新製品レビュー
PENTAX MX-1
“貫禄”だけじゃない真面目な1台
Reported by 大浦タケシ(2013/7/19 07:00)
PENTAX MX-1は、2月にパシフィコ横浜で開催された「CP+2013」で国内初お目見えとなったカメラである。当初は国内発売の予定がないモデルということであったが、そのCP+での反応や来場者アンケートなどを経て、国内発売が決まった。大柄なボディに大口径の4倍ズームレンズを搭載し、細部のつくりにも拘ったものである。本テキスト執筆時の量販店店頭価格は4万1,500円前後である。
外観は直線を基調としたクラシカルなテイストのボディデザインとする。両サイドも含めエッジの角が斜めに切り落とされており、トップカバーに三角錐のペンタカバーを載せると、フィルム時代のMF一眼レフとなってしまいそうなシルエットである。極めつけはシャッターボタン下部にあるMX-1のロゴ。往年のペンタックス銀塩一眼レフカメラ「MX」と書体を同じとしており、古い時代からのカメラファンには懐かしく、デジタルでカメラを憶えた新しいファンには新鮮に感じられるはずだ。
さらに、ボディのつくりに拘りを感じさせるのが、トップカバーとボトムカバーを真鍮製としていること。クラシックブラックという塗装が施されているが、この塗装が剥げると金色に輝く真鍮が見えてくるようになる。筆者が写真をはじめた1970年代中頃は真鍮を外装のマテリアルとするカメラが多く、ブラックボディは使い込んでいくとボディのエッジなど塗装が剥がれ、貫禄あるものとなっていった。
デジタルカメラ、それもモデルチェンジの速いコンパクトデジカメの場合、なかなかそのような状態まで辿り着くことは難しいかもしれないが、反面そこまで使い込んでみたくなる衝動にかられる。ちなみに先のCP+2013では、真鍮の地金がところどころ見えるエージング処理の施されたMX-1が展示されていたが、ユーザー自身が意図的にこのような処理を施すのもありだろう。
1/1.7型センサーを積むカメラとしては大柄で、がっしりとしたつくりのボディもMX-1の特徴だ。122.5×60×51.5mm、撮影時の重量は391gとする。なかでも奥行きは、これまでの薄いコンパクト機に見慣れた目にはある意味新鮮に感じられるほど。チルト式液晶モニターの搭載もあり、フィルム時代のコンパクトカメラを凌ぐほどの厚みである。同じ1/1.7型センサーのレンズ交換式ミラーレスカメラ「PENTAX Q7」とMX-1を並べた写真を掲載するので、それぞれの個性をぜひ見くらべて頂きたい。
続いて操作性を見てみよう。グリップらしきものは何もないが、大柄なボディゆえにホールドはしやすい。手にしっくりなじむといってよい。トップカバーの露出補正ダイヤルや、背面の電子ダイヤルも操作感は良好。同じくトップカバーのモードダイヤルは大きく、こちらも設定しやすく感じられる。3型92万ドットの液晶モニターは、前述のとおり上下にチルトするタイプを採用する。横位置撮影でのハイアングル、ローアングル撮影など出番は多そうだ。
ズーミングはコンパクトデジカメらしく、シャッターボタンと同軸のズームレバーによるものとなる。メニュー表示に関しては、同ブランドのデジタル一眼レフ「K-50」や、ミラーレスのQ7などと基本的には同じ。階層は浅くシンプルな構成としているので、ペンタックスユーザーならずとも初見から戸惑うことはないだろう。
撮像素子は有効約1,200万画素の裏面照射型CMOSセンサー。おそらくPENTAX Q7と同じもので、普及価格帯のコンパクトデジカメに多い1/2.3型センサーに比べれば高感度特性や階調再現性などでアドバンテージがある。最高感度はISO12800。ノイズレベルはISO800あたりから顕著になりはじめるが、1/1.7型センサーを積むコンパクトモデルとしては優秀なほうといえる。
搭載するレンズも頼もしい。35mm判換算28-112mm相当の光学4倍ズームで、開放F値はF1.8-2.5と大口径だ。さらに非球面レンズを4枚採用しているのも心強い。このところ大きめのセンサー以外のコンパクトデジカメは、スマートフォンとの差別化を図るためかズーム倍率が一様に高く、レンズの明るさは二の次とするものが多い。本モデルの場合、ズーム倍率を抑えることで、明るさや描写特性を優先させたレンズとしている。最短撮影距離はレンズ先端から1cm。昆虫や植物などの大胆なクローズアップ撮影も手軽に楽しめる。手ブレ補正機構はセンサーシフト方式の「SR」を搭載する。
描写は、コンパクトデジカメとして上々の結果だ。ワイド端の画面周辺部で画像の乱れがわずかに見受けられるものの、それ以外は特に際立った問題などない。絞り開放でのエッジはわずかに緩く感じなくもないが、概ね解像感・コントラストとも不足を感じるようなことなどなく、クラスとして考えればキレのよい描写といえるだろう。ディストーションはワイド端でタル型のものが見受けられるものの、デフォルトでONになっている補正機能で改善されるため安心してよい。
RAW撮影のほか、JPEGとの同時記録やカメラ内RAW現像にも対応している。RAWのフォーマットは他のペンタックスデジタルカメラと同じくDNG。汎用性の高いフォーマットを採用しているのもこのカメラのよい部分だ。
本格的なHDR機能を搭載しているのもMX-1の特徴。3枚の撮影を行ない、カメラ内で自動的に合成する。効果の度合いは標準/誇張1/誇張2から選ぶことができる。標準は効果も穏やかで、ニュートラルな仕上がり。誇張1は標準よりも効果は強いが、それでも過度な印象はない。誇張2はエッジに白付きが見られるほど極端なHDR画像となる。被写体や意図する表現から選択してみるとよさそうだ。
本機は真鍮製の上下カバーとロゴに注目されることが多いが、ペンタックスらしく非常にまじめにつくられているカメラである。世間的には大型のイメージセンサーを積むコンパクトデジカメが注目を集めているが、そのような意味では我が道をいく唯我独尊的な1台といってよい。いずれ、使い込まれた貫禄あふれるMX-1を街中で見かける機会も出てきそうだ。