おもしろ写真工房

小さな惑星のように写る「ゼンズ・プラネット」

 GoogleマップやRICOH THETAの発売など360度パノラマVRも身近になってきたが、今回は全方位360度の撮影をする「360度パノラマVR」と、その投影法の一種である「リトルプラネット」からヒントを得た、「ゼンズ・プラネット」の紹介。

「ゼンズ・プラネット」シリーズより「紅葉の惑星」

「パノラマ写真」の不思議な世界

 私の周囲には360度パノラマVRに取り組んでいる人がけっこう多い、このパノラマVRというのは、天地前後左右の周囲360度を分割撮影し、後からつないで全周の閲覧ができるようにする方法のこと。一番身近なものにはGoogleのストリートビューなどがあるが、撮影機材やアプリケーションの進化で、どんどん取り組みやすくなってきている。

 魚眼レンズなど、画角の広いレンズを使うことにより、分割して撮影する枚数を減らすことができるが、たとえば180度以上の撮影ができるレンズであれば最低2枚の写真で360度の撮影が可能。ただちゃんと撮影しようとすれば、4枚から9枚程度の分割撮影をしてつなぎ合わせるというのがオーソドックスな方法だ。逆に望遠レンズを使ってたくさん分割し、高精細なパノラマ写真を作り出すという方法もある。

 四角くフレーミングするのではなく、全部写すのだから誰が撮っても同じと思われるかもしれないが、被写体との距離などにより与えるイメージは大きく変わってくる。また何をどう撮るのかというアイディアによっても、けっこう個性が出るものなのだということは、自分でもパノラマをかじってみてわかった。

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 そんな360度パノラマVRの世界でオリジナリティーを強く感じさせるのがデザイナーの金子吉幸氏の作品だ。

 金子氏はいろんなパターンのパノラマを撮っておられるが、私が惹かれたのはマクロパノラマ。パノラマというとある空間に立ち、その周囲を撮るというイメージがある。しかしマクロパノラマは被写体にぐっと寄って撮影をするため、そこに小さな世界ができあがる。

ニコンCOOLPIX P5000にフィットの魚眼コンバーションレンズUWC-1689を装着し、画角を広げて撮影。
水準器を付け、真上から撮影しているところ。きちんと水平をとりながら撮影をすると、あとでつなげやすい。

 たとえばこのアジサイの写真。パノラマVRで視点をコントロールしながら見れば、自分が小さな虫にでもなったような気分が味わえる。あるいは次の猫もおもしろい。どアップでヒゲの1本1本まで鮮明に写ってるんだけど、実は全周が写った立派なパノラマの世界だ。

ソニーNEX-5N+Samyang 7.5mm F3.5 Fisheye。SUNWAYFOTOのフォーカシングハンドルDRH-60を一脚代わりに使用。
パノラマ写真は回転させて撮影する際の中心(ノーダルポイント)が重要だが、そのノーダルポイントの位置に代用の一脚が取り付けられている。

 また、金子氏の写真はビンの内側から360度を撮影したマジックのような写真でも有名だ。当然ビンの内側にカメラは入らないから何かトリックがあるはずなのだが、それが全然わからず、どうやって撮ったのかを想像しながら見るのも楽しい。あまり種明かしをし過ぎても面白くないということで詳細は明かされていないが、ブログの中にはヒントもたくさん書かれていて面白い。

 たとえば1つの方法として、鏡面球をビンの中に入れてそこに写ったものを撮影するという方法があるそうだ。鏡だから当然撮影しているカメラや三脚も映りこんでしまうので、角度を変えて撮影しておき、後でうまく張り合わせるとのこと。こんなやり方もあるんですね。

こんな状態のコーラ瓶の内側から撮影をしているわけだが、本当にどうやって撮ったんでしょうね?
ブログでは鏡面球を使い、瓶の中からパノラマを撮影する方法が紹介されている。鏡面球に写った上側の画像とビンの上から魚眼レンズで撮った画像を張り合わせるということですね。

 最後は魚釣りの360度パノラマVR。釣り人、針に掛かった魚、水中、空中などが写り込んだ大迫力の写真。一番のポイントはこの魚をうまく捉えるために何枚も撮影しているのでしょう。さらに全方位の写真を撮影し、破綻なくつないでいく技術というのはものすごいですね。ただただ感服です。

アクリル水槽に魚眼レンズ付きのカメラを入れて撮影。イワナの躍動感やダイナミックな水しぶきなどの決定的な瞬間をつなぎ合わせて、1つの世界を作り上げているというわけですね。

簡単にできる360度パノラマVRは?

 金子氏のパノラマはかなり難易度が高いので、次はRICOH THETAを使った360度パノラマVRの紹介。THETAというのはすごくコンパクトなボディに2つの魚眼レンズが付いていて、1回の撮影で360度のパノラマ写真が撮れるというパノラマ専用のカメラのこと。このカメラの登場により、今までに撮れなかったようなシチュエーションの撮影が可能になった。

 私の周囲でのTHETA保有率は高く、Facebookのタイムラインでもよく見かけるのだが、お子さまとのツーショットパノラマでほんわかした気分にさせてくれるのが、カメラマン相川博昭氏の写真。THETAの特質が生かされた面白い写真だ。

スマホ用の一脚に取り付けて撮影。

「いつも心がけているのはシャッターチャンスを逃さないように、ということです。パノラマ写真は専用雲台を使ったりして数枚の写真を繋げて撮ってきましたが、THETAはワンショットで撮れるということが大きいので、動きのあるシーンでもどんどん撮れます」(相川氏)。

「なので私は人物を入れたスナップ写真ばかりです。子供と一緒に過ごす時間を撮影するのにはとても良いカメラです。遠景の描写はちょっと残念な解像度なので、人物がしっかりと大きく写る様に気をつけています。また、ポールをつけることで、ローアングルや俯瞰のショットなど、アングルの自由度が高まります。指や手が巨大に写らない様にする効果もありますね」(同)

機材が無くても楽しめるパノラマもある

 パノラマに興味はあるけど、機材を買ったりするのはちょっと、という人にはGoogleマップのストリートビューを使って遊ぶ方法もある。まあ単純に世界中のストリートビューを見るというのもいいけど、その全周画像をリトルプラネットにして表示させてくれる「SmallPlanet」というスマホアプリ(iOS、Android)などもある。

 リトルプラネットというのは360度のパノラマを2次元に投影する方法の一種。メルカトル図法とかモルワイデ図法なんていうのを中学校の社会の時間に習うけど、あれの仲間です。よく見かける世界地図は地球儀を横からみて展開していくイメージだが、このリトルプラネットは南極を中心とした丸い地図のイメージに近い。違うのは360度パノラマが元になっているので、地表ばかりではなく、空までが写っているということだ。

 SmallPlanetでまずGoogleマップのストリートビューを表示させたら、後はただ右下にあるボタンにタッチするだけ。それでストリートビューのパノラマ写真をリトルプラネットにすることができる。自分で撮影してリトルプラネットを作る場合のトレーニングにもなりそうだ。

iPadで「SmallPlanet」を起動し、地図上でリトルプラネットにしたい場所を探す。
地図上に「Pegman」(人型アイコン)をドロップしてストリートビューモードに入る。その場所でオーケーであれば、左下のボタンにタッチし、スモール・プラネットのできあがり。
大阪の通天閣前でのスモール・プラネット。電線があるとこんな不思議なイメージになる。
エストニア共和国のタリンにて。って自分が行ったわけじゃないんだけど、スモール・プラネットに向いた所を世界中から探すのは楽しい!
ベルギーのブルージュ。ただの丸ではなく、輪郭がそれぞれ変わるのがスモール・プラネットのおもしろい所。
オーストラリアの島。ストリートビューも楽しいけど、実際に行って撮影したくなるな。

「ゼンズ・プラネット」への取り組み

 最後はこのリトルプラネットをヒントに私が取り組んでいる「ゼンズ・プラネット」の紹介をしたい。私はリトルプラネットを見てすぐに「やってみたい!」と思ったのだが、ちょっとした違和感も同時に感じた。それはカメラに近い被写体が、すごく大きく写ってしまうということ。たとえば路上で撮影すればアスファルトの道ばかりが強調され広く写ったり、近くの樹木や建物が大きくそびえ立ったりしてしまう。これはちょっと不自然だ。

 だからそういった不自然さをなくし、さらに小さなものを接写をしながら、小さな世界を惑星化することができないかと思ったのだ。リトルプラネットの作り方としては、Photoshopを使い「フィルター」メニューの「変形/極座標」を使って、ぐるっと写真を丸めるという方法がある。通常はパノラマ写真をぐるっと丸めて作るのだが、パノラマではない、ただのクローズアップ写真を極座標で丸めてしまうのがゼンズ・プラネットの方法。

広角レンズを使って撮影した1枚の写真をPhotoshopの極座標を使ってぐるっと丸めた「少年野球星」。
シバザクラを撮影して極座標で丸めた「シバザクラ星」。どうしたら自然な感じになるかを考えながら撮影している。

 しかし、360度のパノラマ写真が元になっていればできるリトルプラネットも、普通の写真をただ丸めただけだと不自然になってしまう。そこで自然に繋がりそうな被写体を探したり、つながり部分を画像処理して馴染ませるという方法をとっている。

「シロツメクサ星」。俯瞰で撮影した写真を魚眼レンズ風に歪めている。輪郭部分をどう処理するのかがポイントになる。
壁についたボールの跡を撮影して球状にしてみた。より惑星っぽくなるように研究中。

 基本としては水平に撮影した写真の両端がくっつくようにPhotoshopでぐるっと変形させているわけだが、俯瞰写真を球状にする方法も考えた。Photoshopではレンズの歪みを補正する機能がいろいろある(「球面」「レンズ補正」「ワープ」等)が、この機能を逆に使って魚眼レンズで撮影したように歪めてしまうのだ。こちらの方法のほうが極座標よりも自然だが、被写体などにより2つの方法を使い分けている。

どのようにPhotoshopで変形を行なっているのかを示すための元画像。
元画像に対してPhotoshopの「フィルター」メニューの「変形/極座標」をかけるとこんな感じ。
元画像に対してPhotoshopの「フィルター」メニューの「変形/球面」をかけるとこんな感じ。

 パノラマ写真をきちんと撮影しようと思えば、それなりの知識や機材が必要になる。私が参考にしたのはまず第一に「360度VRパノラマ制作パーフェクトガイド―この一冊ですべてわかる!」(久門易氏著、秀和システム)という本。

 久門氏のWEBページにもいろんな情報があるので入門編としておすすめ。あるいは以下のページの情報は今でも参考にさせていただいている。現在このパノラマの世界はどんどん新しい技術が登場しているので、ちょっと触れてみるとと、いろいろと広がりが出て楽しいですよ。

―告知―
Circular Cosmos―まあるい宇宙」(桜花出版刊、3,150円)
宙玉万華鏡写真、うずらの惑星という3つのシリーズからセレクトした上原氏の写真集が刊行されました。

上原ゼンジ

(うえはらぜんじ)実験写真家。レンズを自作したり、さまざまな写真技法を試しながら、写真の可能性を追求している。著作に「Circular Cosmos―まあるい宇宙」(桜花出版)、「写真がもっと楽しくなる デジタル一眼レフ フィルター撮影の教科書」(共著、インプレスジャパン)、「こんな撮り方もあったんだ! アイディア写真術」(インプレスジャパン)、「写真の色補正・加工に強くなる レタッチ&カラーマネージメント知っておきたい97の知識と技」(技術評論社)などがある。
上原ゼンジ写真実験室