ニコンFXフォーマット用の広角ズームのテストは、以前D700のレポートでもやったけれど、カメラがD600に変わって画素数が2倍に増えているし、新しいレンズが選択肢に加わっていることもあって、再度チャレンジしてみることにした。
単純に性能だけで比べれば、純正のAF-S NIKKOR 14-24mm F2.8 G EDがいちばんだろうけれど、なにぶんにも大きくて重いうえにお値段もすごい。しかも、前玉側に思い切り重心が偏っているので、ボディから外すときにガクンと振られるのが怖くてたまらない。
大口径タイプではトキナーAT-X 16-28mm F2.8 PRO FXが新しいが、こちらもAF-S 14-24mmに迫る950gもの偉丈夫だけに、近寄りたくないというのがホンネである(せっかくのD600の軽さが台無しになっちゃうからね)。
で、今回取り上げるのは、純正のAF-S NIKKOR 16-35mm F4 G ED VR、Tokina AT-X 17-35 F4 PRO FX、SIGMA 12-24mm F4.5-5.6 II EX DG HSMの3本である。発売が2010年、2011年と新しいうえに、F2.8クラスに比べれば格段に軽い。D600とのマッチングもよさそうだ。AF-S 16-35mmはそれなりにお高いけれど(それでもAF-S 14-24mmよりはずっとずっと安い)、手が届かない価格ではない。トキナーとシグマの2本は実売価格が7万円を切る。
気になるポイントは、解像感と周辺光量、歪曲収差、フレアやゴーストの出具合といったところ。有効2,426万画素でもばっちりな画質を備えているかどうかは大事な点だし、個人的には歪曲収差が大嫌いなので、この部分も見逃せない。周辺光量は落ちないほうがいいに決まっているが、絞れば改善されるし絞って使うことが多いレンズでもあるので、実はそれほど気にしていない。むしろ、逆光や反逆光で、いやなフレアやゴーストが出ないといいなと思っている。そんなわけで、まずは各レンズのインプレッションから。
今回試用した広角ズーム。左からSIGMA 12-24mm F4.5-5.6 II EX DG HSM、AF-S NIKKOR 16-35mm F4 G ED VR、Tokina AT-X 17-35 F4 PRO FX。 | フードを装着した状態。撮影可能な状態ではSIGMA 12-24mm F4.5-5.6 II EX DG HSMがいちばんコンパクトだったりする。 |
■AF-S NIKKOR 16-35mm F4 G ED VR
使いやすい画角域をカバーした中口径モデル。広角ズームで唯一手ブレ補正機構(VR II)を内蔵しているのが売りだが、それだけに大きめ重めなのが難点といえる。レンズの長さ(マウント面から前縁まで)が125mmあって、さらに花形フードが加わるのでかさばり感は強い。重さも680gあって、今回の3本の中ではもっとも重い。
ニコンAF-S NIKKOR 16-35mm F4 G ED VR。手ブレ補正機構内蔵だけあって、大きめ重めでお値段も高い。大手量販店の店頭価格は12万2,800円程度。 |
AF駆動は超音波モーター(SWM)でスムーズかつ速く、作動音は静か。M/Aモード(フルタイムMF)も利用できる。ズームリング、フォーカスリングともに回したときの音が少々耳に障るが、動作は軽くて操作はしやすい。サイズを気にしなければ、バランスもいいし、D600とのマッチングも良好だ。
実写では、歪曲収差が目立つのが気になった。特に広角端のタル型収差は顕著で、望遠端も建物とかを撮ると気になるかも、というくらいのイトマキ型収差がある。最近のニコンのズームは、後処理で補正できる歪曲収差を意図的に残して、その分ほかの収差をしっかり補正する方針を採っているのかもしれないが、個人的には、これだけのサイズ、このお値段で、ここまで歪曲が多いってのはなしにしてもらいたいと思っている。
純正レンズだけに「自動ゆがみ補正」機能が利用できるし、画像処理ソフトで補正することもできるので、妥協できないわけではない。ただし、歪曲収差が大きいと、撮影時に水平や垂直の確認が難しい(水準器があれば平気さ、って話もあるけどね)、被写体に正対できているかどうかが分かりづらい、補正後に画角が狭くなってしまうといった問題もある。
そのあたりを別にすれば、画質はとても良好といえる。画面中心部は1段か2段絞ったほうがいいように見えるが、絞り開放でも十分な解像感が得られている。やや崩れの見える四隅も1、2段絞れば不満のないレベルになってくれる。フレアやゴーストも少ないし、周辺光量も1段絞ればあまり気にならなくなる。
■Tokina AT-X 17-35 F4 PRO FX
カバーする画角域と開放F値が似かよったAF-S 16-35mmに比べると、ぐぐっとコンパクトに仕上がっており、このクラスの広角ズームとしては説得力のあるサイズだ。重さも今回試用した3本の中ではもっとも軽い600g。といっても、キヤノンのEF 17-40mm F4 L USMの475g、EF 16-35mm F2.8 L II USMの640gと比べると、もうちょっと、と思ってしまう。
トキナーAT-X 17-35mm F4 PRO FX。スペック的な派手さはないが、サイズもコンパクトで使い勝手はいい。大手量販店の店頭価格は64,800円程度。 |
ズームリングの操作はかなり重めだが、動き自体は滑らかで、AF-S 16-35mmのような音はしない。フォーカスリングはカメラ側に引くとMF、前玉側に押すとAFに切り替わるワンタッチフォーカスクラッチを採用。超音波モーターではないので、AF駆動音もあるし(わりと静かではあるが)、フルタイムMFは使えないものの、MF時の操作感は素晴らしい。ただ、正直なところ、広角ズームをMFで使う機会はあまりないだろうから、大きなアドバンテージにはなりにくいと思う。
実写では、広角端の中心部は絞り開放でも良好な画質。その分、絞ってもあまり変化しないようだ。四隅は像の崩れが目立つ。同社のWebサイト上にあるMTFのデータは、なぜか中心から20mmまでの範囲しかないため厳密なことはいえないが(フルサイズだとほんとは21.6mmくらい)、データだけ見ている分には広角端の四隅はAF-S 16-35mmよりもよさそうな印象だったので、微妙にだが釈然としないところもある。
歪曲収差は広角端はタル型だが、量は少なめ。望遠端は気にならないレベルのイトマキ型。歪曲収差は大嫌い派の筆者としては、この点はとてもうれしい。広角端の周辺光量は1段絞ればまあまあのレベルになる。画面の隅に太陽などが入った際のゴーストの出方は気になったが、比較作例のような極端なシーンでなければ大きな問題はない(実写でもほとんど気にならなかったし)。
■SIGMA 12-24mm F4.5-5.6 II EX DG HSM
現行の広角ズームとしてはもっとも広い122度の対角線画角が特徴。画面の長辺方向の画角が90度を軽く超えるため、部屋の隅から撮ると壁4面ともが画面に入るという超常感覚が味わえるレンズである。
12-24mm F4.5-5.6 II DG HSM。開放F値はやや暗めながら、画角の広さは圧倒的。超音波モーターも魅力だ。大手量販店の店頭価格は6万9,500円。 |
2003年に発売された先代よりもレンズの構成枚数が1枚増え、長さも120.2mmに伸びている。純正とトキナーの2本が外付けフードなのに対して、こちらは固定式であるため、撮影時のサイズは最大径、長さともにもっとも小さい。反面、通常のネジ込み式フィルターが使えないのをマイナス点ととらえる人もいる。
AF駆動は超音波モーター(HSM)。作動音は静かでフルタイムMFにも対応している。ズームリングはAT-X 17-35mmに負けず劣らずの重さ。フォーカスリングは動かしはじめがやや固いクセがあるものの、動かしはじめ以外は気にならないので、実用上は問題ないと思う。
フォーカスリングの回転方向が純正と逆で(トキナーはキヤノン用もニコン回りだが、シグマはニコン用もキヤノン回り)、ファインダー内の前ピン、後ピンのインジケーターを見ながらフォーカスリングを回すとかえってピンボケになるのが要注意点といえる。また、レンズ取り付け指標が小さいうえに見づらい場所になるので、レンズ交換時に戸惑うことがあるかもしれない(また細かい話で恐縮ですが)。
歪曲収差は広角端はタル型でやや大きめ。17mm時でAT-X 17-35mmの広角端と近い量になる。望遠端は直線的な被写体では目に見える程度のイトマキ型。画面中心部は絞り開放でも良好だが、やはり四隅は像が崩れたようにぼやけるが、F8でまずまず、F11まで絞れば気にならないレベルに向上する。
周辺光量の低下はF8ではあまり気にならなくなる。点々とゴーストが出ているのが目立つが、広角系のレンズらしい出方なので、個人的には許容範囲である。
■まとめ
3本のそれぞれに一長一短あって、これが決定版というのはない。
予算に問題がないなら純正のAF-S 16-35mmがおすすめで、画質はいいし、手ブレ補正のアドバンテージも見逃せない。一方、F4固定の広角ズームとしては大きいのが気になるし、歪曲収差が目立つのも好きになれないところだ。とはいえ、純正ならではの安心感は大きいし、ナノクリスタルコーティングの威力も見逃せない。
トキナーAT-X 17-35mmはフルタイムMFが使えないのと、フレア・ゴースト耐性がやや低いようなのが引っかかる点。画質面では、周辺部の落ち具合は純正に少し譲るものの、全体的には不満はない。歪曲収差が少ないのも個人的には好みである。AF-S 16-35mmとスペックがかぶるだけに影の薄い印象もあるが、コストパフォーマンスは高いし、もっと注目されていいレンズだと思う。
インパクト重視で選べば、間違いなくシグマ12-24mm II。望遠端が24mmまでなので、使い勝手の面では微妙なところもあるが、12mmの広さとパースペクティブは、文句なしに楽しめる。先代よりも歪曲収差は増えた印象がある反面、ゴーストの出方は自然だし、全体的な解像感も向上している。広角好きにはたまらない1本だ。
■解像力/歪曲収差/周辺光量
それぞれ5種類の焦点距離で、絞り開放からF22まで実写したものをチェックしているが、ここでは広角端の画像のみを掲載する。一部色味の異なっているカットが混じっているが、これは太陽が雲に入ったため(ホワイトバランスの設定はすべて「晴天」で固定している)。
純粋に画質を見れば、純正のAF-S 16-35mmがトップ。画面中心部の画質は大きな違いはないが、四隅の像の崩れが少ないのが好印象だった。その一方、歪曲収差が大きいのが気になった。ある程度絞って使うことを前提にするなら3本とも十分な性能といえるが、薄暗いシーンを手持ちで撮る機会が多いなら、間違いなく純正を選ぶべきだろう。
トキナーAT-X 17-35mmは歪曲収差が少ないのが強み。シグマ12-24mm IIは圧倒的な画角の広さが魅力的。純正に比べてコストパフォーマンスが高いのも見逃せない点だ。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
Tokina AT-X 17-35 F4 PRO FX / F4 | Tokina AT-X 17-35 F4 PRO FX / F5.6 | Tokina AT-X 17-35 F4 PRO FX / F8 |
Tokina AT-X 17-35 F4 PRO FX / F11 | Tokina AT-X 17-35 F4 PRO FX / F16 | Tokina AT-X 17-35 F4 PRO FX / F22 |
■フレア/ゴースト
画面の隅に太陽をフレーミングしたカットと、画面外にしたカットの2パターンを撮影している。どちらも前玉に直射日光が当たっている状態で、ひと昔前のレンズなら盛大なフレアやゴーストにやられていたはずの条件だ。
ナノクリスタルコーティングを採用した純正AF-S 16-35mmがもっともクリーンな画面に仕上がっている。ゴーストの出方としては少しばかり目障りだが、どれも目立たない。
トキナーAT-X 17-35mmは太陽と対角方向に出ているオレンジ系のゴーストが目立つ。ただし、こうした極端な条件でなければ問題になることはなかった。
シグマ12-24mm IIはスポット的にゴーストが多数出ているが、広角レンズらしい出方なので、個人的には許容できる。
太陽が画面内に入っている状態 / AF-S NIKKOR 16-35mm F4 G ED VR / F4 | 太陽が画面内に入っていない状態 / AF-S NIKKOR 16-35mm F4 G ED VR / F4 |
太陽が画面内に入っている状態 / Tokina AT-X 17-35 F4 PRO FX / F4 | 太陽が画面内に入っていない状態 / Tokina AT-X 17-35 F4 PRO FX / F4 |
太陽が画面内に入っている状態 / SIGMA 12-24mm F4.5-5.6 II EX DG HSM / F4.5 | 太陽が画面内に入っていない状態 / SIGMA 12-24mm F4.5-5.6 II EX DG HSM / F4.5 |
■作例
2012/10/30 00:00