おもしろ写真工房
「ノームフィルター(濃霧)」を作ってみよう!
無理やり透かしてみる、溶け込むような描写
(2013/4/5 00:00)
前回は調理に使う網(ストレーナー)をフィルター代わりに使ったが、今回は「ちょっとそれは透けないんじゃない?」というようなものをフィルターにしてみるという実験だ。
いつもは避けていた素材に挑戦
自家製フィルターでの撮影でよく知られている方法としてはパンストを使う方法があるが、これは前回も紹介した通り、ソフトな描写の写真にすることができる。しかしパンストだとありきたりだから、なにか別のものをフィルター代わりにできないかという相談をよく受けるのだが、ソフトフィルターとして使えるようなものは意外と少ない。
というのは、かなり透明度が高くて肉眼でも向こうが見えるような素材でないと、輪郭がボケすぎて何がなんだかよくわからなくなってしまうからだ。だからほとんど透明に近い素材ならオーケーだが、乳白で向こうがちゃんと見えないようなものはソフトフィルターとしてはNGということだ。
ただそんな透けない素材でも、思いっきり被写体に近づけてみるとかなり透けて見えるようになる。たとえばスリガラスのようなもの。スリガラスは近づかなければ目隠しとしても使えるが、ガラスとの距離が近づきピッタリとくっつけば、今度はかなりハッキリ見えるようになる。この落差を利用して写真を撮ってみたら面白いんじゃないだろうか? というのが今回の実験のポイントだ。
―注意―- この記事を読んで行なった行為によって、生じた損害はデジカメWatch編集部、上原ゼンジおよび、メーカー、購入店もその責を負いません。
- デジカメWatch編集部および上原ゼンジは、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません。
撮影のための工作
ではそんな半透明な素材にはスリガラスの他にどんなものがあるだろう? まず家の中で見つけたのは、炭酸カルシウムのゴミ袋だ。スーパーのレジ袋というのもあるが、これは透けなすぎ。それから紙方面でいけばトレーシングペーパーとかグラシン紙というのがあるな。クッキングシートはどうだろう? ちょっと透けが足りないかな? ガラス方面だと、スリガラスの他にフロストガラスやナングレアガラスなんていうのも良さそうだ。ナングレアガラスは無反射ガラスとも呼ばれるもので複写や額装に使われる。
いつものように100円ショップで物色していた見つけたのは、クリアファイル。これは透け具合がちょうど良さげだ。それから100円ショップでは紙箱も買ってきた。箱に穴を開けて半透明な素材を貼りつける。逆側にもレンズ用の穴をあけて撮影をするのだ。通常、フィルターというのはレンズに直接取り付けるが、ここではレンズから少し離すことにより、ピントが合うように工作する。
今回の撮影ではフィルターに近いものしか写らない。だからフィルターの大きさ程度のものしか撮影することができない。つまり大きなものを写そうとしたらフィルターの大きさを大きくしなければいけないのだが、あまり巨大なものをレンズの先に付けてたらうっとうしいので、最初から小さな被写体が狙いどころだ。
近いところにピントを合わせたいからマクロレンズを使いたいが、焦点距離が長いとフィルターとの距離も長くとらなければならないので、広角系の方がいい。最短撮影距離があまり短くない場合はクローズアップレンズや接写リングで対応すればいいだろう。
レンズへの取り付けは、工作によく使っているフィルターのアダプターリングを利用した。レンズにネジで取り付けることができるのだが、平たいリング状になっているので、そこに両面テープをつければ箱を取り付けることが可能だ。
クリアファイルの4枚重ねがベスト
撮影結果は以下の写真を見ていただきたいのだが、予想外の面白さも生まれた。被写体にほとんどくっつけながら撮影をするのだが、そのフィルターを通して見える像以外に被写体の影がフィルターに落ちて一緒に写り込むのだ。最初はこの影を邪魔に思って直射日光が当たらないようにして撮影していたのだが、影をミックスするのも面白いということに気づき、途中から積極的に取り入れて撮影するようになった。
ほとんど被写体がフィルターにくっついている部分では割とハッキリと写り、少し離れた部分はぼやけてしまう。さらに日の光が被写体で遮られて落ちる影がプラスされると、見たことのないようなイメージになった。これはありかもしれないな。
フィルターの素材によっても見え方は変わってくる。スリガラスを使うのか、トレーシングペーパーを使うのか、といった材質の違いによりザラつき具合などが変わるのだ。さらに透過具合の違いはボケ方にも影響を及ぼす。
私が今回いいと思ったのは、クリアファイルの4枚重ねだ。最初は1枚でやろうと思ったのだが、1枚だと透け過ぎてしまう。いろんなパターンを試してみた結果ベストだったのが4枚のパターンだったのだ。4枚も重ねると被写体はかなり見えにくくなり、濃霧の中で撮影したような感じになる。そこでこのフィルターのことを「ノームフィルター」と名付けてみた。クリアファイルの4枚重ねは、たぶん世界初なんじゃないだろうか。
またクリアファイルは表面がツルツルしている点もいい。この撮影法では被写体にフィルターが付いてしまうケースがけっこうある。その時に水や土や花粉などがもフィルターに付いてしまうのだ。トレーシングペーパーだったらそのまま汚れてしまうこともあるが、クリアファイルであれば、すぐに落とせるので扱いやすいのだ。
大きな被写体を撮るには?
この紙箱にフィルターを付ける方式で問題になるのは、あまり大きな被写体が撮影できないところ。それに被写体にぴったりとくっついて撮影するので、撮影できる被写体も限られてくる。もっと大きなものを撮影する方法はないかと考え、家の窓ガラスを利用することにした。
仕事場の窓ガラスはもともと透明なのだが、スリガラス状にするためのフィルムが張ってある。これを使って撮影をすれば、大きな被写体でも大丈夫。そこで愛犬チョコにモデルをお願いしたのだが、結果はイマイチ。まあ、ガラスに体を押し付けられそうになったら抵抗するよな。チョコよ、悪かった!
でもチューリップなどの花を透明テープで直接ガラスに貼りつける方式は割といい感じになった。この方法はありだな。柔らかく溶けこむような描写は、レンズによるボケとはまた違って美しい。この方式はもう少し追求してみても良さそうだ。