写真展レポート

野村恵子写真展「龍宮」――生と死が循環する沖縄の「此岸と彼岸」を写す

キヤノンギャラリーSで5月11日まで開催中

野村恵子さん

沖縄は野村さんの母方の故郷であり、2020年秋からは読谷村へ拠点を移した。これまで何度も通ってきたが、暮らし始めると見える世界、感じ方が変わった。

「視点がニュートラルになり、俯瞰して見られるようになった。自然と戦争のことも撮れるかなと思い始めました」と野村さんは話す。30年来、撮り続けてきた写真群は時空を超え、此岸と彼岸を行き来する空間を提示する。

住人として…

沖縄に住むきっかけはコロナ禍だ。長野県の小谷村で撮影していたシリーズは、2018年に写真集『Otari - Pristine Peaks』にまとめたが、まだ続けるつもりだった。

「身動きが取れず、出身地の神戸に戻ることも考えましたが、沖縄のほうが楽しく暮らせそうだと決めました」

最初の写真集『DEEP SOUTH』(1999年、リトルモア刊)の撮影ではコザに通った。母方の祖父母の実家は北部のやんばるにある。読谷村は東シナ海に大きく突き出した岬の地勢にあり、遮るものがなく、那覇や首里が一望できることを知り惹かれた。

「1945年4月1日、米軍が沖縄本島に上陸した地でもある。西側の海辺に住みたいと思い、内見もせずネットで賃貸物件を契約しました」

沖縄のことは知っているつもりだったが、その地に住んでみると日々発見があるそうだ。

「『DEEP SOUTH』の撮影ではコザの友人のアパートを根城に、コザに住む同世代の人たちにフォーカスしていました」

住人になると、日々の暮らしを通してさまざまなものが目に入ってくる。

「周囲には豊かな自然があり、季節ごとに祭事があり、そうしたものも自然と撮るようになりました」

この村はかつて約95%を米軍が占拠し、そこから徐々に返還されてきた経緯がある。今もアメリカ陸軍の通信基地であるトリイステーションが置かれている。

「地域には米兵も多く住んでいるので、ビーチなどで言葉を交わすなどして、徐々に知り合いが増えました。中には米軍機の操縦士もいて、『あの騒音は何とかならない?』と文句を言うと、『そうだよね、ごめんね』と申し訳なさそうに謝ります」

円安が進んだことで、米兵たちが基地の外で食事をする機会も増えた。「コンビニのシュークリームが『激うまなんだよ』」とか普通に会話を交わす。そうした日常が楽しく、好奇心が刺激される。

移住した当初は海で過ごすことが多かった。

「タンクは背負わず、私はシュノーケリング専門です。水中に呼吸の泡も出ないし、動きやすい。海中生物を撮るわけではない私には、このほうが撮影しやすい」

このスキルを活かして、水中でのモデル撮影を行なうほか、河瀨直美監督の映画『2つ目の窓』では、主人公の少年と少女が水中で泳ぐポスターの撮影を担当した。

本展のメインビジュアル用の撮影も行なっている。

「沖縄の海は透明度が高く、好天の日中、水深5mほどまでなら自然光で撮影できます。私が海に入り、3秒後、被写体の女性に飛び込んでもらいました」

想定したのは女性が自由に飛翔し、海に溶けていくイメージだ。

「アートディレクターのアドバイスで、被写体は知り合いの一般女性にお願いしました。プロのモデルを使うと、求めているリアリティが損なわれるからです」

沖縄の行事は今も旧暦に基づいて催されるが、それが自然のリズムにあったものだと感じる。また読谷村の海は日々、20~30分ほどズレながら干満を繰り返す。

「潮の満ち引きを起こす月の存在に思い至るようになったのも、ここに住んでからです」

此岸と彼岸

写真展会場に入ると、90年代と現在の沖縄が交じり合って並ぶ。戦闘中、住民や日本兵が避難したチビチリガマでは集団死が起き、シムクガマは全員が米軍に投降した。

「沖縄では遊女が神事を扱う役割も担っていました。遊郭街にはウガンジュ(拝所、御願所)が何カ所か存在します」

「生の先に終着地として死があるのではなく、生と死は自然界の中で循環している。死は終わりではなく、一旦、自然に戻った状態だと思うようになりました」

スライドショーでは2面で180点ほどの写真を流す。日常(此岸)と、自然風景(彼岸)が異なる時間軸で現れ、過ぎ去る。

会場には大型のスクリーンが用意された

沖縄の周辺には珊瑚が生息し、海の中で耳を澄ますと彼らの呼吸音が聞こえる。死んだ珊瑚の一部は浜に打ち上げられる。沖縄の砂浜が白いのはそのせいだ。

慶良間から読谷の海域には、子育てするクジラが集まる。彼らが会話する声も時折届く。会場ではその音が流されるが、初めて聞いた人は、何の音かはわからないだろう。ぜひ、その写真と音の世界を会場で体験してほしい。

会場限定で新刊写真集『DRAGON BLUE 龍碧』(会場特別価格5,000円)、大型ZINE『Naked Flowers』(2,500円)を発売中。いずれも特製オリジナルトートバッグ付き。

会場

キヤノンギャラリー S
東京都港区港南2-16-6 キヤノン S タワー 1F

開催期間

2026年3月26日(木)~5月11日(月)

開催時間

10時00分~17時30分(日曜祝日、5月3日~5月6日休館)

入場料

無料

ギャラリートーク

  • 日時:2026年4月25日(土)16時~
  • ゲスト:安東嵩史氏(編集者、境界文化研究者)
  • 申し込み:不要

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。コロナ禍でギャラリー巡りはなかなかしづらかったが、少し明るい兆しが見えてきた。そんな中でも新しいギャラリーはいくつも誕生している。東京フォトギャラリーガイドでギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。