交換レンズレビュー
全域F2のハイスペック広角ズームレンズ
AT-X 14-20 F2 PRO DX
Reported by 曽根原昇(2016/4/14 11:00)
トキナーのAT-X 14-20 F2 PRO DXは、APS-Cサイズセンサーを搭載する一眼レフ用の超広角ズームレンズで、キヤノン用とニコン用がそれぞれ発売されている。
焦点距離は14-20mmなので、35mm判に換算すると、キヤノン用で約22.4-32mm相当、ニコン用で21-30mm相当となる。ワイド端の広さは十分として、ズーム比が2倍にも満たないのはどうしたこと? と思うかもしれないが、これは開放F値がF2という、ズームレンズとしては稀にみる大口径に設定されているためだ。
それでいてサイズはそれほど大型化せずにまとめられているのであるから、かなり気合の入ったスペックのレンズであることは理解できることだろう。
しかもこのレンズ、トキナーのアナウンスでは「従来の設計思想とは離れ、大口径ズームであっても、絞り開放から性能を発揮できる新設計を採用」とはっきり謳われている。無理にスペックを求めただけのレンズでは決してなく、光学性能までも一級品となれば、APS-C用超広角ズームとしてかなり注目に値するレンズということになる。
デザインと操作性
外観のデザインは他のトキナーの交換レンズと共通で、比較的鏡筒に施された凹凸が明瞭でガッシリとしたイメージ。精悍で男性的なデザインととらえることもでき、キヤノンやニコンの上位機種との組み合わせても見劣りすることがなく好印象である。
本レンズの全長は106mm、最大径は89mm、質量は735gとなっている。同じくトキナーのAPS-C用超広角ズームであるAT-X 11-20 PRO DX(焦点距離11-20mm、開放F2.8)の全長が92mm、最大径が89mm、質量が560g、AT-X 12-28 PRO DX(焦点距離12-28mm、開放F4)の全長が90.2mm、最大径が84mm、質量が530gとなっている。
焦点距離やズーム比などのスペックこそ異なるものの、比べてみれば、AT-X 11-20 PRO DXやAT-X 12-28 PRO DXより全長と質量が一回り大きいといった程度なので、通しでF2という開放値を考えれば決して大柄なレンズでないことはわかる。実際、EOS 70Dに装着して試用してみても、大きさや重さ、ボディとのバランスなどが気になって、撮影に支障をきたすといったことは一切なかった。
AF駆動にはSD-M(Silent Drive-Module)というモーターが採用されている。DCモーターの1種であるそうだが、モーターとギアが一体となって密封されているため静音性に優れているとのこと。試用においてもDCモーター特有のギア音はほとんど気にならず、実用上、超音波モーターと比べても遜色がないレベルであった。
ただし、DCモーターなのでAFから切り換えなしでMFに移行できるフルタイムMFは不可である。とはいっても、これも他のトキナーレンズ同様に「ワンタッチフォーカスクラッチ」を搭載しているため欠点というほどのものではない。フォーカスリングを前後にスライドするだけで、いつでもAFからMF、MFからAFへと切り替えられるため、慣れればむしろ良好な操作性を実感することができるだろう。
AF制御には高分解能なGMRセンサー(高精度磁気センサー)が搭載されているため、AF精度も極めて良好であった。超広角レンズとはいえ、F2ともなると被写界深度は思った以上に浅くなる分、相応にAF精度が要求されるため、大口径である本レンズにとって非常に重要なことである。
また、マウント外周部にはゴムシーリングが施され、マウント周りの防塵・防滴に配慮された設計となった。上位の一眼レフには防塵防滴性を備えたカメラボディが多くラインナップされているので、実使用上のマッチングにおいて嬉しいことである。ただ、可能ならレンズボディ全体の防塵・防滴性にもさらに配慮してもらえればなお嬉しい、と思うのは欲張りすぎであろうか。
遠景の描写は?
まずはワイド端の描写性能を見てみると、絞り開放からシャープネス、コントラストとも非常に秀逸であることが実写から確認できる。色収差や諸収差はほぼ見られず、逆に粗を探すのが大変なほど画面全体で素晴らしい解像感を得ることができる見事な結果だった。
厳密にいえば、開放F2でほんの少しだけシャープネスが緩くなるものの、それも他の絞り値と比べてみるとやや弱いという程度のことであり、実用上はまったく問題のない描写性能を保っている。F2.8以上になると像の安定性は完全になるが、F11以上では回折の影響で解像感は低下する。
特に注目したいのが画面周辺の描写で、ごく隅においても像がしっかり結像している点である。超広角レンズによくある、画面周辺部での見苦しい像の流れや乱れがほとんどないのは称賛に値する。
周辺光量については、絞りF2からF4でやや不足するが、落ち込み方が緩やかなうえ、不足の程度も軽微なので描写に大きな問題を与えることはないだろう。
テレ端では、ワイド端に比べると絞り込みによる立ち上がりがやや遅く、F4以上に絞って像の安定性が完全になるという結果であった。
とはいえ、いずれの焦点距離でも絞り開放から実用性の高い優れた描写性能をもつレンズであることに違いはない。画面周辺部の結像性能や周辺光量の特性などが優れているのはワイド端と同様である。
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ボケ味は?
本レンズの最短撮影距離は0.28m。APS-C用の超広角ズームとしては月並みではあるが、開放値がF2と大きいため、焦点距離が短くても被写体に寄って写せば背景を大きくぼかすことが可能だ。
絞りを開放にして最短撮影距離で写した場合のボケはさすがに大きく、大きく写った被写体が広く写った背景に浮かび上がるといった、ワイドマクロならではの表現を楽しむことができる。
ボケ味については、被写体からの距離や光線状態によって、稀に二線ボケが発生することもある。しかし、大きなボケの中に控え目に出現するといった程度なので、煩わしさを感じるほどのものではない。
被写体からある程度離れると、溶け込むほどの大きなボケは期待できなくなるが、絞り開放付近では形を残しながらも柔らかく自然にぼけた背景が、一種の品の良さを写真に与えてくれることだろう。
超広角レンズなので当然のこととして、被写体からある程度離れた状態で絞り込むと、大きなボケを期待することはできなくなるが、代わり画面全体がはっきりと写ったパンフォーカスの表現を楽しめるようになる。
逆光耐性は?
強い光源である太陽を画面の左上に配置し、太陽を画面内に入れた場合と、太陽が画面内にギリギリ入らない条件で撮影をした。いずれもゴーストやフレアが最も発生しやすい厳しい逆光条件である。
結果としては、ワイド端、テレ端とも、太陽を画面内に入れた条件では光源から対角線上にやや目立つゴーストが発生し、太陽を画面内からギリギリ外した条件では光源方向からシャワー状のゴーストが見られた。
特に、ワイド端で太陽を画面内に入れた状態では、太陽の位置によってやや大きめのゴーストが発生することもあったため、作画の際にはファインダー(またはライブビュー画面)をよく確認してゴーストの位置や発生具合に注意したほうがよい。
太陽が画面外にある条件でのシャワーゴーストは、太陽が画面に極めて近いという限られた条件でのみ発生するものなので、わずかにカメラを動かすだけで発生を回避することができる。どうしても構図を動かしたくない場合は手をかざすなどしてハレ切りをすれば対応できるだろう。
最新の超広角レンズとしては比較的ゴーストが発生しやすい部類になるかもしれないが、ハレーションなどによって画面全体のコントラストが低下するようなことはなかった。
作品
F8まで絞り込みパンフォーカスにして撮影した。色収差はもちろん、歪曲収差などもよく補正されており、建物や風景の撮影には信頼できる超広角ズームである。
開放F2でテレ端20mm、最短撮影距離での撮影。超広角レンズとはいえ、大口径の開放なら被写体の前後を大きくぼかすことができる。前後のボケ味や玉ボケの具合も好印象で表現の幅が広がる。
本レンズの優れた見逃せない点のひとつが、ヌケのよさと秀逸なカラーの再現性。紫の花弁や緑の葉も鮮やかに階調豊かに表現してくれる。
半逆光状態で撮影。コントラストは十分で解像感は高く、猫や切り株の質感を見事に表現してくれている。本文では逆光でゴーストが発生する旨を述べたが、(最新設計のレンズとしても)けっして低性能なレンズではない。
ワイド端近くの16mm、開放F2で最短撮影距離付近での撮影。背景を広く写しながら被写体を大きく浮き上がらせるのはワイドマクロ表現の楽しみのひとつ。本レンズのスペックはAPS-C機の大きな武器となるだろう。
まとめ
開放F2通しの超広角ズームとして注目すべきハイスペックを誇る本レンズ、冒頭で紹介したケンコー・トキナーのうたい文句はダテでないことが実写で明らかとなった。
単焦点レンズに勝るとも劣らない描写性能でF2というスペックは、35mm判フルサイズに比べると同じ画角でボケ量が少なくなってしまうAPS-Cサイズセンサー搭載機にとっては、表現の自由度を広げるという意味で貴重な存在であるといえよう。
DCモーターを採用していながら設計の工夫で静音性を確保し、なおかつトキナー得意のワンタッチフォーカスクラッチを搭載し、操作性を損なっていない点も評価できる。そのおかげもあって、大口径レンズでありながら大型化することなくカメラボディとのマッチングを保つことに成功している。
スペック・性能・サイズと三拍子の揃ったバランスのよい1本。キヤノンやニコンの一眼レフユーザーで、超広角ズーム選びに迷っているという人には、ぜひ検討してもらいたいレンズである。