交換レンズレビュー
M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO
ボケも楽しめる対角魚眼レンズ
Reported by 北村智史(2015/7/8 07:00)
M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PROは、オリンパスのPROシリーズでは初の単焦点レンズであり、F1.8という世界初の明るさを誇る対角線魚眼レンズだ。通常、対角線魚眼レンズの開放F値は、F2.8からF3.5が相場だが、それに比べると、このレンズの明るさは異様といっていい。
価格は税別で13万5,000円(税込み14万5,800円)で、ソフトケースが付属している。原稿執筆時点での大手量販店の店頭価格は税込で11万7,000円程度となっている。
デザインと操作性
外観はPROシリーズに共通のデザインで、ぶつけたときのダメージを軽減するため、固定式のフード部はプラスティック製としている。ほかは、マウントやフォーカスリングも金属製だ。防塵・防滴に加えて-10度までの耐低温性も備えている。
マイクロフォーサーズ用の対角線魚眼レンズとしては、パナソニックのLUMIX G Fisheye 8mm F3.5があるが、本レンズはF1.8と明るいだけに格段に大きく重い。
パナソニックの8mmが、最大径60.7mm×長さ51.7mm、重量165gであるのに対し、オリンパスの8mmは、最大径62mm×長さ80mm。28.3mmも長い。重さにいたってはパナソニックの2倍に近い315gもある。といっても、フォーサーズのZUIKO DIGITAL ED 8mm F3.5 Fisheyeは485gもあったのだから、ずっとマシといっていい。
魚眼レンズの常で、前玉が出っ張っており、保護フィルターなどは装着できない。このレンズは、特に近接能力が高いので、被写体への接触には気をつけたい。
ほかのPROシリーズレンズと違って、フォーカスリングをスライドさせることでMFに切り替えられるMFクラッチ機構は省略されている。また、機能の割り当てが可能なファンクション(L-Fn)ボタンも装備していない
レンズキャップはカブセ式で、ロック機構を備えている。外れやすいという情報を耳にしたが、試用中に勝手に外れたことはなかった。
遠景の描写は?
画面中心部の解像力は絞り開放でも十分に高く、F5.6付近まで安定したシャープな描写が得られる。周辺部も驚くほどキレがよく、絞り開放でも像の崩れが見られないのはすごい。四隅まできちっと解像して欲しいならF4前後まで絞ったほうがいいが、普通に使う分には絞り開放からばりばり使える性能といえる。
F5.6をすぎたあたりから回折現象の影響が出てくるが、F11付近までなら問題なく常用できるだろう。さすがにF16以降はかなりアマくなるので非常用としても使いたくない。
周辺光量の低下も少なく、絞り開放でも、絞って撮った画像と見比べなければ、それほど気にならないのではないかと思う。F3.5あたりまで絞ると、ほぼフラットな明るさになる。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
※共通設定:OLYMPUS OM-D E-M5 Mark II / -0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 8mm
ボケ味は?
正直なところ、魚眼レンズに誰がボケ味を求めるのかと思っていたが、この8mmは別格である。開放F1.8と明るいうえに、最短撮影距離はたったの0.12m。レンズ前わずか2.5cmまで寄れるのだから、“変態”というよりほかない。
絞り開放の最短撮影距離では、画面左下のボケが、ややざわつくような印象で、少々目障りに感じられる。もっとも、ここまで寄るのなら絞り開放ではボケすぎだと思うし、F5.6まで絞ると(それでも背景は十分にボケてくれる)自然で柔らかいボケになってくれる。
撮影距離が40cmほどで絞り開放の条件では、ほどよく背景がボケてくれて、従来の魚眼レンズにはない画になってくれた。撮影距離が1m以内でも、F4程度まで絞るとほとんどボケは感じられず、パンフォーカスに近い写りになる。
逆光耐性は?
魚眼だけに画角が広いので、天気がいいと画面に太陽が入るケースは多い。が、画面の広い範囲を空が占めるような場合は、ゴーストもフレアもほとんど見られない。今回の撮影でゴーストらしいゴーストが出たのはこのカットだけで、普通に撮っている分には、気にする必要はなさそうに思う。
太陽を画面のすぐ外に置いた場合も、ゴーストは発生しなかった。フレアも出ず、ヌケのいいクリアな画面に仕上がってくれた。このあたりは、ZERO(Zuiko Extra low Reflection)コーティングが効いているのだろう。魚眼レンズでこれだけ気楽に使えるのはあまりなかった気がする。
作品
PROシリーズだけあって、画面の隅々までシャープな描写。気持ちのよい切れ味だ。
魚眼ならここ! と決めて撮りにきた石山緑地のネガティブマウンド。画角の広さが楽しい。ただし、自分の手足やストラップ、三脚などの写り込みには要注意である。
この穴もアート作品のひとつ。バリアングル液晶モニターを使って、カメラを穴に突っ込むようにして撮っている。
前後左右ともきちんと水平にセッティングすることで、魚眼くささを抑えて撮ったカット。
オリンパスならではのクリアな青空。画面の四隅まできちんと像が崩れずに写っているのがすごい。
わざと大幅なプラス補正をしてみたカット。葉っぱ1枚1枚の形がくっきり出ているのもすごいが、この条件で少しもフレアっぽくなっていないのも素晴らしい。
昔の魚眼レンズには、周辺部が泣ける画質になるものが多かったが、この8mmは四隅までぴっちりシャープでほんとにすごいと思う。
地下歩行空間と大通公園をつなぐ新しくできた階段。ここも魚眼レンズで撮りたいと思っていた場所。
まとめ
特殊レンズの代表格ともいえる魚眼レンズで、しかも世界初のF1.8。防塵・防滴に耐低温性まで盛り込んだPROシリーズとくれば、お高くなってしまうのは当然。と思ったが、他社の魚眼レンズのほうが割高感は上だったりする。
1993年発売のニコンAi AF Fisheye-Nikkor 16mm F2.8 Dが税別10万9,000円しちゃう世界なので、F1.8の明るさとこの写りで税別13万5,000円は、むしろ大特価である。
もちろん、気軽に買えるお値段ではないので誰にでもおすすめできる代物ではないが、この明るさと近接能力の高さに意味を見いだせるなら、価格以上の満足を得ることはできるはず。撮っていて楽しいレンズだし、写りもすごい。魚眼好きなら絶対に使ってみるべき1本だ。