“もっと撮りたくなる 写真の便利帳”より
「かたち」をモチーフに撮る
直感を大切に、発見を楽しむ
(2015/5/1 08:00)
心を自由にして かたちだけを見る
何かを撮影しようと思ったときに、そのものの意味や名前に引っ張られて、撮り方が限定されることがあります。
例えば葉っぱを撮るときに「これは葉っぱだから」という意識を強く持ちすぎると、自由な心で撮れなくなります。
葉っぱという言葉を一旦忘れて、オブジェクトのかたちに注目してみてください。ハートに見えたり、顔に見えたり、意外なかたちが見えることがあります。かたちという視点を持つことで、今まで見ていた世界から、別の表情が現れてくるのです。
かたちを見つけるコツは、目の前の景色やオブジェクトを、線や面など、造形の最小単位で捉えること。オブジェクトへの先入観から、自由になることができます。
直感を大切に、かたちの発見を楽しんでください。
具体的なかたちと抽象的なかたち
かたちには、「具体的なかたち」と「抽象的なかたち」がある。具体的なかたちは、例えば「ハート」「音符」といった、すぐにかたちを思い浮かべることができるもの。
抽象的なかたちとは、そうした具体的な言葉には置き換えられないかたちのこと。取り組みやすいのは前者だが、後者を撮れるようになると、さらにおもしろい。
かたちを見つけるコツは、固有名詞や先入観を捨てて、かたちだけに注目すること。景色からかたちを見つけたときの快感は、クセになる。
かたちの撮影は、その撮影を目的にして出かけるというものでもない。日頃から、かたちを発見するための「写真の目」を養っておこう。
目のつけどころ:「○○みたい」と声に出してみる
オブジェクトの意味に引きずられることなく、かたちを探し出すための、魔法の言葉があります。それは、「○○みたい」です。
それを口にすることで、ぼんやりと眺めているよりも、かたちが見えてくるはずです。これが得意なのは、子どもたち。彼らは発見の名人なのです。
記号や文字が持つ完成された美しさ
日常で接する、音符などの記号やアルファベットなどの文字には、完成された美しさがある。
例えば、「♪」という音符、「A」という文字は、デザインとして完成されているので、写真に撮っても絵になりやすい。
景色を観察するときは、どこかに記号や文字が隠れていないか探してみよう。
デザイン:かたちが伝わるデザインに
かたちに注目して写真を撮るのであれば、かたちが伝わるように写真をデザインすることが大事です。
かたちがより浮き上がるように、アングルを工夫しましょう。かたちがもっとも目立つ角度や位置があるはずです。
いちばん重要なのは、背景をよく見ることです。背景がゴチャゴチャしていると、それに邪魔されて、大事なかたちが見えてきません。なるべくシンプルな背景を選びましょう。排除すべきものは排除します。
特に、見せたいかたちの周辺は重点的にチェックしましょう。余分なものが写りやすい写真の四隅にも気をつけます。
背景をシンプルにするにはいくつか方法があります。手軽にできるのは、少し下がってズームレンズを望遠側にすることです。写る範囲がギュッと狭くなるので、余分なものが写真から排除されやすくなります。
テクニック:自分が動けばかたちも変わる
オブジェクトのかたちは、アングル、すなわち撮影する高さや角度によって変化します。例えば、コップひとつを例にとっても、上から見たとき、正面から見たとき、斜めから見たときは、それぞれかたちが違って見えます。
そのことを理解したうえで、みずからが動き回り、かたちがより強調されるアングルを探すことが大事です。かたちは、見つけるものでもあるのです。
機材:かたちの抽出には高倍率ズームレンズ
かたちを探して抽出するとき、立ち位置やアングルを変えるとかたちが変わります。同様に、レンズの焦点距離を長くすると、小さくて見えなかったかたちが現れることがあります。
レンズの焦点距離を、簡単に長くしたいときは、「高倍率ズームレンズ」があると便利です。レンズ交換することなく、いろいろな焦点距離で撮影できるので、1本あるととても便利です。
ヒント:多くの人が気持ち良いと感じる黄金比と白銀比
自然物や人工物のかたちの中には、人が見て気持ち良いと感じる「比率」が潜んでいることがあります。
例えば黄金比。1対1.618という比率のことです。自然界の多くのものが、この比率になっていると言われています。代表的なものには、葉っぱの生え方、ひまわりの模様などが挙げられます。西洋絵画では、この黄金比がふんだんに使われています。また、建築物や企業のロゴマークにも黄金比は多用されています。
もうひとつ代表的な比率に、白銀比があります。日本人が美しいと感じる比率で、大和比とも言います。比率は、1対1.414。日本画や神社仏閣、城郭などに多用されています。また、A4やB4といった紙のサイズがありますが、A判、B判ともに、縦横の比率は白銀比になっています。
これらにとらわれる必要はありませんが、かたちと同じように、目の前の景色から何かを見つけるときの参考になるはずです。
この連載は、MdN刊「もっと撮りたくなる 写真の便利帳」(谷口泉 著/ナイスク 編)から抜粋・再構成しています。
カメラの使い方は理解しても、写真そのものが上手くなったと実感できなかったり、よい写真とは何かわからなくなった方々に向け、写真を楽しむためのテーマとして「モチーフ」を集めた1冊です。撮影のヒントやアイデア、具体的な機材情報も盛り込まれています。