インタビュー
Lollipopにアップデートした「LUMIX CM1」、次の一手は?
カメラと通信の新しい流れを作るパナソニック
Reported by 小山安博(2015/6/1 17:08)
高級コンパクトデジカメにスマートフォン機能を搭載したパナソニックのコミニュケーションカメラ「LUMIX DMC-CM1」(以下CM1)が、着実に販売国を増やしている。昨年11月のドイツ・フランスを皮切りに、12月に英国、3月に日本で発売。その後も香港、台湾、シンガポールと拡大し、スペインやスウェーデン、米国などでの販売も予定している。
毎月のようにカメラ関連の機能アップデートが行われているほか、5月27日にはOSがAndroid 5.0(Lollipop)にアップデートされ、継続的な改善が行われている。
このCM1の現状について、パナソニックAVCネットワークス社技術本部AV&ICT開発センター ネクストモバイル商品開発推進部 部長の津村敏行氏とパナソニックAVCネットワークス社イメージングネットワーク事業部イメージングプロダクツビジネスユニット商品企画部第一商品企画課新規企画係係長の井端勇介氏に話を聞いた。
日本は完売間近。CM1の後継機種は?
CM1がまず最初に販売されたのはドイツ・フランス。筆者も発売日にフランスに買いに行ったが、入荷数は少なく、販路・販売数ともに絞るテストマーケティングとしての発売だった。津村氏は、「ちょっとずつ認知が進むとともに、販売数も増えていった」という。12月の英国は少数の出荷だったため、すでに完売。3月から追加での販売を行っているそうだ。
日本は2,000台の限定販売であり、「想定以上にスタートから好調に推移している」(津村氏)という。執筆時点(5月25日)では在庫がわずかにあり、一部の店舗で購入が可能だという。ただ、間もなく完売する勢いで、同社としては予定よりも売上は良い、という認識だ。この2,000台が完売したあとの追加販売は「現時点で予定がない」(同)とのことで、「まだ購入できるチャンスはあります」と井端氏。
CM1は、昨年9月の世界最大のカメラ展示会「フォトキナ2014」で注目を集め、さまざまなメディアなどで評価された。井端氏は「カメラを通信に繋げることに価値がある」ことを確信したとしている。今後も販売国は拡大の予定で、特に米国という一大市場が控えているため、日本を含めた各国からのフィードバックを次の商品開発に繋げていきたい考えだ。
では、CM1の後継機種は出るのか。井端氏は、「単純にCM1と同じかどうかは様子を見ている。ただ、カメラと通信を融合した機種はこれからもあるかなと思っている」と慎重なコメント。井端氏は明言していないが、もともとパナソニック モバイルコミュニケーションズ出身の氏が、AVCネットワークス社イメージングネットワーク事業部に異動し、カメラ開発部隊のいる門真に常駐していることからも、今後もモバイル通信がカメラに搭載される可能性はありそうだ。
とはいえ、井端氏は「この(スマートフォンの)形がすべてではないと思っているので、色々なパターンがあると思っている」としており、次期モデルがスマートフォンタイプになるのか、通常のカメラライクになるのか、それとも新たなデザインを提案するのか、その辺りはさまざまな検討を行っていくということだろう。
各国からのフィードバックも多いそうで、「本当にコミニュケーションを楽しむカメラがどういうものか、きちんと再度組み立てたい」と津村氏は強調する。まだ販売していない国もあるため、分析には時間を要するだろう。成果が現れるのはもう少し先になりそう。ただ、パナソニックがフォトキナ2014で打ち出した「Connected Camera」という戦略は、CM1が好評だったことから、今後も継続していく方向のようだ。
ちなみに主なフィードバックとしては、ポケットに入っていつも持ち歩けるのに高画質のカメラが搭載されている、という点に高評価が集まり、さらに普段スマートフォンで行っている写真を使ったコミニュケーションもこれ1台で完結する、という点が評価されているという。まさにパナソニックが狙った部分で、「最初の考え方が間違ってなかった」と津村氏も自信を見せる。
不満点のフィードバックもあり、1日1,000枚を撮影するようなヘビーユーザーからはバッテリ交換ができない点が指摘され、ストラップホールがない点も不満点として声が上がってきているそうだ。
スマホカメラからのステップアップで新しいカメラユーザーの獲得へ
CM1ユーザーの特徴としては、「カメラに詳しく、スマートフォンカメラをもっと高画質にしたい」という人が多いという。それだけでなく、普段カメラを持ち歩かないが、使っているスマートフォンのカメラをもっと高画質にしたいという人も「想定以上に関心を持ってもらった」(津村氏)という。どちらにしても、「常に持ち歩ける中で高画質」(井端氏)という点が注目されているそうだ。
また、小さい子供を撮影することをきっかけに購入したという声も複数届いているそうで、子供を連れて出かけたときに、高画質で撮影したいけど荷物が増えるのは大変という人に好評だという。
普段からのカメラユーザーではなく、今までスマートフォンカメラで撮影していた人が、「撮ること自体を楽しんでもらえている」(津村氏)という点も、CM1の新しい点だろう。スマートフォンでフルオートでシャッターを切るだけではなく、設定を変更したり、ボケを楽しんだりと、単なる記録ではなく撮影を楽しむユーザーが多いという。
従来、コンパクトデジカメのステップアップでレンズ交換式カメラを購入すると、ボケがキレイで撮影が楽しくなる、というような流れがあったが、スマートフォンカメラのステップアップでCM1を利用すると、そうしたキレイなボケ、キレイな写真が撮れるため、撮影枚数が増えた、という声が実際にあるという。
井端氏は、「カメラの新たなファンがここから生まれるという感覚がある」と指摘。実際、CM1に関わったモバイル部隊は、「全スタッフがカメラ好きになって、メンバーの多くがレンズ交換式カメラを買いに行った」(井端氏)という。もともとカメラとは関係のない仕事をしていた開発陣が、CM1を使うことでカメラに目覚めたことは、「一般ユーザーの感覚に近いと思う」と井端氏は言う。
現在は、国内での展開を休止している同社のスマートフォンだが、もともとLUMIXの画質を研究して画質に関しては自信があった。しかし、CM1の開発では「全否定された」(津村氏)というほどカメラ機能を一から開発し直し、「MTFチャートとか、今まで見たこともないものも見るようになった」と津村氏は笑う。
高画質なカメラにスマートフォンのネット連携機能を追加したことで、購入者の満足度も非常に高く、従来のスマホの満足度と比べると「圧倒的」(津村氏)だという。
一見すると高額の本体価格だが、例えばSIMロックフリーiPhone 6 128GBモデルと大きな価格差はなく、iPhone 6 16GBとコンパクトデジカメを両方買えば、CM1とほぼ同価格帯となる。「高級コンパクトデジカメ+SIMロックフリースマートフォン」と考えれば、決して高い金額ではない、と津村氏。実際、価格に対する評価も、SIMロックフリースマートフォンの価格帯を考慮すると妥当という声もあるそうだ。
タイムラプスをより撮影しやすく
CM1に搭載されているAndroid OSが従来のKitKat(Android 4.4)からLollipop(Android 5.0)にアップデートされた。Lollipop自体の詳細はここでは言及しないが、CM1にとって大きなポイントは「Androidの操作性が向上した」(津村氏)点にあるという。
LollipopではUIが刷新され、無線LANの変更などがやりやすくなるなどの基本的なUIが良くなり、写真を撮ってSNSに投稿するまでの流れもスムーズに行えるようになった、と津村氏は言う。
こうした「操作体験が変わる」(津村氏)というレベルの大きなバージョンアップだったこともあり、今回のOSアップデートは早期に取り組んだそうだ。「通信キャリアのカスタム仕様がないので、自分たちで(アップデートが)コントロールできるため、従来の倍ぐらいのスピードで進められた」(同)。
CM1では、OSとカメラが比較的独立しており、OSアップデートに伴う変更は多くはない。外部アプリがカメラにアクセスするためのAPIが一部新たに公開されるといった点はあるが、CM1ではOSとは無関係にアップデートが繰り返されており、今回、カメラでも一部機能が追加されている。
大きな点では、3月のアップデートで追加された「Timelapse」アプリが、通常のカメラ機能に統合された点。Timelapseアプリは、1タッチで簡単にタイムラプス動画を撮影できるというシンプルなアプリだが、もう少し設定を変更して撮影したいという声に応え、カメラの動画撮影の1メニューとしてタイムラプス機能を追加したという。
また、動画撮影時に動作しなかったコンティニュアスAFが動作するようになった。これはAFのモーター音が記録されてしまうためだったが、音を別途用意したり消音で撮影したりする人もいるため、コンティニュアスAFも選べるようにした。そのほか、オートレビューモード時のレビュー表示の速度改善も図られたようだ。
Lollipopアップデートに伴ってカメラ機能も大幅なバージョンアップ、というわけではないようだが、こうしたカメラ機能の改善はOSとは関係なく、随時行っていく意向だ。
カメラ機能以外では、個人的に気になっていた充電クレードルの発売について聞いてみたが、現在のところ提供予定はないという。CM1には充電端子があるため、クレードルの登場が期待されていたので残念なところ。COTTAブランドのケースや香港Turtlebackのエクステンションチューブなど、サードパーティのアクセサリも登場しており、そうした取り組みは続けていくようだ。
CM1は、これまでのスマートフォン機能搭載デジカメとは異なり、高画質カメラでありながらスマートフォンスタイルという点にこだわった点が特徴。パナソニックにとっては、通信とカメラの融合を実現できたという点が大きな成果だったと言える。
今後、通常のLUMIXカメラにもLTE通信が内蔵されるかもしれないし、パナソニックのさまざまな製品にLTEを搭載する第一歩に繋がるかもしれない。CM1は、そうした意味でも大きな一歩となる製品なのかもしれない。