COSINA WIDE-HELIAR WORLD

赤城耕一×ULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 E-mount

雪模様の信州中野を切り取る

早朝のリンゴ畑。夜明けを待って撮影。取り残されたリンゴをポイントにして画面を構成した。澄んだ空気によって、はるか遠くの山並みもみえる。絞り込んでパンフォーカス効果を生かした。太陽が顔を出す直前の空の不思議な色、周辺までの均質な画像が気持ちいい。α7 II / F10 / 1/250秒 / +0.7EV / ISO800 / 12mm

月刊誌デジタルカメラマガジンと連動した本特集「COSINA WIDE-HELIAR WORLD」は、コシナがソニーEマウント用にラインナップするフォクトレンダーの超広角レンズ3本(10mm、12mm、15mm)を、3人の写真家が1本ずつ手にして撮影します。第1回目は赤城耕一氏が「ULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 Aspherical III」を手に、コシナのお膝元である信州中野を撮りました。

コシナ・フォクトレンダーのULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6は、ライカスクリューマウント互換のファーストタイプより愛用している。

使い始めたばかりのころ、自分の肉眼を想像をはるかに超える、世界の全てを飲み込む用な広大な画角をどう使いこなすかで悩んだ。フィルムライカでは、外付けのファインダーで見た像と現像から出来上がった写真の乖離があまりにも大きかった。これでもかと被写体に寄りシャッターを切ったつもりでも現像の仕上がったネガをみると、被写体は画面のはるかに遠くに位置していた。

今回試用したのは最新のIII型である。カメラはソニーα7 II。EVFで実際にそのパースペクティブの効果や被写体の大きさを確認しながら撮影できることと、撮影後にすぐに画像確認が行えるため、レンズの特性をコントロールすることができた。

今回の撮影地は信州中野。そう、コシナの本拠地であり、このレンズの故郷だ。ここに里帰りさせて、自ら誕生の地を切り取ってやろうという目論見である。撮影当日は雪模様だったが、志賀高原や飯山、栄村とも近く、雪の似合う土地でもある。

ソニーα7 IIとULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 IIIとの組み合わせは快適だった。レンズマウントに電子接点があるためカメラ側と情報のやり取りが行われる。MFだがフォーカスアシストが自動的に機能し、Exifも記録される。

12mmという特性上、被写界深度が深いとはいえ被写体までの撮影距離は極端に短くなりがちで、被写体の細かなディテールを確実に再現するためには正確なフォーカシングが必須になることも多い。フォーカスアシストはとても便利に使うことができた。α7 IIの露出精度の優秀さも手助けとなり、色の乏しい冬の信州中野の景色、雪の質感を予想以上に忠実に再現してくれた。

1日目・9時10分:中野市

長野電鉄の松川駅前。一時間に1本程度しか電車は来ない無人駅。前日夜から降り始めた雪があっという間に道路を真っ白にした。撮影初日の朝であり、町への挨拶がわりに軽くシャッターを切ったが、ちょうど人が通りかかってアクセントとなった。実直ともいえる律儀な歪曲収差補正が、強烈なパースペクティブを抑制した。

α7 II / F8 / 1/640秒 / +0.3EV / ISO400 / 12mm

カメラを水平垂直に保持するのがこのレンズの使いこなしの基本になる。見た目に不自然なパースペクティブがかからない最良のアングルを探して、忘れられたかのような商店の建物を撮影してみた。

α7 II / F7 / 1/500秒 / ±0EV / ISO400 / 12mm

10時40分:湯田中

有名な温泉街だが、朝は人が少なく静かな風景である。道幅の狭い道路からの撮影だが、広い画角のレンズなので、画面内に占める蔵も適宜な大きさに収まっている。

α7 II / F8 / 1/320秒 / ±0EV / ISO400 / 12mm

飲食店街。すでに営業を辞めたキャバレーのようだが、魅力あるデザインに惹かれた。朝の買い出しに出かける人が通りかかったところで軽くシャッターを押してみる。引きがない場所でも建物の様子全体がわかる。

α7 II / F8 / 1/320秒 / ±0EV / ISO400 / 12mm
α7 II / F8 / 1/400秒 / ±0EV / ISO400 / 12mm

飲食店の店頭のオブジェか。巨大なカボチャが積まれていたので、思い切り近づいてフレーミングしてみた。地味な景色に映える色合いだが良い具合に再現できている。雪の質感描写もいい。

α7 II / F9 / 1/320秒 / ±0EV / ISO400 / 12mm

リンゴの出荷場だろうか。カラフルな色のカゴが積まれ、色彩の乏しい雪の中ではひときわ目立つ印象に残る光景であった。カゴに近寄り、あえて全体を写さないことで、スケール感をだしてみた。

14時00分:栄村

α7 II / F8 / 1/400秒 / +0.3EV / ISO800 / 12mm

栄村にて。豪雪地帯で有名な栄村は中野よりもさらに雪が多く別世界だった。ひたすらモノトーンの世界を歩くと、セメント工場があった。タンク車にも雪が積もり、本来の役割とは異なる別のオブジェに変わっていた。

2日目・7時10分:中野市

中野市厚貝。車外の温度計はマイナス5度を示す。凍てついた空気がはりつめる車庫の中に建機が出番を待つ。ハイライトからシャドー部まで階調の豊富さが素晴らしい。カメラとレンズの性能が合致し高画質が見込める。

α7 II / F8 / 1/250秒 / -0.7EV / ISO800 / 12mm

バス停の待合室の古い看板。長い時代を感じさせるが、真新しい標識とのギャップがおかしい。微量光下での撮影だが、α7IIの5軸手ぶれ補正が機能するため安心である。

α7 II / F8 / 1/320秒 / -0.7EV / ISO800 / 12mm

10時00分:志賀高原

志賀高原への道。一気に太陽が顔を出した。太陽を画面に入れ込んでみたが、気になるようなゴーストは出現せず、雪のディテールも損なわれていない点に関心する。クリアでヌケの良い描写だ。

α7 II / F11 / 1/500秒 / ±0EV / ISO200 / 12mm

美術館のガラス張りの建物を、下方向から思い切りパースペクティブを効かせて撮影してみた。レンズの特性上こうしたダイナミックなアングルも試みたくなる。消失点は青空に吸い込まれてゆくような感じになる。

α7 II / F11 / 1/400秒 / -0.3EV / ISO200 / 12mm

協力:株式会社コシナ

赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「銀塩カメラ辞典」(平凡社)