交換レンズレビュー
SIGMA 20mm F1.4 DG HSM | Art
大口径非球面レンズが作り出すユニークな“広角ボケ表現”
Reported by 永山昌克(2015/11/13 07:00)
純正品とはひと味違う、硬派で個性的なレンズを次々とリリースしているシグマ「Artライン」。その最新モデルとして「SIGMA 20mm F1.4 DG HSM | Art」が登場した。明るい開放F値を備えた35mmフルサイズ対応の広角単焦点レンズである。
最大の注目ポイントは、ワイドな焦点距離20mmと明るい開放値F1.4を兼ね備えていること。同社によると、35mmフルサイズをカバーする交換レンズでは世界初となるスペックだ。これまでにさまざまな超広角レンズや大口径レンズを製造し、その技術の蓄積から、大口径非球面レンズの加工技術を確立したことでこれを実現できたという。
デザインと操作性
レンズの鏡胴は、これまでのArtラインの製品と同じく、金属および金属との親和性が高い新複合材を多用した高品位な作りだ。色は精悍なイメージが漂うツヤ消しの黒。硬質な感触とずっしりとした重さによって、手にしたときの安心感と剛性感を生み出している。
外形寸法は、最大径90.7mmで全長129.8mm。重さは950g(いずれもシグマ用の場合)。20mm単焦点レンズとしてはかなり大柄だ。これまでに発売された、同じArtライン大口径単焦点である24mmや35mm、50mmと比べても最も大きくて重い。
レンズ構成は非球面レンズ2枚のほか、FLDガラス2枚、SLDガラス5枚を含む11群15枚。最前面のレンズは大きく突き出ていて、見た目にも迫力がある。レンズフードは固定式で、レンズキャップはかぶせ式のものが付属する。
フォーカスリングには、幅の広いラバー素材を配置。リングにはほどよいトルクがあり、MFの操作は快適だ。リングの回転角は小さめ。AFについては、超音波モーターHSMによって軽快に作動する。試用中、AFにストレスを感じることはなかった。
遠景の描写は?
ジャンクションの下からの眺めを絞り値を変えながら撮影した。それぞれのカットを等倍表示で見ると、画像の中央部は絞り開放値からシャープネスの高い描写であることがわかる。
周辺部については、開放ではややソフトだが、それでも決して悪くない写りだ。F2.8まで絞ると、周辺の甘さはほぼ改善され、さらにF4~5.6まで絞ると全域でくっきりとした描写となる。
倍率色収差やや見られるが、気になる場合は簡単に補正できるレベルだ。絞り開放での周辺減光はそれなりにある。2~3段程度絞り込むと目立たなくなる。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
※共通設定:EOS 6D / +0.7EV / ISO100 / 絞り優先AE / 20mm
ボケ味は?
下の写真は、フォーカスを最短距離の27.6cmにセットし、絞り開放で撮影したもの。予備知識なしで見て、これが20mmレンズで撮影した写真だと気づく人は多分ほとんどいないだろう。広角レンズとは思えないような、ふんわりとしたボケが生じている。ボケのフチには色ズレがやや見られるが、ボケ自体は滑らかで美しい。
次の写真も、同じく絞り開放で撮影したもの。中央のランプまでの距離は約50cm。これまでの、開放F値があまり明るくない20mmレンズの場合、ここまで大きなボケは生じない。かといって、大きくぼかすために焦点距離が長いレンズを使うと、背景に写る範囲は狭くなる。つまり、周辺状況がわかる程度に広範囲を捉えつつ、かつ背景をボカしてメインの被写体を強調するような表現ができることは、本レンズの個性といっていい。
次の2枚は、絞り開放のカットと、そこから2段絞ったF2.8のカットを比較したもの。撮影距離は約1.5m。これくらい離れた距離でも、F1.4であれば、背景がぼけて立体的な表現が得られる。なお玉ボケのかたちについては、この撮影距離では、開放値での周辺部は外側に向かって引っ張られたような形状になっている。F2.8まで絞ると、玉ボケの変形はあまり気にならなくなる。
F4まで絞ると、被写界深度的にもレンズ描写の面でもシャープネスがぐんと高まり、ほとんどボケのないくっきりとした写りとなる。
逆光耐性は?
太陽光がレンズに直接入射するような悪条件では、ゴーストやフレアが生じることがある。超広角レンズとしては比較的抑えられていると思うが、シーンによっては気になることもあるだろう。特に思わぬ場所に、小さな緑色のゴーストがぽつんと生じる場合があるので注意したい。
作品
巨大な建造物もすっぽりと写せるのが20mmレンズの醍醐味だ。より短いレンズで寄って撮ると被写体の変形が目立ちすぎ、より長いレンズで離れて撮ると迫力が乏しくなる。適度なパースが生じる20mmは、その場で感じたスケール感を印象どおりに表現するのにちょうどいい。
空を見上げるアングルが絵になりやすいことも20mmの特徴だ。レンズを上に向けて森の中を歩くと、ファインダーを覗いているだけで楽しくなる。
逆に、レンズを地面に向けてみるのも面白い。点字ブロックと逆光が生み出した路上の影絵をスナップした。ホワイトバランスは色温度10,000Kに設定し、写真全体を赤く染めている。
最短撮影距離27.6cmは、20mmレンズとしては少々もの足りないところ。とはいえ、ランのような大きな花なら、大迫力のクローズアップで捉えることが可能だ。
屋上庭園へとつながるエスカレーターをローアングルで撮影。大きくて重く、気軽に持ち運べるレンズとはいえないが、画角的にはスナップ用に打ってつけだ。
空に青みが残る時間帯を選び、紺色の空と建物の赤い電球光のコントラストを狙ってみた。歪曲収差はわずかにタル型だが、簡単に補正できるレベルといっていい。
まとめ
今回の実写では、絞り開放からの切れ味鋭い写りと、絞り込んだときのさらにシャープな描写、F1.4ならではの滑らかなボケ表現を楽しむことができた。球面収差や色収差、歪曲収差が目立たないように低減されていることや、スムーズなAF、高品位な外観デザインも気に入った。
かさばるサイズとずっしりとした重量については、人によっては負担を感じるかもしれない。かくいう私も近ごろはミラーレス用の小さくて軽い機材に慣れてしまい、大きくて重いレンズは敬遠しがちになっている。
だが、このレンズでしか撮れない写真があるなら話は別だ。20mmでF1.4という従来にない性能を考えれば、撮影シーンによっては、ほかの持参レンズを減らしてでも持って行く価値はある。私自身、このレンズを使って、広い画角なのに背景がぼけている写真をもっと撮ってみたいと強く感じた。