写真展告知

東京写真月間2019「山を生きる人々」-山と共に-

日本では、人と山との関わりあいの歴史は古く、日本人のルーツである山への畏敬の念が、何世代もの時を経て日本文化の中で「山の文化」や「伝統」が育まれ現代に至っています。そんな山との関わりを持ち、「山と共に」暮したり、山の自然と関わったり、あるいわ、生業にするなど多彩な「山を生きる人々」をテーマにし、近代登山の開拓の歴史を含め、様々な観点から写真家の視点を通じて表現された写真を企画構成した写真展を開催いたします。

写真展情報

6月1日より始まる「東京写真月間2019」にちなんだ展示。都内4カ所のギャラリーにおいて、「山と人」の関わりをテーマにした展示が順次繰り広げられる。

主催

「東京写真月間2019」実行委員会-日本写真協会・東京都写真美術館

後援

外務省・環境省・文化庁・パキスタンイスラム共和国大使館
東京都(東京都内で開催展示のみ)

糸井潤写真展:SOMA-杣

アメリカで写真を学び、現地で報道カメラマンを経験した写真作家糸井潤氏。東京での15年間のサラリーマン生活から群馬の山間部で木こりへ転身し、その地で付いた木こりの親方をモノクロで撮影したドキュメント作品を展示します。さらに村に伝わる奇祭「おんべいや」の模様を記録した作品もあわせて約30点を展示いたします。

写真展情報

芸術家生業と共に片手間でやっていると思われたのだろう。大学出はモノにならん、と面と向かって新規職場初日に言われ、数ヶ月後には森林組合をクビになった自分に、地元の友人が「木こり」の先輩を紹介してくれた。教えられた電話番号につなげると、「とりあえず飲みに来いや」と。ちょっと高価そうな焼酎の瓶を抱えて行くも、「味のする酒は飲まん」となり、2.7Lのプラスチックボトルに入った透明な液体をお湯で割り、オレンジ色の「エコー」を美味そうに吸う男と朝まで飲んだ。自分は、今回の、最初のテストには受かったようだ。

その男は70になるが、物心ついた頃から山は、遊び場でありまた、食料と燃料の資源庫であることを知っていた。山からの恩恵を、享受し、余すところなく使い切る。そして、山を豊かに回すことは、川と海を豊かにすることにつながる。そういった資源の循環を、自分が理解できるようになったのは、森と水が豊富なフィンランドという国に1年間生活した自身の経験もあるのだろう。

木の枝ひとつ折る事、木の幹を傷つける事を悪しき事とする、ボーイスカウトの自然愛護の教えが少年時代から身に付いていた。そして、撮影をしつつ北欧の森の中をさまようなか、皆伐され切株で埋め尽くされた平原に出会った。その出来事を悲しいと感じたと、フィンランド人に伝えたら、何を言っているのだ、とあきれた顔で返された。「再生可能」、「持続性」という言葉が森に当てはまると知ったのは、そこからだった。

15年間の東京でのサラリーマン生活から、山村部へ移住し、林業に従事しながら芸術家として物事を見続けてまだ1年ちょっと。60代までが「若い衆」と呼ばれる村に伝わる風習などは、うまく形を変えながら続いているように見える。地水火風の4つの「気」を表す筋が彫られた「ヨキ」とも呼ばれる斧を使ってきた木こりたちも、いまや化石燃料を元とした道具に頼って森に入る。そのむかし、国有林と、そこで働く者たちが、杣(そま)と呼ばれていた事を、知る者は少ない。

プラド美術館で一時間も見入ったベラスケスの油絵は1656年に描かれた。1945年の終戦の後の再建と燃料不足で伐られた木々の跡に植えられた杉は今が伐り時だ。自分が写真家として制作しているプリントは300年色褪せ朽ちないようにと考えて扱っている。いま、施業している山野は、100年後、どう見えているのだろうか。

写真展情報

(c)糸井 潤

会場

キヤノンオープンギャラリー 1
東京都港区港南2-16-6 キヤノンSタワー2階

開催期間

2019年5月14日(火)~6月11日(火)

開催時間

10時00分~17時30分

休廊

日曜日・祝日

作者プロフィール

高校卒業後渡米。芸術学校を出てから、シカゴの新聞社等でフォトグラファーとして活動。北テキサス大学院で修士号を取得後、インディアナ大学の客員助教授として教鞭を執り帰国。東京にて会社員の傍ら作品制作と発表を15年続けた後、2017年より群馬県に移り住み、林業に従事しつつ作家活動を続ける。2009年には文化庁新進芸術家海外研修制度により、フィンランドのラップランド州にて1年間滞在制作を行う。海外も含めた30以上の展覧会にて作品は発表され、ヒューストン美術館などに作品が収蔵されている。

写真作品を通して、自我や、幼少時の記憶、内なるものと外世界との境界についての出来事を、表現しようとしている。生まれ育った日本から離れて、人生の3分の1を異国で過ごした経験が、作者の創作の大きな土台となっている。作品群のひとつに、森の中にある光を、生と死の間にある境界線のメタファーとしてとらえようとしたものがある。森の中で多くの時間を過ごした経験から、アニミズムや、人々の祈りの「場」というものに興味を持ち制作を続けている。

亀山亮写真展:山熊田

山熊田は名の通り、山と熊と田んぼでできている。

透き通る渓に寄り添うように19家族、48人が住んでいる。

朝、山に入る前にはいつも、おばあちゃんが「気をつけてね 熊さ獲ってこい!」と、3粒の炒り大豆をそっと僕の手に乗せてくれる。それを口に放り込むと、何だかやる気になってくる。

女衆は集落に残り、マタギと呼ばれる男衆たちはブナの森の中へ奥深く入り込んで、熊を探す。

追い求めていた熊の斃(たお)れた姿を見るたびに、この瞬間を生きているんだなという確かな手応えと、いずれ自分にも訪れる不確かな死を想う。

熊から剥いだ皮を熊の体の上で左右反対に回し、「千匹も万匹も獲れますように」山へ感謝の言葉を唱えると、熊の体はあっという間に解体され、肉となって各々の背に担がれる。

「努力したぶんだけ山が返してくれる。山を信用している。熊は山からの授かりものだ」

山熊田では、山から手に入れたものはみんなで等分に分かち合う。

自然の中へ奥深く入り込み、命のやり取りをしながら静かに自身と向き合う−遠い昔からずっと続けられてきた彼らの営為に、強い生と死の手触りを感じる。

山から手に入れたものがダイレクトに肉体と精神の芯を形作り、それらが魂にグッと染み渡って、彼らの佇まいや存在に優しさや強さとなって色濃く溢れる。

金品が介在する物質社会から離れ、自然に溶け込んで肉体を使う。生業がシンプルになればなるほど生と死は近づき、表裏一体になっていく。それが動物としての本来の欲求と直接結びついて、生きる歓びや手応えに昇華していくのだと思う。

自然の一部だったはずの人間は、あっという間に大きな消費経済システムと深くリンクし、血はもちろん極端に言えば汗さえも流さずに、指先一つでスマホ画面をタップすれば生きていける社会になった。

グローバリゼーションは巨大な粘菌のように満たされることない欲望を増殖し、全てを飲み込んでいく。僕たちは安価な製品を買い求め、使い、食べ捨てる。そこには有用と無用の境はない。判断基準は「お金」。後世に残す環境や守られるべき命より、その瞬間の利益を一番に優先にする。

温暖化の影響で獣たちの生息分布は北上し、東日本では福島原発事故の影響が現在も続く。

これからも続いていくはずだった僕たちの普遍で確かな生業は不確かなものに変わった。

「熊とったど~」

その一声で体中の血液が沸騰し、谷筋の雪の斜面を転げるように夢中で駆け下りる。

「よーーい、よーーーーい」

山の熊に向かって勢子(せこ)※たちの啼(な)く声がいつまでもこだまして谷を渡り、山とともに生きるマタギたちの息遣いとなって、山熊田の集落までズンと響いていくようだった。

※狩猟の一種、巻狩において獣を追い出したり包囲して一方に誘導する役目の人々。

写真展情報

(c)亀山 亮

会場

オリンパスギャラリー東京
東京都新宿区西新宿1-24-1 エステック情報ビル地下1階

開催期間

5月31日(金)~6月5日(水)

開催時間

11時00分~19時00分(最終日は15時00分)

休館

木曜日

作者プロフィール

1976年千葉県生まれ。写真家。15歳の時に初めて手にしたカメラで、三里塚闘争を続ける農家の撮影を始める。
1996年よりメキシコ、チアバス州のサパティスタ民族解放軍(先住民の権利獲得闘争)の支配地域や中南米の紛争地帯を撮影する。
2000年、パレスチナ自治区ラマラでインティファーダ(イスラエルの占領政策に対する民衆蜂起)を取材中にイスラエル国境警備隊が撃ったゴム弾により左目を失明する。
2003年、パレスチナの写真集「INTIFADA」(自費出版)でさがみはら写真新人賞、コニカフォトプレミオ特別賞を受賞。
2013年、アフリカの紛争地帯に8年通って、発表した写真集「AFRIKA WAR JOURNAL」(リトルモア発売)で第32回土門拳賞を受賞。その他の著書に「DAY OF STORM」(SLANT)・「戦場」(晶文社)などあり。

野川かさね写真展:山小屋の灯

「山小屋」の表現にはロマンチックな響きがあります。

登山者には休息と憩いの場所として切っても切れない繋がりですが、地域や立地場所、経営者の個性によって個々の山小屋の持つ特徴が醸し出されています。作家は数々に上る山小屋を尋ね、忘れがたい山と、 山小屋で過ごした記憶に残る 16

軒のエピソードの中に個々の持つ山小屋の人間模様やその周辺の風景を、

感性豊かに女性らしい視線で捉えた写真展となっています。

写真展情報

(c)野川かさね

会場

ピクトリコ ショップ&ギャラリー表参道 GALLERY1
東京都渋谷区神宮前4-14-5 Cabina表参道1階

開催期間

6月5日(水)~6月16日(日)

開催時間

11時00分~19時00分
※日曜日は17時00分まで

休廊

月曜日・火曜日

伊藤正一写真展:「源流の記憶」-「黒部の山賊」と開拓時代-

黒部源流域が未開拓の時代に、北アルプスの最後の楽園と言われる「雲ノ平」への最短ルート「伊藤新道」を開拓し、ベストセラー本「定本黒部の山賊」の著者で雲ノ平山荘の初代主人で、知られざる稀代の写真表現者と称される伊藤正一氏が92歳の時に発表した写真集「源流の記憶」からお2人のご子息の協力を得て戦後、北アルプス登山黎明期の様子を伝える資料的にも貴重なモノクロとカラー写真を、最新のインクジェットプリンターを

使用して現代にその写真を蘇らせる構成とした写真展を開催いたします。

写真展情報

(c)伊藤正一

会場

エプソンスクエア丸の内
東京都千代田区丸の内3-4-1 新国際ビル1階

開催期間

6月28日(金)~7月25日(木)

開催時間

10時00分~18時00分(最終日は14時00分まで)