新製品レビュー
キヤノンPowerShot SX60 HS(実写編)
夢の光学65倍ズームモデルの画質をチェック
永山昌克(2014/10/16 07:00)
キヤノンPowerShot SX60 HSは、1/2.3型の有効約1,610万画素CMOSセンサーを搭載したレンズ一体型デジタルカメラだ。最大の特長は、超広角から超望遠までをカバーする光学65倍ズームを備えること。35mm判換算の焦点距離イメージは、広角端21mm相当、望遠端1,365mm相当にもなる。
これほどのズーム域を持ちながら、ボディの使用時重量は約650g。標準ズーム付きの一眼レフカメラを持ち歩くくらいの感覚で、超広角や超望遠、さらにはマクロ撮影やバリアングル撮影が楽しめる。
前回のレビューでは外観と機能をチェックしたが、今回は実写編として、写りの性能を見てみよう。
遠景の画質
下の2枚は、ズームの広角端と望遠端を使用して、同じ場所から撮影したもの。ズーム域の広さはスペックの数値が示すとおりだが、こうして実写を見ると、あらためて倍率の高さに感心する。
21mm相当になる広角端では目の前に見えている風景の大部分が記録され、1,365mm相当になる望遠端では肉眼では見えない遠い風景の細部が写る。この圧倒的な画角の変化は、ファインダーを覗いているだけで、ちょっとした感動を覚えるくらいだ。
実写では、絞り値をずらしながら複数のカットを撮影したが、広角端でも望遠端でも、最も解像がよくなるのはここに掲載した絞り開放値のカットだった。
一般的なカメラやレンズでは、開放値よりも1~2段程度絞り込んだほうが解像が高まる製品が多いが、本モデルにその傾向は当てはまらない。1/2.3型という小さなセンサーサイズの割には、約1,610万画素と比較的多画素であるため、回折の影響を受けやすくなっていることが原因だろう。画質重視で撮る際は、絞らず開放値を選ぶようにしたい。
ただ、いくら開放値の解像感が高いといっても、そもそも小さなセンサーと超高倍率レンズの組み合わせなので、遠景のディテール描写はそれなりといったところだ。
感度別の画質
感度は、自動制御が働くオートのほか、ISO100-3200の範囲を1/3ステップ刻みで選べる。またシーンモードのローライト選択時はISO6400まで自動アップするようになっている。
下は、同一のシーンをISO100-3200で撮影したもの。弱/標準/強の3段階から選べる高感度ノイズ低減は、初期設定である標準を選択した。
感度を高めるほどにざらつきが増え、と同時にノイズ低減処理の影響で解像感は低下する。個人的にはISO400までが実用範囲で、それ以上は緊急用だと感じる。
最短距離での撮影
続いて接写性能を見てみよう。広角端での最短撮影距離は0cmで、28×21mmの範囲を画面いっぱいに写せる。この0cmという最短距離の短さは、同社製高倍率ズームモデルの昔からの特長のひとつだ。レンズ前面に被写体を押し付けた状態でもフォーカスが合う。
被写体に光を当てにくくなるので、実際には0cmまで寄って撮ることはあまりない。葉脈をとらえた下の写真のように、透過光の表現を楽しむことは可能だ。
いっぽう望遠端での最短撮影距離は1.8mで、73×55mmの範囲を画面いっぱいに写せる。こちらは、たとえば植物や昆虫などを離れた位置から接写したいときなどに役立つ。
ボケの表現
一般的に小型センサー搭載のカメラはボケの表現が苦手だが、本モデルの場合は、小型センサーとはいえレンズの焦点距離が長いので、それなりのボケは楽しめる。
下の写真は、絞り開放値を選び、ズームの中間位置で撮影したもの。手前の葉っぱにフォーカスを合わせることで、背景の木漏れ日の部分には柔らかい丸ボケが生じた。完全な円形ではなく、やや角が見られるが、うるさく感じるボケではない。
動画撮影
動画は、最大で60pのフルハイビジョン記録に対応する。オートのほか、マニュアルでの動画撮影も可能で、絞り値とシャッター速度、ISO感度を自由に設定できる。
以下は、絞り優先AEモードで撮影した動画だ。画質の調整機能であるマイカラーを使ってコントラストを+2に設定している。
まとめ
大きなセンサーを搭載した高級コンパクトやミラーレス、一眼レフに見慣れた眼で本モデルの実写を見ると、遠景の再現性や高感度の画質に物足りなさを覚えるだろう。たとえば同じPowerShotでも、1/1.7型や1型、1.5型のセンサーを採用したPowerShot Gシリーズに比べると描写性能はワンランク以上見劣りする。
とはいえ、21mm相当の超広角から1,365mm相当の超望遠までをスナップ感覚で写せる手軽さは、画質面の不満を補って余りある魅力だ。
PowerShot SX60 HSの描写は、等倍表示での鑑賞やA4サイズ以上の大きなプリント用にはあまり適さない。だが、それよりも小さなサイズでの表示や印刷用に使うなら、とても自由度が高いカメラに仕上がっている。あらゆる被写体に対して、さまざまな構図とフレーミングを試して楽しみたくなる、そんなカメラである。