レンズマウント物語
第14話 キヤノンとニコンの純正マウントアダプター
第14話 キヤノンとニコンの純正マウントアダプター
Reported by 豊田堅二(2014/2/20 08:10)
対照的なミラーレスへの対応
一眼レフの両雄であるキヤノンとニコンも、純正のマウントアダプターを出している。両社とも、自社の一眼レフ用交換レンズをミラーレス機に使えるようにするためのアダプターだ。周知の通り、一眼レフはこの2社の寡占状態にある。そのため2社に共通して言えることは、ミラーレスカメラを出すことによって社内競合を引き起こすことのないよう、細心の注意を払わなくてはならないことだ。ミラーレスカメラを出すのはよいが、それによって自社の稼ぎ頭である一眼レフのビジネスを食ってしまっては元も子もない。しかし、その対応の仕方はキヤノンとニコンで対照的なところが面白い。
キヤノンはEOSシリーズのサブカメラ
キヤノンのミラーレス機、EOS Mのシリーズは、どちらかというとEOSシリーズの一員として、その中でのサブカメラ的存在を狙っているようだ。そのため画面サイズはEOSシリーズのAPS-Cと同等のものにしており、一眼レフのEOSシリーズのカメラと併用しても違和感なく使えるようにしている。
レンズマウントは新たにフランジバック18mmのものとした。しかし、このマウント専用のレンズ、つまりEF-Mレンズは現在のところワイドズームの11-22mm F4-5.6、標準ズームの18-55mm F3.5-5.6及び単焦点の22mm F2の3本しかない。そしてEOS M2のダブルレンズキットやトリプルレンズキットには、最初からマウントアダプターEF-EOS Mが付属している。
つまり、専用のレンズは短いフランジバックの利点が生かせるレンズのみとして、そうでない中望遠より焦点距離の長いレンズについては、一眼レフのEOSとEFレンズを共用することを前提としたシステム構成となっている。実際、マウントアダプターを介してのEFレンズの使用に際してAFもAEも問題なく使用でき、また画面サイズもEOSシリーズのエントリー機や中級機と同じなので、併用しても混乱することなく使える。
逆に言えばこのようなコンセプトを実現するためには、EFレンズのAFを生かすために撮像面位相差AFの採用は必須であったということもできるだろう。
マウントアダプターEF-EOS M
さて、そのマウントアダプターEF-EOS Mだが、両方のマウントが純電子マウントであることから、単純に電気接点をボディからレンズに仲介するだけのものになっており、ソニーやペンタックスのようにモーターやレバーを用いることなく、AE、AFやレンズ情報の伝達など機能がフルに使えるわけだ。
このように電子マウント同士でフル機能が実現できるのは、このマウントアダプターとフォーサーズ/マイクロフォーサーズのアダプターぐらいなものであろう。
ニコンは明確な差別化を指向
これに対して、ニコンは一眼レフとミラーレス機とでは明確に性格や対象ユーザーを分けている。
ミラーレスカメラのメリットの1つは、コンパクトなところにある。ボディについては一眼レフのミラーボックス、ペンタプリズムなどのファインダー光学系が不要なため、その分大幅に小型化できるが、レンズについてはそう簡単には行かない。広角から標準レンズの焦点距離域については、フランジバックが短い分レトロフォーカスの程度を軽減できるので小型化できるが、それにも限度がある。また、望遠側ではフランジバックが短いからといってレンズの小型化には寄与しない。
ソニーのNEXシリーズがボディを限界まで小型化しているのに、レンズがそれほど小さくならないのは、APS-Cという比較的大型の画面サイズを採用しているからだ。してみると、レンズも小型化するには画面サイズを小さくすることが必要になる。画面サイズを小さくすれば、同じ画角でもレンズの焦点距離が短くなり、小型となるわけだ。
マイクロフォーサーズが比較的小型の画面サイズを採用した理由の1つはここにあるのだが、ニコンはそれよりも更に小さなCXフォーマットをミラーレスカメラの画面サイズとして採用した。このことによってシステム全体を小型化して、同社の一眼レフとは全く別のコンセプトであることを明確に主張している。
専用レンズの充実
一眼レフとは全く別の性格のシステムであるので、ニコンのミラーレス機であるNikon 1用には、専用レンズの品ぞろえが必須となる。この原稿の執筆時点では、Nikon 1 AW1用の防水仕様のレンズを除き単焦点レンズが3本、ズームレンズが6本ラインアップされており、このシステムを充実させようというメーカーの姿勢がうかがえる。個人的にはあと、標準および望遠マクロと対角線魚眼レンズがほしいところだが……。
専用レンズの中でも明るい単焦点の32mm F1.2、望遠ズーム30-110mm F3.8-5.6、高倍率ズーム10-100mm F4-5.6というような35mm判フルサイズ用では大型重量となりがちな仕様のレンズに、小さな画面サイズのメリットが生かされていると言えるだろう。
マウントアダプターFT1
そのニコン1マウントのボディに、一眼レフ用のニコンFマウントのレンズを装着するための、純正マウントアダプターがFT1である。
以前にも書いたように、ニコンFマウントは比較的古いマウントであるので、絞りの情報は機械的に行なっている。また、AFレンズでもレンズにAF駆動モーターを持っていないものは、ボディ側からフォーカシングを制御するためのカップリングが設けられており、機械的にレンズに回転を伝えている。
FT1ではこのうち絞り制御の連動のみモーターを内蔵して実現し、AFのカップリングについては見送っている。いくつものモーターを内蔵することによる大型化とコストアップを回避したものだろう。その点で3個のモーターを内蔵してフルスペックを実現したソニーとは対照的なものがある。
もっとも、ニコンの一眼レフでもD3000シリーズやD5000シリーズではボディ側のモーターを持たず、AFはレンズ内モーター専用となっているので、このタイプの一眼レフと同程度の機能は、ほぼ実現できると言える。
Nikon 1シリーズは画面サイズが小さく、13.2×8.8mmである。これは面積でいうと、フォーサーズ/マイクロフォーサーズのちょうど半分だ。従って画角は35mm判フルサイズに比べて狭く、焦点距離を2.7倍したものに相当することになる。フルサイズ用あるいはAPS-C(DXフォーマット)用のレンズを用いれば、比較的明るくてコンパクトな超望遠レンズが実現できることになるが、ペンタックスKマウントレンズアダプターQの項で述べたように、収差を拡大してみるような形となるので、その点の配慮は必要となる。
今後どうなるか?
冒頭にも述べたように、一眼レフの両雄であるニコンとキヤノンとでは、ミラーレス機への対応は全く異なっている。ただ、両社に共通して言えるのはやはり稼ぎ頭である一眼レフとの社内競合を配慮してのことか、もう一つ力が入っていないようだ。
海外市場でこそ、ミラーレス機はあまりぱっとしないようだが、国内市場では一眼レフのシェアを追い越すかと思われるくらいの勢いがある。この状況に両社が今後どのように対処して行くか、興味深いところだ。