSDXCには、一体成型でかつ端子間リブやWPスイッチをなくして堅牢性を高めた「RIGID」シリーズがありますよね。SDXC UHS-IIにおける「RIGID」タイプの発売予定は?
正田: UHS-II規格の「RIGID」を開発するという具体的な計画はまだありませんが、需要があるようでしたら最大限の努力をしていきたいです。
麻生: 昨年12月から現在にかけて、2タイプのCFexpressと、同じく2タイプのSDXC UHS-IIを発表しました。我々としてはユーザーのニーズに応えて商品ポートフォリオを広げていきたいと常に考えています。メモリーカードに限らずさまざまな製品の企画を検討していますので、これからも期待して見守っていただけるとうれしく思います。
(おまけ)「NX-B1PRO」を計測してみた
インタビューのあと、実際にCFexpress Type B「NX-B1PRO」の転送速度をテストしてみました。
「NX-B1PRO」シリーズは、読み出し最大1,950MB/秒、書き込み最大1,900MB/秒と、世界最速の転送速度を誇るCFexpressカードです。ところが、現在のPCで比較的よく普及しているUSB3.2 Gen2(×1)の転送速度は、最大で10Gbps(1,250MB/秒)なので、これではNX-B1PROシリーズの性能を活かすことはできません。
そこで今回は、Nextorageが製品化を進めているCFexpressカードリーダー(試作機)をお借りして計測することにしました。
こちらのCFexpress Type B用カードリーダーは、USB3.2 Gen2×2に対応していることが特徴のひとつ。USB3.2 Gen2×2は、10GbpsのUSB 3.2 Gen2を2レーン使って転送速度を2倍にした20Gbps(2,500MB/秒)の規格なので、理論上はNX-B1PROの高速性能を活かしきることができます。
計測に使用したPCは、マウスコンピューターのクリエーター向けブランド「DAIV」の最高峰、「DAIV DD-I9G90」。これにラトックシステムのUSB 3.2 Gen2x2のPCI Expressボード「RS-PEU32-C1A」を装着してテストしました。
ベンチマークソフトで計測
まずはベンチマークソフトの「CrystalDiskMark」を使用して、「NX-B1PRO」の転送速度を計測しました。
結果は、シーケンシャルで読み出し(Read)が約1,807MB/秒、書き込み(Write)が約1,765MB/秒。おおむねパッケージの表記に近い転送速度が出ていることが分かります。
CFexpress Type B対応のカメラで連写テスト
次はCFexpress Type B対応のデジタルカメラに連写テストを行ってみました。
テストに使ったのは「FUJIFILM X-H2」(以下X-H2)。いわゆるスピードモデルではないので連写速度はそれほど速くありませんが、約4,020万画素の高画素モデルですので、連続撮影時にはメモリーカードの書き込み速度の性能がものをいうはずです。
「NX-B1PRO」(660GB)をフォーマットしたうえで連続撮影を開始。連続撮影が途絶えたところで終了します。その後、撮影後に記録された画像ファイルの枚数を確認しました。
結果は、画質モードの違いにかかわらず、富士フイルムの公称値(公開されているX-H2の連続記録枚数)を上回る記録枚数となりました。
特に、画質モードをRAW(ロスレス圧縮RAW)にした場合、公称値では1,000+枚となっていますが、電子シャッターでの連続撮影ならそれを大きく超えた4,129枚という結果が圧巻です。メカシャッターでの連続撮影は1,200枚となりますが、それでも1,000枚以上であることに変わりはありません。
画質モードをRAW+JPEGにすると、急激に連続記録枚数が減ってしまうのはX-H2の仕様によるものですが、こちらも電子シャッター、メカシャッターにかかわらず公称値よりも多くの画像ファイルを記録することができました。
電子シャッターとメカシャッターで、記録できる連続記録枚数に違いがあるのは、X-H2の「CH連写」が、電子シャッターでは最大約13コマ/秒であるのに対し、メカシャッターでは最大約15コマ/秒と違いがあるためだと思われます。
おそらく「X-H2」の開発時、「NX-B1PRO」ほど速いCFexpressはなかったのでしょう。「NX-B1PRO」の発売は「X-H2」の少し後だったため、公称値を上回る実測結果になったのだと予想できます。
インタビュー&ベンチマークを終えて
メモリーカードは、撮影した画像データを記録・保存する大切なアイテム。カメラやレンズと同じように重要な機材だと思います。だからこそ、信頼できるメーカーの製品を使いたい、となるわけですが、これまであまり知られていなかったNextorageもその希望を満たしてくれそうな気がしました。CFexpressはもちろん、SDXCやSSDなど、コントローラーから自社で開発している日本のメーカーは希少といえます。
実は筆者は初めてのCFexpressとして、発売日に「NX-B1SE 128G」を購入しています。同時発売の「NX-B1PRO」ではなく「NX-B1SE」にしたのは、1万円を切る価格に魅せられたから。その後も使い続けていますが、筆者の使い方・環境では満足いく仕事をしてくれています。
満足はしているのですが、今回「NX-B1PRO」の高速性能を目の当たりにしたことで、「やっぱりNX-B1PROにしておけばよかった……」と軽い後悔も覚えました。「NX-B1SEでCFexpressの良さを知り、しかる後にNX-B1PROにステップアップしてほしい」という、Nextorageの考え方にそのまま乗ったカタチです。しかし、今後ますます発展するであろう、CFexpressワールドに入門できたのですから文句はまったくありません。
撮影:武石修、曽根原昇
制作協力:Nextorage株式会社