気になるデジカメ長期リアルタイムレポート
PENTAX K-30【第7回】
「O-GPS1」とGPSロガーの連携でジオタグを記録する
(2013/6/26 00:00)
作品として撮られるものだけが写真というわけではない。むしろ記録のために撮られる方が多いだろう。記録として写真を考える場合、撮影日時や撮影地などの情報を伴うほうが資料的価値が高く、時を経ればなおさらそれは大きくなる。デジタルカメラでは撮影時刻の記録についてはExif規格として標準化され解決済み。残る撮影地の記録の目的で開発・普及が進んでいるのが、GPSユニットだ。
写真にメタデータとして埋め込まれた撮影地の座標を「ジオタグ」という。ペンタックスのGPSユニット「O-GPS1」は過去に何度かとりあげられているが、いずれもアストロトレーサーなど、特色のある機能をフィーチャーした記事だった。今回は改めてGPSの基本であるジオタグに焦点を当て、O-GPS1を使って写真にジオタグを確実に記録する実践について考えてみようと思う。
ジオタグは世界を地球の表面と捉え、緯度と経度で表現される球面座標に加え、地表からの高度と方位の計4つの要素を持っており、O-GPS1はそのすべての記録に対応する。独立した単4型電池を電源とし、カメラ本体のバッテリーを消費しない。クリップオンして電源を入れるだけで動作し、ケーブル接続などは必要なく、使い勝手は非常にシンプルだ。
O-GPS1が登場した頃は、デジタル一眼レフに簡単に取り付けられるオンカメラGPSユニットはまだ市販されておらず、ジオタグを付加するためには画像をPCに取り込み、PC用のGPSユニットで取得した座標を埋込むやり方が一般的だった。しかし、この場合、記録されるのは当然“PCの所在”であり、必ずしも撮影場所と一致しない。オンカメラGPSユニットが登場したことで初めて真正な“撮影場所”をジオタグとして埋め込みできるようになった。
私は学術調査に同行して写真を撮る時にGPSとEye-Fiの組み合せをよく利用する。行動しながら撮影した写真をiPadに転送して皆で検討できるEye-Fiの利便性と、その資料(写真)がどこに存在したのかを明確に示すジオタグがあれば、1日の成果を共有し翌日の行動計画を立て直す際にも大いに役立つからだ。
ただ、なぜかフィールドワークの最中は普段使っている時よりもEye-Fiの転送が不安定になることが多く、漠然と「ネットワークの問題かな?」などと思いながら、その場の対応でしのいで来た(冷静に考えればダイレクトモードなのだからネットワークは関係ないに決まっているのだけど)。
ところが、先日仕事場で装備の確認をしている最中に、あることに気づいた。
O-GPS1の動作中は、測位時間として設定した時間まで測光作動時間が延長される。例えば測位時間を最短の1分に設定した場合、測光系は1分間作動し続ける。そして、先日の記事に書いたように、Eye-Fiは測光系が作動していると転送を行なわないので、最低1分待たないと転送を開始しない。その間に次の撮影が行われれば、さらに1分の待ち時間が追加され、というようになかなか転送されないということが起こり得る。おそらくそのために転送がうまく行かないケースがあったようだ。恥ずかしながらマニュアルをよく読んでいなかったため気づかずにいた。
ただし、もう1つ白状すると、先日の記事はK-30ファームウェア1.00のまま検証して書いたのだが、最近ファームウェア1.04にアップデートしたところ、測光系が作動していてもEye-Fiが転送を行なうようになった。まだ精査できていないが、どうやらレリーズ半押しの間だけカードアクセスがロックされ、それ以外は転送されるようにカメラ側ファームウェアの仕様が変わったようだ。
つまり古いファームウェアを使っていたためにEye-FiとO-GPS1の動作がコンフリクトし、フィールドワーク中に転送がうまく行かないトラブルが発生していたが、最新のファームウェアならば問題ないということになる。機能アップしたわけなのでうれしい話だが、記事を書いた本人として複雑な思いがある。
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O-GPS1にはGPSログ機能がない。仮にログ機能を組込むと、動作中常に測位するためにバッテリー消費が増え、カメラからの電源供給が必要になり、ログを書き込むためのメモリーを内蔵(あるいはmicroSDをスロット搭載)するため販売価格も高くなるだろう。
GPSログを確実にとるためには移動中に高い確率で衛星を捕捉し続ける必要がある。最近発売される第2世代のオンカメラGPSシステムはGPSログ機能を持たせたものが増えているようだが、その受信性能が単体のGPSロガーと同等のものかは少々疑問なところ。その上、組込んでしまうと、より高性能なレシーバーが登場した時に気軽に更新するというわけにいかない。
また、GPSユニットを実際に使っていると、衛星の受信状態が悪く測位できない場合、あるいは突然の被写体をスナップショットで撮影したが測位が間に合わなかった場合などに、ジオタグが記録されないことがあるが、単体のGPSロガーを別に用意してログを記録しておけば、撮影された写真にあとからジオタグを書き込むことができる。機材トラブルに対するフェイルセイフという意味でもオンカメラGPS(ジオタグ)とGPSログは別のハードウェアとして装備したほうが好ましい。そう考えると、基本的なジオタグ機能に絞ったO-GPS1の考え方は悪くない。
ロガーで記録したGPSログと写真のExifを照応して撮影位置を割り出す際に基準として利用されるのが「時刻」だ。GPSは複数の衛星から送信されてくる国際協定時(UTC)のタイムコード(時報)を比較してGPS機器の位置を計算し、地球上の座標と時刻として記録する。撮影された写真にはカメラの内蔵時計を基準とした時刻がExif時刻として記録されている。つまりExif時刻とGPSログの時刻を照合すれば、写真が撮影された場所を特定できるわけで、そのためにカメラの内蔵時計をUTCと一致させておくことが重要になる。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
- 「※」の画像はゴミ消しの画像処理のみ行なっています。
UTC基準の時刻を正確にカメラにセットする方法はいくつかあるが、第1に、O-GPS1の時刻修正機能を利用する方法が挙げられる。測位ができる場所でO-GPS1をカメラに取り付け、カメラの「GPS」メニューから時刻の自動修正機能を有効にして測位を行なえばいい。おそらく他社のオンカメラGPSユニットでも同様の機能はあるだろう。これがもっとも簡単だ。
ここでのポイントは時刻修正が行なわれるタイミングだ。内蔵時計はカメラが起動する時にシステムに時刻が読み込まれる。つまり、時刻が修正されるのはO-GPS1があらかじめ起動している状態でカメラをオンにした時だけで、あとからO-GPS1を起動した場合は修正されない。O-GPS1を起動して青色LEDインジケーターの点灯表示を確認してから、カメラを一度ON/OFFする習慣を付けるといいだろう。
もう1つは、正確な時刻を表示できる時計を撮影し、内蔵時計の誤差を求める方法だ。考え方としては、時計をカメラで撮影し、その画像に記録されるExifと画面に写った時計の指す時刻の差を求めれば、カメラの内蔵時計のズレが算出できる。Exifを管理するパソコン用アプリケーションには、時刻の誤差を一括で修正する機能があるので、カメラの時計との誤差さえわかればExifに記録された時刻を修正できるわけだ。
正確な時計とはなにを使えばいいか。例えば電波時計をお持ちならば、それを使えばいいだろう。最近は腕時計でも電波時計の機能を持つものがある。もっと身近なところでは、PCの内蔵時計はネットワークタイムサーバーにアクセスして自動修正するように設定できるので、これも十分な精度がある。
私はこの目的のためにiPhone用の「Time Signal」というアプリを利用している。このアプリの基本機能は時報時計なのだが、付加機能としてネットワーク・タイムサーバーに接続し、iPhoneの時計を修正することができる。つまり携帯電話のキャリア電波が届く範囲であれば、どこにいても正確な時刻が得られるわけだ。
キャリアにも時刻の自動修正機能はあるのだが、以前調べた時点では各社とも、端末と基地局の時刻の誤差が1分以内の時は時刻を修正しない。1分という誤差は高速移動のあるログの修正基準としては大きすぎるので、GPSを利用する仕事の前には、念のためこれを起動してiPhoneの時刻を修正し、この画面を撮影しておくようにしている。
左の写真では、Exifの時刻と写っているTime Signalの画面時刻の差から、カメラの内蔵時計が4分58秒遅れていることが読み取れる。このように、正確な時計を撮っておきさえすれば、時刻の誤差を計算し、後から修正できる。右は、同じカメラでO-GPS1を利用して時刻を自動修正した上で撮影した写真。Exif時刻と画面の時刻がほぼ一致していることがわかる。
時計を撮影しておく方法は特別なカメラ機材を必要とせず、スチル以外に動画の時刻管理や音声の同期にも応用できるほか、複数で行動する場合にそれぞれのカメラで同じ時計を撮っておけば、写真をあとから整理する時に同一の時刻系の中にまとめることも可能になる。旅行やフィールドワークの記録のためカメラを利用することが多い方は、GPSを利用しないにしても、時計を撮っておく習慣を付けておけば何かの時に役に立つはずだ。
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以上、自分なりのジオタグ記録のポイントについて考えてきた。もう一度まとめると、まずO-GPS1などGPSユニットが必要だが、それとは別に受信性能の高いロガーがあれば、カメラ側GPSユニットでのジオタグ記録に失敗した時のバックアップとして活用できる。そのための準備として、カメラの内蔵時計をUTCを基準として正確に合わせておく習慣を付けること。そして、もしもEye-Fiとの併用で転送トラブルが生じているユーザーがいれば、カメラのファームウェアをアップデートすれば改善が期待できる。
細かいGPSツール関係の使い方まで話し出すとこの連載の範疇を越えてしまい、私自身試行錯誤中であり手に余る部分も出てくるだろう。O-GPS1をはじめとするGPSユニットをお使いの方々は、それぞれの実践の中で適したやり方を見つけていただきたい。この記事が参考としてその一助にあることがあれば幸いです。