ライカレンズの美学
SUMMARIT-M F2.4/50mm
独特の味わいを楽しめる軽快50mmレンズ
2017年7月31日 12:00
現行のM型ライカ用レンズの魅力を探る本連載。今回はSUMMARIT-M F2.4/50mmを紹介したい。
この連載でも何度か書いてきたことだが、M型ライカ用現行レンズを焦点距離ごとに分けると50mmレンズは最も種類が多く、超大口径F0.95のNOCTILUXを筆頭に、開放F値や仕様の異なる5種類もの50mmレンズがラインナップされている。
50mm大好きな筆者としてはこの事実だけでも「おおっ、さすがはライカ!」などと思ってしまうわけだが、今回使ったSUMMARITはその中でも最も小口径かつ低価格な、M型ライカ用純正50mmレンズとしては極めてカジュアルな存在である。他のSUMMARIT銘レンズと同様、このレンズも2007年に開放F2.5で登場し、2014年のフォトキナで現在のF2.4へとバージョンアップ。その際に鏡胴デザインも変更されている。
古くからのライカファンが感じるSUMMARIT銘に対する雑感についてはSUMMARIT 75mmを取り上げた本連載の10回目でも詳しく書いたけれど、やはりSUMMARIT 50mmと聞くと、1954年に登場した50mm F1.5の方を思い起こす人も多いだろう。絞り開放時の滲んだようなピントの結ばれ方や、現代のレンズとはまったく異なるかなり独特なボケ味など、強烈な個性を持ったSUMMARIT 50mm F1.5は今でもオールドレンズ市場で人気の高いレンズだ。ちなみにF1.5は当時としては結構な大口径で、その明るさを実現するためには他の諸収差をある程度妥協するしかなく、結果として個性的な描写になったという背景がある。
一方、現行のSUMMARITは1954年のSUMMARITとは真逆の設計思想で、単焦点レンズとしては小口径な開放F値とし、その代わりにコンパクトで描写バランスがよく、しかも(ライカとしては)安価なプロダクトという違いがある。同じレンズ銘でも往時のSUMMARITとは開発コンセプトがまったく異なるわけだ。
こうした開発の経緯は事前に了解していたし、F2.5バージョンのSUMMARIT 50mmは過去にちょっと使わせてもらったこともあったので、今回の現行SUMMARIT 50mmも写り方というか、ある程度の実力は使う前から想像できて、「きっと良く写るだろうけど、すごく平凡な感じなんだろうな~」と思っていた。ところが使ってみて驚いたのは、その写りのクオリティが飛び抜けて高いことだ。
前述したとおり、現行SUMMARITシリーズはライカ純正レンズとしては入手しやすい価格の、いわばカジュアルなイメージのレンズなのだが、思った以上によく写る。解像性能や像の均質性、歪曲収差などはもちろんだが、そういった定量的な評価軸よりも、絞りを開けたときの被写体が飛び出てくるような立体感や、絞って使ったときの切れ味鋭いクールな描写など、思わず「マジかっ!」とつぶやいてしまったほど味のある写り方をする。使う前に想像していた「良く写るけど退屈」ではなく「良く写るし味も濃い」ことはかなり意外だった。
もちろん、味が濃いと言っても63年前のSUMMARITのような強い個性ではなく、あくまでも現代のレンズに求められる基本性能を備えた上での味付けが絶妙だ。前述したとおりM型ライカには50mmが5本も用意されているから、それらが単にF値が異なるだけでは面白くなかろうという光学設計者の考えが見えたような気がした。
正直、撮ってみる前はそれほど強い興味を持てなかったSUMMARIT 50mmだが、この印象深い描写の味付けは結構気に入ってしまった。先細り型のスマートなレンズフードの形状や、フードを外すと相当に薄型なレンズのルックスも美しい。他のライカレンズと同様に「モノ」としてもかなり魅力的だ。
あまり褒めちぎってもナンなので、あえてネガティブな要素も指摘しておくと、最短撮影距離が80cmなのが唯一残念なポイントだ。35mmから90mmまでのSUMMARITレンズ4本がそれまでのF2.5からF2.4へと改良されたとき、75mmについては最短が70cmまで寄れるよう改良されたのだが、35mmと50mmはF2.5バージョンと同じ最短80cmに据え置かれた。
軽量化や近接時の収差量など、最短撮影距離を70cmにしなかった理由はいろいろあると思うが、やはりここは70cmまで寄れたらなぁと思う。特にこの50mmのSUMMARITは絞りを開けて近接したときに醸し出される雰囲気というか、立体感の演出が独特なので、余計にそう思ってしまう。
ただし、撮影の種類が近接主体ならミラーレスカメラや一眼レフカメラを別途用意すれば、70cmどころか等倍のマクロ撮影が簡単に行えるわけで、あえてM型ライカに過剰な近接撮影能力を期待しない人も多いだろうという「そもそも論」もある。
というわけで、使う前と使った後では大いに印象の変わったSUMMARIT-M F2.4/50mm。ライカ的にはエントリーユーザーを意識した商品企画なのかも知れないけれど、そうしたユーザー層はもちろんのこと、"ライカを使って何十年"のようなベテランユーザーの琴線にもきっと触れてしまうのではないかと思う。
協力:ライカカメラジャパン