Canon EFレンズ 写真家インタビュー
いままでにない画角で、見たままの海の世界を表現できる
水中写真:鍵井靖章 with EF11-24mm F4L USM
2016年1月25日 08:55
さまざまな撮影ジャンルのプロ写真家にインタビューする本連載「Canon EFレンズ 写真家インタビュー」。EFレンズを手にしたプロが見せる渾身の作品とその撮影ジャンルの魅力、EFレンズがもたらす世界についてお伝えしている。
今回ご登場いただくのは、水中写真家の鍵井靖章さん。他に類を見ない広い画角を持つ超広角ズームレンズ「EF11-24mm F4L USM」をモルディブに持参してもらい、撮影をお願いした。果たして鍵井さんは、このレンズにどのような感想をいだいたのだろうか。
作品・キャプション:鍵井靖章
聞き手:笠井里香
始まりは偶然出くわした写真展から
--水中写真を始めたきっかけを教えて下さい。
カメラを持ってパチパチ写す程度のことはしていましたが、本格的に写真を生業とするきっかけになったのは、大学生のときに阪急百貨店で観た、伊藤勝敏氏の写真展です。
偶然観たんですがその写真にとても感動して、しかも一緒に行った友人がたまたま伊藤勝敏氏の近所にお住まいでした。そこですぐに連絡をとり、弟子入りをお願いしたのです。最初はもちろん断られたんですが、何度もトライしているうちに、弟子入りさせていただきました。
水中写真を撮るために必須なのは、ダイビングのスキルです。アシスタントをするにも、海に入れないことには仕事になりません。和歌山県の串本町で、まずはダイビングのライセンスを取りました。以来、2年間アシスタントとして経験を積みました。
--通常、使用されている撮影機材について教えて下さい。
EOS 5D MarkⅢとEF16-35mm F4L IS USM、EF17-40mm F4L USM、EF15mm F2.8フィッシュアイ、EF100mm F2.8Lマクロ IS USMを使っています。
これらの機材は、水中での撮影になりますので、ハウジングをつけて使うんですが基本的に陸上で使うのと同じように操作できるようになっています。また、ストロボをカメラ1台に対して2灯つけています。
--撮影時に主に使用するカメラの設定を教えて下さい。
撮影モードはマニュアル露出です。ISO感度はワイドレンズなら基本的にISO 400固定ですね。絞りはF11でシャッタースピードで露出を調整します。
ピントはAFをメインに使用しています。ピクチャースタイルは風景、ホワイトバランスはオートです。RAW+JPEGで撮影しています。水中では、動きを止めて撮る場合にはストロボを使用するので、連写は基本的に使いません。
魚眼レンズとは一味違う、超広角11mmの表現力
--今回、EF11-24mm F4L USMを使用して撮影してみていかがでしたか?
水中の写真というと、魚眼レンズのイメージがある方も多いと思いますし、僕も必要に応じて魚眼レンズを使って撮影することがあります。
ただ、魚眼レンズというのは、独特のパースでぐるっと周囲を収めてくれますし、強烈なデフォルメ効果もあって、“上手く写ってしまう”ところがあるんですよね。最短撮影距離も短いですから、かなり寄ることもできますしね。だから、多くの水中写真家が好みます。
そういうこともあって、魚眼レンズでの撮影をメインとすることはやめ、これまでも広角ズームを使った撮影をしてきました。レンズを変えることで自分自身の視点も変わり、新しい自分のスタイルも生まれると思いますね。
そしてこのEF11-24mm F4L USMです。水中に入る前、部屋のなかでファインダーを覗いてみたんですが、確かに一歩画角が広がった感じがありました。でもそれ以上の感想は特にありませんでした。
ですが海で撮影してみたところ、これまで以上に広大な海の世界を、歪みなく自然に撮れたのです。魚眼レンズでは得られないリアリティを収められることに気づきました。これまで撮ったすべての写真をこのレンズで撮り直したい!と思うほど素晴らしかったんです。
--描写面について、よかった点を詳しく教えて下さい。
まず、いつもよりシャープに写っているんです。見た目通りに写っている、というのが感想です。海という広大な場所の一部分を切り取るわけですが、このレンズを使うことで海のスケールに合わせた生き物のドラマを写し取れます。大きな生物を撮影したときも、その周りを入れられる。ピントを合わせた中央の被写体以外の部分にあるドラマも、しっかりとファインダー内にあるんです。
海のなかでは、機材はハウジングに収まっていますし、水というフィルターが常にある状態での撮影になります。そういった状況のなかでは、見える範囲が非常に限られていて、陸に対する憧れというのが少なからずあります。
でも、EF11-24mm F4L USMを使うと、陸での写真のように、パースペクティブを生かした奥行き感のある写真を撮ることができます。もちろん、水の透明度など撮影に影響することはいろいろありますが、離れたところにいる生き物までしっかりと写し込むことができる。まるで陸での風景写真のようにです。生き物の存在感、海の持っている雄大さが素直に出せるレンズだと思いました。
また、最短撮影距離も短いので(編集部注:24mm時に0.28m)、メインの被写体をよりクリアに写すことができます。ワイドマクロ的な使い方もでき、生き物に近づいて写しながら、その環境も撮ることができます。
水中での撮影では、陸の方を見上げるような形で撮ることも多く、逆光になる場合が多くあります。EF11-24mm F4L USMではフレアやゴーストも気にせず撮ることができます。しかも、光源の白から海の青へのグラデーションの階調がとても豊かに写るんです。
これまで季節ごとにルーティンで撮影してきた海を、EF11-24mm F4L USMなら新たに見直せるのではないかと感じました。見慣れた景色を、このレンズでまた撮りたい、これからの撮影がとても楽しみになるレンズですね。
海の世界は陸上とは別世界
--海に生きる生物を撮るためには、やはり生態にはある程度の知識が必要ですか?
もちろん、何も知らないよりも知っていた方がいいこともあります。でも、海のなかにある景色を、素直に美しいと感じたまま撮るのも大切です。
また、海での撮影では、海の生き物たちへの配慮が必要ですし、危険を回避するという意味でも、潮の流れを読むこと、また、ダイビング技術の上達が重要になってきますね。
水の層が撮影の障害になるので、できる限り被写体に寄って撮るというのが鉄則なのですが、これが意外と難しいんです。ダイビングだけで生き物に寄っていくことができても、カメラを持つと思ったほどには寄れないことも多く、僕も20年の経験でようやくいい間合いで撮れるようになりましたから。
2011年の震災後から、東北の海の撮影をしているんですが、これまで以上に生き物に対する配慮は自分のなかで大きくなったなと思っています。
それまでは色鮮やかでファンタジックな南の海を撮影してきて、いつも夢のなかにいるような感じでした。ですが、東北の海の現実を撮ることによって、夢のなかにいた自分と社会が繋がったという実感があります。
水面下の世界には、いろんな生き物がいます。マンタやジンベイザメ、特に僕の好きなアジアの海には色とりどりの魚たちがたくさんいます。暖かい海は魚の種類も豊富なんです。
陸で見る世界とはまったく違って、別世界に見えます。だから、きれいだなということを素直に受け入れることができて、楽しいんです。
コンパクトカメラでも、APS-C機のEOS Kissシリーズなどでも十分に楽しむことができますし、海の生き物たちへの配慮を忘れずに、素直な気持ちで撮る、それだけでも十分だと思いますね。
月刊誌「デジタルカメラマガジン」でも連動企画「Canon EF LENS 写真家7人のSEVEN SENSES」が連載中です。今回紹介した鍵井靖章さんをはじめ、EFレンズを知り尽くした写真家によるレンズテクニックが収録されています。