“もっと撮りたくなる 写真の便利帳”より

「グラデーション」をモチーフに撮る

本能的な“美しさ”を取り入れる

人間が本能的に美しいと感じる「グラデーション」。写真にその表現を取り入れてみましょう。(編集部)

沖縄のエメラルドグリーンの海。ブルーの雲から浜辺にかけてのグラデーションが美しい。
・着眼点:海、空、浜辺のグラデーション
・撮り頃:色が正しく出る日中
・イメージ:ひと気ない海の静けさ
・撮影テクニック:3要素のほどよい配分
・ひと工夫:アクセントは地平線のみ
100mm相当 / シャッター優先オート / F8 / 1/500秒 / ISO100 / WB:太陽光

グラデーションは美しい写真の基本

グラデーションとは、明るさや色が滑らかな連続性をもって変化していくことです。

絵画の中には、グラデーションの表現がたくさん見つけられます。それは、人間が本能的にグラデーションを美しいと感じるためです。写真も同じで、グラデーションを取り入れると、見る人が美しいと感じる写真になります。

また、写真は平面の芸術なので、色や明るさにグラデーションがないと、立体感や奥行き感のない、ベタッとした平面的な写真になってしまいます。

ちなみに、グラデーションとほぼ同じ意味で使われる言葉に「トーン(階調)」があり、トーンが美しい写真などと表現されます。しかし、トーンの場合は、「ペールトーン」「ダークトーン」というように、色の状態を指す言葉としても使われます。

目のつけどころ:身近にあるグラデーション

このページの写真を見るとわかるように、グラデーションは、身近に溢れています。それは、光があるところにグラデーションが生まれるからです。自然物はもちろん、人工物にも光が当たればグラデーションができるのです。

光を見ながら、一緒にグラデーションを探してみましょう。

空のグラデーション
夕焼け空。写真内の強すぎる夕日を、鉄塔によってやわらげることで、グラデーションの美しさがより際立った。
花のグラデーション
花のピンクのグラデーションや、背景の緑のグラデーションがそれぞれ美しい。背景のボケの中にもグラデーションがある。
人肌のグラデーション
人物写真では肌のトーンは重要。やわらかい光によって、肌のグラデーションはもちろん、髪の毛もきれいに再現した。
影(黒)のグラデーション
古い電車の網棚を撮影。黒くつぶれている部分から、グレーの部分へとつながるグラデーション。質感がよく出た。
光(白)のグラデーション
ガラスについた水滴から、グラスの真っ白なハイライトにつながっていくようなグラデーション。透明感が強調されている。

豆知識:類似色と反対色

色のグラデーションを考えるときに、知っておきたいキーワードがある。それが類似色と反対色(補色)だ。ある色が、類似色へと変化するか、反対色へと変化するかで、グラデーションの印象も変わる。

類似色へのグラデーションは、全体的にまとまった印象を生む。それに対して、反対色へのグラデーションは、よりメリハリを感じさせる。

左の「色相環」図は、色と色の関係を表したものだ。隣り合わせになっているの色同士が類似色で、向かい合う色同士が反対色の関係にある。配色の基本知識だが、写真の印象を考えるときにも参考になる知識だ。

色相環

豆知識:色相・明度・彩度

色の知識は写真の参考になると述べたが、もう少し突っ込んで解説しよう。

色には、「色相」「彩度」「明度」の3つの尺度がある。色相は色味のパネルのようなものだ。彩度は色の鮮やかさを指す。明度は、色の明るさのことだ。

つまり、色相、彩度、明度、それぞれにグラデーションがあるわけだ。景色の中に見つかるグラデーションは、これらが複雑に組み合わさっている。

ちなみに、画像処理ソフトで色調整をするときにも、これら3つの尺度が登場する。覚えておくと色調整もしやすいはずだ。

目のつけどころ:グラデーションを見つけるコツ

グラデーションは、風景の中に溢れているのですが、その存在に気づかない人が多いようです。

では、どうすればグラデーションを見つけられるのでしょうか?

まず、わかりやすい明暗のグラデーションから探してみましょう。色彩に比べると、明暗のほうが感覚的に捉えやすいからです。下の写真のように、光と影のある場所は、グラデーションの宝庫と言えるでしょう。

また人工物に比べると、自然物はグラデーションに溢れているので、日頃からそれらに注目するのもいいでしょう。

さらに、あえてモノクロ写真を撮ってみるというのもおすすめです。モノクロ写真では、色が、白と黒の「濃度」に置き換えられます。そのため、色に隠れていた美しい濃度の変化が、見つけやすくなります。そして、モノクロで美しいと思えるグラデーションは、カラーで撮っても美しいのです。ぜひ試してみてください。

アサガオのつぼみに見つけた、色のグラデーションを撮影。ボケを使うことで、さらにグラデーションが強調されている。
引き戸の木の部分と階段の部分に、連続した明暗のグラデーションが見える。この写真もモノクロにすると、さらにわかりやすい。

目を細めるとグラデが見つかる

私はモノクロの感受性が元々強いようで、目を細めてオブジェクトを見ると、色の情報が減り、モノクロ化して見ることができる。

上では、「モノクロ写真を撮ってみれば、グラデーションが見つかる」と説明したが、目を細めてみるだけで、簡単にグラデーションが見つかるのだ。

ただし、このワザが使えるかどうかは、個人差があるようだ。訓練してもうまくできないときは、一度モノクロ写真を撮ってみよう。

色がないことによって見えてくる、別の世界がある。

テクニック:グラデの演出には露出補正も大事

グラデーションをより美しく見せるためには、明るさの調整にこだわりましょう。いわゆる露出補正です。

まず、引き締まった黒を基準にするのか(シャドウ基準)、まぶしい白を基準にするのか(ハイライト基準)を決めます。そして、黒や白の「芯」を定めて(42ページ)、芯を基点とするグラデーションが、もっともきれいに見える露出を探すのです。

Before
やや明るめの露出で、車体の黒が、きちんと締まった黒に再現されていない。
After
もっとも黒く見せたい部分を基準に、暗めの露出に調整した。黒の芯へとつながるグラデーションが美しさを感じさせる。

設定:コントラストも同時に調整する

明るさの調整をするときに、コントラストも調整すると、よりグラデーションを美しく見せられる。

ハイライト基準の場合は、コントラストを弱めると、白を基調とするグラデーションが美しくなる。シャドウ基準の場合は、コントラストを強くすることで、黒へとつながるグラデーションが豊かになる。明るい雰囲気を目指す場合は、コントラストを弱め、暗い雰囲気を目指す場合は、強めると覚えておこう。

ヒント:人間が本能的に美しさを感じる写真「ファインフォト」

大学時代、写真学科に入った私が最初に教わったのは、「ファインフォト」の作り方でした。ファインフォトの定義は、人間が理屈なしに、本能的に美しいと感じる写真。英語のファインに「上質な」という意味があるとおり、上質な美しさを備えた写真ということです。

では、どうすればファインフォトを作ることができるのか。そのカギは、プリントされた写真から、その世界の手触りを感じさせるような、圧倒的な質感描写にありました。そして、質感描写のために、徹底的に叩き込まれたのが、美しいグラデーションの表現方法だったのです。ねらいどおりのグラデーションを表現するために、撮影やプリントを試行錯誤しました。こうした学びを通して、美しいグラデーションの表現方法を覚え、ファインフォトを作ることができるようになったのです。

豊かな白黒のグラデーションが、美しさを生むキーとなっている。

この連載は、MdN刊「もっと撮りたくなる 写真の便利帳」(谷口泉 著/ナイスク 編)から抜粋・再構成しています。

カメラの使い方は理解しても、写真そのものが上手くなったと実感できなかったり、よい写真とは何かわからなくなった方々に向け、写真を楽しむためのテーマとして「モチーフ」を集めた1冊です。撮影のヒントやアイデア、具体的な機材情報も盛り込まれています。

「もっと撮りたくなる 写真の便利帳」(MdN刊、税別2,000円)

谷口泉