著名写真家による“焦点距離別”レンズテクニック
大口径レンズを使いこなすには?
魚住誠一/ハービー・山口/河野鉄平が解説
(2015/4/21 11:18)
焦点距離35mm編:F1.4の強烈なボケでモデルの表情に釘付け(魚住誠一)
焦点距離が35mmのレンズでモデルに最短撮影距離の30cmまで近づくと、ちょうど顔がアップに写る画角になる。アップの表情を目立たせるためには、モデルの顔が明るくなる位置で、かつ背景が暗い場所を選び、顔の正面から光が当たるようにする。
開放のF1.4で、映り込みではなく人物の左目にピントを合わせる。鏡の国をイメージするが、ピントは鏡像ではなく本人の目に合わせるのがポイント。4つのうち1つの目だけがシャープに見えることによって、眼力が強くなる。
また、このぐらい顔をアップにして開放F値で撮影する場合にはピント位置をシビアに考えなくてはいけない。三脚を使用してライブビューで撮影しても良いだろう。
中望遠では撮れない表情が新鮮でより親密感がある絵が撮れる気がしたので35mmを選択した。F1.4だと被写界深度はかなり浅く、立体的な顔の場合、頬骨あたりからすぐにぼけてしまう。写真を見た人はシャープな目に視線がいくので、表情(特に目)を力強く描写できる。
PHOTOGRAPHER:魚住誠一(うおずみせいいち)
1963年愛知県生まれ。名古屋学院大学商学部卒。スタジオアシスタントを経て1994年よりフリー。2007年よりプロアマ混合の写真展「ポートレート専科」を主宰。数々の書籍やカメラ雑誌、音楽誌、CM、広告などで活躍。
自身のホームページでモデルやタレントを紹介するModelTalks」を毎週月曜日に連載中。http://www.zoomic.jp/
モデル:花原 緑(スペースクラフト)
焦点距離50mm編:ボケで背景を整理してモノクロで空気感を作る(ハービー・山口)
空気感を生み出すには、絞りは開放のF1.4にして、なるべくレンズから近い位置にピントを合わせられるように被写体との位置関係を考えよう。味付けとして斜光のようなドラマチックな光を取り入れることが重要だ。
ピントを合わせた、つまり、最も強調したい人物は確実につかみ、周囲のカフェの状況は夢の中のように空気に溶け込んだ表現をしたい。モノクロにして情報を整理し、シャープなだけではない、主題を浮き上がらせる画面構成を心がけることが重要だ。
開放F値で撮るというのは、そのレンズの実力を発揮させるための1つの方法だ。一般的にはF5.6とかF8に絞ることで、無難にピントや解像力を求めがちだが、そのあたりの絞りを使ってしまってはどのレンズでもそれほど変わらない描写になってしまう。それではせっかくのレンズの個性が生かせないので、積極的に開放F値を使うことをオススメしたい。
焦点距離85mm編:主題である人物と同時にある程度詳細に背景も見せる(河野鉄平)
主役はあくまでもモデル。しかし、背景の状況もある程度見せたいというシーンはよくある。そんなときには背景は明るく、人物は日陰になる場所に立ってもらい、露出はオーバー気味に設定する。絞りは開放から少し絞りF2.5に。人物の背後に木のボケ方が自然で、ナチュラルな印象を伝えることができる。
なお、逆光を利用するのは、木漏れ日で玉ボケを作る目的もある。大口径レンズで女性のポートレートを撮る場合、玉ボケで柔らかさを演出するのもテクニックだ。
繁茂する樹木の日陰を利用して撮影。ボケを生かしながらポートレートを撮るのに中望遠の85mmは最良だ。背景の様子もほどよく取り込みたかったため、絞りはF2.5に設定。夕暮れ時で光量が少なく、シャッター速度は1/60秒まで落ちたが、手持ち撮影ながら手ブレはしていない。
望遠レンズになると、それほど低速でなくても手ブレが気になることが多い。私にとって、手ブレが気にならないギリギリの焦点距離が80mm前後。暗い光源の場面でも気軽に人物がスナップできる。
PHOTOGRAPHER:河野鉄平(こうのてっぺい)
1976年東京都生まれ。明治学院大学卒業後、テラウチマサト氏に師事。2003年独立。著書は「キヤノン EOS Kiss X7i/X6i完全ガイド」「パナソニック LUMIX GX7 FANBOOK」(インプレス)「カメラと写真を最高に楽しむための教科書」(MdN)など多数ある。
http://fantastic-teppy.chips.jp/
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この記事は、インプレス刊の書籍「イラストでよくわかる 写真家65人のレンズテクニック」から抜粋・再構成しました。
魚住誠一さん、ハービー・山口さん、河野鉄平さん以外にも、総勢写真家65人それぞれが、焦点距離別に秘蔵のテクニックを紹介。焦点距離やF値といった、レンズの基礎を学べるコーナーもあります。