超高画素のお作法
5,000万画素時代のPC構成を考える
RAW現像用ハイスペックPCをBTOで組んでみた
(2015/10/1 12:10)
今年、35mmフルサイズセンサーを採用するレンズ交換式デジタルカメラは、キヤノンEOS 5Ds/5Ds R、そしてソニーα7R IIの登場により、ついに超高画素モデルの時代へと突入した。これまで中判デジタルカメラの領域であった高解像度の画像が、35mm判フルサイズ機でも得られるようになったことは写真表現の可能性を大きく広めてくれることにつながるだろう。しかし解像度が高くなるのに伴い、画像1ファイルあたりのデータ量も比例して大きくなる。
例えば約2,230万画素のEOS 5D Mark IIIの画像1ファイルはRAW画像で約30MB、JPEG画像で約6MBであるが、約5,060万画素のEOS 5Ds/5Ds Rとなると、画像1ファイルがRAW画像で約70MB、JPEG画像で約30MBと大きく増える。1ファイルでこれだけの差があるということは、数十枚、数百枚の画像をまとめて処理しようとするとその負荷の差はとても大きいものとなる。この大きなデータを処理するにはPCにも高い性能が要求されるのは自明の理だ。
それでは超高画素のデジカメ画像を快適に処理できるPCの構成とはどのようなものだろうか。今回はユーザーが発注時にPCの構成をオーダーできる、株式会社Project White(TSUKUMO)のBTOPC「eX.computer エアロストリーム RA5J-F64/T」(以下eX.computer)をベースにその構成を考えていくことにする。
Core i7-6700にメモリ32GB、SSDも奢ってみる
まずPCの頭脳であるCPUは標準のCore i5からBTOオプションで現在選択可能な処理能力の高いCore i7に変更。次にメモリを標準の8GBから搭載可能な最大値32GBへと増やした。大きなサイズの画像データを扱う際にはメモリの大きさがCPU以上に処理速度に影響する。ここは思い切って可能な限り大きくするのがベストだ。
また同様に処理速度に直結するシステムディスクはHDD(ハードディスク)からSSD(ソリッドステートドライブ)へと変更した。SSDはフラッシュメモリを使用した記録媒体であることから、磁気記録した円盤を高速回転させ情報の読み書きを行うHDDに比べ物理的駆動が必要ない分、より速い読み書きが可能であることからPC全体の反応速度を飛躍的に上げることができるメリットがある。ただし比較的新しい記録媒体なのでHDDよりも記録容量あたりの単価がまだ高いため、OSおよびアプリケーションの実行用と一時的な作業用データの置き場所として使うことが多い。その代わりにシステムディスクとは別にデータの保存用として容量2TBのHDDを追加した。
「eX.computer エアロストリーム RA5J-F64/T」をBTOオプションで構成した内容
- CPU
- Intel Core i7-6700プロセッサー (4コア / HT対応 / 3.6GHz)
- マザーボード
- Intel H170 Express チップセット ATXマザーボード(H170-PRO)
- メモリ
- 32GB DDR4 SDRAM PC4-17000
- SSD
- 480GB (SanDisk UltraII Series / SATA 6Gbps)
- HDD
- 2TB SATA6Gbps対応 (WD Red WD20EFRX)
- OS
- Windows 10 Home 64-bit版
- 光学ドライブ
- BDXL対応 ブルーレイ(LG電子製 BH16NS48)
- 電源ユニット
- CWT製 GPK650S (最大700W、定格650W)
- USB3.0対応カードリーダー+フロントポート
オリジナルのミドルタワー型は筐体内に余裕があり拡張がしやすいのが特徴。メモリスロット×4、PCI Express×16スロット×1(空き1)、PCI Express×16スロット×1(空き1)、PCI Express×1スロット×2(空き2)、PCIスロット×2(空き2)を備える。
拡張ベイは5インチ×4、3.5インチ×1、3.5シャドー×5。3.5シャドーベイはスライド式のトレイとなっており、SSDやHDDの交換も比較的容易に行える。
背面コネクターはPS/2マウスポート×1、PS/2キーボードポート×1、USB3.1 Type-C ポート×1、USB3.0(2.0/1.1対応)ポート×2、USB2.0(1.1対応)ポート×2、DVI-D×1、HDMI×1、VGA(ミニD-Sub15)×1、アナログオーディオ入出力、1000BASE-T(100BASE-TX/10BASET-T対応)LAN(RJ45)ポート×1。
PC前面にはUSB2.0ポート×2、オーディオ入出力(マイク入力×1、ヘッドフォン出力×1)が標準装備。さらに今回はBTOで3.5インチドライブベイにUSB3.0対応カードリーダー+フロントポート(USB3.0×1)付のAK-ICR-14を追加した。対応メモリーカードはCF Type I/II、マイクロドライブ、SD/SDHC/SDXC/miniSD/miniSDHC/microSD/microSDHC/microSDXCメモリカードなど、デジタルカメラで使用する主要なメモリカードに対応している。
オリジナル筐体は、PC本体内の温度管理のことを考慮して高率的な空気の流れを作り出す設計となっている。PCの駆動に伴う発熱によって発生しかねない熱暴走や性能劣化を予防するためだ。
PCの前面には大きな空気取り入れ口がある。ここからファンで吸入した空気を筐体内に通し、それを背面大型ファンで筐体外に排出してPC内部の熱を下げる。吸入口にはホコリを筐体内部に吸い込まないようにフィルターを装備。
PC筐体左側面にも大きな空気取り入れ口がある。こちらも外部からのホコリをカットするフィルターを装備。カバーをスライドすることでフィルターの掃除も簡単に行なえる。
BTOオプションには用意されていないが、画像の描画速度の向上に効果的なグラフィックカードを組み込むことも可能だ。
今回試用したグラフィックカード「NVIDIA Quadro K620」は、OpenGL対応アプリケーション向けに最適化。384コア、2GB DDR3 SDRAM搭載。
下の写真はPC背面の空きスロットに組み込んだところ。ディスプレイケーブルはグラフィックカードのコネクターに接続する。
NVIDIA Quadro K620はアドビPhotoshop CC2015およびLightroom CC2015で使用できるグラフィックプロセッサーとしても対応している。
超高画素のデジカメ画像を処理することを前提に組み上げたPCは、どの程度のパフォーマンスを発揮するのか。ここからは実際に有効5,060万画素の超高画素機であるキヤノンEOS 5Ds RのRAW画像をeX.computerへのコピーに始まり、アドビLIgtroom CC2015での閲覧・セレクト・現像処理までを行うことで、その実力を検証する。
なお今回の検証にあたり、その比較対象としてCore i3 3.4GHzのPC(デジカメ Watch編集部でアルバイトが使用中)を用意し、同じ作業を行うことでその差を比較することとした。比較用PCのスペックは以下となる。
- CPU
- Intel Core i3 3.4Ghz
- メモリ
- 32GB
- 起動ディスク
- HDD
- OS
- Windows 8.1PRO 64bit版
CFからの取り込み
まずはCF(レキサープロフェッショナル800x 128GB UDMA7)に記録された506個の画像(RAW+JPEG撮影なので撮影毎数は253枚)、18.6GBのデータを転送する時間を測定した。なお、eX.computerへは3.5インチベイに搭載したUSB3.0接続カードリーダーを、Core i3PCのデスクトップへの転送にはUSB3.0接続のカードリーダーを使用している。
デスクトップへ506点(計18.6GB)のファイルをコピー | |
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eX.computer | 約2分26秒 |
比較用PC | 約4分22秒 |
Lightroom CCで506点(計18.6GB)のファイルを読み込み | |
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eX.computer | 約4分49秒 |
比較用PC | 約5分06秒 |
上記の結果からデスクトップへのコピー、Lightroom CCへの読み込みのどちらもeX.computerの方が速い結果となった。eX.computerはOSが最新のWindows10という違いこそあるが、おなじUSB3.0接続のカードリーダーを使用しても双方で明確な差が出ている。大きなサイズのデータを大量に撮影した場合にはこの転送時間の差が、その後の作業の効率を左右する重要なファクターとなる。
Lightroom CCでの画像整理
Lightroom CCに取り込まれた撮影画像はカタログという形で閲覧用画像として画像本体とは別に保存される。サムネイルサイズで閲覧する際にはカタログの軽い画像データを参照するので、大きなサイズの画像も比較的軽快に閲覧することができるのだが、このカタログ自体も画像点数が増えるとそれなりに大きなファイルとなるため、Lightroomでの読み込み時に相応の時間がかかるのだ。このカタログをBTOで組み込んだSSDに記録することで、HDDからの参照よりも速い読み込みが可能となる。
実際に画像チェックとセレクトを行う過程では、撮影したすべての画像をコマ送りしては等倍表示させてピントの精度やカメラぶれの有無などの精査を繰り返し行う。この作業だけでもかなりの時間を要するわけだが、この一連の動作をスムーズに行えるPCでないと作業は遅々として進まないうえ、結果ストレスも大きく溜まってしまう。
この一連の作業をエアロストリームでも行ったところ、EOS 5Ds Rの画像であっても非常にスムーズに作業を行うことができた。これならストレスを感じることなく画像チェックとセレクトを進めることができる。一方編集部の比較用PCで同様の作業を行おうとしたのだが、画像のコマ送り表示はスムーズとは言えず、また等倍に拡大する際にもに表示されるまでかなり待たされてしまった。画像数枚を閲覧するのであれば待てない程ではないが、これが数十枚、数百枚となるとストレスは大きなものとなってしまうだろう。
RAW現像で計測
PCに転送した撮影画像をLightroom CCでRAW現像する時間を測定した。バージョンはこのテスト時最新のものを使用している。現像済み画像の保存先はそれぞれシステムディスク内である。
RAW画像1枚を現像 | |
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eX.computer | 約7秒 |
比較用PC | 約15秒 |
RAW画像10枚を現像 | |
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eX.computer | 約37秒 |
比較用PC | 約1分17秒 |
RAW画像20枚を現像 | |
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eX.computer | 約57秒 |
比較用PC | 約2分29秒 |
RAW画像100枚を現像 | |
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eX.computer | 約4分27秒 |
比較用PC | 約12分13秒 |
計測結果は予想を軽く上回る差でeX.computerの方が速く現像を完了した。当然のことだが、一度に現像する枚数が多くなるほどにその差も大きくなる。筆者の場合は一度に100〜300枚のRAW現像を行うことも珍しくなく、RAW画像300枚を処理することを想定して計算すると、現像完了までの時間はおよそ23分もの差が発生することとなる。この差は今後の超高画素機の運営において大きな差となることは間違いない。
ちなみにこの結果はビデオカードなしでの計測結果だ。アドビによるとLightroom CCにおけるGPUアクセラレーションは現像モジュールの高速画像描画のためとのこと。現像処理そのものに寄与しないようだが、スライダー操作の追随性など、対応GPUがあったほうが良くなる場面も多い。
超高画素デジカメをストレスなく運用するにはハイスペックPCが不可欠
高画素フルサイズデジタル一眼として登場したキヤノンEOS 5Ds / EOS 5Ds Rはついに5,000万画素を超え、これまでとは異なる次元の高精細画像を我々にもたらしてくれる。しかし、同時に大きなサイズの画像ファイルを的確に処理出来るだけの設備も必要となった。今回のテスト結果からも、画像の閲覧、セレクト、RAW現像といった一連のワークフローを快適に行うためには、ハイスペックなPCが必要不可欠だと言わざるを得ない。
今回取り上げたeX.computerは、その一点だけを狙い、わがままと言えるほど贅沢に組み上げたものだ。その構成は一昔前では考えられないほどのハイスペックなものである。
しかし、このBTOマシンはメーカーであるTSUKUMOの販売Webサイトから簡単にオーダーでき、またその価格は、後から追加したグラフィックカードNVIDIA Quadro K620を足しても20万円程度で収まるものだ。決して安い買い物とは言えないが、超高画素デジカメをストレスなく運用していくためには十分に検討に値する製品だ。まずはTSUKUMOのWebサイトにて、自分なりのBTOの構成をシミュレートしてみてはいかがだろうか。
制作協力:TSUKUMO