基礎から学ぶ「デジタルバック入門」(その1)

〜中判4,000万画素の実力を現行システムで紹介
Reported by上田晃司

 一昔前までは、多くのアマチュア写真愛好家にとって、デジタルバックはプロが使う高価な業務用機器であり、「自分には関係ない世界」という認識だった。しかし近年、デジタルバックがアマチュア写真愛好家の間で、その存在感を増していることをご存知だろうか。

 その要因のひとつは、ハイエンドのデジタル一眼レフカメラとの価格差が縮まってきたこと。今までデジタルバックといえば単体で100万円以上するものだという認識があったが、いまやエントリークラスのデジタルバックは、カメラボディとセットでも2桁万円で購入できたりする。またここにきて、デジタル一眼レフカメラの高画素化に拍車がかかっていることも、要因のひとつといえるだろう

 今回から3回に分けて、デジタルバックの基礎、クラッシックカメラで楽しむデジタルバック、Capture Oneによるワークフローについてご紹介していきたい。まず今回は、デジタルバックシステムの老舗であるPhase OneとLeafシステムを中心に、デジタルバックの世界をご紹介しようと思う。


デジタルバッグとは何か

 一般的にデジタルバックとは、中判カメラに装着するためのデジタルモジュールを指す。フィルムバックの代わりに装着することで中判カメラをデジタルカメラ化するもので、つまりデジタル一眼レフカメラにおける撮像素子といえるものだ。現在では背面モニター、記録メディアスロット、バッテリーもデジタルバックに含まれているが、原点はあくまでフィルムバックを置き換えるだけのものだった。もちろん、レンズは装着するボディにあったものを使用する。

 装着するボディとしては、既存のハッセルブラッドVやHシステムやコンタックス、マミヤなどのカメラボディを活用できる。さらに近年では、デジタルバックでの使用を考慮したデジタルバック専用のカメラボディが登場。完成された一つのシステムとして使えるようになっている。

これがデジタルバック。左がPhaseOne IQ140、右がLeaf Aptus-II。画素数はともに4,000万だ645フォーマットのカメラボディに取り付けられる。写真右のボディはデジタルバック専用のPhaseOne 645DF

 そうした専用ボディで優れているのが、PhaseOne(フェーズワン)システムのカメラ「PhaseOne 645DF」だろう。PhaseOne 645DFは、フェーズワンとマミヤ・デジタル・イメージングが共同開発した中判カメラボディで、フィルムバックは装着できないデジタル専用の機種だ。

 PhaseOne 645DFはオープンプラットフォームなので、PhaseOneシステムのデジタルバック以外でも取り付けられる。撮影者の用途に合わせて最適なデジタルバックを装着することになる。

 デジタルバックの魅力のひとつは、その圧倒的な画素数だろう。上記PhaseOne 645DFに装着可能なデジタルバック、IQシリーズなら、4,000万画素から8,000万画素まで用意されている。35mm判デジタル一眼レフカメラの画素数も3,000万画素クラスのものが登場してきているが、さすがに8,000万画素となると話が違う。

 その画素数を支えているのがセンサーサイズだ。IQシリーズを例に見てみると、「IQ180」と「IQ160」は53.9×40.4mmと645のフルフレーム(いわゆる中判フィルムフォーマットのひとつ)をカバー。デジタル一眼レフカメラのフルサイズ機のセンサー(36×23.9mm)よりもはるかに大きいことがわかるだろう。下位モデルの「IQ140」はやや小さめのセンサーを搭載しているものの、それでも44×33mmと35mm判サイズを上回る。

 今回は、最新のデジタルバックIQ140とLeaf Aptus-II 8をPhase One 645DFシステムで使用した作品を掲載したい。IQ140は4,000万画素のセンサーを採用したデジタルバック。感度はISO50-800、Sensor+モードを使用すれば最大でISO3200まで使用可能だ。ダイナミックレンジは12.5fストップ、ピクセルはサイズは6×6μm、Sensor+モードで12×12μmとなっている。キャプチャーレートは1.2コマ/秒となっている。

 IQ140の場合、レンズの焦点距離は約1.3倍になる。スペック上では既存モデルのP40+などとほとんど変わらない印象だが、3:2アスペクトの115万ドット大型タッチパネル式液晶モニターを搭載するなど、今までのデジタルバックにはなかった機能を多く搭載している。

IQ140をPhaseOne 645DFに装着

 というのも、初期のデジタルバックといえばスタジオでの使用がメインで、たとえロケであってもパソコンと連結して使用することが前提であった。つまり、デジタルバック=フィルムバックの代わりという役割もあり、撮影画像の再生と画像のストレージは、パソコンに頼っていたわけだ。その後、液晶モニターや記録メディアスロット、バッテリーなどが加えられたものの、特に液晶モニターは、コンシューマー向けのデジタル一眼レフカメラより見劣りするものが多い。P+シリーズなども背面モニターは23万ドットのものが搭載されており、撮影した画像を確認することはできたがデジタル一眼レフカメラのように鮮明に画像を確認することは難しかった。

 しかし、IQシリーズが発売され高精細、高コントラストの背面モニターのお陰で日中の野外でもしっかりと撮影した画像の確認を行なえるようになり、屋外での撮影が効率的になった。今回、筆者も風景撮影や野外で人物撮影を行ったが、IQで撮影した画像は鮮明に確認でき、ストレスなく撮影に集中することができた。

IQ140はタッチパネルモニターを搭載する電子水準器も利用可能。IQシリーズはデジタルバックで初めてタッチモニターでの操作が可能になっている
再生画像は非常に高精細。屋外での視認性も良く、スタジオ以外での利用価値は高い

 デジタルバックはプロ用の機材という印象が強いこともあり、非常に複雑な操作を強いられる印象を持たれがちだ。実は意外にシンプルそのもの。例えばP+やIQシリーズのボタンは4つしかない。設定は非常にシンプルで、4つのうち2つは主にISO感度とWBを設定するボタン。その他は画像再生ボタンと、各種設定用のメニューボタンになる。メニュー設定もシンプルな内容で、ファイル形式の設定やCFのフォーマットなどが主な内容だ

 IQシリーズではボタン4つに加え、タッチパネルが利用できる。画像の拡大や縮小、白トビ警告の表示やフォーカス位置を教えてくれるフォーカスマスクのON/OFFなどすべてワンタッチで可能。タッチスクリーンの反応は非常に良く、画像の拡大や画像と画像の移動もスムーズだ。

IQ140のメニュー画面

 記録メディアも一般的なCFを使用できる。また、IQシリーズではバッテリーを内蔵可能。そのおかげですっきりとしたデザインになっている。バッテリー持ちは良く、1本のバッテリーで300枚近く撮影することができた。一部デジタルバックに存在する冷却ファンなどはなく、静かなのも特徴だ。

記録メディアスロットを備えている。CFが利用可能バッテリーはデジタルバックにすっきりと収納される

 もうひとつの例として、Leaf Aptus-II 8も紹介したい。ダルサ製のセンサーを搭載するデジタルバックで、主に人物カメラマンに使用しているユーザーが多い。

Leaf Aptus-II 8をPhaseOne 645DFに装着

 主なスペックはIQ140に近い。撮像素子は4,000万画素の44×33mmのセンサーを採用。ダイナミックレンジは12Fストップ、キャプチャーレートは0.8コマ/秒となっており、ストレスなくテンポよく撮影できる。

 液晶モニターは6×7cmの3.5型タッチパネル式モニターを採用。背面モニターの解像度はIQほど高くはないが、晴天屋外でなければ、しっかり確認できる品質だ。

 基本的にボタンはなく、デジタルバック付属のタッチペンで行なう。タブレット端末のような操作感で設定が行なえ、グレーバランスの調整やトーンカーブ、カラー、彩度、グレインなど、デジタル一眼レフカメラの仕上がり設定に近い機能を搭載しているのも魅力だ。ただし、IQよりは設定がやや複雑に感じるかもしれない。

タッチペンが付属する液晶モニターの解像度はIQより低いものの、日陰や屋内では問題ない

16bitで4,000万画素。画像は超高解像度かつ広ダイナミックレンジ

 IQ140とLeaf Aptus-II 8、それぞれの実写サンプルを見ていただきたい。描写画質は、同じ4,000万画素の画像でも大きく違う印象を受けることだろう。RAW現像ソフト「Capture One 6」で現像したJPEGサンプルで、4,000万画素のままリサイズせずに公開する。

IQ140 / 80mm LS F2.8 / 約19.0MB / 5,484×7,320 / 1/320秒 / F7.1 / ISO50 / 80mmIQ140 / 110 mm LS F2.8 / 約13.0MB / 7,320×5,484 / 1/200秒 / F3.5 / ISO50 / Phase OneWB: / Phase OneWB:flash / 110mm
IQ140 / 110 mm LS F2.8 / 約13.8MB / 5,484×7,320 / 1/400秒 / F8 / ISO100 / 110mmIQ140 / 110 mm LS F2.8 / 約50.5MB / 7,320×5,484 / 1/125秒 / F8 / ISO50 / 110mm
IQ140 / 80mm LS F2.8 / 約21.4MB / 5,484×7,320 / 1/700秒 / F4 / ISO200 / 80mmIQ140 / 80mm LS F2.8 / 約24.4MB / 7,320×5,484 / 1/160秒 / F4.5 / ISO50 / 80mm
IQ140 / 80mm LS F2.8 / 約18.4MB / 5,484×7,320 / 1/500秒 / F3.5 / ISO100 / 80mmIQ140 / 80mm LS F2.8 / 約32.2MB / 5,484×7,320 / 1/60秒 / F8 / ISO100 / 80mm
IQ140 / 80mm LS F2.8 / 約34.5MB / 5,484×7,320 / 1/20秒 / F7.1 / ISO50 / 110mmIQ140 / 80mm LS F2.8 / 約15.4MB / 5,484×7,320 / 1/1,000秒 / F4 / ISO50 / 80mm
IQ140 / 80mm LS F2.8 / 約19.9MB / 5,484×7,320 / 1/320秒 / F3.5 / ISO50 / 55mmIQ140 / 80mm LS F2.8 / 約33.7MB / 7,320×5,484 / 1/250秒 / F6.3 / ISO50 / 55mm
IQ140 / 80mm LS F2.8 / 約27.8MB / 7,320×5,484 / 1/5秒 / F11 / ISO50 / 80mmIQ140 / 80mm LS F2.8 / 約18.1MB / 7,320×5,484 / 1/320秒 / F8 / ISO50 / 55mm
IQ140 / 80mm LS F2.8 / 約17.4MB / 5,484×7,320 / 1/320秒 / F8 / ISO50 / 55mmLeaf Aptus-II 8 / 110 mm LS F2.8 / 約16.1MB / 7,312×5,474 / 1/250秒 / F5.7 / -0.3EV / ISO80 / 110mm
Leaf Aptus-II 8 / 80mm LS F2.8 / 約15.5MB / 5,474×7,312 / 1/320秒 / F8 / 0.0EV / ISO80 / 80mm

 IQ140はPhase Oneらしいコントラストが高く非常にシャープネスが高い印象。風景の写真を見てもわかるようにクッキリ、パキッとして圧倒的な解像感を感じられる。一方Leaf Aptus-II 8は、解像感は高いがトーンが優しくIQ140にくらべると柔らかい印象。女性などの人肌とは相性がよさそうだ。もちろん、画像プロファイルを変更することでクッキリさせることもできる。

 デジタルバックで撮影した画像は、16bitで記録される。そのため、デジタル一眼レフカメラの12bitや14bitの画像と比べると、16bitで撮影した画像は全体的に深みがある。2bitの差は非常に大きく、ダイナミックレンジが広く、ハイライトからアンダーまで肉眼で見ているかのような広い表現が可能なのは、デジタルバックの魅力の一つだ。


使いやすいデジタルバック専用ボディ

 最後にボディのPhaseOne 645DFについて。レンズシャッターとフォーカルプレーンシャッター両方が使用可能な、デジタルバックでの利用を見据えて設計された最新のボディだ。

 例えば、IQシリーズや一部のP+シリーズのデジタルバックを装着することで、レンズシャッターの場合でもストロボと1/1,600秒でシンクロすることができる。シュナイダークロイツナッハと共同開発のLS(レンズシャッター)レンズを使用した場合、レンズシャッターの限界速度をオーバーすると自動的にレンズシャッターからフォーカルプレーンシャッターになるので便利だ。

PhaseOne 645DF(装着しているデジタルバックはIQ140)
シャッターボタン周りボディ用のバッテリーは単3電池を採用する

 また、フォーカルプレーンシャッターの最高シャッタースピードは1/4,000秒と、中判カメラとしては非常に高速なシャッターを切ることができる。真夏のロケなどでは、絞り開放付近で撮影するとレンズシャッターの限界速度を超えることもあるので、レンズシャッターとフォーカルプレーンシャッター両方が使えるのは非常にありがたい。

 PhaseOne 645DF用のレンズも豊富で、レンズシャッターレンズ4本、フォーカルプレーンシャッターレンズ9本と広角から望遠までカバーできている。

 今回はシュナイダークロイツナッハレンズ55mm LS F2.8、80mm LS F2.8、110 mm LS F2.8の3本を使用して撮影を行なった。AFも速く正確で安心して、AF撮影ができる。実写画像を見てもわかると思うが、4,000万画素の高画素で撮影してもしっかりと解像しており、被写体の細かいディテールまでしっかりと表現している。レンズの良さに加え余裕を感じることができる。

左から110 mm LS F2.8、55mm LS F2.8、80mm LS F2.880mm F2.8。レンズシャッターを内蔵する

 今回は、デジタルバックの基礎知識とPhase One 645 DFについてご紹介した。遠い存在と思っていたデジタルバックを、少しでも身近に感じていただければ幸いだ。次回はクラシックカメラボディで体感するデジタルバックの世界について紹介したい。






(うえだこうじ)1982年広島県呉市生まれ。米国サンフランシスコに留学し、写真と映像の勉強しながらテレビ番組、CM、ショートフィルムなどを制作。帰国後、写真家塙真一氏のアシスタントを経て、フリーランスのフォトグラファーとして活動開始。人物を中心に撮影し、ライフワークとして世界中の街や風景を撮影している。現在は、カメラ誌やWebに寄稿している。
ブログ:http://www.koji-ueda.com/

2012/5/14 14:33