写真展レポート

山沢栄子 私の現代

晩年の作品に至るまでの足跡を同時代作品とともに振り返る

国内で女性写真家の草分けとして活躍した山沢栄子氏の生誕120年を記念した展覧会『山沢栄子 私の現代』展が東京都写真美術館で2020年1月26日にかけて開催されている。本展は、西宮市大谷記念美術館との共同開催となる写真展の東京での巡回展(大谷記念美術館では2019年5月25日〜7月28日で開催された)。東京会場での封切りに先駆けて展示内容の説明があった。展覧会会場の様子とともに、その模様をお伝えしていきたい。

山沢栄子氏とは

山沢栄子氏(故人)は1899年に大阪で生まれた写真家。鉄工所を経営する両親のもと、比較的裕福な家庭で育ち、私立女子美術学校(現・女子美術大学)で日本画を学ぶなど、早くから美術に関心を抱いていた人物だという。1926年には単身で渡米。現地写真館の紹介でアメリカ人写真家のコンソェロ・カネガ氏の助手をつとめ、1929年に帰国。アメリカ仕込みの写真技術(それまで日本にはなかったライティングなど)が評価を得て、財界人や文化人のポートレートを撮影するなど、商業写真家として活動をしていった。

《コンソェロ・カネガ女史(写真家)》1955 ゼラチン・シルバー・プリント 東京都写真美術館蔵

展示構成

ポートレート撮影から仕事をひろげていった山沢氏は、晩年となる1980年代に抽象絵画のような作品を制作するようになる。本展覧会では、この晩年の作品「What I Am Doing」を第1章に配して、晩年の作品から、その独特な作風に至るまでの流れを時代を遡るようにして追っていく、4章だての展示構成となっている。

《What I Am Doing No. 9》1980/プリント1986 銀色素漂白方式印画 大阪中之島美術館蔵
《What I am doing No.8》1980/プリント1986 銀色素漂白方式印画(チバクローム) 大阪中之島美術館蔵

展示内容については、同展担当学芸員の鈴木佳子氏が解説をしてくれた。

鈴木佳子氏

第1章展示室の様子。展示されている28点の作品は、同氏最後の新作個展となった「私の現代3」で出品されたもの。晩年では、身近にあるものを被写体に作品づくりが進められており、写真いちばん左側にある2つのグリーンの矩形が写された作品は、フィルターを組み合わせたものだという。その隣にある作品は、過去の山沢氏自身の作品を写したものだそうだ。

1章ではカラー作品とモノクロの作品がわけて展示されている。フィルム現像用のリールを被写体とした作品もある。

渡米時代の足跡

渡米して後、コンソェロ・カネガ氏に師事した山沢氏は、1955年にあらためて渡米。ニューヨークに半年間滞在した。ニューヨークでは師であるコンソェロ・カネガ氏の作品も出展された展覧会「ザ・ファミリー・オブ・マン」(ニューヨーク近代美術館)が開催されていた。

展示内容は「ニューヨーク6カ月の目」の作品群など。山沢氏はこの期間で自らの写真の方向性を確認していったと紹介されている。その作品は写真集「遠近」に収められており、カラーや抽象表現を用いた作品が見られるようになっている。

第2章展示室の様子。手前のガラスケースの中にあるのが写真集「遠近」

第3章では同館の所蔵資料を核に、山沢氏が交流した写真家とその作品が紹介されている。そこには、アルフレッド・スティーグリッツ氏や、エドワード・ウェストン氏の名がみられる。それらはコンソェロ・カネガ氏の人脈によるもので、西海岸を拠点とするイモジェン・カニンガム氏(抽象的な写真表現を志向していた)などとの交流もあった。

第3章展示室の様子

この当時アメリカで発刊されたスティーグリッツ氏の「ザ・ハンド・オブ・マン」(「カメラ・ワーク」第1巻、1903年1月)は、写真のピクトリアリズムの流れをうけた、絵に近い作風を示している。その背景には、写真の生々しさを避ける時代潮流がうかがえるという。

その一方で、西海岸の写真家たちの作品に目を移すと、エッジのたった写真表現を示す作品もあらわれるようになってきていた。山沢氏にとってのニューヨークは、そうした写真表現が大きく移り変わる瞬間でもあったのだという。

アンセル・アダムス氏の作品なども展示されている

商業写真家としての活動期の様子は

第4章では、山沢氏が商業写真家として活動していた時期がとりあげられている。ちょうど「What I Am Doing」の制作に入る前の頃のこととなる。

浜地和子氏や山本安英氏といった、山沢氏にとって重要な意味をもつ人々との交流が紹介されている。浜地和子は、山沢氏の弟子であるのと同時に氏の活動を支えるパトロンとしての位置にあった人物なのだという。

一方の山本安英氏は、仕事ではなくポートレートに集中していくことになった人物として紹介されている。

山本安英氏を捉えた作品

展示は、山沢氏へのインタビュー映像で締めくくられている。映像では自身の写真集についてふれながら、その写真制作の考え方に関するコメントを聞くことができる。

映像中で登場する写真集の一部

展示情報

会場

東京都写真美術館
東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内

開催期間

2019年11月12日(火)〜2020年1月26日(日)

開催時間

10時00分~18時00分(木曜日・金曜日は20時00分まで)

休館日

月曜日、年末年始(12月29日〜1月1日)
※1月2日(木)と1月3日(金)は開館18時00分まで開館

関連イベント

講演会:2019年11月23日(土・祝)

タイトル:物が少ない作家 ― 山沢栄子の写真とアメリカ
時間:14時00分~15時30分
講師:池上司(西宮市大谷記念美術館学芸員)
会場:1階スタジオ
定員:50名
聴講無料 ※当日10時00分より1階受付にて整理券を配布。番号順入場、自由席

講演会:2019年12月1日(日)

タイトル:山沢栄子が出会ったアメリカ ― 女性、写真、創造する知覚
時間:14時00分~15時30分
講師:日高優(立教大学教授)
会場:1階スタジオ
定員:50名
聴講無料 ※当日10時00分より1階受付にて整理券を配布。番号順入場、自由席

ワークショップ

タイトル:身近な素材であなたの世界をつくってみよう
日程:2019年11月30日(土)
時間:14時00分~17時00分
講師:うつゆみこ(写真家)
会場:1階スタジオ
対象:小学校4年生〜一般
定員:20名(要事前申込。応募多数の場合は抽選)
参加費:無料

展覧会担当学芸員によるギャラリートーク

2019年11月15日(金)14時00分~
2019年12月6日(金)14時00分~(※手話通訳つき)
2019年12月20日(金)14時00分~
2020年1月3日(金)14時00分~
2020年1月17日(金)14時00分~

本誌:宮澤孝周