オリンパス「XZ-1」用マクロアダプターを自作する

Reported by糸崎公朗

素晴らしい描写力と持つオリンパス「XZ-1」の可能性を広げるため、レンズアダプターを自作し、マクロコンバーターレンズとディフューザーを装着。簡易的なシステムだが、実力はなかなかのものだ

素晴らしい描写力の高級コンパクトデジタルカメラ

 昨年9月のフォトキナ2010で、オリンパスは詳細なスペックを伏せた「高級コンパクトデジカメのコンセプトモデル」を発表し、コンパクトデジカメ派のぼくとしては大いに期待していた。そして満を持して発売されたのが「XZ-1」なのだが、期待に違わぬ素晴らしいカメラである。

 XZ-1の特徴はなんと言ってもレンズで、同社のコンパクトデジカメとしては初の「ZUIKO」ブランドを冠した「i.ZUIKO DIGITAL ED 6-24mm F1.8-2.5」を装備している。ライカ判換算の焦点距離が28-105mm相当の4倍ズームで、開放F値は広角でF1.8、望遠でもF2.5を実現したまさに大口径レンズである。

 また、撮像素子は一般的なコンパクトデジカメより少し大きめの1/1.63型CCDを採用。それでいて今時としては控えめの1,000万画素で、画素ピッチに余裕を持たせている。画像処理エンジンも同社のフォーサーズ機やマイクロフォーサーズ機と同様の「TruePicV」を搭載している。

 オリンパス入魂の高級コンパクトデジカメなのだが、実際に描写も素晴らしくて驚いてしまった。広角でも望遠でもマクロで撮っても非常にシャープで切れがあり、それでいてボケがきれいで階調も豊かだ。同社のフォーサーズ機やマイクロフォーサーズ機に迫る画質で、コンパクトデジカメの水準を超えている。

未発売のレンズアダプターを一足お先に自作

 当然ながらXZ-1はレンズ交換ができないため、撮影の範囲は限られてしまう。例えば28mm相当よりワイドで撮ることはできないし、マクロ撮影の倍率にも限りがある。もちろん、普通に使う分にはこれで過不足無いはずである。しかしぼくとしてはXZ-1が素晴らしいカメラだけに、その可能性をさらに広げるための“コンバージョンレンズ遊び”がついしたくなる。

 実は、XZ-1には専用のテレコン「TCON-17」と、その取り付けアダプターの発売がアナウンスされている。しかし発売日はまだ未定だそうで、どうしても待ち切れない。ということで今回は、レンズアダプターを自作して、一足お先にコンバージョンレンズ遊びを試してみることにした。しかしこれはあくまで簡易的な応急措置であり、完璧とは言い難い。しかし一応実用性はあるし、何より手軽に試すことができるので、製作法を紹介しよう。

―注意―

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XZ-1本体を調べてみると、レンズ基部の外周内側に、テレコンのアダプターを取り付けるためと思しきネジが切ってある。しかし手持ちのフィルターリングを当ててみると46mm径は小さすぎ、49mm径だと大きすぎてはまらない。つまり独自規格のネジ径であり、市販リングの転用は不可能なのだとりあえず電源ONしたXZ-1に、リコー「GXR」のS10(RICOH LENS S10 24-72mm F2.5-4.4 VC)用のアダプターリング「HA-3」を被せてみる。もちろん被せただけで固定することはできない。しかしここで“切り貼り”の勘によってハッと閃く物があった(笑)
まずHA-3側面のネジを外すすると内側のパーツが外れる。これはアダプターにワイコンなどを装着したことをGXRボディに伝える可動ピン。念のため元に戻せるように、パーツはとっておく
ホームセンターで買った3mm厚のゴム板を、13×24mmにカット。これに蛇腹のような4等分の切れ込みを入れたパーツを3つ作るゴムパーツの一方にマジックテープの布面(カギ爪面ではない方)を貼る。そしてもう一方には両面テープを貼り、切れ込みを入れる
アダプターの内側、ご覧の3カ所に製作したパーツ貼り付ける。これでアダプターが完成。これを電源ONしたXZ-1のレンズ鏡筒にすっぽりとはめ込む。内側に貼ったゴム+マジックテープ布面で、鏡筒を押さえる方式だ実際に装着するとこんな感じ。ぐらつきも無く固定されている。電源OFFでレンズが沈胴すると、アダプターはさほど抵抗無くスルリと外れる。レンズ鏡筒は割と丈夫に作られているようで、扱いに注意すれば壊れることは無さそう

各種コンバージョンレンズのテスト

まずは、GXR S10用のワイコン「DW-6」を装着してみた。アダプターが落下しないように手を添える必要があるが、それ以外に扱い上の問題は無いようだ
しかし実際に撮影したところ、残念ながら画面周辺がケラれてしまった。そのほかリコー製ワイコン「GW-2」やテレコン「TC-1」も試したが、やはりケラれて使用不可だった
XZ-1 / 3,648×2,736 / 1/1,250秒 / F1.8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 6mm
ちなみにワイコンなし、28mm相当の撮影はこんな感じ。絞り開放、ピントは遠景に合わせたが、画面中心から周辺まで非常にシャープだ(少しタル型の歪曲収差がある)。普通にこれだけ写るのだから、下手な工夫はいらないといえるかもしれない(笑)
XZ-1 / 3,648×2,736 / 1/1,250秒 / F1.8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 6mm
次に試したのは、レイノックス製のマクロコンバージョンレンズ。以前この連載でGXR P10ユニットに装着したのと同一製品だ。アダプターに装着するために43mm→37mmのステップダウンリングと、43mm→43mmのスペーサーリングを重ねる。また、タッパーを利用したディフューザーも用意する装着すると、このようになる。内蔵ストロボはONにして、ディフューザーと光軸を合わせる。ディフューザーの製作方法はこちらの記事を見ていただきたい
定規を撮影してみたが、望遠112mm相当でこの倍率の撮影ができる。画質はかなりシャープで、周辺のケラレもない。糸巻き型の歪曲収差が出ているが、自然物の撮影などには気にならないだろう。ワーキングディスタンスは約3cmで、小さな被写体の撮影にはちょうど良い感じだ
XZ-1 / 3,648×2,736 / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 24mm
112mm相当から少しワイドにズームすると、画面周辺がケラれてしまう。このシステムは望遠端だけで、倍率固定マクロとして使うと良いだろう
XZ-1 / 3,648×2,736 / 1/80秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 16.6mm
ちなみに、XZ-1の望遠マクロの最大倍率はこの程度。一般的にはこれで十分だろうが、小さな昆虫の撮影などにはちょっと物足りない
XZ-1 / 3,648×2,736 / 1/200秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 40.8mm
XZ-1はAFを「スーパーマクロモード」にすればこれくらいの倍率のマクロ撮影ができる。しかしズームは28mm相当に固定されるのでワーキングディスタンスが短くなってしまう。またこのモードではストロボが強制的にOFFになってしまうので、手ブレしやすくなる。今回の“切り貼り”はこの欠点を解消しているといえる
XZ-1 / 3,648×2,736 / 1/5秒 / F1.8 / +0.7EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 6mm

カメラの設定方法

高倍率マクロシステムとして組んだXZ-1には、それに適したカメラ設定が必要だ。被写界深度を稼ぐため、絞りはAモードでF8に固定。ピントはオートだと迷うのでマニュアルに固定。そのほかISO、WB、フラッシュ光量などもマニュアルで固定しているXZ-1のAFからMFへの切り替えは独特で、知らないと戸惑ってしまう。まずは十字キー左(花アイコン)を押すと、AFエリア切り替え画面が出てくる。この状態で左下にさりげなく「AF/MF/花 INFO」の表示が出てるのを見落としてはいけない
この指示に従ってボディ右下の「INFO」ボタンを押すと、フォーカスモードの切り替え画面になり、ここでMFをセレクトすることができる。この画面には十字キー中心の「OK」ボタンを押したメニューからセレクトすることもできる。いずれにしろワンタッチでAF/MFの切り替えができないので、ちょっとまどろっこしいフラッシュモードはオートではなくマニュアルのFULLをセレクト。マニュアル発光の方がタイムラグもなく、光量も安定して使いやすい。ただし光量調節がFULL、1/4、1/16、1/32の2EV刻みと粗く、微調整が効かないのが残念。これはオリンパス「E-5」などと共通の仕様だ
メニュー画面にコンバージョンレンズのアイコンがあり、「TCON-17」をセレクトすると、電源ONでズームが望遠端に固定される(ワイド側にはズームできない)。今回のマクロシステムでは望遠端でしか使わないので、この方が便利だ以上の設定は一括して「カスタムモード」登録できる。登録した設定はモードダイヤルの「C」からワンタッチで呼び出せるので便利だ。この形式の登録モードはほかのメーカーでは一般的だが、オリンパスのデジカメでは初めてではないだろうか? ちなみに登録したら、通常モードでの「TCON-17」設定をオフにする必要がある。そうしないとどのモードでも望遠端に固定されたままになってしまう

作例

※作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。

春先に空き地などでよく見かけるムラサキハナナ(紫花菜)の花。拡大して見ると、花びらの縁がノコギリ状になっているのが分かる
XZ-1 / 3,648×2,736 / 1/200秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 40.8mm
プランターに咲いていたパンジーの花。花びらの付け根にイソギンチャクの触手のような「ヒゲ」が付いてるのが不思議だ
XZ-1 / 3,648×2,736 / 1/200秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 40.8mm
ペンペン草とも呼ばれるナズナの花。肉眼では地味で目立たないが、拡大するとさわやかな印象できれいな花だ
XZ-1 / 3,648×2,736 / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 24mm
市街地の畑に植えられていたブロッコリーの蕾。細胞の粒まで確認できるが、付着した土埃も見える。われわれも外を歩きながら、埃や塵をけっこう吸い込んでいるのかも知れない
XZ-1 / 3,648×2,736 / 1/200秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 40.8mm
タンポポの綿毛だが、拡大するとさらに小さな毛が生えていて空気抵抗を大きくしているのが分かる
XZ-1 / 3,648×2,736 / 1/200秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 40.8mm
タンポポの花を撮ろうとしたら、ルリノミハムシという甲虫の一種が埋もれていた。恐らく花粉を食べているのだろう
XZ-1 / 3,648×2,736 / 1/200秒 / F7 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 40.8mm
体長3mm程度の小さなゾウムシが、クワの花の中に口吻を突っ込んでいる。高性能なレンズの組み合わせにより、詳細なディテールが判別できる
XZ-1 / 3,648×2,736 / 1/200秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 40.8mm
赤と黒のコントラストが鮮やかなナガメというカメムシの一種。地肌の質感も工芸品のようだ。その名(菜瓶)の通りナノハナに止まっているのをよく見かける
XZ-1 / / 2736x3648 / 1/200秒 / F8 / +2EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 40.8mm
フクラスズメというガの一種で、シラカシの樹液を吸っているところ。複眼のディテールがはっきり見える
XZ-1 / 3,648×2,736 / 1/200秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 40.8mm
一見アリにそっくりで、実はクモの一種であるアリグモ。前足をアリの触角のように振り上げるので、6本足に見える。目は前4つ、横2つ、後ろに2つと計8個付いている
XZ-1 / 3,648×2,736 / 1/200秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 40.8mm
カナヘビの顔だが、目の中にカメラのディフューザーが写り込んでいるのが分かる。トカゲは昆虫に比べて敏感で、なかなか接近できないが、たまに大人しい個体がいるのである
XZ-1 / 3,648×2,736 / 1/200秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 40.8mm
同じカナヘビを、マクロコンバーターレンズを外したXZ-1の望遠マクロで撮影してみた。かなり描写力が高いのが分かる
XZ-1 / 2,736×3,648 / 1/200秒 / F5 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 40.8mm

ついでに付属品あれこれ

XZ-1でちょっと気になるのが充電方式。充電器が別売で、そのかわり本体から充電するコンセント端子が付属している。iPhoneなどの携帯電話と同じ方式だが、ぼくとしては別売りの充電器が欲しくなってしまうところがXZ-1の電池は、実はリコーCX5(およびCX3、CX4)と形状が同じで、相互に差し替えて使用しても問題はなく、充電器も共有できる。CX5ユーザーのぼくとしては、システムが拡張して得した気分になる(笑)ただし同一製品かどうかの正式アナウンスはないので、自己責任で判断して欲しい
ついでに、XZ-1のアクセサリーシューにリコー製光学ファインダー「GF-2」(28mm相当に対応)を装着してみた。しかし残念ながら、オリンパス製光学ファインダーVF-1(35mm相当に対応)は使用不可、XZ-1の電動ズームは「35mm相当の画角」を選んで固定できないのだ(リコーが採用している「ステップズーム」のような機能があればいいのだが)。一方、PENシリーズと共用の電子ビューファインダー「VF-2」は視野が大きく非常に使い勝手が良い



糸崎公朗
1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。「非人称芸術」というコンセプトのもと、独自の写真技法により作品制作する。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ ミノルタフォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。ホームページはhttp://itozaki.cocolog-nifty.com/

2011/5/23 14:12