アドビ・プロダクトマネージャーに聞く「Lightroom 3」の今とこれから


 アドビの「Photoshop Lightroom」シリーズは、画像の取り込みから出力までのワークフローをカバーするRAW現像ソフトだ。

 2007年3月の発売以来、2度のメジャーバージョンアップを経て、現在はレンズ補正機能やテザー撮影など各種新機能を備えた「Lightroom 3」を販売している。また、3月10日より、リリース前の開発版などを入手できる「Adobe Labs」において、次期バージョンの「Lightroom 3.4」を配布中。こちらは5月31日まで無料で試用が可能だ。

 今回は、Lightroom初期より開発に携わっているトム・ホガーティ氏を迎え、新機能や、北米におけるLightroomの市場動向についてお話を伺った。

アドビシステムズ プロフェッショナルデジタルイメージング シニアプロダクトマネージャーのトム・ホガーティ氏Photoshop Lightroom 3

――米国での展開についてお聞かせください。

 Lightroom 3は現在、北米市場において、とりわけプロフォトグラファーの間で人気が出てきており、Photoshopに次ぐ人気となっています。

 私はLightroomに関わって5年になりますが、最近ではプロだけではなくコンシューマーのハイアマチュアと呼ばれる層においても、徐々に認知されてきているようです。

 具体的な数は申し上げられませんが、北米においては、いわゆるデジタル一眼レフカメラやミラーレスカメラをお使いのユーザーと同じくらいの潜在ユーザーが存在していると考えています。また、欧州や日本と比べて、かなり高いシェアを持っているという点ははっきりと申し上げられます。

 北米以外の地域においてLightroomに関する認知度は北米ほど高くないので、現在はそれぞれの地域で、なぜ認知度が違うのかを調査しているところです。

 ひとつ考えられる理由としては、北米の場合は、コンシューマを含めた写真家たちのコミュニティがリッチであることが挙げられます。ソーシャルメディア、ブログ、オンライントレーニングを介して、活発なコミュニケーションが行なわれているのも、北米で大きなシェアを得るに至った一因なのかもしれません。

――PhotoshopのCamera RAWとの使い分け方や位置付けの違いについてお聞かせください。

 まず最初に、PhotoshopでRAWファイルを解釈できる仲介役として、Camera RAWがありました。Camera RAWは、Photoshopの中で、シンプルにRAWを開けることに注力したものです。機能や品質という意味では、LightroomとCamera RAWは同等です。しかしLightroomには、“体験”という点で革新性を加えています。私としては、RAWの処理にはLightroomをおすすめしたいと思います。

 たとえば映画のポスターを作るようなプロのデザイン用途であれば、デザイナーがフォトグラファーからRAWファイルを受け取って、Camera RAWで調整した後、Photoshopでポスターの作成に入るというワークフローが考えられます。

 コンシューマーにとっては、画像の整理や管理を行ない、RAWの処理をし、ほかのユーザーと共有するという用途において、使いやすさの観点から、まずはLightroomをお使いいただくことをおすすめします。

――Photoshop Expressのように、モバイル端末用というコンセプトのLightroomを開発するご予定はありますか。

 将来的なことを具体的に述べることはできませんが、そのようなご質問はたくさんいただいておりますし、我々としてもお客様の求める方向へ進みたいと思っておりますので、ご要望が多ければ実現する可能性はあります。

――他ベンダーのRAW現像ソフト、例えばアップルのApertureと比べての優位点はどのようなところにあるとお考えでしょうか。

 当社の方がRAWの処理を始めて長いこともあり、品質やパフォーマンスの向上、新機能の追加を行なうことなどから、トータルではApertureより高いユーザーエクスペリエンスをご提供できていると自負しております。

 とはいえ、互いに負けないよう努力するという観点から、ベンダー間の競合というのはユーザーにとって良いことだと考えています。

――新機能について、フィルムの粒状感を再現する「粒子」効果を搭載した意図をお聞かせください。

 フィルムカメラが主流だった時代は、一貫した見かけを保つために、常に同じフィルムを使っていたと思います。しかしデジタルカメラにおいては、それぞれのカメラで、異なるノイズの特徴を持っています。

 芸術的な効果を出すために粒子効果を盛り込むことによって、昔のフィルムにあったような一貫性を、デジタルの環境でも持たせることができると考えて、搭載しました。

粒子機能を適用したところ

――「テザー撮影」機能についてお聞かせください。

 テザー撮影機能は、プロフォトグラファーのコミュニティから長きにわたって要望のあった機能です。しかし、何もプロのためだけに用意した機能ではありません。カメラをパソコンに接続することで、カメラより大きなディスプレイですぐに画像を確認できるという価値を、より多くの人に体験してほしいと考えています。

――FacebookやFlickrへのアップロード機能について詳しくお聞かせください。

 すでにお客様がお使いになっているFacebookやFlickrへのアップロードをより容易にするという目的で搭載しました。この2つだけでなく、ほかの写真共有サイトなどにも対応できるよう、プラグインAPIも用意しています。これまで、ユーザー様によって、Mobileme、Picasaウェブアルバム、Zenfolioなどに対応した例があります。

――これまで搭載した機能の中で、もっとも評判の良かった機能は何でしょうか。

 「現像プリセット」機能です。Camera RAWにも同じ機能が搭載されているので、それでも人気があるというところに少し驚いたのを覚えています。

 このほか、ノイズ低減処理機能について、最近良い評判を耳にします。「まるでカメラをアップグレードしているかのようだ」と言われます。

ノイズ低減機能

――ノイズ低減機能の処理について、もう少し詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか。

 様々なカメラを1つ1つ見ていきました。それぞれのカメラについてノイズの特徴を分析し、センサーのプロファイルを出していきました。そうして分析を積み重ねながら「どうやったらノイズを低減できるのか」という点を勉強しました。

 難しいのは「ディテールを残しながらも、ノイズを低減しなければならない」という課題です。最高のイメージを得たいだけであれば、10分間もかけて処理をすればよい。しかし求められているのは、反応を速くしながらも、最高のイメージを得なければならないということですので、当社のエンジニアも、時間をかけて開発に臨んでいます。

――開発当初は想定していなかったような、ユニークな使い方をしているユーザーはいましたか。

 ワイヤレス通信対応の記録メディアと写真の自動読み込み機能を併用して、パーティで撮影した写真を、撮影したそばから自動的にスライドショー化し、リアルタイムで会場に流すということをしている方がいらっしゃいました。

 スライドショーを動画ファイルとして出力する機能は、フォトグラファーが意図したとおりのスライドショーを作成できるよう、強化した部分です。従来のバージョンではPDFファイルの出力しか選択肢がありませんでしたので、音声の追加やテンポのコントロールを可能にしました。

――「レンズ補正」のプロファイルについて詳しくお聞かせください。

 レンズ補正プロファイルを調達するには、3つのやり方があります。

 1つめは、アドビがレンズプロファイルを作成する方法です。当社のラボで、各レンズの評価を行ない、特徴付けを行ないます。

 2つめは、レンズメーカーと協業し、レンズのプロファイルを直接ご提供いただく方法です。現在、シグマ、タムロン、カールツァイスといったメーカーにご協力いただいています。

 3つめは、ユーザーがご自身で作成いただく方法です。ターゲットを撮影することでプロファイルを作成できる「Lens Profile Creator」という無料のユーティリティーを、Adobe Labsに用意しています。

 Lens Profile Creatorを使用することで、大昔に販売が終了したような古いレンズであっても、レンズプロファイルを作成することができます。また、作成したレンズプロファイルをアドビに送信する機能も備えており、アップロードしたプロファイルは「Lens Profile Downloader」で入手できます。

Lens Profile Downloaderレンズプロファイルを選択したところ

 私自身、他のユーザーがアップロードしたニコンの古いレンズのプロファイルをLens Profile Downloaderで見つけました。ターゲットの撮り方は自由ですが、中には時間をかけて、色々な焦点距離や絞り、角度からターゲットを撮影することで、かなりクオリティの高いプロファイルをご提供くださるユーザーもいらっしゃいます。

 このほかの機能としては、ほかのフォトグラファーの参考になるよう、プロファイルのクオリティに関してコメントすることができるほか、レーティングを行なえます。どちらのユーティリティも、ほとんど知られていないと思いますので、この機会にご紹介いただけると助かります(笑)。

 このほか、Lightroom関連では「DNG Profile Editor」があります。あまり多くのユーザーが使っていない技術的なツールではありますが、撮影状況に合わせた色のカスタムプロファイルを作成できます。コマーシャル向け写真を扱う際に使用されている技術です。

DNGカラープロファイルを作れるXrite「カラーチェッカーパスポート」

――今後のバージョンで搭載を検討している機能のうち、特にユーザーからの要望が強いものは何でしょうか。

 要望はたくさんありますが、とりわけ業界のホットトピックスとして挙がってきているものは、動画、画像共有、オンラインサービスだけではない、外部デバイスとの共有といったものです。

 我々の課題は、各サイクルの中で、何を取り込んでいけるのかを見極めることだと思っています。ここに関しては、やはりお客様のフィードバックを頼りにしています。



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2011/3/30 00:00