吉村永の「ホントに使える動画グッズを探せ!」

7品目:自在なカスタマイズで長時間の動画編集を効率化する“左手デバイス”

Tourbox Tech「Tour Box Elite」

一眼レフ、ミラーレスを問わず、最近のカメラにはもれなくと言っていいほど備わっているのが「動画撮影機能」。写真撮影については一家言あるけれども、動画についてはまだ未知の領域……、という読者も多いはず。
この連載では“スチルカメラ愛好家”に向けて、動画畑出身のカメラマン 吉村永がレンズ交換式デジタルカメラで動画を撮る際に便利なグッズを見つけて紹介していく。時にプロ向けの高価な機材から、馴染みのないメーカーの製品まで積極的に試して紹介できたらと思う。

今回紹介するのは、動画編集の際に便利なプログラマブルコントローラー「Tour Box Elite」。直販価格は税込3万9,960円。

Tour Box Elite

役立ち度:★★★★
コスパ:★★★
マニアック度:★★★★

マウスでの編集に疲れた人に…

現代の動画編集はその全てをパソコン上で行い、そしてかなり長い時間の作業を強いられる。これを基本的にマウスで行うわけだが、細かなカットの連続やコマ送り、はたまた別素材の別のシーンを探したりと操作は神経を使うもの。

そこで試して欲しいのが、通称「左手デバイス」などと呼ばれるコントローラー。

Tour Boxはクラウドファウンディングでの成功からデビューし、各種クリエイターに絶大な支持を得ているコントローラーだ。

計算されたデザインの本体

まずは外観。およそきちんと整理したようには見えない、ボタンとダイヤル類が配置された様子はまるでゲームコントローラーのよう。PCのキーボードのように綺麗にマス目に沿った同じ大きさのキーが並ぶものではないのだが、実はこれが操作時にいちいちコントローラーに目をやってキーを確かめる必要がない手探り操作にピッタリなのだ。

手に取るとずっしりと重さを感じるが、これはデスクに置いたら少々ラフな扱いをしても位置がずれないことから使いやすさにつながっている。ボタン類はいずれもクリックがしっかりしていて操作感が確実に伝わるのが嬉しいところ。

そして、3つあるダイヤルは全てハプティックフィードバック機能に対応。これはダイヤルそのものにはクリックがないのだが、中にある振動素子が回転に合わせて指に「カチッ」というクリック的な振動を伝えてくれるもの。ダイヤルと機能ごとにクリックの強さと、クリックから次のクリックまでの回転角の大きさを変えることができるようになっている。

パソコンとの接続はUSB Type-Cケーブルを介した有線接続、またはBluetoothでの無線接続に対応。無線接続で利用する場合の電源は充電式ではなく単3型乾電池×2本だが、これで2カ月ほどは使えるので実用上は問題ないだろう。

自分好みにカスタマイズ

嬉しくもあり、初心者には少しハードルが高いと感じさせるのは全てのボタンとダイヤルがカスタマイズ可能であるということ。あらかじめ主要なソフトに対応したボタン機能割り付けのプリセットファイルがWebサイトからダウンロードできる。これをセットした上で、自分好みの機能とボタン配置を付属のユーティリティソフトから設定するといいだろう。

僕が早速セッティングしたのはダイヤル類。つまみ式のノブダイヤルには1コマ送りをセットし、ハプティックの間隔を広めにして細かなコマ送りがやりやすいようにした。縦型のスクロールダイヤルにはタイムラインの左右への移動、平らな水平ダイヤルにはタイムラインの拡大/縮小を割り当てた。これらをこれまでトラックパッドで行っていたのだが、マウスポインターを画面で追うこともなく、手で触れたダイヤルで直感的に細かくも、大雑把にも変更できてとても便利になった。

さらに、上下左右キーの右に再生、左は逆再生、下は停止を設定。これはビデオデッキのリモコンなどと同じ配置で、直感的な操作が可能になる。さらに再生と逆再生は押すごとに1倍・2倍・4倍と再生速度が音声付きのまま変わっていくので編集ポイントがとても探しやすくなる。

また、「SPLIT」や「前にリップル」も登録。これはインタビューものなど、人が話をしている動画のカット編集にとても便利。無言になったり、喋りがNGな部分の頭で「SPLIT」を押すとそこでクリップが分割される。NGな部分が終わったところで「前にリップル」ボタンを押せば、そこでクリップが分割されて、SPLITで分割したところからの範囲(NG部分)が消去。消去した部分は詰められ、その後のクリップが隙間なく繋がる、という一連の操作が行える。細かなマウス操作にイライラすることなく、簡単なボタン操作とダイヤル操作の繰り返しでカット編集はとても楽になった。

「DaVinci Resolve Studio」の編集画面。「SPLIT」や「前にリップル」を割りあてることで、動画編集がぐんと効率的になる

いろんなアプリに対応

僕は動画編集ソフト「DaVinci Resolve Studio」でTour Boxを使っているのだが、嬉しいことにこのコントローラーはAdobe Photoshopや、他の動画編集ソフトなど、ほぼ全てのアプリで使えるのだ。写真現像の細かな明るさの調節をダイヤルで行ったり、拡大縮小などを直感的に調整できる。

さらに、使うアプリを変えるとTour Boxのキー配列プリセットもアプリに最適なものに自動的に切り替わってくれる。アプリを跨いだ作業時にも、いつでもシームレスに使えるわけだ。

これまで、僕はビデオ編集専用の小型コンソールを買って使っていたのだが、この自分好みにカスタマイズでき、ダイヤルのクリックを自在に操れるコントローラーのおかげで専用機の出番は大幅に減ってしまった。長時間の編集作業を、少しでも楽に効率化したいのであればおすすめだ。

吉村永

東京生まれ。高校生の頃から映像制作に目覚め、テレビ番組制作会社と雑誌編集を経て現在、動画と写真のフリーランスに。ミュージックビデオクリップの撮影から雑誌、新聞などの取材、芸能誌でのタレント、アーティストなどの撮影を中心とする人物写真メインのカメラマン。2017年~2020年カメラグランプリ外部選考委員。